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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

構築譚 その5:キブラーバント

岩SHOW

 プロツアーは遠い海の向こうで開催されることが多い。日本のプレイヤーにとってより身近な存在なのは国内グランプリであろう。誰でも参加できるという点でも、より多くの人の思い出に残るトーナメントだと思う。自分が過去に参加したグランプリで誰が、どんなデッキが優勝したのか、ちゃんと覚えているかな?

 歴史に名を残す名デッキ・時代に爪痕を刻んだ面白いデッキを取り上げる構築譚のコーナー、本日紹介するのは日本国内のグランプリでとても印象的な優勝者と、彼が使用したデッキの紹介だ。グランプリ・仙台2010にて初日全勝からの堂々の優勝を遂げたのは、アメリカから遠征してきたプロツアー殿堂顕彰者ブライアン・キブラー/Brian Kibler!

 縦にカードをシャカシャカする特徴的なハンドシャッフルでも広く知られるキブラー。ハンサムでいつもハイテンションなキャラクターで日本でも人気が高いプロプレイヤーだが、彼がその名を日本のプレイヤーにとって忘れられないものとしたのはこの優勝も大きいだろうなと。

 海外のトッププロが優勝をかっさらっていったのもそうだが、その使用したデッキがこれまたカッコよかったんだわ。公式カバレージでは「Next Level Bant」と記されているのだが、キブラーが優勝したことでキブラー型バントデッキ、縮めて「キブラーバント」という呼称が定着した。

 それでは、そのリストをご覧いただこう!

Brian Kibler - 「キブラーバント」
グランプリ・仙台2010 優勝 / スタンダード (2010年6月5~6日)[MO] [ARENA]
5 《
2 《
1 《平地
4 《霧深い雨林
4 《海辺の城塞
3 《陽花弁の木立ち
1 《活発な野生林
4 《天界の列柱
-土地(24)-

4 《貴族の教主
2 《極楽鳥
1 《硬鎧の群れ
4 《前兆の壁
4 《海門の神官
1 《国境地帯のレインジャー
4 《復讐蔦
2 《イーオスのレインジャー
2 《失われた真実のスフィンクス
-クリーチャー(24)-
2 《流刑への道
2 《忘却の輪
1 《バントの魔除け
3 《遍歴の騎士、エルズペス
3 《精神を刻む者、ジェイス
1 《ギデオン・ジュラ
-呪文(12)-
1 《カビのシャンブラー
1 《ジュワー島のスフィンクス
2 《失脚
3 《天界の粛清
2 《剥奪
2 《否認
1 《バントの魔除け
1 《忘却の輪
1 《軍部政変
1 《ギデオン・ジュラ
-サイドボード(15)-
 

 バント(白青緑)カラーのクリーチャーによるクリーチャーのビートダウンによって勝利を目指すデッキである。その割には《前兆の壁》や《海門の神官》などがガッツリ採用されているのが不思議に見えるかもしれない。しかしこれらは、このデッキが殴り勝つことを大きく後押ししてくれるのである。

 カード1枚でクリーチャーと1枚分の手札を得られる、アドバンテージを得られるカードであり、これらをプレイすると他のクリーチャーカードを手に入れられる確率は高い。そうして得たカードを同一ターンにプレイし、そのターンで2枚目のクリーチャーカードをプレイしたことで《復讐蔦》の能力を誘発させ4/3速攻で殴りかかる……そう、このデッキは《復讐蔦》を中心としたものなのだ。

 《イーオスのレインジャー》も、マナ・クリーチャーや《硬鎧の群れ》をサーチして1ターンに2枚のクリーチャーという誘発条件を満たしてくれるものであり、《失われた真実のスフィンクス》も、軽いクリーチャーを探すことも、墓地に《復讐蔦》を送り込むこともできる。デッキの多くのカードが手札を得ながら《復讐蔦》による盤面構築を可能にする、強力なシナジーを形成しているのが特徴だ。

 ……なのだが、ちょっと気づいた方もいるんじゃないかな。そう、このデッキにはスフィンクスくらいしか手札の《復讐蔦》を墓地に落とす術がない。これはなぜか? 答えは当時の環境にある。

 《復讐蔦》はマナ・クリーチャーから3ターン目に素出しして殴るだけでも十分な打点、《貴族の教主》がいれば5点以上たたき出すことも容易で……これを対戦相手はブロックしたり除去したりで食い止めるわけだが、そうしたところで「破壊」という対処法ではこの蔦の進撃は止まらない。何度除去しようとも、先述の手札を稼ぐクリーチャーであっさりと2アクションを取られて墓地の蔦が全部戻ってきてアタック……という恐ろしい動きが待っている。つまり、墓地に積極的に埋めずとも《復讐蔦》はただただ強いカードだったのだ。

 コントロールデッキがひいひい言いながら《審判の日》を唱えても、この戦略は無慈悲にそれを全否定してしまうのだ。たまったもんじゃないね。また、当時根強い人気デッキだった「ジャンド」が《荒廃稲妻》でこの蔦を捨てさせてくれる、ということもあっただろう。わざわざ自分からこのクリーチャーを墓地に送り込む必要は、全くなかったのだ。

 これほどまでに打点の要である《復讐蔦》、こうなるとこのカードを引けなかった場合どうするのかという話だが、「キブラーバント」には解答あり。計7枚のプレインズウォーカーがそうだ。

 マナ・クリーチャーから3ターン目に飛び出るだけでゲームを決めかねない《精神を刻む者、ジェイス》に《遍歴の騎士、エルズペス》、そして異常なまでの硬さと打点を誇る《ギデオン・ジュラ》。この分厚いパワーカード群、ドロー付きクリーチャーらがいれば、蔦かこれらのうちどれかは引けるってなもんだ。実際、キブラー自身も「この環境で最も安定したデッキ」と自身の使用したデッキを高く評価していた。

 パワーカードを安定して運用できる、すなわち最強。グランプリ優勝も納得である。ちなみに、後にキブラーと同じく殿堂顕彰者となる渡辺雄也もこのデッキを使用して初日全勝、トップ8と素晴らしい成績を残している。強者が選んだ、文句なく強いデッキ。そりゃあ当時コピーするプレイヤーがあふれるというもの。翌週のフライデー・ナイト・マジックではそこかしこで蔦が走り回っていたのを覚えている。

 やっぱりプロはとてつもなく強く、そしてカッコいいデッキを持ってくるんだなと当時感動したものである。最近はこうした「プレイヤー名がつくデッキ」ってめっきり見なくなったね。誰かインパクトを残してくれることを、ちょっと祈ってますよ!

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