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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
ラクドス・アルカニスト:古強者たちの選択(ヒストリック)
「イニストラード・チャンピオンシップ」で日本勢がトップ8に5名入賞した。
日本のプレイヤーは昔から強かったが、ここにきて日本勢がブレイクしているのは……非常にレベルの高い調整チームが素晴らしく機能している、ということに他ならないだろう。
競技マジックにおいて、実際にゲームを戦うのは自分ひとりである。しかしそこに至るまでの調整、すなわちデッキ選択やサイドボードの構成、各種デッキに対してどのように戦うかのプランニングなどはひとりで準備するには限度がある。志を同じくするプレイヤー同士で集まって、環境で勝つための答えを出す。三人寄れば文殊の知恵、もっと寄れば多元宇宙の俊英たちの誕生だ。そんなわけで日本の調整チームは今後世界から注目される集団になることは間違いない。
今回の日本チームのデッキ選択に対し、プロツアー殿堂顕彰者であり世界最強プレイヤーの1人に常に名を連ねるLSVことルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasは、「もしやり直せるなら自分も日本チームと同じデッキを選んだよ」とこの上ない賞賛の言葉を贈った。
では、LSVのチームはどのようなデッキを選んだのだろうか? まず、彼と同じデッキを選択したチームメイトを紹介しなければ。古くからの繋がりもあって彼と同じデッキをチョイスした仲間は少なくないのだが、その中にMPL所属選手が複数名いると言えばそのハイレベルさは伝わるだろうか。その内の2名をピックアップさせていただこう。
まずはそのLSVとなんと第1回戦で激突し、圧倒的なゲーム展開を見せつけたガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassif。彼もまた殿堂顕彰者であり、長いキャリアに渡って数々のイベントで優勝など戦果を挙げている。
そしてカイ・ブッディ/Kai Budde。かつて誰も手が付けられない、比喩表現抜きで無敵だった時期がある伝説のプレイヤーだ。しばらくマジックから遠ざかっていたものの、MTGアリーナで本格復帰し、高いアベレージを維持してプレイヤーの最高峰であるMPL所属にまで至った、リビングレジェンドである。
こんな古強者たちが出した答えは一体どのようなものだったのか? LSVたちが選択したヒストリックのデッキを紹介しよう! なお、現在のヒストリックはカードの再調整や『アルケミー:イニストラード』の実装を経てカードプールが変化しているのでその点は注意されたし。
2 《沼》 2 《山》 4 《血の墓所》 1 《憑依された峰》 4 《荒廃踏みの小道》 3 《目玉の暴君の住処》 2 《バグベアの居住地》 4 《寓話の小道》 -土地(22)- 4 《戦慄衆の秘儀術師》 4 《死の飢えのタイタン、クロクサ》 2 《マグマの媒介者》 4 《歴戦の紅蓮術士》 -クリーチャー(14)- |
2 《魂標ランタン》 4 《コジレックの審問》 4 《思考囲い》 3 《致命的な一押し》 3 《邪悪な熱気》 1 《炎恵みの稲妻》 1 《棘平原の危険》 2 《コラガンの命令》 1 《真っ白》 2 《不笑のソリン》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文(24)- |
2 《軍勢の戦親分》 1 《強迫》 1 《炎恵みの稲妻》 3 《大群への給餌》 1 《害悪な掌握》 2 《真っ白》 1 《魔性》 1 《コラガンの命令》 1 《魔女の復讐》 2 《虚空の力線》 -サイドボード(15)- |
彼らが選んだデッキは「ラクドス・アルカニスト」であった!
ラクドスは黒赤の2色、アルカニストとはデッキのキーカード《戦慄衆の秘儀術師》のこと。
このゾンビは攻撃する度に墓地から自身のパワーよりも小さいマナ総量を持つインスタントかソーサリーを唱えられる。基本のパワーは1なので1マナのものしか唱えられないが、ヒストリックであれば1マナで十分な威力のカードが揃っている。十分なアドバンテージを獲得できるので、このアルカニストでガンガン攻撃してバンバン呪文を唱えていこうというデッキになっている。
クリーチャーで攻めるデッキではあるが、打点自体は低くその枚数も多くはない。アグロではなく、攻撃的なコントロールという趣のデッキだ。
墓地から唱えて嬉しい1マナ呪文、まずは黒のお家芸である手札破壊。ヒストリックでは《思考囲い》《コジレックの審問》と他のフォーマットでも引っ張りだこな手札破壊の最高峰が揃っている。
これでアルカニストが殴りだせる状況を作りつつ、さらに殴って再利用から相手の決め技を抜き去り、思ったようなゲーム展開を取れない状況に引きずり込む。これぞアルカニストの真骨頂。
《死の飢えのタイタン、クロクサ》も手札を攻めつつ、墓地が貯まった最終盤では戦場に降臨しゲームを終わらせるフィニッシャーとなる。
さらに黒も赤も得意なのがクリーチャー除去。黒からは《致命的な一押し》が低コストを蹴散らす。赤には《邪悪な熱気》と条件を満たせば高コストのクリーチャーも除去可能な火力がある。
また追放効果もついた《炎恵みの稲妻》や《棘平原の危険》も。これら赤除去はプレインズウォーカーに対しても撃ち込めるのがナイスだ。
これらの除去と手札破壊でゲームの主導権を握り続ける、そんな中速のコントロールデッキというわけだな。
で「ラクドス・アルカニスト」。このデッキは低コストのパーマネントのみで構成可能なので、《夢の巣のルールス》を相棒とする形が主流だったのだが、今回強豪らが選んだ構成はルールスを不使用。そして4マナのプレインズウォーカーという、単体のカードパワーで勝負できるものを新たな武器に据えている。
注目すべきは《不笑のソリン》!
このチョイスは意外だったのだが、フィーチャーマッチで動いているところを見ると納得がいった。ヒストリックというフォーマットは、そして「ラクドス・アルカニスト」というデッキは、マナ総量が小さいカードのみで十分に戦える。ということは、ソリンの[+1]能力でほとんどライフを失う心配がないということになる。手札が増えるのであれば1点・2点はかわいいもの、そうやって手に入れたカードで相手の手札からもっとコストの重いカードを捨てさせたり、もっとライフを奪うはずだったクリーチャーを除去できれば……この上なく幸福なアドバンテージ獲得の瞬間である。
新カードというのもあって警戒もされておらず、その力量を相手が判断するのも難しいという、いわゆる「わからん殺し」的な要素も含んでいるだろう。実際に戦場に出せば、自前でそこそこのサイズのトークンを用意できるのもあって、かなり戦場に居座ることができるタフなプレインズウォーカーだ。スタンダードだとライフを失いがちで扱いにくいかもしれないが、だったらヒストリックなどのフォーマットでその本気を体験してみよう!
「ラクドス・アルカニスト」は選択肢も多く、ハッキリ言って簡単なデッキではない。これで勝利するには熟練のプレイヤースキルが求められることだろう。
ただ、LSVたちのチームはその点はまるで問題なし。《不笑のソリン》という新たなパワーも手に入れて、ヒストリックを勝ちに行く!と意気込んでいたのではないだろうか。
残念ながらこのデッキを共有したメンバーがトップ8に進出することはなかった。強いプレイヤーが集って調整しても必ずしも完璧な結果に繋がるわけではない、というのが勝負の恐ろしさであり、また面白いところだ。おそらくは次回はリベンジに燃え、今回以上に連弩の高いデッキを組み上げてくるに違いない。
セットチャンピオンシップでは、調整チームごとのデッキ選択を見比べるというのも面白いよ!
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