笑顔は人を癒し、活力を与えるものだと言われる。……が、すべての笑顔がそうだとは思わない。ホラー映画で一番ゾ～ッとするシーンは、狂気に満ちた笑顔だったりする。

　マジックのカードでも、気味の悪い笑顔を披露しているものが多数存在している。《陰謀団の先手ブレイズ》とか《にやにや笑いのトーテム像》、《大笑いの妖術使い》なんかは印象に残るねぇ。

　『モダンホライゾン』でも笑顔がヤバいシチュエーションの１枚が登場した。《親切な吸血鬼》だ。

　カード名がもう怖いわ。体格の良い吸血鬼が笑顔でお出迎え。お食事中だったのではというレベルで口から血が……

「こちらへどうぞ！ テーブルに前菜を用意してありますよ。」

　丁寧な接客が売りのお店なのは伝わってくるフレイバーテキストやなぁ……新鮮そうな前菜を提供してくれる姿勢同様、カード自体も同族にとって、とても親切なものになっている。彼自身を含む吸血鬼が死亡するたびに残された同族がパワーアップ。どういった原理でそうなるのかはあまり考えたくないが、とにもかくにもモダンで吸血鬼デッキを組むなら必須パーツの１つになりそうだ。

　今日は、実際にこれを採用したリストを紹介しよう！

　吸血鬼たちのお食事会を戦場で再現する、良い趣味のデッキである。もちろんメインディッシュは対戦相手のお命だ。１～２マナの吸血鬼をどんどこ戦場へ繰り出していく速攻ビートダウンでありながら、夜の闇を自在に駆ける吸血鬼のように多彩な攻めのパターンを持っている点が面白い。戦場・手札・墓地をガチャガチャといじくるのが好きなプレイヤーにはもってこいのデッキになっているぞ。

　デッキの中核を担っているのは生け贄による全体強化だ。《甘やかす貴種》と《臓物の予見者》で吸血鬼を生け贄にしつつ、他の吸血鬼たちに＋１/＋１カウンターを置いていく作戦だ。

　《甘やかす貴種》と《親切な吸血鬼》が並ぶことで、素のサイズは小さい吸血鬼たちでも20点のライフを速やかに削り切れる。この時に生け贄にしたいのが《恐血鬼》。

　墓地に落ちても土地を戦場に出せばすぐに戻ってくるので、安心して皆のための犠牲に選出できる。どんどん生け贄にしちゃおう、複数体並ぶと加速度的に吸血鬼たちがサイズアップして気持ちいいぞ。

　さらに《血の芸術家》がいれば直接対戦相手のライフを攻められるので、是非ともこのあたりを揃えてシステムを完成させたいところ。

　《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》が多めに採用されているのも《恐血鬼》のためで、この土地があれば《血染めのぬかるみ》などの生け贄に捧げることで他の土地を持ってくる、いわゆるフェッチランドが沼のタイプを得て、そのままの状態でマナ源として用いることが可能に。マナを得るために生け贄に捧げる必要がなくなり、《恐血鬼》を戻すための勝負所まで温存できるというわけだ。

　もう１つのシステムはマッドネス。いかにも吸血鬼って感じの能力名だが、手札からカードを捨てる際に、代わりにそれを設定されたコストで唱えられるというものだ。《血統の呼び出し》《流城の死刑囚》がマッドネスを用いるためのエンジン役となる。

　《血統の呼び出し》で手札を捨ててトークンを生成し、《精神病棟の訪問者》をそのまま唱えることでノーリスクで運用したり、《冥界への呼び声》をなんと０マナで唱えてクリーチャーを回収したりしつつ盤面を作って、《流城の死刑囚》で吸血鬼を強化して攻撃しつつまたマッドネス……という動きが理想的だ。

　捨てるものはマッドネス持ちでなく《恐血鬼》でも同じように損失ナシで運用できてお得なので、ガンガン捨ててザクザク生け贄にしていこう。

　「マジックあるある」で、この手のデッキはリストを見ただけでも強さがあまり伝わらなかったりする。こんな線が細いクリーチャーばっかりで本当に殴り合い勝負に持ち込めるの？と思うのは自然なことだと思う。となれば、まずは体験してみようじゃないか。ちょっとでも気になったのであれば、《親切な吸血鬼》の笑顔を信じてトライしてみよう！

　『基本セット2020』では何やら吸血鬼デッキ向きな能力を持ったあの方もカード化されるようで、ホラーの夏を楽しませてくれそうな予感？