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戦略記事

市川ユウキの「プロツアー参戦記」

第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権 後編

市川 ユウキ


 こんにちは、市川(@serra2020)です。

 前編に続き、後編では「第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」の大会レポートを綴っていこうと思います。よろしくお願いします!
 

0.ドラフト雑感

 まずは『アバター 伝説の少年アン』ドラフトの雑感から。

 

 『マジック:ザ・ギャザリング | アバター 伝説の少年アン』ドラフトは、基本的に3つの色がベースとなってデッキが構築されます。

 まずは最強色の白。

 ただ強い除去《開放への道》、3マナ2/3飛行シングルシンボルに占術まで付いている《グライダーの子どもたち》など、コモンのプレイアブルが揃っています。

 

 その他のクリーチャーも優秀で、水の技と組みあせて毎ターン占術できる《慈悲深き癒し手》や、マナフラッド対策として嬉しい《水の部族の隊長》など、コモンのクリーチャーでメインに入れたくないカードは僅かに《農場の奇妙な動物たち》だけです。

 

 マルチカラーのアンコモンも極めて優秀で、他の4色のどれと組み合わせても3-0スペックのデッキになり得ます。

 

 次点は青です。

 水の技やセカンドドロー系と相性の良い《万事お見通しの占い師》、5マナとやや重いながらも手掛かりが付いてきてオトクな《失われた日々》など、青もカードがコモンだけである程度用意されています。

 

 白と比較した場合、クリーチャーのスペックに一癖ある印象です。

 《初めての飛行者》は講義カードを用意しないといけませんし、《カワウソペンギン》を入れるならドロースペルを必要とします。

 

 こちらもどの4色と組み合わせても大丈夫ですが、アンコモンも各カラーリングの方向性を後押しするカードになるので、しっかりとアーキタイプを意識したデッキ構築が要求されます。

 

 3番手は緑です。

 《騒々しい観客》から《霧の沼地の蔦のベンダー》や《土の武道会の武道家たち》でパワー4を用意して、4ターン目に6マナに一気にジャンプアップするマナランプをベースとします。

 

 そこから赤緑であったら《辛い修練》などでよりパワー4以上シナジーにフォーカスしたり、青緑であったら《浮世離れした薬草師》などでよりランプ戦略に特化します。

 

 緑が3番手である理由は受け入れの狭さです。

 緑ベースでピックしていると同盟者シナジーを形成し辛いため、《白蓮会の増援》などの緑白のカードが効果的でなくなります。

 つまり、緑白は白ベースのデッキであり、緑から入った場合はそこに進むことは難しいのです。

 また、黒緑は単純に強力なカードが少なく、生贄シナジーであれば白黒、ランプ戦略であれば青緑のほうが優れています。

 ですので、黒緑になるには強力なレアカードのような明確な理由が必要です。

 

 ここからはメインカラーになりづらい2色の紹介。

 まずは赤です。

 1マナ2点と軽量除去でありながら後半は5マナ5点と腐らず、尚且つ講義カードでありシナジーを形成しやすいスーパーコモンの《火の技の修行》。

 これは全色通してのトップコモンとなります。

 

 赤白や青赤で当然強力なカードなのですが、青緑ベースのデッキでもタッチする価値があるため、セカンドカラーのカードでありながら初手でピックしても無駄になり辛いのが特徴です。

 

 《火の技の修行》と比べると講義ボーナス分見劣りしますが依然強力な除去である《稲妻の一撃》や、赤白や青赤などの攻めるデッキで使うと見た目より強力な《奇抜な動き》など、サポートカードが強力な赤はセカンドカラーにピッタリ。

 

 一方クリーチャー陣は若干弱めで、決して弱いカラーではないけどベースカラーにしたくないなといった感想です。

 

 最弱色は黒です。

 低マナを支えるクリーチャーは《堕落した廷臣》、《数多の帽子の商人》と2枚以上重なると弱そうなカード郡で構成されています。

 

 講義呪文が弱いのも問題です。

 メインに入れたくない《ダイ・リーの洗脳》、相手によって強弱がハッキリするのでメインは1枚が限界かなといった《アズーラは嘘つきだ》など、メインボードでプレイするのは厳し目。

 

 アンコモンも含めて極端にプレイアブルなカードが少なく、低レアリティのカードでデッキを組むことが難しいです。

 そのため、黒に入る理由はレア。

 なぜか2種類ある全体除去、《ソジンの台頭》や《黒い太陽の日》はもちろん強力な機体カードである《火の国のドリル》や《不死鳥艦隊の飛行船》など、ゲームを決めうるカードが高レアリティに集中しています。

 これらの分析をもとに、私は素直に3色のベースカラーをピックしつつ、黒は高レアリティカードからしか入らないを戦略としました。

 これが普段のプロツアーであれば、一番手の白に人気が集中することを考慮して避ける方向性になりますが、今回は最高峰のイベントである世界選手権。

 そのため、高レベルなトーナメントほど逆に一番手のカラーに強引に入ってくる人も少なくなるだろうと、フラットに構えることにしました。
 

1.初日 / ブースタードラフト

 

 いよいよ世界選手権のスタートです。

 世界選手権のDAY1およびDAY2は3回戦のドラフトラウンド、そしてその後の4回戦のスタンダードラウンドで構成されています。

 プロツアーと比べると1回戦スタンダードラウンドが少なく、初日抜けのボーダーも4勝3敗なので、負けられる回数も一回少なくなっていて、初日抜けのハードルは上がっています。

 初日の卓はTeam Handshakeのカール・サラップ/Karl Sarap、チャールズ・ウォン/Charles Wong、ジョニー・ガットマン/Jonny Guttman や、アリーナ・チャンピオンシップを優勝して今大会の権利を獲得した元MPLの佐藤啓輔さんなど、名うてが揃い踏み。

 さすが世界選手権といったところです。

 

 

 初手は《釜茹岩の暴動者》。

 やりたくない黒であること、またこのカード自体レアではありますがそのやりたくない色に進むほど強力なカードでないことからかなりネガティブでしたが、他にめぼしいカードもないのでピック。

 

 2手目は《爆裂の技》。

 《釜茹岩の暴動者》と比べると文句無しの初手級カード。

 《火の技の修行》で述べたことと同じですが、赤いデッキでは勿論、青緑のランプ系デッキにもタッチ出来るスペックです。

 3手目は《物憂げな刃、メイ》。

 正直至って普通な2マナクリーチャーですが、ここもめぼしいカードがなくピック。

 

 4手目は青のトップコモンである《万事お見通しの占い師》、続いてグッドアンコモンの《人類学者、ゼイ教授》。

 黒いカードは初手以外でピックできていませんし、流れ的に青赤に向かいたいところ。

 

 ところが、そこからは赤が全く流れてこず。

 一方黒は《正確無比》と《無慈悲な監査官》、《ケイコクオオグモ》が一周して来たこともあり青黒にピックが傾きます。

 

 2パック目を開けたらレアカードが《共同戦線》、《水の部族の希望、カタラ》、《バーシンセー》と初手級が3枚出て失神。

 白が全く取れていない=上家のカールが白をやっている確率はかなり高いので《共同戦線》を流すと使われてしまう可能性がありますが、《水の部族の希望、カタラ》であれば青黒ベースのデッキにもタッチできるのでここは《水の部族の希望、カタラ》をピックします。

 

 そのあとは《ばあば》、《無情な行動》などの強力なアンコモンをピックできてポジションの良さを実感。

 《茶屋「ジャスミンの龍」》も《水の部族の希望、カタラ》や《人類学者、ゼイ教授》をプレイするのに貢献するマナベースなのでかゆいところに手が届くカードです。

回転

 

 3パック目はアンコモンの方の《水の技の天才、カタラ》からスタート、すると2手目で《共同戦線》のお返しとばかりに《クルクの伝説》が流れてきました。

 その後もロングゲームを目指す青黒にとって強力な《精霊の水の蘇生》が流れてきたりと、満足のいく仕上がりになりました。

第1回戦:緑白(カール・サラップ) ××
第2回戦:白黒 ◯◯
第3回戦:赤白 ×◯◯

 結果は2勝1敗。

 

 初戦は上家のカール。

 ほぼ白単の構成で見事に《白蓮を集めよ》から私がパスした《共同戦線》で圧敗。

 

 終わった後に聞きましたがカールは自分のデッキに効く《滅びの水の技》を2枚カットしていたとのこと、上手すぎだろ!

 その後のマッチアップは危なげなく勝利。

 

 白系アグロ3連戦だったので、《霧の沼地の狩人》が頼もしかったです。

 このカードは基本的に一周するくらい安いカードですが、青黒だと誘発しやすく、また青黒のロングゲームを目指す方向性とあったカードなので、このアーキタイプであれば計算しやすく良いカードです。

 

 しかし、デッキを回していて思いましたが、若干ドロー呪文が多かったです。

 《クルクの伝説》、《精霊の水の蘇生》とありつつ更に《水の技の修行》も入っていますからね。

 ここがマナカーブ的には3マナのやや守勢で貢献するカード、《北極の巡視隊》みたいなカードだったらもっと良かったかなと思います。
 

2.初日/スタンダード

 デッキはイゼット・ルーティング。

Yuuki Ichikawa - 「イゼット・ルーティング」
第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権 / スタンダード(2025年12月5~7日)[MO] [ARENA]
9 《
2 《
4 《マルチバースへの通り道
4 《リバーパイアーの境界
4 《尖塔断の運河
-土地(23)-

4 《精神の決闘者
4 《逸失への恐怖
4 《量子の謎かけ屋
2 《トラアザラシ
-クリーチャー(14)-
1 《削剥
4 《ブーメランの基礎
2 《降霜断崖の包囲
2 《洪水の大口へ
1 《紅蓮地獄
2 《咆哮する焼炉 // 蒸気サウナ
4 《嵐追いの才能
4 《塔の点火
3 《冬夜の物語
-呪文(23)-
2 《無効
1 《軽蔑的な一撃
1 《炎魔法
2 《今のうちに出よう
1 《除霊用掃除機
1 《液状の重罪犯、ハイドロマン
1 《アイローの表演
1 《紅蓮地獄
1 《壊滅的猛威
2 《呪文貫き
2 《スパイダーセンス
-サイドボード(15)-

第4回戦:ゴルガリ・ウロボロイド ×◯×
第5回戦:ジェスカイ・コントロール ××
第6回戦:イゼット講義 ×◯×
第7回戦:ティムール・カワウソ ◯××

 スタンダードラウンド0勝4敗、トータル2勝5敗で初日落ち

 

そ、そんなぁ~!!

 

 正直なところ、下手すぎました。

 イゼット・ルーティングにデッキをロックしたのがサブミットの前日で、そこからランクマッチなどで特に練習もしておらず、世界選手権レベルでやるにはプレイスキルも大局観も足りていなかった印象です。

 このデッキは《逸失への恐怖》や《精神の決闘者》で手札を入れ替えるので、それらの取捨選択がゲームを分けます。

 プロツアーであれば初日をおっちらえっちらと凌いでいる間に自分がデッキに慣れてきて二日目は手慣れる──みたいなこともあったのですが、流石は世界選手権。相手のスキルも高く凌げず墜落しました。

  • テストハウスに入る前に様々なデッキを回しておく
  • デッキをロックする日を最低サブミットの2日前にする

 など、自分のスキルに準じた準備が必要だなと感じました。

 

 一方、Team Cosmos Heavy Playのチームメイトであるジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Deprazは見事トップ8!

 前回のプロツアー『久遠の終端』から一緒に調整をしていますが、本当に彼のプレイスキルには驚愕させられています。

 

 今回はドゥプラとスパーリングすることも多く、そのたびに打ちのめされていました。

 最も印象的だったのが、シミック・ウロボロイド対イゼット・ルーティングのスパーリング。

 4マッチプレイしたらデッキを入れ替えてもう4マッチといった形式で、つまりそこにデッキ差は存在しません。

 ですが、そこで私は圧巻の1勝7敗。

 シミック・ウロボロイドとイゼット・ルーティング、どちらが有利かはわかりませんでしたが、私が不利であることはわかりました。

 私も競技プレイヤーの端くれとして10年以上活動しているので、並以上のスキルはあると思っていたのですが……。

回転

 

 その後、完全にノックアウトされた私と変わって他のチームメイトがバント気の技コンボ対イゼット・ルーティングで、5マッチ毎で入れ替えをして1勝9敗していました。強すぎです。
 

3.まとめ

 

 第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権は殿堂プレイヤーのセス・マンフィールド/Seth Manfield選手の優勝で幕を閉じました、この人も強すぎる。

 トップ8に4人と、イゼット講義の躍進が目立つ大会でした。

 

 私たちも初日に試しはしたのですが、《美術家の才能》と《忍耐の記念碑》が入っていない形で感触が悪く、すぐ打ち切ってしまいました。

 こういう未開拓のデッキはスタンダードフォーマットには複数あり、それらに時間を掛けるかは本当に難しい判断だと考えています。今回はまさにイゼット講義はダイヤの原石と言うべきデッキでしたが、ただの石ころも無数に転がっていますからね。

 その中でそのイゼット講義を磨き上げ優勝したセス・マンフィールド選手(および Team Ultimate Guard)は見事でした。


 といったところで今回は終了!

 今回はドラフトは2勝1敗とぼちぼちでしたが、構築ラウンド全敗とままならず。

 世界選手権優勝の夢は遠く遠く感じますが、マジックに年齢制限はありませんし、諦めなければ終わることはありません。これからも世界選手権優勝を目標に競技マジックを頑張っていきます!

 次回は1月末に行われる「プロツアー『ローウィンの昏明』」!応援よろしくお願いします!

市川

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