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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

そのカードもいつか輝く、8マルチ(レガシー)

岩SHOW

 「これどない使うねん?」そう思わせてくれるカードの方が変な愛着が湧いたりするもんだ。

 その昔、マジックを始めたばかりの頃。カードのイラストとテキストの間のスペース、タイプが書かれているところの右側に描かれているエキスパンションシンボル。その色がカードのレアリティを示しているということを知ってから(当時はこんな知識もなかなか得られなかった)、友人らと各々が持つカードを振り返った。

 《堕落》とか《怨恨》めっちゃ強いけどコモンなんや!とか《燎原の火》《ゼフィド》はそりゃあレアよなぁなんて盛り上がったものだ。

 そして、特殊な挙動のカードというものもレアになりがちで……そういうレアは初心者には「なぜこれがレア……?」と見えてしまいがち。「これレアやけども、どないして使えばええねん?」と。そこを考えるのがマジックの醍醐味でもあるのだが、中にはどうやってもそれが思いつかないものがある。

 そういった難易度が高いレアも……すぐには使い道がわからなくとも、大切にストレージやファイルにしまっておくことが意味を成すことも。上述の「お互いのレア品評会」にて、中学生当時の僕らの中で話題になったのが《マナ結合》だ。

 当時は『エクソダス』のパックを目にする機会が多く、パック自体もディスプレイもカッコいいデザインなので皆でこれをメインに買っていた。それゆえに多くのプレイヤーが《マナ結合》を持っていた。

 ターン終了時に自分の手札の土地を全部戦場に出せる! これだけ聞くとむっちゃ強いのだが、その代償に手札をすべて捨てなければならない。次のターンからは引いてきたカードのみで勝負だ。都合よく1ターン目に《マナ結合》を出して残りの手札は全部土地、それらをすべて戦場に出して次のターンのドローは6マナの強い呪文……こんな幸運に恵まれない限りは強い運用はできない。

 こんな使い道がわからないカードがレアなんて……と当時はみんな、己の引きの弱さを恨んだものである。

 だが、時が経ち。大学生くらいの頃かな、レガシーという古い時代のカードが使えるフォーマットがあると知り、インターネットで日常的にデッキリストを閲覧することが可能になったタイミングで……持ってはいたが一度もデッキに入れたことのないカード、《マナ結合》を搭載しているリストに遭遇した。

 これは衝撃だったね。手札全部捨てて土地出して、そんな動きが強いデッキってあるのか? リストを見て納得した。そのデッキは「土地単」。デッキの大半が土地で構成されており、《ミシュラの工廠》や《樹上の村》などクリーチャー化する土地を使ってゲームに勝つことを狙っている。

 また《不毛の大地》《リシャーダの港》を早いターンから並べることで対戦相手のマナを封じる。不毛や《樹木茂る山麓》などの生け贄に捧げる土地を《壌土からの生命》で回収して毎ターン展開する…これを《マナ結合》で後押しするというのだ。

 目からうろこってレベルじゃなかったね。使い道が分からなかったカード、その真価が10年ほど経ってようやくわかる。そういうこともある、これこそマジックというゲームの魅力だと、《マナ結合》は僕に教えてくれた1枚だ。

 最近の土地をメインにしたデッキは、このオンリーワンな動きをするエンチャントを用いない形が主流になって久しい。少々寂しい思いをしていたのだが、先日遂にこの《マナ結合》採用型の土地単デッキを見つけたのでここで紹介させていただこう。

Ruben Scholten - 「8マルチ」
Beestvitational 2022 @ Heesch (Netherlands) ベスト8 / レガシー (2022年6月26日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《冠雪の森
2 《Taiga
1 《踏み鳴らされる地
1 《霧深い雨林
1 《吹きさらしの荒野
1 《新緑の地下墓地
1 《樹木茂る山麓
1 《燃え柳の木立ち
1 《育成泥炭地
2 《耐え抜くもの、母聖樹
2 《成長の揺り篭、ヤヴィマヤ
1 《ボジューカの沼
1 《カラカス
4 《不毛の大地
3 《死者の原野
1 《幽霊街
3 《イス卿の迷路
3 《演劇の舞台
2 《暗黒の深部
1 《爆発域
1 《市長の塔
1 《The Tabernacle at Pendrell Vale

-土地(36)-


-クリーチャー(0)-
4 《踏査
4 《マナ結合
3 《輪作
1 《炎の突き
4 《壌土からの生命
4 《根囲い
4 《紆余曲折

-呪文(24)-
2 《溜め込み屋のアウフ
3 《忍耐
1 《外科的摘出
2 《紅蓮破
2 《赤霊破
1 《炎の突き
1 《倦怠の宝珠
2 《活性の力
1 《精神壊しの罠

-サイドボード(15)-
mtgtop8 より引用)

 

 加速性重視の《マナ結合》、そして安定して土地を水増しできる《踏査》を用いたクラシックな構成の土地単だ。

 その名も「8マルチ」。マルチ/Mulchとは《根囲い》の英名であり、8ってことは8枚《根囲い》体制を示している。同様の効果をもたらす《紆余曲折》と併せてって意味だな。

 これらのソーサリーで土地を大量に手に入れて、ゲーム序盤から対戦相手とマナの差をつけて圧倒する。《輪作》や《炎の突き》で墓地に落とした土地も《壌土からの生命》で拾ってガンガン展開、《マナ結合》の強さを見せつけるべし!

 土地を展開して勝利する、そのための手段として《演劇の舞台》を用いる。レガシーでは大定番の《暗黒の深部》とのコンボだ。

 舞台で深部をコピーすると、氷カウンターが置かれていない深部が出来上がり、即座に生け贄に捧げてマリット・レイジを召喚だ。20/20飛行の破壊不能!

 たとえこれを《剣を鍬に》されてしまったとしても、土地セットは墓地に落ちているので《壌土からの生命》で回収して《マナ結合》《踏査》から盤面を再構築すれば良いだけ。

 《成長の揺り篭、ヤヴィマヤ》も絡めて深部からマナが得られるようにすれば、1ターン目にコンボを揃えてしまうことも可能という寸法だ。

 《死者の原野》はサブの勝ちプランとして、土地をポンポン出すだけでゾンビをワラワラと生成。これも《マナ結合》との相性が抜群だな。

 《壌土からの生命》と各種特殊な能力を備えた土地。《マナ結合》を僕らが手にしたころには存在しなかったカードが、一見使い道のわからないこのカードをデッキの主役に押し上げた。

 こういう感動があるからマジックはやめられない。どんなカードでも記憶の片隅に留めて、大切に保管しておくのが吉。皆の手元の謎のカードも、いつか輝ける日が来ることを願って。

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