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戦略記事

市川ユウキの「プロツアー参戦記」

プロツアー『久遠の終端』 前編

市川 ユウキ
 

 市川が、プロツアーに帰ってきた!

 Magic Online Champions Showcase Open(優勝するとMOCS本戦とプロツアーの権利が一緒に付いてくるお得な大会)で、望外の優勝。

 プロツアー『サンダー・ジャンクション』以来、約一年ぶりのプロツアーへの復帰が決まりました。

 

 いや~、私レベルのプレイヤーが(文章の構成上仕方なく自分を持ち上げる表現になっています)プロツアー復帰にこれほどまでに時間がかかるとは、やはり現行のシステムはそれほどまでに復帰が難しいシステムなんですね~。

「Team Cosmos Heavy Play」への誘い

 などとトーナメント後に感傷に浸っていると、XにてDMが一件。

アンソニー

(要約)Ichikawa-san!一緒のチームでプロツアーに向けて練習しませんか?

 な、なんだってー!!

 

 アンソニー・リー/Anthony Leeは「Team Cosmos Heavy Play」のメンバー。10年以上国際的なチームに参加して来たベテランプレイヤーです。対戦したことはありませんが非常にフレンドリーで、プロツアー・パーティー(プロツアー前日に行われて登録とともに軽食が用意されていたりするイベント)の場所がわからなくてウロウロしていたら案内してくれたりしたことがあります(笑)。

 

 「Cosmos」には日本人では第27回世界王者の高橋優太さんが参加していることで有名ですが、その他にも世界王者のハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa(PV)ら強豪が所属している国際的なトップチームです。

 そんなチームから誘いを受けている。

 私は思わず息を呑みました。

 私のやりたかった、プロツアーに向けて、全力で、現地で集まってトッププレイヤーたちと研鑽できる、またとないチャンスが来たのです。

市川

(要約)少し時間をくださ~い

 何事も即決しない男、市川。

 ここで一旦の熟考に入ります。

行弘さん優勝おめでとう!

 

 幸い権利を獲得したのは4月、私が参加しないプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』を経てからの、私が参加するプロツアー『久遠の終端』は9月末と、かなりの時間があります。

アンソニー

(要約)可否はプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』終わってからで良いよ」

 この話は保留にしつつ、MOCS本戦では準優勝になり、プロツアー『久遠の終端』の次の大型イベント「第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」の権利も獲得しました。棚からぼた餅。

 ここで状況を整理します。

森山ジャパン
 

 自分は日本の強豪チーム「森山ジャパン」としてこれまで活動して来ました。

 日本人で構成されたテストチームで言語的な問題は当然まったくなく、また旧知の仲であるメンバーがほとんどで居心地も良い、一緒にいて本当に楽しいメンバーです。

 ほぼ毎プロツアーでトップ8にプレイヤーを輩出しており、井川良彦さんや行弘賢さんといった優勝者も出しています。

 大いにチームとしても成功しているでしょう。

 

 ただ、ここには一つ問題があります。

 それはチームが勝っていても、私は勝っていないということです。

 テーブルトップのプロツアーが戻ってきて以来森山ジャパンのメンバーとして出場しておりましたが、その時の私の最高成績が11勝5敗で、トップ8はなし。

 そして初日落ちなどもありつつ、私はプロツアーの舞台から一度転げ落ちてしまいました。

 

 一年以上掛けてプロツアーに自力で復帰して、せっかく他の魅力的な選択肢があるのに、自分が低調だった環境にまた身を置くのは良くない……私はそう考えました。

2大会分の権利
 

 加えて、プロツアー『久遠の終端』のみでなく「第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」の権利も獲得し、これによって2イベントを同じチームで練習することができるようになりました。

 これは新しいことに挑戦するチャンスです。

 一回目で上手くいかなかったとしても、もう一回挑戦する目処が立っているということですからね。

英語力
 

 本当に喋ることができません。

 プロツアーでの対戦などは勢いで誤魔化して来ましたが、調整となるとまた話は別でしょう。

 特に私は独自のデッキをチューンし続けてプロツアーに出るタイプではなく、調整メンバーとのディスカッションの末にデッキを選ぶタイプなので、コミュニケーションが取れない場合致命的になるでしょう。

市川

高橋さんの英語力が10点中5点だったら、僕は2点なんだけど……

アンソニー

マジックの話なんだから、なんとかなるよ!

 と、国際的なチームに10年以上関わっているアンソニーの妙に自信のある返信。

 ここに関しては行ってみないとわからないなぁ……と考えつつもここで挑戦しなかったら後々後悔する!と思い、一念発起で「Team Cosmos Heavy Play」に加入することにしました!

 ちなみに加入後、MOCS Modern Showcase Qualifierで見事優勝し、MOCS Showcaseへの二期連続出場、そしてプロツアー『久遠の終端』の次の、プロツアー・リッチモンドの権利も獲得しました。なんで!?

 

 サッカーで今まで得点していなかったプレイヤーがゴールを突然連続して決める状況を指すスラングで、「ケチャドバ」という言葉があります。

 「ケチャップドバドバ」の略で、詰まっていたケチャップの瓶が開いて、一気に溢れ出る様に例えたものらしいです。

 一気に大型イベント3つの権利を獲得、つまりこれは私のケチャドバということになります。

練習とモダンデッキ選択

 フェイズは2つに分かれていました。

 プロツアーの一週間前の木曜日にチームメンバーで現地に入ってテストハウスを借り、テーブルトップでの調整。

 それまではDiscordでの画面共有、及びテキストでの意見交換になります。

 後者の方はやってみた感想は、問題なく意思疎通が取れるなといったところ。

 現代はソフトウェアの発展も目覚ましく、文字起こしツール→翻訳ツールへの流し込みで概ねその人が何を言っているのかわかります。

 しかしリアルタイムで英語のディスカッションに参加するのは難しかったので、自分の意見はテキストで投げる形式を取っていました。

 問題はテストハウスでのやり取り。

 Discordのボイスチャットのように翻訳ツールは正確ではなく、またリアルでは同時に複数の人間が喋るのが普通ですからそれらは全く役に立ちませんでした。

 最初の方は本当についていくのに大変でしたが、後半はリスニング力も付いてきてギリギリなんとかなったかなといった印象でした。

 チームメイトも私が英語力が全くないことは理解しているので、私に話しかける時は簡単な英語にしてくれたり、ゆっくり喋ってくれたりして歩み寄ってくれていたので助かりました。

 その中でも一番頼りになったのはショーン・ゴダート/Sean Goddard。ショーンはイギリス出身で、当然母語ですから英語が達者ですし、また発音も英語が苦手な自分でも聞き取りやすく、且つゆっくり喋ってくれます。

 テストハウスの後半は同じ調整グループだったので、込み入った話になって私が理解できず困っているとショーンが簡単な英語で説明してくれたり、逆に私のメチャクチャな英語をショーンが正しくしてくれていました。ガチ感謝。

 話が前後しますが、テストハウスに入るまではこれといった練習時間の取り決めはありませんでした。

 私は日本ですが大多数のプレイヤーはアメリカやカナダの北米に住んでいたり、ハビエルやティエリー・ランボア/Thierry Ramboaはヨーロッパ、ルイス・サルヴァット/Luis Salvattoはアルゼンチンなど、多国籍なチームなので練習時間を揃えることは難しいですからね。

 

 その中でも週に一度全体ミーティングを時間を揃えて行っていたのですが、アンソニーのリーダーシップには驚かされました。

 ミーティングはアンソニーが主導で、振られたり、補足したくなったら他のチームメイトが意見するようなスタイルでした。その他各種スケジューリングや選択事項の決断や、スポンサーとのやり取り、プレイヤーの勧誘などまさに縦横無尽に働いていました。我らがキャプテン!

 

 アンソニーはオーストラリア出身ですが今はカナダに住んでいて、Cosmosにはカナダの若いプレイヤーが多いのも特徴です。

 エイダン・ミラベリ/Aidan Mirabelliはチームの最年少で脅威の二十歳。

 非常にハツラツとしていて、且つプレイの筋も良い。テストハウスでプレイするたびに良く自分側が負けていて正直焦りました。

 リアム・ケイン/Liam Kaneも非常に理論的で、良いプレイヤーです。

 テストハウスの最初は表情も固く、気難しい子なのかなと思っていましたが、日も経つと笑顔も増えておじさんも安心しました(謎目線)

 余談ですがリアムとはこのプロツアーで当たって私がボコボコに負けたんですが、終わった後にアンソニーに「リアム上手かったわ」と伝えたら「それを聞いたら調子に乗るから、本人には言わないでくれ!!」と言われて、二人の関係性が垣間見えて面白かったです(笑)

 他にもジェイコブ・ミルクマン/Jacob Milchman、プロツアーでも実績のあるクイン・トノーリ/Quinn Tonoleやイアン・ロブ/Ian Robbなど多数の若手が在籍しており、私も彼らのほとばしるエネルギーに触発されましたね。

 そんなこんなでオンラインでも、テストハウスでも様々なデッキが試されていきました。

 ですが、チームで調整したデッキを全て挙げていくと本当に膨大な数になるので、私が調整して断念したデッキやチームで使用したデッキを抜粋して取り上げていきます。

ジェスカイ・コーリ鋼
triosk - 「ジェスカイ・コーリ鋼」
Modern Challenge 32 / モダン(2025年7月25日)[MO] [ARENA]
4 《溢れかえる岸辺
1 《神聖なる泉
1 《
1 《行き届いた書庫
1 《
1 《平地
1 《聖なる鋳造所
4 《沸騰する小湖
1 《蒸気孔
1 《轟音の滝
4 《ウルザの物語
-土地(20)-

4 《湖に潜む者、エムリー
2 《ジェスカイの道師、ナーセット
4 《知りたがりの学徒、タミヨウ
1 《迷える黒魔道士、ビビ
-クリーチャー(11)-
1 《上天の呪文爆弾
4 《コーリ鋼の短刀
1 《アノールの焔
1 《ジェスカイの隆盛
2 《金属の叱責
4 《ミシュラのガラクタ
3 《モックス・アンバー
4 《オパールのモックス
4 《ポータブル・ホール
4 《撤廃
1 《魂標ランタン
-呪文(29)-
4 《記憶への放逐
1 《アノールの焔
2 《オアリムの詠唱
2 《火の怒りのタイタン、フレージ
1 《真髄の針
1 《影槍
2 《摩耗 // 損耗
2 《鞭打ち炎
-サイドボード(15)-
Magic Online より引用)
 
 

 MOCS本戦で私の準優勝の原動力となったジェスカイ・コーリ鋼。

 《コーリ鋼の短刀》というモダンにおいては比較的新しいカードでデッキが出来ているので伸びしろもありそうでしたが、感触は良くありません。

 モダンというフォーマットにはコンボデッキが多数存在します。

 それこそネオブランドのように2ターン目に《グリセルブランド》が出てくるデッキもあるのです。

 そういうコンボに対抗するには「メチャクチャに早いか」「相手への干渉手段を豊富に有している」かのどちらかの要素が必要になりますが、このデッキにはどちらもありません。

 

 このデッキはイゼット果敢のように早いわけでもなければ、アゾリウス・コントロールのように大量の《否定の力》や《対抗呪文》が入っているわけではないのです。

 

 総じてコンボデッキには概ねバツがつき、またボロス・エネルギーのようなフェアデッキはサイドボードに高確率で《空の怒り》が採用されており、それがあまりにもクリティカルすぎました。

ネオブランド
triosk - 「ネオブランド」
Modern Showcase Qualifier / モダン(2025年8月22日)[MO] [ARENA]
1 《耐え抜くもの、母聖樹
1 《繁殖池
3 《溢れかえる岸辺
1 《
3 《迷路庭園
1 《
4 《霧深い雨林
1 《吹きさらしの荒野
-土地(15)-

4 《アロサウルス乗り
1 《偉大なる統一者、アトラクサ
2 《フレイアリーズの信奉者
3 《気前のよいエント
3 《暴走暴君、ガルタ
1 《グリセルブランド
1 《わめき騒ぐマンドリル
1 《終わらぬ歌、ウレニ
1 《歓楽の神、ゼナゴス
-クリーチャー(17)-
2 《橋仕掛けの戦い
4 《記憶への放逐
4 《異界の進化
4 《新生化
3 《否定の契約
4 《次元の創世
1 《定業
4 《召喚士の契約
2 《夏の帳
-呪文(28)-
2 《わめき騒ぐマンドリル
2 《洪水の大口へ
4 《神秘の論争
2 《自然の要求
1 《否定の契約
2 《知りたがりの学徒、タミヨウ
2 《夏の帳
-サイドボード(15)-
Magic Online より引用)
 
 

 《アロサウルス乗り》を《新生化》するなどして最速2ターン目に《グリセルブランド》をプレイしたり《暴走暴君、ガルタ》から《歓楽の神、ゼナゴス》をプレイして実質2キルはなく本当に2キルしてしまうネオブランド。

 私がMOCS Modern Showcase Qualifierを優勝したことにより、一躍メタデッキの一角として存在感を放つようになります(冷静な分析に基づくもので、自画自賛ではありません)。

 その暴力性の影には不安定さと、脆さが同居しています。

 

 《アロサウルス乗り》と《召喚士の契約》の《アロサウルス乗り》側パッケージ。

 《新生化》と《異界の進化》の《新生化》側パッケージ。

 各種8枚ずつデッキに入っていますが、MtGにおいて8枚ずつのパッケージは基本的に両方初手に来ることは少ないと考えられています。

 そのためマリガンで探しにいくことになるのですが、このデッキは

 と物理的な枚数を必要とするコンボデッキなのでマリガン耐性は低いです。

 ダブルマリガンすると基本的にはカードが足りなくなるので、上から求めている種類のカードが必要になってきます。

 更には対戦相手が《否定の力》などのカウンター呪文や《思考囲い》などの手札破壊呪文が入っているデッキだった場合はそれらを乗り越えるカード、《夏の帳》や《否定の契約》などのバックアップが必要になるのでより要件が厳しくなります。

 つまるところ、ボロス・エネルギーやエルドラージ・トロンなどの妨害が少ないデッキが多ければ強く、青いデッキや黒いデッキが多いと弱いです。

 その上でチームの評価として前者は少なそうで後者は多そうという判断になり、使用を断念することにしました。

ボロス・エネルギー
 

 《有翼の叡智、ナドゥ》と《死の国からの脱出》禁止後王者として君臨し続けたボロス・エネルギーですが、いよいよ陰りが見えてきました。

 デッキパワーは折り紙付きで、生半可なフェアデッキは吹き飛ばす力があります。

 しかしあまりにも界隈で幅を利かせ続けてしまった弊害か、その生半可なフェアデッキは駆逐されてしまった様子です。

 そのため、「デッキパワーは高いが有利なマッチアップはない」というのがチームの評価でしたし、私もそれに同意しました。

 チームで唯一仕事でテストハウスに参加できず、且つ時間もなさそうだったデイヴィッド・ルード/David Roodだけほぼ決め打ちでプロツアーは使用。

David Rood - 「ボロス・エネルギー」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]
3 《栄光の闘技場
4 《乾燥台地
2 《優雅な談話室
4 《溢れかえる岸辺
1 《湿地の干潟
1 《
2 《平地
3 《聖なる鋳造所
3 《吹きさらしの荒野
-土地(23)-

4 《ナカティルの最下層民、アジャニ
4 《魂の導き手
4 《オセロットの群れ
4 《火の怒りのタイタン、フレージ
4 《敏捷なこそ泥、ラガバン
3 《歴戦の紅蓮術士
2 《勝利の楽士
-クリーチャー(25)-
1 《鏡割りの寓話
4 《電気放出
3 《ゴブリンの砲撃
2 《静牢
2 《スレイベンの魔除け
-呪文(12)-
2 《天界の粛清
1 《鳴り渡る龍哮の征服者
2 《溶鉄の雨
2 《黒曜石の焦がし口
2 《オアリムの詠唱
1 《スカルドの決戦
1 《石のような静寂
2 《外科的摘出
1 《摩耗 // 損耗
1 《空の怒り
-サイドボード(15)-
 
タメシ・ベルチャー

 MOCS本戦を優勝したタメシ・ベルチャー。

 こちらはエネルギーと違い、ますます増加傾向にありました。

 

 エネルギーのようなフェアデッキに対しては《呪文嵌め》などの各種打ち消しや《ファラジの考古学者》などの2マナクリーチャーで序盤を凌ぎ、《ゴブリンの放火砲》まで繋げば相手に回答がないことが殆どですし、対コンボミラーでは《否定の力》などのバックアップを絡めつつ《発明品の唸り》からインスタントタイミングで仕掛けることも可能です。

 フェアデッキに強くて、コンボミラーで強いってそれって最強なんじゃないの?って話になりますが、まさにその通りで、チーム内の評価もかなり高く慣れてる人が使うことを否定する要素が全くありません。

 問題となるのはデッキの難しさです。

 《睡蓮の花》を待機して《ゴブリンの放火砲》プレイするだけなんじゃないの?と言う気もしますがそれだけではありません。

 

 通常のモダンのデッキは《溢れかえる岸辺》などの通称フェッチランドからマナベースが構成されています。

 そのため《呪文嵌め》などの打ち消し呪文を構える際は《溢れかえる岸辺》をセットランド、相手が対象をプレイしてきたらこちらも《呪文嵌め》をプレイしますし、そうでないなら《溢れかえる岸辺》から《行き届いた書庫》を持ってきて諜報に構えたマナを充てることができます。

回転

 しかしタメシ・ベルチャーではそうはいきません。土地は全て両面土地なので3点払ってアンタップインするか、もしくはタップインして《呪文嵌め》のプレイを放棄するかの2択を自ターンに済ませなければならないのです。

回転

 また、タメシ・ベルチャーのアンタップイン土地は《水力発電の検体》、《海門修復》、《朦朧への没入》の概ね12枚、人によっては追加で《剃刀草の待ち伏せ》が入っていますが、アンタップイン土地はデッキ内の約半分と通常のデッキと比べるとかなり少ないです。

 ですので、アンタップイン土地をプレイすることは「3点ライフを払う」プラス「貴重なアンタップイン土地を消費する」ことになるので、相当慎重にならなければなりません。

回転

 これが《呪文嵌め》などの1マナ呪文、2マナの《ジュワー島の撹乱》、果ては3マナの《拒絶の閃光》などにも該当します、つまりほぼ全ターンです。

 

 また《撹乱する群れ》は相手のデッキによって追放するカードが変わってくるので、例えば相手がネオフォームだった場合、《アロサウルス乗り》をカウンター出来るように《海門修復》を手札にキープするなどのアドリブ力も求められます。

回転

回転

 その他、当然ですが土地は全て呪文面を持つカードなので、全て土地としてプレイするか呪文として手札にキープするかの選択肢が出ます。

 1ターン目に安易に置いてしまった《水浸しの教え》が最終的に呪文として必要になったり、4ターン目のセットランドを逸しても《朦朧への没入》を手札にキープするなどの決断が求められます。

 つまるところ、難し過ぎです。こんなデッキ、一週間やそこらでは到底マスターできません。

 それでいて別にスペシャルなデッキではないので、対戦相手はタメシ・ベルチャーとプレイすることに慣れている。

 私もテストハウスに入る前に結構練習しましたが、あまりにも難しく、自分が使うことはないだろうなと考えていました。

Ryan Waligora - 「タメシ・ベルチャー」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]

-土地(0)-

4 《ファラジの考古学者
4 《水力発電の検体
4 《現実の設計者、タメシ
4 《稲妻罠の教練者
-クリーチャー(16)-
4 《撹乱する群れ
3 《拒絶の閃光
2 《否定の力
4 《ゴブリンの放火砲
2 《洪水の大口へ
4 《ジュワー島の撹乱
4 《睡蓮の花
4 《海門修復
4 《朦朧への没入
2 《呪文嵌め
4 《鎮圧光線
3 《水浸しの教え
4 《発明品の唸り
-呪文(44)-
1 《儀礼的拒否
4 《記憶への放逐
2 《狼狽の嵐
1 《ギラプールの希望
2 《神秘の論争
2 《厳しい説教
1 《食糧補充
2 《声も出せない
-サイドボード(15)-
 

 チームメイトのライアン・ワリゴラ/Ryan Waligoraはベルチャーのマスタープレイヤーなので、躊躇わず使用を決断しているように見えました。

 余談ですが、ライアンはMOCSの決勝の相手で、不思議な縁で「Cosmos」で協力することになりました。

 リアルでは初めて会いました(テーブルトップのプロツアーははじめてとのことでした)が、英語が苦手な自分と良く喋ってくれて、人間性も素晴らしく自分に勝って優勝したプレイヤーがこういう人間で良かったなとふと思いましたね。

 世界選手権後に横浜であるエターナル・ウィークエンドに参加することを考えているようで、私から毎日簡単な日本語を教わっていて、最終的にはおはようとか完璧なイントネーションで言えてました。

 ライアンをはじめとした5名がタメシ・ベルチャーを選択しました。

エルドラージ・トロン
 

 《エルドラージの寺院》や《ウギンの迷宮》から2ターン目に4マナ出したかと思ったら《ウルザの鉱山》、《ウルザの魔力炉》、《ウルザの塔》と置いて3ターン目に7マナ出したり。

 

 そのスケールの大きさからボロス・エネルギーやエスパー・ブリンクなどには有利ですし、《大いなる創造者、カーン》や《難題の予見者》などでタメシ・ベルチャーにも対抗でき、《コジレックの命令》で墓地利用デッキにも睨みが利かせられる、見た目よりオールラウンダーなデッキです。

 

 問題を挙げるとすれば青いデッキ全てのサイドに4枚入っている《記憶への放逐》で、それを乗り越えるのはかなり難しいです。

Javier Dominguez - 「エルドラージ・トロン」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]
1 《アブスターゴ・エンターテイメント社
3 《エルドラージの寺院
2 《
4 《ウギンの迷宮
4 《ウルザの鉱山
4 《ウルザの魔力炉
4 《ウルザの塔
-土地(22)-

3 《運命を貪るもの
2 《約束された終末、エムラクール
-クリーチャー(5)-
1 《全ては塵
4 《四肢切断
3 《攪乱のフルート
4 《探検の地図
4 《大いなる創造者、カーン
4 《コジレックの命令
4 《災厄の先触れ
1 《好奇のタリスマン
4 《威圧のタリスマン
4 《嵐の目、ウギン
-呪文(33)-
1 《街並みの地ならし屋
1 《攪乱のフルート
1 《仕組まれた爆薬
1 《罠の橋
1 《殲滅戦艦
1 《不屈の巡礼者、ゴロス
1 《墓掘りの檻
1 《忘却石
1 《真髄の針
1 《終焉の石
1 《石の脳
1 《トーモッドの墓所
1 《倦怠の宝珠
1 《三なる宝球
1 《歩行バリスタ
-サイドボード(15)-
 

 調整当初からハビエルは《否定の力》が入っている青トロンを調整していましたが、《ウギンの迷宮》で要求される無色7マナ以上のカードと、《否定の力》で要求される青いカードのバランスに苦心していて、最終的に無色トロンを調整していたジェイコブと合流、青トロンで好感触であった《災厄の先触れ》だけをタッチした青トロンを組み上げていました。

 《災厄の先触れ》は中盤のリソースカードでありながら、終盤は「マナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。」能力でフィニッシャー級のスペックを発揮します。それでいて相手の《記憶への放逐》の対象にならないカードです。

 チームではハビエルをはじめとした4名が選択しました。

 

 テストハウスで感じたことは、とにかくハビエルのプレイスピードが早い!

 プロツアーのアーカイブなどを確認してもらえたらと思いますが、あのスピード以上で常にプレイしていました。

 てっきり本番のあの速さは練習に裏打ちされたプレイスピードなのだと思っていましたが、単純に常にプレイスピードが異常に早いだけでした。

 あと、何故か完璧なイントネーションで「キープします」「マリガンします」と日本語で言えます。理由は謎です。

エスパー御霊
_IlNano_ - 「Goryo's Vengeance」
Modern Challenge 32 2025-08-26, 1st Place, 10-0 / モダン(2025年8月26日)[MO] [ARENA]
2 《溢れかえる岸辺
1 《神無き祭殿
1 《神聖なる泉
1 《迷路庭園
1 《
4 《湿地の干潟
1 《行き届いた書庫
1 《平地
4 《汚染された三角州
1 《薄暗い裏通り
1 《
1 《地底街の下水道
1 《湿った墓
-土地(20)-

4 《偉大なる統一者、アトラクサ
1 《骨の皇帝
1 《グリセルブランド
2 《新たな夜明け、ケトラモーズ
4 《超能力蛙
4 《量子の謎かけ屋
4 《孤独
1 《緻密
-クリーチャー(21)-
4 《儚い存在
4 《信仰の繕い
3 《否定の力
4 《御霊の復讐
3 《虹色の終焉
1 《朦朧への没入
-呪文(19)-
4 《記憶への放逐
1 《神秘の論争
2 《虚無の呪文爆弾
1 《害獣駆除
1 《緻密
2 《時を解す者、テフェリー
2 《思考囲い
2 《空の怒り
-サイドボード(15)-
MTGGoldfish より引用)
 
 

 『久遠の終端』で登場した《量子の謎かけ屋》によって強化されたアーキタイプで、オンライン上でも結果を残していました。

 《悲嘆》禁止後は《儚い存在》の対象が少なくなり、安定性に欠けていましたが、《量子の謎かけ屋》によって大幅に改善。

 《儚い存在》の対象としては勿論、《超能力蛙》と組み合わせると手札の枚数を任意で調整することが出来、致命的なダメージを与えることが出来ます。

 フェアラインが強化されたことによって《御霊の復讐》と《偉大なる統一者、アトラクサ》のコンボ要素が少ない弱点を幾分マイルドにしてくれています。

 

 理論上は《思考囲い》などの手札破壊や《否定の力》などのカウンター呪文、前述したフェアライン、当然ですが《偉大なる統一者、アトラクサ》を《御霊の復讐》で釣り上げて《儚い存在》でブリンクして圧倒するなど、おおよそモダンで求められる全ての要素を持っています。

市川ユウキ - 「エスパー御霊」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]
4 《溢れかえる岸辺
1 《神無き祭殿
1 《神聖なる泉
1 《迷路庭園
1 《
3 《湿地の干潟
1 《行き届いた書庫
1 《平地
4 《汚染された三角州
1 《薄暗い裏通り
1 《
1 《地底街の下水道
1 《湿った墓
-土地(21)-

4 《偉大なる統一者、アトラクサ
2 《ヴリンの神童、ジェイス
4 《超能力蛙
4 《量子の謎かけ屋
4 《孤独
-クリーチャー(18)-
4 《儚い存在
3 《信仰の繕い
4 《否定の力
4 《御霊の復讐
2 《虹色の終焉
4 《思考囲い
-呪文(21)-
1 《天界の粛清
4 《記憶への放逐
1 《骨の皇帝
1 《コジレックの審問
3 《神秘の論争
1 《虚無の呪文爆弾
1 《害獣駆除
1 《虹色の終焉
1 《緻密
1 《空の怒り
-サイドボード(15)-
 

 最終的に、私が使用したのはエスパー御霊。

 タメシ・ベルチャーをプレイするスキルを持っていない自分としては最良の選択だと考えました。

 エスパー御霊自体も諜報土地が登場してから永くプレイしていて、プレイも慣れています。

 ここからは既存のリストとの差分をピックアップします。

 

 コンボプランのバックアップにもなりますし、フェアプランである《思考囲い》から《超能力蛙》はそれだけでゲームに勝利する可能性を秘めています。

 どちらのプランでも強力なカードで、メタ上でプレイしたくないマッチアップはボロス・エネルギーくらい。

 またそのボロス・エネルギーはチーム内で低い評価で、プロツアーでも減るだろうと考えたのでメインボードに《思考囲い》を4枚採用することに躊躇いはありませんでした。

回転

 リソースを失う《信仰の繕い》を4枚採用したくない、且つディスカード手段をもう少し採用したいという理由から採用されたカード。

 これ自身が伝説のクリーチャーなので《御霊の復讐》の対象に取ることが出来、反転すると一度追放されて別オブジェクトになるので《御霊の復讐》の誘発で戦場から追放されません。

 《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイして、手札に《御霊の復讐》と《偉大なる統一者、アトラクサ》があるとします。

 《ヴリンの神童、ジェイス》が除去されれば《御霊の復讐》で戦場に戻し、ルーター能力で《偉大なる統一者、アトラクサ》を捨て、反転して《御霊の復讐》を使い回せますから、最終的に《偉大なる統一者、アトラクサ》を《御霊の復讐》で釣り上げることが出来ます。

 つまりシステムクリーチャーでありながら、ディスカード手段としてある程度の信頼性があるということになります。

 また、対タメシ・ベルチャーなどでは《超能力蛙》に次ぐ2マナのプレッシャーのあるクリーチャーがほしいなと感じていたので、そこの要件も満たしています。

 手札を整えつつ、《思考囲い》や《虹色の終焉》を使い回せますからね。

 

 マナベースも若干の変更を加えて《溢れかえる岸辺》を《湿地の干潟》より優先して採用しました。

 《溢れかえる岸辺》は《迷路庭園》をサーチできるためです。

 

 これが意外と重要で、対タメシ・ベルチャー戦では序盤に《迷路庭園》を持ってきておいて《虹色の終焉》を4色でプレイ出来るようにして《ゴブリンの放火砲》を追放したいですし、サイドボーディング後に墓地対策をされて《御霊の復讐》が機能していない時は、手札から《偉大なる統一者、アトラクサ》をプレイすることが多々あります。

 そういうマッチアップでは序盤に《迷路庭園》を持ってこないことが殆どですが、後半にトップデッキしたフェッチランドが《迷路庭園》にアクセスできないと困る、つまり青いフェッチランドが必要になるという判断です。

 エスパー御霊はヴィクター・ホーキンス/Victor Hawkinsとジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Deprazがテストハウス初期より熱心に調整していて、私も中盤くらいでロックして、そこに合流しました。

 初期からこのリストの特徴である《ヴリンの神童、ジェイス》が採用されていて、それが良い働きを見せていたのも合流した決め手です。

 ヴィクターはここ数年でマジックに参入して来た新鋭ですが、初参加のプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』ではいきなり10勝6敗で今回のプロツアーの権利を獲得するなど、まさにライジングスターの兆しを持っています。

 向上心が強く、モダンのプレイやドラフトのピックを見ていると意見を求められることが多かったです。

 フランス出身ですが、今はプロツアーの舞台となったアトランタに住んでいるとのことで、テストハウス探しからディナーの提案など、練習面でも頼りになりましたが、生活面でもかなり助けられました。いい奴。

 ネタバレですが今回のプロツアーでも10勝6敗でリッチモンド(詳しく述べると更に次のプロツアー)の権利を獲得したので、世界選手権には残念ながらいませんがまたリッチモンドで会えるのを楽しみにしています。

 最新のプレイヤー・スポットライト・カードも今回のプロツアーで発表されました。

 ドゥプラはご存知「第29回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」優勝などの輝かしい経歴を持つフランスのスーパースターですが、兎に角プレイが上手い!

 そんなの世界王者なんだから当たり前だろって話なんですが、それでも群を抜いて上手かったです。

 同じプロツアーにたくさん出てはいたのですが、まじまじと近くでプレイを見続けることがなかったので、こんなに上手いプレイヤーだったんだと驚嘆しました。

 日本の皆さんにわかりやすく説明するなら、"目の前のプレイヤーが実は八十岡翔太だった"みたいな衝撃でした。

 余談ですが、ドゥプラが勝敗記録をしている際にフランスのカウンティング(四角を描いて斜線で5)が興味深く見ていたら日本はどうやるんだという話になり、「正」を教えたらその後のカウンティングが「正」になっていました。ほっこりエピソード。

 

 最後にデッキに入ったのは追加の手札破壊である《コジレックの審問》。

 どれくらい最後だったかというと、デッキリスト提出の2時間前でした。

 サイドボードに数枚のフリースロットがあり、もう少しタメシ・ベルチャーにガードを上げたい。

 《神秘の論争》の4枚目も検討されましたが、デッキリスト公開性のトーナメントでマナ要求系のカウンターをサイドに4枚取りたくないと主張して、追加の手札破壊を提案。

 数ゲームしか試せませんでしたが、感触は悪くなく採用を決断しました。

 

 サイドボード後は《ゴブリンの放火砲》より《現実の設計者、タメシ》の方が脅威です。

 《ゴブリンの放火砲》は《否定の力》や《記憶への放逐》で対処できますから、《現実の設計者、タメシ》や《発明品の唸り》(こちらのターンにプレイしてくるので《否定の力》でカウンターし辛い)を対象に取れるのは魅力でした。

 ヴィクター、ドゥプラを筆頭に私、ティエリー、ショーンが合流して最終的に5名が使用。


 と、いったところで前編は終了!

 後編はドラフト環境の考察からトーナメントレポートをお届けします。お楽しみに!

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