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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
オウリング・マイン:「バウンス」の変遷(過去のフォーマット)
前回のCool Deckのために、初代神河世代のセットがスタンダードで使えた時代のデッキを調べていた。
特に目を惹いたのはプロツアー・ホノルル2006のトップ8。アグロ・コンボ・コントロールとそれぞれに個性が強いデッキが揃っており、実に面白い顔ぶれになっている。
その中から「禍我シュート」をピックアップしたわけだが、他のデッキもどれも魅力的で甲乙つけがたいクールさを放っていた。なので今回も、同大会のデッキの中から、現在のスタンダードでは見られないような独自色の強いデッキを紹介しよう。
まずは当時と今現在とで、大きく変わったカード・デザインの話、「バウンス」と呼ばれる青のインスタントやソーサリーのことから始めよう。英語で書けばbounceで、これの意味する弾む・跳ね返すといったニュアンス通り、パーマネントを手札に戻すものの総称として広く使われている。
バウンスはマジック黎明期から存在するものであるが、今のバウンスには昔のそれにはなかったある制約がある。クリーチャーやアーティファクト、エンチャントやプレインズウォーカーといったパーマネントは手札に戻せても、土地は戻せなくなっている。
逆説的に昔のバウンスは土地も平然と手札に戻してきたものである。破壊するわけではなく出し直せるので問題ないだろうと、今から見ればおおらかな時代である。
1ターンでも早く相手よりもビッグアクションを行うことが勝敗を分ける現代マジックにおいて、土地をバウンスするのは極悪非道な行いになってしまう。なのでそういったカードは作られなくなったが……軽量クリーチャーが今ほど強くはない時代には、《ブーメラン》のようなカードが平然と相手の土地を手札に戻していたものである。
当時は何ら違和感もなく、マジックを始めた頃からずっとそんなもんだったので気にしたこともなかったが……今のスタンダードでそんなことされたら即ゲームオーバーだろって(笑)、こういう日常光景の変遷は改めて振り返ると面白いね。
というわけで今回紹介するデッキはこの土地バウンスを攻めの切り口としてくるデッキだ。その名は「オウリング・マイン」ッッ!
10 《島》 2 《山》 4 《蒸気孔》 4 《シヴの浅瀬》 2 《海の中心、御心》 -土地(22)- 4 《三日月の神》 -クリーチャー(4)- |
4 《手練》 4 《ブーメラン》 4 《未達の目》 4 《差し戻し》 4 《吠えたける鉱山》 4 《黒檀の梟の根付》 4 《疲労困憊》 4 《突然の衝撃》 2 《脱出》 -呪文(34)- |
2 《曇り鏡のメロク》 3 《マナ漏出》 3 《紅蓮地獄》 4 《不忠の糸》 3 《血染めの月》 -サイドボード(15)- |
デッキ名は《吠えたける鉱山》の英名「Howling Mine」から頭文字Hを取ったもの。
この鉱山はお互いに毎ターン追加のドローを得られるというアーティファクトで、普通に使うと自分の息切れも防げるが対戦相手にも恩恵を与えてしまうので敵に塩を送る展開にもなりかねないハイリスクなカードだ。これを活かすには相手の手札が増えようがお構いなしのデッキというのが定番だった。
そのアプローチのひとつとしてマナを縛るというものがある。どれだけ手札が増えて呪文を手に入れたとしても、マナがなければそれは唱えられず宝の持ち腐れとなる。
そう、ここでバウンスの出番だ。《ブーメラン》および神河産のバウンス《未達の目》で土地を戻し、対戦相手に満足な展開をさせない。
またこれらはクリーチャーのバウンスにも使えるので、疑似的な除去を兼ねる。《脱出》と併せてとにかく戻し、鉱山のドローなんて別に嬉しくもなんともないという状況に持ち込んでいく。
土地とクリーチャーをアンタップさせない《疲労困憊》も同じく除去の役目を担いつつ手札をロック状態に持ち込む強力な1枚。
鉱山と同様の能力を持つ《三日月の神》も用いて、大量ドローを得ながら相手のパーマネントをバウンスし続けて、一種のハメパターンに持ち込む。
これは対戦相手からすればかなりいやらしい戦術であるが、別にこれだけやっていてもゲームに勝てるというわけではない。手札が膨れ上がった対戦相手にとどめを刺す手段。それこそがハウリングではなくオウリングと呼ばれる理由だ。
オウルとはフクロウのこと。それが意味するのは《黒檀の梟の根付》だ。
対戦相手のアップキープに、そのプレイヤーの手札が7枚以上あれば4点ダメージ。2マナと軽くて序盤から設置しやすく、複数並べてしまえばあっという間に20点のライフが吹き飛ぶ。《差し戻し》したりバウンスに次ぐバウンス、《疲労困憊》で締め上げて対戦相手に何もさせず、この根付で削り切る。恐ろしい……今見ても震えてしまう危険なリストだ。
この根付に加えて《突然の衝撃》も撃ち込む。
4マナで7点以上、そんなに入ったらマナ効率に優れ過ぎだって!
思わず声を荒げてしまうが、このデッキの勝ち筋は、カード1枚ずつで見ればいずれも非力なものである。カードの組み合わせが巨大な破壊力を生み出す、ある種マジックのお手本を体現しているデッキと言えるね。
11 《島》 1 《山》 4 《蒸気孔》 4 《シヴの浅瀬》 2 《海の中心、御心》 -土地(22)- 4 《三日月の神》 -クリーチャー(4)- |
4 《万の眠り》 4 《ブーメラン》 4 《未達の目》 4 《差し戻し》 4 《黒檀の梟の根付》 4 《吠えたける鉱山》 2 《紅蓮地獄》 4 《疲労困憊》 4 《突然の衝撃》 -呪文(34)- |
1 《ゴブリンの捻術師》 3 《双つ術》 2 《紅蓮地獄》 1 《マナ漏出》 4 《脳髄の渦》 3 《仇麻呂の凝視》 1 《脱出》 -サイドボード(15)- |
先ほどのティアゴ・チャン/Tiago Chanとともにトップ8に入賞したこちらのアントワン・ルーエル/Antoine Ruelのデッキは、メインはほぼ同じであるもののサイドボードが同型戦をかなり意識したものとなっている。《脳髄の渦》や《仇麻呂の凝視》が使われている、なんともグッとくる当時のスタンダードの風景に思いを馳せてしまうなぁ……。
『神河:輝ける世界』がスタンダードにもたらすものにも、当時のようなアツさを期待したいね!
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