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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
ラクドス・ゴブリン:その海賊は未来のタイタン(ヒストリック)
ボウ・リヴァー/Bo Levarという人物を知っているかな。人間の男性であり、出身はドミナリア次元。彼は海賊の船長であり、「悪口」という名の船でテリシア大陸より外洋を駆け巡り、水中でも火が消えないという煙草の密輸に勤しんでいた(なんだそれは)。
ある日、いつものように煙草を仕入れて船に積んでいたかもしれない彼は……爆風に巻き込まれることになった。テリシア大陸にてウルザとミシュラの起こした兄弟戦争、その決着がついた――ウルザが酒杯を起動してアルゴスの森とミシュラと自分自身……全てを消し炭へと変えた爆風である。
この爆発により《マイトストーンとウィークストーン》がウルザの頭蓋骨、その眼窩に入り込み彼の怒りの感情が灯を目覚めさせたことで《プレインズウォーカー、ウルザ》が誕生する。これは過去のセットでも『兄弟戦争』でも紹介されたプロセスなので、多くの方が知っていることだろう。
ではそんなウルザが起こした爆風に巻き込まれた海賊はどうなったか?彼もまたプレインズウォーカーに目覚めたのである。様々な次元の海を行きかう船長は海賊やマーフォーク、そして何よりも海そのものを愛する男。ボウ・リヴァーという名はプレインズウォーカーになってから名乗ったものであり、全てを変えたあの事件以前の名はクルシアス。
『兄弟戦争』のアルケミー・セット(MTGアリーナ専用セット)に収録された《波の巨人、クルシアス》。このカード、滅茶苦茶強いという話はアルケミー・フォーマットの各種予選を戦っていたプレイヤーたちの感想から知ってはいたのだが……最近はスタンダードやエクスプローラーに夢中で、アルケミーおよびそのカードが使えるヒストリックは全く触っていなかった。なので、風の噂の強カードという感じだったが……あるリストを見て、一気に興味が湧いたのだった。
4 《血の墓所》 4 《硫黄泉》 4 《黒割れの崖》 4 《荒廃踏みの小道》 4 《バグベアの居住地》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《反逆のるつぼ、霜剣山》 3 《山》 -土地(25)- 4 《スカークの探鉱者》 4 《騒音の悪獣》 4 《溌剌としたヒューズリング》 4 《飛び道具の達人》 4 《雄叫ぶゴブリン》 4 《ランドヴェルトの大群率い》 4 《ゴブリンの酋長》 4 《波の巨人、クルシアス》 1 《上流階級のゴブリン、マクサス》 -クリーチャー(33)- |
2 《鏡割りの寓話》
-呪文(2)- |
2 《勝負服纏い、チャンドラ》 2 《人目を引く詮索者》 3 《ゴブリンの損壊名手》 4 《致命的な一押し》 2 《大群への給餌》 2 《未認可霊柩車》 -サイドボード(15)- |
ヒストリック環境の赤と黒、2色のゴブリンデッキ!あれ、マーフォークじゃなくてゴブ?となるのはしょうがないが、まあボウになる前の姿だし……海賊のメンバーにもゴブリンは多いんだろうってことでね。
ではまず《波の巨人、クルシアス》の能力について。ターン終了時に手札を1枚捨てて「野望」か「方便」のうち1つを選ぶ。野望なら捨てたカードよりも重いカードを、方便なら軽いカードをライブラリーからランダムに手札に加える。そして海賊らしく宝物も生成する、と。不要な手札を入れ替えて、同時にマナ加速して次のターンの展開に備える、と。余りがちな土地を最低限なんらかの呪文に置き換える、序盤には重すぎて唱えられないカードを軽いものにして確実な展開を狙う、という具合にアドリブの効く3マナ3/3になっている。戦闘もできるスペックなのも強さの秘密だな。
で、この海賊船の主を軸にゴブリンを集めたのがこのデッキだ。ヒストリックでゴブリンと言えば歴史ある部族デッキ。《上流階級のゴブリン、マクサス》という明確なゴールがあり、これを叩きつければ即座にゲームが終わるレベルの爆発力で勝負する。《スカークの探鉱者》《ずる賢いゴブリン》などのマナ加速から早いターンに降臨させるデッキは一台ムーブメントを巻き起こしたものだ。
他にも《ゴブリンの戦長》《ゴブリンの酋長》ら速攻付与、《ゴブリンの女看守》《ゴブリンの首謀者》らアドバンテージ源、《群衆の親分、クレンコ》《飛び道具の達人》ら横並びにボーナスをもたらすカード……などなど部族シナジーに溢れているのがこの環境のゴブリンデッキで、それぞれにカードチョイスの違いが醸し出す妙技を味わえるのがこのアーキタイプの魅力である。
そんなゴブリンにクルシアス。彼が加わることで……デッキリストはかなりスッキリしたものになった。
まず、マクサスが1枚のみに。そしてデッキ内のこのマクサス以外のすべてのカードが3マナ以下にまとめられている。これの意味するところは……野望がわかりやすいね。《ゴブリンの酋長》《鏡割りの寓話》そしてクルシアスの2枚目といったカードを捨てて野望を宣言すれば、確実にマクサスが手札にやってくる。6マナと重たいマクサスを唱えるのに好都合な宝物生成もありがたく、手札にダブつくという事故も回避!さすがは密輸を生業とした海賊、リスクをしっかりケアしてオイシイところだけイタダキという手法をよくわかっている!
あとは細々とした1マナのゴブリンなんかが、先に挙げた3マナ域に化けるというのも嬉しいよね。方便を選んで土地を手に入れるというのも一つの手で、毎ターンのセットランドを行えないとそれが致命傷になりかねないゴブリンの弱点もしっかりカバーし得る構築になっている。ナイス!
それから注目ポイントとしては、1マナ圏にゴブリンの新顔がガッツリ採用されている点。『ファイレクシア:完全なる統一』より《騒音の悪獣》と《溌剌としたヒューズリング》、どちらもゴブリンでありファイレクシアンでもある、邪悪な面構えの新戦力だ。
悪獣は死亡するとパワー分のダメージが飛ばせる。対戦相手のクリーチャーやプレインズウォーカーを除去しに行くも良し、対戦相手本体のライフを削るも良し。通常は1点なのでちっぽけに感じるかもしれないが、《ゴブリンの酋長》《雄叫ぶゴブリン》でパワー上昇させれば致命的な一撃に昇華しかねない。また攻撃を通すと生け贄にしつつ増殖を行うことで、《鏡割りの寓話》を無理やり誘発させたり、ヒューズリングの油カウンターを殖やしたりといった小テクも狙える。
ヒューズリングは油カウンター分のパワーを持ち、自身のクリーチャーやアーティファクトが墓地に置かれることでその油を増やしていく。ゴブリンデッキであれば《スカークの探鉱者》で生け贄を発生させ、あるいは寓話のもたらすゴブリン・シャーマンやクルシアスにより得られる宝物も油を増やすにはもってこい。個人的にイチオシな1マナ圏であり、他の構成のゴブリンでも積極的に採用したい1枚だ。
クルシアスは後にボウ・リヴァーとなり、ファイレクシアの侵攻を食い止めるためにウルザの提唱したナイン・タイタンズという組織に加入。《波の巨人、クルシアス》という名前はタイタン(巨人)となることを暗示していて素晴らしい。ボウはヨーグモスの最終手段・暗黒雲に対抗するために自身の命をコストとして、不可侵領域を作りだして愛する海とそこに住まう人々を護った。男の中の男だよ。
そんな運命が待つと知らずに、大海原をゆくクルシアス。彼をヒストリックで用いて、そのカードパワーに酔いしれるのもまた一興。
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