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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
貴顕廊吸血鬼:ありがとうチャンピオンシップ、おかえりプロツアー(スタンダード)
『ニューカペナの街角』のリリースに伴う招待制のイベントであり、世界選手権は通ずる門でもあるニューカペナ・チャンピオンシップ。トーナメントシーンの再編により、現行の方式で開催される最後のチャンピオンシップとなった。
ひとつの時代が終わり、次の時代が始まる……さまざまな思いが交錯する舞台、ニューカペナという一家が取り仕切る街はこの上ないおあつらえ向きの舞台となったね。
この節目のイベント、開催直前に参加者の使用デッキ分布を解説するメタゲームブレイクダウンが公開された際にあるデッキが話題となった。スタンダードで使用者12名の「グリクシス・ヴァンパイア」……いや、ニューカペナ風に言うなら「貴顕廊吸血鬼」だ。
こんなアーキタイプ名、聞いたことがない! SNS上ではそのような良いリアクションが散見され、お~プロツアーの時代はこういうノリが恒例行事だったなぁとどこか懐かしい気分に。
グリクシス=貴顕廊、青黒赤の3色。この一家は長であるザンダ―卿が吸血鬼であり、その構成員にも同族が多く見られる。それらをまとめたデッキということだが……とにもかくにもリストを見ながら解説だな!
1 《沼》 1 《山》 4 《ザンダーの居室》 2 《憑依された峰》 4 《荒廃踏みの小道》 1 《難破船の湿地》 3 《清水の小道》 3 《嵐削りの海岸》 4 《河川滑りの小道》 2 《目玉の暴君の住処》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 -土地(26)- 4 《税血の収穫者》 2 《血に飢えた敵対者》 2 《しつこい負け犬》 4 《死体鑑定士》 2 《欲深き者、エヴリン》 -クリーチャー(14)- |
4 《電圧のうねり》 1 《強迫》 1 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》 1 《呪文貫き》 2 《冥府の掌握》 4 《鏡割りの寓話》 1 《魂転移》 2 《食肉鉤虐殺事件》 3 《漆月魁渡》 1 《不笑のソリン》 -呪文(20)- |
1 《欲深き者、エヴリン》 1 《マインド・フレイヤー》 3 《無効》 3 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》 1 《強迫》 1 《削剥》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《否認》 1 《真っ白》 1 《魂転移》 1 《食肉鉤虐殺事件》 -サイドボード(15)- |
ニューカペナの歴史や美術を取り仕切る貴顕廊一家。ザンダ―卿によって最初に吸血鬼となった女性であり、そしてこの一家における最大のコレクターとして旧世界の異物を蒐集しているのが《欲深き者、エヴリン》だ。
彼女は戦場に出た際にコントローラーとその対戦相手のライブラリーのカードを追放し、各ターンにそれらの1枚をプレイできるという変則的なアドバンテージを生み出す。
そしてこのカードの強みは、彼女のコレクションとして追放するカードを、自身が戦場に出た時だけでなく他の吸血鬼を戦場に出した際にも誘発して獲得できるという点。あまり意識されていないことかもしれないが、今のスタンダードには実は強い吸血鬼たちがすでに揃っていた。
2マナでパワー3、クリーチャー除去となりアーティファクトを使うデッキでもシナジーを形成する《税血の収穫者》。墓地のインスタントやソーサリーを唱えられて多大なるアドバンテージと速攻によりダメージをもたらす《血に飢えた敵対者》。
どちらも強力な吸血鬼ではあるが、これまでそのタイプにフォーカスしたデッキはスタンダードに大きなインパクトを残したことはなかった。
なので、このタイミングでの吸血鬼デッキの登場は世界中のデッキマニアを大いに興奮させた。しかもノーマークのデッキが使用者12名、これはつまり調整チームがこの大会までに研鑽してきたものを満を持して持ち込んだということである。
そんなチームの中から、チャンピオンシップ3日目の決勝ラウンドまで勝ち進んだのがベテランであるマイク・シグリスト/Mike Sigrist。彼自身の強さももちろんあるが、この想定外の吸血鬼デッキの実力が証明される結果となった。こういうのがプロプレイヤーが集う大会を観る際の醍醐味だよなぁ。
このデッキでも採用されているカードであり、現スタンダードの黒の強さの象徴は《しつこい負け犬》。
名前は弱そうだがこいつはバケモンだ。2マナでパワー3という打点を持ちつつ、奇襲で速攻を持って攻撃を仕掛けることも可能。奇襲で唱えたクリーチャーはターン終了時に生け贄に捧げられるが、その際にはカードを1枚引けるというオマケ付き。そして負け犬は墓地からも奇襲で唱えられるときたもんだ。まさしくしつこい! 何度も何度も立ち上がっては殴りかかり、去る時には手札をもたらす……頼りになりすぎる!
しかもこの手の黒のクリーチャーにありがちな「~ではブロックできない」というデメリットもなし、こいつはスゲェ。つまり、今回のチャンピオンシップは負け犬とどう戦うかというのが重要なファクターとなっていた。
この吸血鬼デッキは貴顕廊一家が誇る墓地対策の専門家に負け犬の処理をお願いしている。《死体鑑定士》だ。
墓地からクリーチャー・カードを1枚追放し、その際にはライブラリーから3枚見て1枚が手札に入る。相手の戦力を削ぎつつこちらの資源を潤す、3色ならではのパワーカードである。
吸血鬼であるので、もちろんエヴリンの能力を誘発させる。ゲーム終盤でもこれらの吸血鬼でモリモリと途切れない展開が可能となっているわけだ。
《鏡割りの寓話》からの《キキジキの鏡像》でこれをコピーしても当然メチャ強!
これは上述の他の吸血鬼にも言えることで、エヴリン・キキジキ・吸血鬼が揃うと圧倒的不利な状況も跳ね返して大逆転してしまえる。凄まじいポテンシャルを誇るメインエンジンで勝負する、それがこの中速デッキの本質だ。
カラーリング的に、対戦相手への妨害には長けている。クリーチャーなどのパーマネントへの除去、打ち消し、手札破壊……これらで対戦相手の自由な展開を許さず、まったりとしたゲーム展開に引きずり込んだら吸血鬼エンジンで圧倒、というのが理想的な展開。
これを行うための妨害要素だが、このリストのそれは……かなり散っている。ここは結構重要なポイント。セットチャンピオンシップはデッキリストが事前に公開されるのがルールで、対戦相手のデッキ内容をすべて把握しながらゲームを進めることができるようになっている。これを逆手に取ったのがこの散らした構築。対戦相手がアレを持っている、コレを引いてくるかもしれない、そういったゲーム中の読み。その思考は選択肢が多ければ多いほど、揺らいでいくことになるよね。見えているからこその悩みをもたらそうというわけだ。
それを体現しているのがメインデッキに1枚のみ忍ばされた《呪文貫き》。
ここでこのカードを唱えれば有利になる、でも青マナ1つ立っている……打ち消されれば一気に不利になる。さてどうするか……? こういう思考の泥沼に相手が勝手にハマってくれたおかげで勝利をもぎ取れる、なんてことも長丁場では起こり得るのだ。
逆に言えば、このような1枚挿しは見えていない戦いにおいてはそれほど大きな意味を持たないということでもある。カッコいいデッキだ! コピーしてランク戦で使ってみよう! と思ったプレイヤー諸君には、そのような1枚挿しを何か他のカードに置き換えた方が良い結果に繋がるんじゃないかなということは伝えておこう。
かつての競技イベントの最高峰、プロツアーではこのリストのような事前に想定されていないデッキが登場して勝利をもぎ取るという光景が度々見られた。セットチャンピオンシップが終わって、次からはそのプロツアーが帰ってくる。
ニューカペナ・チャンピオンシップにはかつてのプロツアーっぽい空気感が漂っていたように思う。個人的にはとても嬉しい流れだ。
さあ、皆もプロツアーを目指して……頑張っていこうぜ! いつの日かこの吸血鬼デッキのようなサプライズ、君が見せてくれることを楽しみにしてるよ。
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