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市川ユウキの「プロツアー参戦記」
第28回マジック世界選手権 前編
こんにちは、市川です。
今回は「マジックeスポーツ参戦記」と称して、先日参加してきました「第28回マジック世界選手権」に向けての調整録とトーナメントレポートを書いていこうと思います。
よろしくお願いします。
0.調整チーム
調整相手は私と同じく「イニストラード・チャンピオンシップ」で権利を得た斉藤 徹さん、熊谷 陸さん。
前世界選手権王者の高橋 優太さん、シーズンを通して優れた成績を収めたチャレンジャー上位8名で権利を得た小泉 祐真さん。
いつもの調整チームとは異なりますが、イニストラード・チャンピオンシップで権利を得た赤池 庸さんにもお願いして世界選手権参加者は6名。
また、世界選手権の権利こそないですが、いつもの調整メンバーで頼りにしている井川 良彦さんと中村 修平さんに協力をお願いして合計8名で世界選手権に向けて調整していくことになりました。
今回の世界選手権は前回と違い、構築戦はスタンダードとエクスプローラーの2つのフォーマットが採用されています。
そのため「アリーナ・チャンピオンシップ1」のときと同じくメンバーを二手に分けて調整を開始しました。
エクスプローラー担当
- 赤池
- 市川
- 熊谷
- 井川
エクスプローラーは大会の結果などが特に出ておらず未開拓のフォーマットです。
環境のデッキが出揃っていない可能性も含めて、デッキ構築能力に長けている赤池さんや熊谷さんを配置してエクスプローラーを開拓していきます。
スタンダード担当
- 高橋
- 斉藤
- 小泉
- 中村
一方スタンダードは既に環境末期。
「黒単」「エスパー」「ジャンド」「グリクシス」などの圧倒的黒系ミッドレンジ環境。
細かいカードの選択や各マッチアップの相性の確認などが求められ、それらに向いていそうなメンバーを配置。
職人さながらの細かい調整能力が要求されます。
1.エクスプローラー
エクスプローラーはデジタルゲーム「MTGアリーナ」のフォーマットのひとつです。
基本的にはテーブルトップのパイオニアに準拠したフォーマットなのですが、MTGアリーナに実装されていないカードは当然ですが使えません。
それらのカードがパイオニアと比較して差分となっているフォーマットです。
例えばパイオニアでは「緑単信心」で猛威を振るっている《ニクスの祭殿、ニクソス》や、「イゼット・フェニックス」の花形カードといえる《宝船の巡航》などはエクスプローラーには存在しません。
パイオニアを定期的にプレイしている私からすると、これはエクスプローラーで使えないのか……という感想がどうしても多くなりがちでした。
3 《沼》 1 《山》 4 《血の墓所》 1 《硫黄泉》 4 《憑依された峰》 4 《荒廃踏みの小道》 2 《ロークスワイン城》 2 《目玉の暴君の住処》 2 《バグベアの居住地》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《反逆のるつぼ、霜剣山》 -土地(25)- 4 《税血の収穫者》 2 《死の飢えのタイタン、クロクサ》 4 《砕骨の巨人》 4 《墓地の侵入者》 2 《黙示録、シェオルドレッド》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 -クリーチャー(17)- |
4 《致命的な一押し》 4 《思考囲い》 2 《無情な行動》 1 《削剥》 4 《鏡割りの寓話》 3 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(18)- |
2 《強迫》 2 《害悪な掌握》 1 《削剥》 2 《真っ白》 2 《碑出告が全てを貪る》 2 《絶滅の契機》 2 《勢団の銀行破り》 2 《未認可霊柩車》 -サイドボード(15)- |
それらの差分カードの影響でパイオニアはいるけどエクスプローラーにはいない、みたいなデッキが多い中、パイオニアではトップメタ、エクスプローラーでも存在感を放っていたのは「ラクドス・ミッドレンジ」です。
使われているカードの中でエクスプローラーにないのは《戦慄掘り》や《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》程度で、これらは代替カードが許容できるレベルのスロットと言えるでしょう。
また、『団結のドミナリア』で加わった新カード《ヴェールのリリアナ》や《黙示録、シェオルドレッド》もデッキパワーを底上げするカードたちです。
「緑単信心」や「イゼット・フェニックス」のようなパイオニアに存在するが、エクスプローラーでは存在を否定されるレベルにカードが足りていないデッキがいる中で、ほぼノーダメージでかつ新セットにて強化された「ラクドス・ミッドレンジ」は、エクスプローラーではトップメタのデッキと言って差支えがない印象でした。
その観点からまず「ラクドス・ミッドレンジ」に弱いデッキは使用候補から除外し、「ラクドス・ミッドレンジ」に強いデッキの中から選択していく方向で調整していくことになりました。
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 1 《山》 1 《森》 4 《寓話の小道》 3 《繁殖池》 3 《インダサのトライオーム》 2 《ゼイゴスのトライオーム》 1 《サヴァイのトライオーム》 1 《ケトリアのトライオーム》 1 《ラフィーンの塔》 1 《ザンダーの居室》 3 《ジアトラの試練場》 1 《ジェトミアの庭》 2 《スパーラの本部》 1 《神聖なる泉》 2 《寺院の庭》 1 《血の墓所》 2 《踏み鳴らされる地》 -土地(33)- 1 《無神経な血魔道士》 1 《拘留代理人》 1 《精鋭呪文縛り》 1 《玻璃池のミミック》 1 《秋の騎士》 1 《改革派の結集者》 3 《創造の座、オムナス》 1 《包囲サイ》 1 《帰還した王、ケンリス》 1 《狼の友、トルシミール》 1 《裏切りの工作員》 1 《産業のタイタン》 -クリーチャー(14)- |
3 《思考囲い》 4 《海の神のお告げ》 4 《野望の試練》 4 《都市の楽園》 2 《世界樹への道》 4 《鏡割りの寓話》 4 《奇怪な具現》 4 《創案の火》 4 《力線の束縛》 -呪文(33)- |
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-相棒(1)- 4 《運命を紡ぐ者》 1 《永遠の策謀家、ズアー》 1 《沈黙の蜘蛛、琴瀬》 1 《星界の大蛇、コーマ》 1 《思考囲い》 2 《丸焼き》 4 《虚空の力線》 -サイドボード(14)- |
ミッドレンジデッキにはスケールで勝負!と言わんばかりにランクマッチでは《奇怪な具現》デッキが流行っていました。
ラクドスというカラーリング上、触りづらいパーマネントである《創案の火》と《奇怪な具現》というエンチャントをフィーチャーしたデッキです。
『団結のドミナリア』で加入した《力線の束縛》は相性抜群!
戦場に出てしまえばマナ総量は6なので、《奇怪な具現》で生け贄に捧げていきなり7マナのクリーチャーを戦場に送り出すことが可能です。
そのデッキの性質上「ラクドス・ミッドレンジ」には有利に感じたのですが、問題なのは他への相性です。
《創案の火》と《奇怪な具現》以外のカードは実は大したことはないので、打ち消しを擁する「青単スピリット」や「アゾリウス・コントロール」への相性は悪く、
デッキの大部分がエンチャントかクリーチャー=インスタントタイミングのカードがほとんど入っていない、その関係上《大牙勢団の総長、脂牙》から《パルヘリオンⅡ》が突っ込んでくる「アブザン脂牙」との相性も芳しくありません。
総合すると「ラクドス・ミッドレンジ」には有利ではあるが、他のデッキに総じて不利といった印象で、極度にメタゲームが「ラクドス・ミッドレンジ」に寄らない限りは使用に値しないだろうという判断になりました。
2 《平地》 4 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《灌漑農地》 3 《さびれた浜》 4 《氷河の城砦》 4 《連門の小道》 2 《ストーム・ジャイアントの聖堂》 1 《アーデンベイル城》 1 《ヴァントレス城》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《天上都市、大田原》 2 《廃墟の地》 -土地(33)- -クリーチャー(0)- |
2 《ポータブル・ホール》 4 《運命的不在》 4 《海の神のお告げ》 3 《検閲》 3 《ドビンの拒否権》 3 《ジュワー島の撹乱》 4 《吸収》 4 《放浪皇》 3 《記憶の氾濫》 3 《至高の評決》 4 《サメ台風》 2 《告別》 3 《冥途灯りの行進》 1 《覆いを割く者、ナーセット》 4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》 -呪文(47)- |
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-相棒(1)- 3 《敬虔な新米、デニック》 2 《悪斬の天使》 2 《ポータブル・ホール》 2 《安らかなる眠り》 1 《ドビンの拒否権》 3 《神秘の論争》 1 《至高の評決》 -サイドボード(14)- |
《至高の評決》が『エクスプローラー・アンソロジー1』で加入し完全体に近付いた「アゾリウス・コントロール」。
そもそもアゾリウス・コントロールがパイオニア環境で明確にポジションを確立したデッキかと言われると怪しくはありますが、パワーダウンしていないと言う点で考えると「ラクドス・ミッドレンジ」と比肩します。
60枚だと《思考囲い》から《ヴェールのリリアナ》で手札を絞られて速やかにゲームが終わってしまう印象でしたが、80枚にするとそこもある程度改善されます。
「ラクドス・ミッドレンジ」側のガードの上げ方にもよりますが、五分以上の戦いはできるなといった見立て。
その他前述した《奇怪な具現》デッキには有利ですし、メタゲームで想定していた「アブザン脂牙」や「ラクドス・サクリファイス」にも五分以上は取れていそうで、「アゾリウス・コントロール」は最後まで使用候補の一角でした。
ただ、最終的にチームでの使用者は0人でした。
理由としてはまず世界選手権でのメタゲームがわからないこと。チームである程度このデッキは強そうだからいそう、このデッキは使用に耐えうるから好きな人は使ってきてもおかしくない。みたいな想定はできたのですが、大型の大会があってそれらの結果を反映しているわけではないので、完全にチームでの想像のメタゲームになります。
チーム内で想定しているデッキには「アゾリウス・コントロール」は強そうなのですが、想定外のデッキが飛び出てくることはもちろんありえます。
世界選手権のようなハイレベルでミニマムなトーナメントでは尚更です。
実際私たちは参加者の人数で言えば6人で調整していて、全員で同じデッキを選択した場合32分の6、20%近いメタゲーム占有率になるわけです。
これらのことが他のチームで起きれば想定するメタゲームなど一瞬で塗り替えられてしまいます。
また、受動的なデッキである「アゾリウス・コントロール」はメタゲームの影響を受けやすいデッキで、想像するメタゲームで強いデッキを持ち込むよりは、能動的で純粋に強いと思えるデッキを持ち込みたいといった考えにチームとして至り、他のデッキを模索することになりました。
2 《沼》 1 《山》 4 《血の墓所》 4 《硫黄泉》 4 《荒廃踏みの小道》 2 《目玉の暴君の住処》 2 《バグベアの居住地》 1 《ロークスワイン城》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《反逆のるつぼ、霜剣山》 -土地(22)- 4 《大釜の使い魔》 3 《ヴォルダーレンの美食家》 2 《税血の収穫者》 4 《波乱の悪魔》 2 《黙示録、シェオルドレッド》 -クリーチャー(15)- |
4 《致命的な一押し》 4 《魔女のかまど》 2 《初子さらい》 1 《実験統合機》 4 《命取りの論争》 4 《鬼流の金床》 4 《鏡割りの寓話》 -呪文(23)- |
4 《軍勢の戦親分》 4 《思考囲い》 2 《踊り食い》 1 《初子さらい》 1 《魂標ランタン》 2 《削剥》 1 《未認可霊柩車》 -サイドボード(15)- |
クリーチャーの対処に長けている「ラクドス・ミッドレンジ」にはシステムで勝負!
「ラクドス・サクリファイス」もチームで調整していたデッキのひとつです。
盤面をある程度制圧されてしまっても、《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》のコンボや、《鬼流の金床》などの直接的にライフを減らすアプローチが取れるので、「ラクドス・ミッドレンジ」には有利に立ち回れるのかなといった印象。
ただ、「ラクドス・サクリファイス」もスケールで「ラクドス・ミッドレンジ」を圧倒してくるようなデッキに対して不利でした。
具体的には《異形化》から《産業のタイタン》を出されたり、《創案の火》から《炎の騎兵》を突っ込ませてくるようなデッキです。
「ラクドス・ミッドレンジ」に対して他のチームがどういうデッキでスケール勝負してくるかは不明ですが、少なくともそれらのデッキに対して「ラクドス・サクリファイス」も不利に感じたので、「ラクドス・ミッドレンジ」を対策してくるデッキの巻き添えを食らいそうなのはかなりネガティブなポイントでした。
このような感じで、さまざまなデッキの悪い部分が見えてくる中で「アブザン脂牙」はチーム内の評価がずっとポジティブなものでした。
まず、能動的でかつ純粋に強いデッキだと感じたこと。
2ターン目《忌まわしい回収》から3ターン目《大牙勢団の総長、脂牙》→《パルヘリオンⅡ》で一瞬でゲームを決めてしまう理不尽さも持ちつつ、《思考囲い》、《ヴェールのリリアナ》、《エシカの戦車》といった展開でミッドレンジとして動いていってもゲームに勝ちうる力があります。
パイオニアでは「緑単信心」に押さえつけられている「アブザン脂牙」ですが、エクスプローラーではその天敵も少なそうだなといった印象。
一応パイオニアの「緑単信心」から《ニクスの祭殿、ニクソス》が抜けたようなデッキとランクマッチで当たっていたりなどして、チームでも試してみたのですが、さすがにデッキパワーの低下は避けられず、このデッキが世界選手権にいるとはとても考えられませんでした。
チーム内でさまざまなマッチアップをテストする中で、明確に不利だと感じるマッチアップが「青単スピリット」程度で、それ以外には概ね有利だという結論になりました。
「青単スピリット」は「ラクドス・ミッドレンジ」に明確に不利に感じていたので、同じ思考でデッキを持ち込むのであれば「青単スピリット」は少なくなるだろう、少なくともチームで持ち込まれることは考えにくいという思考過程からある程度軽視できるリスクと判断しました。
ただ、いくらミッドレンジ的な戦い方もできるとはいえ、対戦相手の墓地対策の枚数で大きく勝率が変動するデッキであることは変わりません。
そのため、チーム内では早い段階で「アブザン脂牙」が良いのではないかとなったので、ランクマッチでのプレイテストを完全に禁止していました。
参加者に対して「アブザン脂牙」がランクマッチで多いとか、何なら「市川が『アブザン脂牙』を使っていた」、みたいな情報が出回るのを避けるためです。
1 《沼》 3 《神無き祭殿》 3 《秘密の中庭》 4 《花盛りの湿地》 3 《闇孔の小道》 4 《寺院の庭》 2 《枝重なる小道》 1 《目玉の暴君の住処》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 -土地(23)- 2 《縫い師への供給者》 4 《ラフィーンの密通者》 4 《大牙勢団の総長、脂牙》 -クリーチャー(10)- |
4 《思考囲い》 1 《強迫》 4 《忌まわしい回収》 4 《ウィザーブルームの命令》 2 《未練残り》 4 《エシカの戦車》 2 《領事の旗艦、スカイソブリン》 4 《パルヘリオンⅡ》 2 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(27)- |
2 《茨橋の追跡者》 2 《致命的な一押し》 1 《強迫》 1 《ポータブル・ホール》 2 《羅利骨灰》 1 《取り除き》 1 《無情な行動》 3 《未認可霊柩車》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 1 《ヴェールのリリアナ》 -サイドボード(15)- |
以上のことから、「アブザン脂牙」でエクスプローラーはサブミットすることにしました。
この2種類のスロットは0枚~4枚のすべての枚数を試しましたが、2枚・2枚で落ち着くことに。
多く採用したとしても、メインデッキの勝率には実際のところミラーマッチ以外ではそこまで作用せず、またサイドボード後は概ね減らしたいスロットなので、メインに入れれば入れるほどサイド後の勝率に悪く影響してしまいます。
《ウィザーブルームの命令》もサイドボード後よく減るカードの1枚で、メインの枚数も減らしても良いんじゃないかとなりましたが、結局4枚採用することに。
《屍体の攪拌》などの他のカードの候補もありましたが、あまりにも弱くて、それなら《ウィザーブルームの命令》で良いかとなりました。
《安らかなる眠り》や《未認可霊柩車》などの対策カードへの対策にも一応なっているのも良いところ。
《領事の旗艦、スカイソブリン》がちょっと多めなのもこの構築のポイントです。
仮想敵としている「ラクドス・ミッドレンジ」にも強力で、「ラクドス・サクリファイス」やサイドボード後のミラーマッチなどでも良い働きをします。
通常プレイを考えているので土地も23枚とちょっと多めです。
2.スタンダード
早めにエクスプローラーの見通しが立っていたので、私は途中からスタンダード調整班に参加することになりました。
まずは調整途中で発表された《食肉鉤虐殺事件》の禁止についてです。
これによって黒系ミッドレンジのアグロデッキへの対策が減り、黒系ミッドレンジ全盛のメタゲームに風穴を開け……
……られませんでした。
《切り崩し》のような優れた1マナ除去からはじまり、対処できないと一瞬で劣勢になってしまう《黙示録、シェオルドレッド》も健在ですからね。
結局のところ、この禁止改定はメタゲームへの影響をほぼ与えませんでした。
黒系ミッドレンジの中でも黒単は早々にチーム調整から脱落。
単色でもカードが足りないわけではないんですが、どうしてもクオリティが下がってしまう印象。
特に3マナ域を埋めている《墓地の侵入者》と《ヴェールのリリアナ》が顕著です。同程度のサイズのクリーチャーのぶつかり合いになる黒系ミッドレンジ・ミラーでは《墓地の侵入者》の護法が活きてきませんし、《ヴェールのリリアナ》もエスパーの《婚礼の発表》を考えるとブレの激しいカード、複数枚採用したいとは思えません。
その次に脱落したのは「ジャンド《絶望招来》」です。
チーム調整のスタートタイミングでは最も高い評価を受けていました。
ですが、他の黒系ミッドレンジと比べてマナ・カーブが一段高く、《かき消し》などのカウンターでハマりやすいこと。
また、マナ・カーブが高いにもかかわらず手札を増やすアクションでマナを使う展開が多く、テンポが悪いこと。この2点がネックに感じられました。《茨橋の追跡者》と《死体鑑定士》を比較してもらえればわかりやすいかなと思います。
また、ジャンドの長所に感じられていた《豪火を放て》はエスパー側が《婚礼の発表》をサイドアウトするだけで効率の悪い除去になってしまう事が判明したのも大きかったです。
「ジャンド《絶望招来》」をプレイしていて結構強いなと感じたのは青単《傲慢なジン》デッキ。
黒系ミッドレンジの要点として《絶望招来》などの重いカードを通すことがあったので、環境が重く、ソーサリータイミングのデッキばかりになれば可能性はあります。
しばらくチームでも調整は行われたものの、途中で却下。
まずは対エスパーの相性。
ジャンドやグリクシスなどの赤黒系のミッドレンジデッキに対しては除去できるカードが限定的なため、《傲慢なジン》や《トレイリアの恐怖》などのクリーチャーに一定の信頼があります。
が、対エスパーでは別。《冥府の掌握》の他に《邪悪を打ち砕く》や《虚空裂き》などの範囲の広い除去がありますし、《放浪皇》などのインスタントタイミングで仕掛けられるカードも存在します。
サイドボード後は赤黒系ミッドレンジも《強迫》、《墓地の侵入者》、《未認可霊柩車》などのサイドカードで対抗できます。
特に《未認可霊柩車》は《傲慢なジン》と《トレイリアの恐怖》ともに劇的で、サイドボード後のことを考えると頭が痛く、また青単色ゆえにそれらを覆せないだろうという判断になりました。
さまざまなフィルターを通って残ったデッキは2つ。
ひとつは「グリクシス・ミッドレンジ」。「ジャンド」と比べてマナ・カーブもひとつ低く、ストレスなく回る印象。
ただ、それゆえにインパクトのあるカードが少なく器用貧乏な印象も否めません。回っているが勝たないなぁ、みたいな展開が多かったです。
また、デッキ構成も非常に難解。
まず《絶望招来》をデッキに入れるかどうかから議論の余地があります。
インパクトのあるカードが少ないと前述していますように、デッキ構成的には欲しいところですがマナベースが気になってきます。
青マナ源を12枚から多くて13枚程度しか採用できないので、序盤を過ぎるとカードじゃなくなる《かき消し》とのミスマッチが気になります。
最適なグリクシスがチーム内に存在しない、一方最後に残ったエスパーはポジティブな要素が多いです。
《敬虔な新米、デニック》から《策謀の予見者、ラフィーン》のような相手を寄せ付けないブン回りがあること。
クリーチャーでの点の展開も強力でありながら、《婚礼の発表》や《漆月魁渡》のような軸の違う攻め方もできること。
マナベースも黒系ミッドレンジの中で最も優秀です。
自然に伝説のクリーチャーが多く採用されている関係から《英雄の公有地》をプレイすることができます。
《英雄の公有地》はマナベースに貢献もしつつ、この環境ではかなり貴重なマナフラッド受けにもなっています。
エスパーの問題点は2つです。
まず、ミラーマッチで有利が出せないこと。具体的には後手番を返す手段が思いつかなかったことです。
《かき消し》などのカウンターで捌き切る、《告別》などの全体除去でまくるなど、さまざまなパターンを試してみましたが、エスパーの多角的な攻めに対して応じ手が見つかりません。
圧倒的先手有利で、後手は先手の相手が躓いてくれることを祈ることしかできません。
2つ目の問題点は、対グリクシスでプランがないことです。
適当にこちらのクリーチャーを除去されてからの3ターン目《死体鑑定士》、もしくは《鏡割りの寓話》で敗北必至。
相手の方がマナカーブが低いのにも関わらず、前述した2種類のカードでロングゲームにも強く、サイドボード後エスパー側が前に倒しても後ろに倒れてもうんともすんとも言いません。
1 《島》 4 《ラフィーンの塔》 4 《アダーカー荒原》 1 《さびれた浜》 4 《難破船の湿地》 4 《コイロスの洞窟》 2 《砕かれた聖域》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《天上都市、大田原》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 3 《英雄の公有地》 -土地(26)- 4 《敬虔な新米、デニック》 3 《しつこい負け犬》 4 《策謀の予見者、ラフィーン》 3 《黙示録、シェオルドレッド》 3 《夜明けの空、猗旺》 -クリーチャー(17)- |
3 《冥府の掌握》 2 《邪悪を打ち砕く》 2 《かき消し》 1 《否認》 4 《婚礼の発表》 1 《漆月魁渡》 3 《放浪皇》 1 《不笑のソリン》 -呪文(17)- |
3 《切り崩し》 2 《邪悪を打ち砕く》 2 《否認》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《眼識の収集》 2 《告別》 2 《勢団の銀行破り》 1 《漆月魁渡》 1 《不笑のソリン》 -サイドボード(15)- |
ですが、最終的にチーム全員がエスパーをプレイすることにしました。
1つは調整への信頼です。
ミラーマッチで有利がつかないのがプレイヤーの共通認識であれば、それはネガティブな要素ではないはずです。
それだけで一番強いと考えているデッキを放棄するのは愚かな行為です。
2つ目はグリクシスのポジションです。
グリクシスもある程度調整した結果、明確に有利が付くのは対エスパーだけでかなり尖った選択になるなといった印象を受けました。
環境がエスパー一色であればその選択もあり得ますが、エスパー以外にも「ジャンド《絶望招来》」「ジャンド・リアニメイト」「青単《傲慢なジン》」なども想定される以上、幅広く戦えるエスパーの方が優れた選択になると考えました。
2マナのクリーチャーは《敬虔な新米、デニック》が4枚とフル採用。
次いで《しつこい負け犬》を採用して7枚の2マナクリーチャーを採用していますが、《しつこい負け犬》は2枚程度に抑えて、かつ2マナクリーチャーを8枚程度採用したかったです。
ただ、《ファイレクシアの宣教師》や《穢れた敵対者》などを試してはみましたがあまりにも感触が悪く、弱いカードを採用するくらいなら7枚で我慢してある程度都合の良い初手を望むことにしました。
《かき消し》は2枚と少なめ。チーム内でダイレクトマッチをやればやるほど減っていきました。
リスト公開で、対戦相手が上手いほど《かき消し》のような賞味期限の短いカードはリスクになります。
ただ、入っていないのもそれはそれで問題なのでちょっとは入れる感じで落ち着きました。
上のマナ域、4マナ以上のカードは他のエスパーと比べてドカ盛り仕様に。
やっている印象としては、ミラーマッチで自分が有利な盤面で《かき消し》などのカウンターを構えてターンを返せるのは稀で、常に相手の盤面に追いつくためにフルタップになることが強いられます。
そのため、4マナ以上のカードたちも通りが良く、ゲームにインパクトを与えることができます。
その中でも《夜明けの空、猗旺》はミラーマッチにおいて最強です。
デッキの性質上追放除去をそこまで取れない関係から、《夜明けの空、猗旺》が着地してしまうとゲームを支配してしまうことが多く、少なくとも除去を2枚引き出させることが可能です。
3.まとめ
と、いうことで前編はこれにて終了!
後編はドラフトの所感などを踏まえながら世界選手権の大会レポートを書いていこうと思います。
お楽しみに!
市川
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