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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ヴィト・コンボ(スタンダード)

岩SHOW

 以前にも記したことではあるが、しばらくマジックをやっているプレイヤーの中にはカードが2枚揃った時点で勝利が確定するコンボのことを「双子」と呼ぶ層が存在する。これは国内外を問わずで、海外の著名なプレイヤーも「is this Splinter Twin?」などと言っている姿を見かけるものだ。

 双子、Splinter Twinとは《欠片の双子》のこと。

 このオーラを《詐欺師の総督》やそれと同一の能力を持ったクリーチャーに貼り付けることで完成するコンボの総称だ。双子がついた総督をタップして総督のコピーを生成、このコピーが戦場に出た時に、その能力でコピー元の総督をアンタップ。再度タップしてコピーを……というのを好きなだけ繰り返し、速攻を持ったコピー軍団で殴って勝ち。非常に簡単、お手軽に決まるコンボデッキだ。

 最速4ターン目に決まる2枚コンボということで、かつてはモダンなどで一時代を築き上げた名コンボである双子。過ぎ去っていったこのコンボを、昔ながらのプレイヤーは今でも求めている。2枚で勝てるコンボがあるなら、そりゃあそれを見つけて勝ちまくりたいってのが人情だ。

 『基本セット2021』の発売に際しても、新しいカードを眺めて「これは新しい双子じゃないか?」と声高に叫ぶプレイヤーの姿を見ることができた。新カード《薄暮薔薇の棘、ヴィト》の登場を受けての発言だ。

 自身がライフを得ると、対戦相手はその分ライフを失う。ライフをモリモリと回復することで、この能力を誘発させて相手のライフをすり潰したくなるこの伝説の吸血鬼、組み合わせる双子の片割れは……《回生 // 会稽》の《会稽》だ。

 対戦相手はライフの半分を失い、こちらはライフが倍になる。つまり……ヴィトがいると、相手のライフが半分になった上に、《会稽》を唱える前のこちらのライフ分だけさらにライフを失うことになる。《会稽》を唱える際に相当ライフの開きがない限り、この2枚が揃った瞬間に相手のライフは一気にはじけ飛ぶというわけだ。

 これは新たなデッキの到来かと思われたが、2枚で勝てるという以前にこのコンボは結構重たいのが難点。同一ターンに両方のカードを唱えようとすると、3+6で計9マナもかかってしまう。ヴィトがクリーチャーなので先に出しておいて後から《会稽》という手もあるが、3マナでタフネス3のクリーチャーがターンを跨いで生きて帰ってくるのを願うのは結構なギャンブルだ。

 そういうわけで新たな双子のことはみんな忘れて……しまったように思われたのだが、このコンボを地道に追求したマニアもいたようだ。今日はこのコンボでMTGアリーナのミシックランクに到達した、あるコンボの探究者が披露してくれたリストを紹介しよう。

treymc - 「ヴィト・コンボ」
スタンダード (2020年7月27日)[MO] [ARENA]
3 《平地
3 《
3 《
4 《神無き祭殿
2 《静寂の神殿
4 《寺院の庭
4 《豊潤の神殿
4 《草むした墓
2 《疾病の神殿
4 《インダサのトライオーム
1 《ロークスワイン城
-土地(34)-

4 《魅力的な王子
3 《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル
4 《ラノワールの幻想家
4 《薄暮薔薇の棘、ヴィト
2 《長老ガーガロス
2 《空を放浪するもの、ヨーリオン
-クリーチャー(19)-
4 《グリフィンの高楼
4 《活力回復
4 《楽園の贈り物
3 《ケイヤの誓い
3 《裏切る恵み
3 《エルズペス、死に打ち勝つ
4 《回生 // 会稽
2 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ
-呪文(27)-
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン
-相棒(1)-

4 《害悪な掌握
3 《苦悶の悔恨
2 《ガラスの棺
3 《空の粉砕
2 《思考のひずみ
-サイドボード(14)-
treymc氏のTwitter より引用)
 

 ヴィト×会稽コンボを使おうと思ってもなかなか考えが及ばないであろう、まさかの《空を放浪するもの、ヨーリオン》を相棒に据えた80枚デッキである。

 使いたいカードがあふれて「えぇい80枚にしちゃえ!」というノリだったのか、あるいは「コンボに頼り切らずとも勝てるデッキを追求した結果、ヨーリオンのもたらすアドバンテージが……」という論理的な結論なのかはわからないが、いずれにしてもこの完成形に到達するまでには数々の試作品を重ねたのであろうことがうかがえる。しかもコンボに必要な白と黒に加えて緑も採用する形だ。これは後述する、ライフ回復は緑という色も担っている役割だからだ。

 デッキとしては、ヴィトからの会稽で一撃必殺というゴールは設定されてはいるが、それに頼り切ったものではなく、デッキ全体がライフを回復し、それに伴うボーナスを得ようという思想で組まれている。ヴィトを出して適当に回復系のカードを唱えていれば、いつの間にか相手が不利になっている。

 あるいはヴィトよりも効果を発揮しそうなのが《グリフィンの高楼》だ。

 自分のターンの終わりに(ここ重要、間違えて相手のターンに回復しないように)、そのターンに3点以上のライフを得ていたらグリフィンを1体生成する。この2/2飛行を、遅いデッキ相手にはライフやプレインズウォーカーを狙うアタッカーとして、相手が攻めてくるデッキだった場合はブロッカーとして運用し、無から発生したクリーチャーでゲームを有利に進めよう。

 グリフィンを誘発させる回復手段として《活力回復》を用いているのだが、これはドローで土地やその他のカードを引き込めるのが嬉しい。

 また、コンボにマナがかかるので、ライフ回復と同時にマナを伸ばせる《楽園の贈り物》も重要な1枚だ。

 マナを伸ばしつつドローできる《ラノワールの幻想家》も縁の下の力持ち的な存在だ。

 これらのうち《活力回復》と幻想家のドローは、グリフィン以外のカードともシナジーを形成する。《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》だ。

 そのターンの2枚目のドローで猫を生成する彼女もまた、《グリフィンの高楼》と同じく攻めて良し守って良しの強さを持った2マナ圏だ。

 彼女の能力を誘発させる、ドロー源である《裏切る恵み》は、ライフを失うのが痛いがこのデッキほど回復で固められていればそのダメージは抑えられるし、エンチャントなのでヨーリオンで使いまわせて手札を尽かさずに戦える。

 また、コンボパーツの《会稽》は《回生》として上記のクリーチャーらを墓地から戦場に戻し、使いまわすということも可能で無駄にならない。このように書いていけばキリがないほど、カードとカードが絡み合っている。ヴィト以外にも小さなコンボで固められたデッキという見方もできるのだ。単体で強い上に能力があらゆるカードと噛み合っている《長老ガーガロス》は象徴的な1枚と言えるだろう。

 双子、と呼べるほどお手軽ではないが、2枚揃えばゲームが終わるコンボってのはいつだって魅力的だ。決める難易度が高めなのも、そう簡単に決まらないからこそロマンにあふれていて狙いたくなる、そうポジティブに捉えることもできるね。

 リリース当初にこのコンボに注目したけども決まりにくいからなと諦めていた人に、このリストが届けば幸いだ。諦めずに追究すれば、デッキはいつか完成する……かどうかはわからないが、信じることって大事だよねというお話。

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