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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ラムナプ・レッド(スタンダード)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ラムナプ・レッド(スタンダード)
by 岩SHOW
1回飛ばすだけで、随分久しぶりに感じるものだ。プロツアー『破滅の刻』に実況者としてスタッフ参加させていただいた。
プロツアー、やっぱり最高だ。どの試合も面白く、ラウンドを重ねるごとに緊張感と1ゲームの持つ重みがどんどんと増していく。見てるこっちまで手に汗握る戦闘、胃が痛くなるような呪文の応酬、ひりつくトップデッキ合戦。名勝負の数々を実況させてもらえることは栄誉であり、責任も感じる。
今回は我が友・マーシャル/Marshall Sutcliffe(@Marshall_LR)のこれまでの実況を特に参考にして臨んでみたのだが......ちゃんと実況の仕事ができていただろうか。その参考にしたマーシャルやBDM/Brian David Marshall(@Top8Games)、今回からカバレージチーム入りのポール・チェオン/Paul Cheon(@HAUMPH)といった面々と休憩室なんかで意見・情報交換することにも積極的にチャレンジしてみた。
放送開始前に番組出演者は皆(実況解説陣のみならず、決勝ラウンドを戦う選手たちまで)メイクを受けるのだが、日曜日の朝にその空間で恒例となっているのは「誰が優勝するか」談義だ。LSV/Luis Scott-Vergas(@lsv)らを中心に、デッキは○○選手のものがベストだ、プレイングで△△選手が勝る、というのを論じるのが彼ら大好きなようだ。
今回、その恒例のお題をマーシャルの方から僕に振ってきた。「誰がこのトーナメントの勝者になると思う?」――勝負は水物、ふたを開けてみないと分からない。難しい質問ではあるが、今回は答えが決まっていた。「あそこで今、メイクを受けている彼だと思うよ」「OH~、同意するよ」
その時メイクを受けていたのは、プロツアー開催地・京都に向けて、地球の裏側・ブラジルより40時間にも及ぶ長旅を経てきた男。パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa、通称PVだ。PVはプロツアー殿堂顕彰者であり、プロツアーTOP8は実に12回目。彼のプレイヤーとしての実力は疑いようもなく、12回という場数の差も武器になる。優勝すれば逆転でプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを獲得という、舞台も整って勢いもある。
そしてマーシャルはこう続けた。「同じ赤単でも完成度はかなり高いね、サイドボードも素晴らしい」。「ラムナプ・レッド」の姿を見ていただこう。
14 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 4 《陽焼けした砂漠》 2 《屍肉あさりの地》 -土地(24)- 4 《ボーマットの急使》 4 《ファルケンラスの過食者》 4 《村の伝書士》 4 《地揺すりのケンラ》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 4 《アン一門の壊し屋》 3 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー(26)- |
4 《ショック》 4 《削剥》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文(10)- |
2 《ピア・ナラー》 2 《砂かけ獣》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《チャンドラの敗北》 1 《チャンドラの誓い》 2 《粗暴な協力》 2 《霊気圏の収集艇》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
『破滅の刻』にて《地揺すりのケンラ》という速攻&ブロック阻害能力を持った優秀な2マナ圏のクリーチャーを得て、そして同時に赤単速攻系のデッキがこれまで抱えていた「後半に土地をドローしてしまうと手数が足りなくなる」という弱点を補う、土地をダメージ源に変換する土地《ラムナプの遺跡》も獲得した赤単が一気に強くなったことは以前にも紹介した。
この強化された赤単、キーカードより「ラムナプ・レッド」と名付けられたビートダウンは、 今プロツアーにおいて全体の24.8%という最高使用率を誇った。
ここまでは、多くのプレイヤーがMagic Onlineでの勝ちっぷりからも予想していたことだった。プロツアー前に強いビートダウンは、プロツアーで対策デッキの海に飲まれて沈む......というのは、長いプロツアーの歴史でも何度か目撃されてきたことであり、今回もそうなるのではと考えていた人は少なくないかと思う。
しかし「ラムナプ・レッド」はその予想を超えてきた。このデッキの連撃は、ちょっとやそっとの防御手段では防ぎようがないのだ。その上に、このPVが使用したリストのように、各調整チームが対策デッキを跳ねのけられるレベルにデッキを進化させてきたのだ。その結果、総使用者115名のうち84名が2日目進出、TOP8に5名を送り出し、そして対抗馬となるデッキを切り捨てての優勝と、夏を真っ赤に染め上げることとなった。
PVの使用したリストは、試合を見ていてもその洗練されっぷりが際立つ。例えば、1マナ除去兼本体火力としての《ショック》4枚の次に名を連ねる呪文は、同じく除去兼本体火力である《焼夷流》ではなく《削剥》4枚である。
一見すると同じ「ラムナプ・レッド」同士の対戦では本体に撃ちこめる分《焼夷流》の方が優れているように思えるが、実際に試合を見ているとこの2枚の差は実に顕著だった。対戦相手がソーサリーである《焼夷流》でクリーチャーを除去してターンを返すのに対し、PVは相手の出方を伺ってからインスタントである《削剥》で最も厄介な存在を排除しながらゲームを進めていた。速攻クリーチャー同士の殴り合いにおいて、インスタントとソーサリーの差は月とすっぽんと言ってしまえるレベルだ。もちろん、《焼夷流》にも良さはあるが、より同型での勝率を高めることを考えれば、2マナの呪文の枠は《削剥》にスロットを割くのがベストだろう。
サイドボードも他のプレイヤーとは大きく異なる。以前の「マルドゥ機体」の定番ムーブのように、メインは速攻殴り勝ち・サイド後は速度を落として軽いクリーチャーを抜き、相手の軽量除去をスカらせるという作戦を取る......のは他の「ラムナプ・レッド」使用者にも見られたアプローチだが、PVのものはカードのチョイスが素晴らしい。
《霊気圏の収集艇》は同型や飛行に耐性のないその他のアグロに対し、ダメージ源でありライフ回復装置として大いに貢献する。《ピア・ナラー》も同型がサイド後に積んでくるような《マグマのしぶき》1枚では処理されず、しっかりとブロッカー及びアタッカーを残す地味ながらにいい仕事をする1枚。赤単色ではこういったほんの少しでもアドバンテージを稼ぎ出すカードは貴重であり、その微差が同型においては大きな違いとなりうる。
サイド後もタフネス1を並べるビートダウン戦略を続行する相手には《粗暴な協力》をお見舞いだ。このカードは対「ラムナプ・レッド」において有利であるティムール(青赤緑)カラーの中速デッキが有する《つむじ風の巨匠》を1枚で完全に突破できるカードとしても用いられる。
《チャンドラの敗北》は1マナの同型万能除去として、特に自身も用いる《栄光をもたらすもの》への完全な回答としてしっかりと採用。メインから搭載されている《反逆の先導者、チャンドラ》を増量する際には《チャンドラの誓い》の存在も忘れずに。2マナ除去であり、対プレインズウォーカー火力ともなる、シブい1枚だ。
個人的に最もビビッときたサイドカードは《砂かけ獣》だ。
PVのリストは、土地の詰まりを防ぐこととメインに採用された《反逆の先導者、チャンドラ》を用いるために他の「ラムナプ・レッド」よりも多い24枚の土地を採用している。他よりも増えている部分は《屍肉あさりの地》という墓地対策にもなる砂漠カードだ。砂漠がメインからこれで10枚となり、《ラムナプの遺跡》の弾丸に困ることはない。そしてそれだけあるのであれば、他の砂漠シナジーカードも問題なく使用できるだろうということ。大体戦場には何らかの砂漠が出ているので、《砂かけ獣》は4マナ3/3+3点ダメージ除去として、かつて火を噴きまくった《火炎舌のカヴー》のように機能する。リミテッドではものすごく強い1枚だが、それを構築に持ち込んだのはさすがトッププロの調整チームと言うほかない。
この完成度の高い「ラムナプ・レッド」に、最高のプレイヤーの一人であるPV。合わされば鬼に金棒、優勝も納得だ。ただ、今回のプロツアー中継では「《アン一門の壊し屋》を出したが殴らない」などの高度なプレイングを求められる側面も大きくクローズアップされた。対策自体は簡単にされてしまうデッキなので、勝ちたければ人より練習するしかない! 日本選手権に向けて、この夏は熱烈の神の試練に立ち向かってみてはいかがだろうか。
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