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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ディミーア忍者:忍者デッキの定義(パウパー)

岩SHOW

 マジックというゲームは、他のジャンルから見れば意外過ぎる組み合わせが当たり前のように実現したり共存したり、とにかく不思議な世界だ。

 僕はもう20数年この世界にどっぷり浸っているので特にどうこう思わないようなことが、新規プレイヤーにはとてもおもしろおかしく見える。そういうことはいっぱいあるんだろうなと思う。

 たとえば先日、パウパーのデッキリストを眺めていた時のこと。「ディミーア(青黒)忍者」というデッキ分類に胸が躍った。確かに『神河:輝ける世界』ではコモンの忍者が大挙として押し寄せてきたので、今までよりも強い忍者デッキが組めるんだろうなと。

 で、いざリストを見てみると、確かに新しい忍者が初代忍者勢のカードと共演を果たしている。おぉ良いねぇ、という勘定と同時に、ふと冷静にそのリストを見返す自分がいた。そして沸き起こってきた感情。「そういや昔のパウパーの忍者デッキもこんな感じだったなぁ」。

 どんな感じかって? 忍者デッキとはいうものの、忍者があんまり入っていないってことだよ。

 どういうことかと思われるだろうが……それこそ10年以上前かな? 昔にレガシーやパウパーでは「○○忍者」と呼ばれながらも、実際忍者がガッツリ2桁!という構成のデッキにはほとんど出会ったことがなかった。ただ、デッキのアクセントとして採用されている数枚の忍者をデッキの特徴であるとピックアップして「忍者」というアーキタイプに分類されていたのだ。現スタンダードやヒストリックで組まれるような忍者デッキと、だいぶ趣が違うよね。

 具体的に説明すると、過去に忍者と呼ばれたデッキの忍者要素は《深き刻の忍者》だった。

 攻撃を通すとカードが1枚引ける、お手軽なアドバンテージ獲得能力。これを忍術を用いて2ターン目に無理なくサクッと取りにいけるこの忍者は、当時オンリーワンだったなぁ。

 この忍者を1マナの飛行などを持つブロックされにくいクリーチャーや《羽ばたき飛行機械》で運用するという要素を持った、青の打ち消しを用いるクリーチャー主体デッキのことを「○○忍者」と呼んでいたってわけだ。深き刻に追加で《霧刃の忍び》とかもちょろっと入れてたなぁ。

 という昔話はここらにして、では今回僕がこんな郷愁にかられた最新のパウパーにおける忍者デッキをご覧いただこう。

Timothy Agustin - 「ディミーア忍者」
Event @ Contemporary Nook (Marikina City, Philippines) / パウパー (2022年3月20日)[MO] [ARENA]
8 《冠雪の島
3 《冠雪の沼
3 《氷のトンネル
3 《灰のやせ地
3 《進化する未開地

-土地(20)-

4 《フェアリーの悪党
4 《フェアリーの予見者
4 《月回路のハッカー
4 《呪文づまりのスプライト
2 《深き刻の忍者
2 《黒薔薇の棘
2 《グルマグのアンコウ

-クリーチャー(22)-
4 《喪心
2 《チェイナーの布告
2 《対抗呪文
2 《焦点の喪失
4 《心を一つに
2 《魂の操作
2 《殺し

-呪文(18)-
2 《フェアリーの忌み者
1 《墓所のネズミ
2 《無孤勢団の伏兵
3 《青霊破
3 《抜去
3 《強迫
1 《息詰まる噴煙

-サイドボード(15)-
mtgtop8 より引用)

 

 クリーチャーの項目に目を通していただきたい。忍者タイプのものは計6枚。対してその倍、実に12枚ものフェアリーが採用されている。枚数で主役を決めるのであれば、これはフェアリーデッキだ。

 しかし数ではなく、忍術でドロンと姿を現す忍者というクリーチャーは、デッキの主役と呼ぶに相応しいメカニズムってことなんだな。

 このリストが採用している忍者はもちろん《深き刻の忍者》!……なのだが、枚数は2枚と抑え目で、メイン忍者の座は後輩に譲っている。《月回路のハッカー》だ。

 これも深き刻と似通った、カードを引ける忍者である。攻撃が通ればドローできるのは先輩と同様だが、その後に手札を1枚捨てなければならない。手札の枚数は増えず、質を改善する類のものだね。

 ただし、忍術で戦場に出たターンのみはこの捨てるという工程を省いてシンプルなドローとして運用できる。そして忍術に必要なコストはたったの{U}! この圧倒的なコストの軽さ、そして忍術を抜きにしても2マナという軽さで普通に唱えるのも問題ない点を評価されて、月回路が優先されているんだな。

 もちろん深き刻も理想的に運用できた際には無茶苦茶強いカードではあるので、手札に複数ダブつかないようリスクを抑えて2枚採用しているってわけだ。

 新旧忍者、それも忍者を代表する1枚とその正統後継カードの共演ってだけでも、なんだかグッとくるものがあるなぁ。

 では忍者よりも枚数の多い、数的な意味での主役であるフェアリーらについても紹介しよう。

 1マナ1/1飛行が2種類、まずは《フェアリーの予見者》。

 占術2がついており、これを1ターン目に出せれば続くターンはかなり安定して動くことができるだろう。忍術のタネになって手札に戻って再出撃させれば、また占術2。シンプルに強い!

 さらに《フェアリーの悪党》。

 同じ名前のカードがすでに戦場にあれば、戦場に出た時に1枚ドローをプレゼント。2枚以上並んでいる状況になれば、片方を戻して忍者を出してまた出してドローしてと、手札が瞬く間に7枚まで回復しそうな勢いだ。

 そして、これらのフェアリーを並べることで本領を発揮する《呪文づまりのスプライト》。これぞ忍者デッキにおける、ある意味で忍者以上の主役だ。

 戦場に出た際にマナ総量がフェアリーの数以下である呪文を打ち消すという、低コストのカードが主役のパウパーにおいてはかなり範囲の広い妨害能力を持っている。

 これを忍者で戻して使いまわせたら、ただのドロー1枚分得するだけではすまない、決定的な状況を作り出せてしまうという寸法だ。昔のレガシーでも《深き刻の忍者》とのコンビネーションが美しかったなぁ。またこのリアルタイムでそれが見れるとは、パウパーってフォーマットは素敵だね。

 忍者デッキと名乗りつつも実際はフェアリーデッキの要素を色濃く持つパウパーの「ディミーア忍者」。それらのコンビネーションはこのデッキのドロー呪文である《心を一つに》がその名で表してくれている。

 どちらが何枚で誰が主役かなど関係はない、コモン同士手を取り合って飛行と忍術、戦場に出た際の能力を複雑に絡めて、対戦相手を撹乱しよう。各種フォーマットで忍者デッキ、組みたくなっちゃうなぁ。

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