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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
プリズン:ロックデッキの歴史(ヒストリック&古のスタンダード)
マジックは各自のプレイスタイルに合わせて好みのデッキを組んで対戦できる、という点が発表当時全く新しいものであり、今日においても色あせない最大の魅力だと、僕はそう考えている。
勝てるデッキであればとにかく何でも使う・使えるプレイヤーもいれば、絶対にクリーチャーで殴るデッキが使いたい! コンボがしたい! カードをいっぱい引きたい! そういう自分の流儀を何よりも重んじるプレイヤーも少なくない。速攻で終わるゲームを好むプレイヤーもいれば、じっくりじっくり自分の土俵に相手を引きずり込んで勝利する長期戦が何よりも楽しいというマニアもいるのだ。
今日はそんなマニア向けのデッキを紹介しよう。僕もどっちかといえばそういうデッキが好みなのだ。
12 《平地》 4 《アーデンベイル城》 4 《廃墟の地》 2 《オラーズカの拱門》 1 《幽霊街》 -土地(23)- -クリーチャー(0)- |
4 《守護像》 4 《精神石》 1 《安らかなる眠り》 1 《魔術遠眼鏡》 1 《メレティス誕生》 4 《牧歌的な教示者》 4 《九つの命》 4 《厳粛》 2 《払拭の光》 4 《神の怒り》 1 《ギデオンの介入》 2 《不滅の太陽》 4 《エメリアの呼び声》 1 《圧倒的輝き》 -呪文(37)- |
1 《孤児護り、カヒーラ》
-相棒(1)- 1 《暁の騎兵》 1 《墓掘りの檻》 4 《不可解な終焉》 1 《希望の夜明け》 1 《魔術遠眼鏡》 1 《世界のるつぼ》 3 《神聖の力線》 1 《残骸の漂着》 1 《ヘリオッドの介入》 -サイドボード(14)- |
リストを見てこれこれ、こういうので良いんだよと頷いてしまう。
メインデッキに採用されたクリーチャーは0枚。ゆえに条件を満たしているので《孤児護り、カヒーラ》を相棒として採用。
何もないところから引っ張ってくることができる3/2警戒という選択肢を増やすためであり、各種タイプを強化する能力はこのデッキにとっては書いていないも同然だ。
このデッキは白単色のコントロール、俗に「プリズン」と呼ばれるものだ。白は《神の怒り》をはじめとして優秀なクリーチャー除去を擁しており、クリーチャーで攻めるデッキに対する耐性の高い長期戦デッキを組むのに適した色だ。
この「プリズン」の特徴は《牧歌的な教示者》をサーチとして用いていること。
このエンチャントサーチのおかげで《安らかなる眠り》のような特定のデッキに突き刺さるものや、《圧倒的輝き》のような効果は大きいが複数枚引いてしまうと持てあますものを1枚ずつ仕込み、状況に合わせて欲しいものにアクセスすることが可能になっている。
これらが揃うと、ダメージを受ける際にそれが軽減されて0になり、かつ《九つの命》に具現カウンターは乗らない。どれだけ攻められようともライフは動かず、《九つの命》も永続的に維持できるので死ぬことがなくなる。「ゴブリン」のようなエンチャントに触れる手段を備えていないクリーチャーデッキは、これが決まると勝つことができなくなる=敗北だ。
この2枚を揃えるために各種除去で耐え、コンボ完成で決着。長期戦ながら相手によっては短期決戦コンボデッキのように立ち回れるのが良いね。
勝ち手段にプレインズウォーカーも据えているデッキには《不滅の太陽》で黙らせてやろう。
これらによる勝利手段の封印、いわゆる「ロック状態」に持ち込んだだけではギブアップしない相手ももちろんいる。そういう場合は《エメリアの呼び声》で天使を並べて殴り倒そう。
ところで「プリズン」というデッキ名についての解説をしていなかったので、このタイミングでさせてもらおう。プリズンとは牢獄のこと。対戦相手の勝ち手段を奪う=牢獄に閉じ込めるという意味合いでつけられたもので、マジックでもかなり初期に生み出されたロックデッキの1つである。《九つの命》《厳粛》コンボはアグロデッキの勝利という自由を奪う監獄ってわけだな。
「プリズン」のこのロック要素は時代や環境によって異なる。今回はオマケで古き時代のそれを見てみよう。1995年世界選手権において準優勝に輝いたリストだ。
9 《平地》 4 《山》 2 《アダーカー荒原》 1 《トロウケアの廃墟》 4 《露天鉱床》 -土地(20)- -クリーチャー(0)- |
3 《Zuran Orb》 4 《黒の万力》 3 《剣を鍬に》 2 《土地税》 1 《象牙の塔》 4 《吠えたける鉱山》 3 《解呪》 3 《友なる石》 3 《冬の宝珠》 2 《赤の防御円》 2 《孤島の聖域》 1 《天秤》 3 《ハルマゲドン》 3 《氷の干渉器》 3 《神の怒り》 2 《地震》 -呪文(42)- |
4 《山》 3 《稲妻》 1 《臨機応変》 3 《紅蓮地獄》 2 《地震》 2 《火の玉》 -サイドボード(15)- |
いやぁシブい、シブすぎる。これぞまさしく「プリズン」。このころのスタンダードのロック要素は《冬の宝珠》と《氷の干渉器》の組み合わせ。
毎ターン各プレイヤーの土地は1つしかアンタップしなくなり、その起きた土地を相手のアップキープに干渉器でタップ。そうすることで相手はインスタントを唱えたりすることにしかマナを用いることが出来なくなり、メインでろくすっぽ動けずに不自由を強いられるというわけだ。
このロックの面白いところは、自分は《冬の宝珠》の影響を受けずに済む点。当時はすべてのアーティファクトがタップ状態になると常在型能力が機能しなくなるというルールだった。スイッチを切るというイメージだろう。
それを利用して相手のターン終了時に干渉器で宝珠をタップし、自分は正常なアンタップ・ステップを迎えて土地をすべて起こす。相手のターンには宝珠が起きているため土地は1つしか起きない……というなんともずるい戦略である。
このルールは廃止されるが、《冬の宝珠》のテキスト変更により現在でもタップさせることで相手だけに冬をもたらす兵器として用いることが可能だ。
マナをメインで使えない状況の相手に《吠えたける鉱山》の追加ドローは宝の持ち腐れ。相対的にこちら側だけが得することになる。ドローが増えるだけでも十分に格差が生まれそうだが、そこからさらにゲームエンドにまで繋がる。《黒の万力》を設置し、手札が多い相手に毎ターンゴリゴリとダメージを与えるのである。
牢獄に万力、なんとも邪悪な組み合わせだが、黒は一切関係のない白中心のデッキというビジュアルと相反する点も味わい深いものだ。
今回は新旧「プリズン」を同時に紹介させてもらった。こうしてリストを並べてみると、マジックのカードの変化が見て取れる。
初期には宝珠×干渉器コンボに加えて《ハルマゲドン》や《天秤》など相手の土地を破壊する要素がてんこ盛り。《Zuran Orb》で土地をまとめて生け贄に捧げてから《天秤》で根こそぎ潰すというド派手なゲームも見られた(《天秤》はその強さゆえに制限カードだった)。
現在では相手のマナを潰すというアクションは非常に取りにくくなっている。プレイヤーが引いてきたカードを使えなくするという要素が強いと、どうしてもストレスの原因となってしまうからだ。
個人的にはどちらの時代のマジックもそれぞれに魅力的なのだが、マジックはより時代に即した多くの人に愛されるものを目指して変化している。過激なマナロックはもう登場することはないかもしれないが、もし遊びたければ「1995年のルールでデッキ組んでやらないか?」と昔のカードで遊ぶという形で欲求を満たせるのではないだろうか。昔ハマっていたバンドのCDを久方ぶりに再生するような、なんとも言えない心地よいひとときが待っていることだろう。
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