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週刊デッキ構築劇場
第70回:浅原晃のデッキ構築劇場・【マジック構築論研究1】幸せの青天井デックウィン
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週刊デッキ構築劇場
2012.07.23
第70回浅原晃のデッキ構築劇場・【マジック構築論研究1】幸せの青天井デックウィン
演者紹介:浅原 晃
マジック界のKing of Popとして知られる、強豪プレイヤーにして、デッキビルダー・ライター。主な戦績は、世界選手権05・世界選手権08トップ8、グランプリ優勝2回、The Finals2連覇など。
「構築戦はビルダーの舞踏会。タキシードでないデッキはジャージ」といいつつ、時に斬新なデッキを持ち込み、時にトップメタのデッキを使うという虚実入り交じった発言で人々を惑わせる『A級の虚影(エーツー)』。
ゴブリンデッキに《怒りの天使アクローマ》を投入するなどの柔軟な発想から海外でもカルトなファンが多く、また、構築・リミテッドを問わず見せる高いプレイスキルから国内プロからの信頼も厚い。・・・が、虚構も多いので、虚構を虚構と見抜ける人間でないと浅原のアドバイスを受けるのは難しいと言われている。
代表作は、自身のビルダーとしての原点という「アングリーハーミット・ゼロ」、荒堀 和明のグランプリ・仙台優勝によって世間の注目を集めた「アサハラ・ゾンビジム」、ヴァージョン6まで存在する勝ち手段の存在意義を問うた問題作「みのむしぶらりんしゃん」、God of the Deck略して「G.o.D.」、Wander Deck「The One」他多数。
効率化と最大化
ゲームに勝利するのにもっとも重要なものの一つ、それは効率化だ。勝利条件に対して、無駄の無い構成であるとか、カードだったらそれをプレイする順番だとか、達成すべき条件を明確にしそれを達成するための要素を集める、これらを効率よく行っていくことがゲームの勝敗のすべてと言ってもいい。
例えば、マジックの勝利条件は20点のライフを削るゲームと捉えるとしよう。となると、効率化とは、ちょうど20点のライフをできるだけ素早く削ることができる行為を指す。削るライフが少なければ勝利できないし、多ければ無駄なリソースを割いているということになる。現環境に置ける「デルバー」デッキの強さはその効率化という点においてもっとも優れているからと言えるだろう。
《秘密を掘り下げる者》や《聖トラフトの霊》は20点を削るのに効率の良いパフォーマンスを持っており、それらだけで十分勝利することが可能だ。そのため、他の部分のパーツを対戦相手の妨害や一時的な防御クリーチャーの排除などの要素に使うことができる。例えば「デルバー」デッキに《太陽のタイタン》やメインから《刃砦の英雄》が入ってくることが少ないのは、勝つためのアドバンテージに関しては十分な効率化が成されているので、それらを追加で入れる必要が無いということだろう。
効率化されたデッキはゲームに対して、勝利をもたらしてくれる可能性は高い。
・・・
しかし、しかしである。
ここで、果たしてちょうど20点を効率的に削ったとこで満足するのだろうか? という問題が生じる。少なくとも自分は満足はしないだろう。そもそも、自分は「デルバー」というデッキが嫌いオブザ嫌いなのだが、何で嫌いなのか? というのを考えてみた。そして、一つの真理に辿りついた、その答えもまた効率化だったのだ。
20点ちょうど削るようなデッキよりは、大雑把に100点とかのダメージを与えて派手に勝つほうが好きなのだ。
そうじゃないよと言う方も、こうは考えられるのではないだろうか。例えば、ロトくじがあるとする。1億円当てたい!と思って1億円当たったとしよう。しかしだ、隣の中村修平が20億円を当てたとしよう。これから、生きていく上では1億円でも十分である、しかし、ちょっとクソッ!と言う気分になるはずである。やはり、20億円当たったほうがうれしい。うれしさとは効率よりも、最大に存在することもある。
つまりは、ゲームに勝ったときのうれしさはきっちり20点を削ることだけにあらず。勝ち方によっては得られるうれしさ、幸せの量が違うのである。その幸せを追い求めることこそも、デッキビルダーにとって必要なものの一つなのではないだろうかということだ。かつて、《機知の戦い》に《さまようもの》を入れた人も居るらしいが、今考えればそれは、そういうことなのかもしれない。《さまようもの》の1点のダメージは《秘密を掘り下げる者》の1点とはある意味まったく別種の意味を持つのだ。
ただ、注意しなくてはいけないのは、負けては駄目ということだ。ゲームの成果は勝ってこそ得られる。勝利の放棄は論外である。
それらの両立。デッキの効率化と幸福度の最大化、勝利し最大の成果を得る、それこそが最高であり究極のデッキのテーマと言えるのかもしれない。デッキの強さ(効率)には限界がある、しかし、得られる幸福度の追求に限界は無い、望むままのデッキで勝てたならば、幸せのリターンは青天井なのだ。
新セットである『マジック基本セット2013(M13)』が発売され、さらなる効率を掘り下げるのもマジックだろう、だが、ここではより高みにある青い天井の探求、その志を胸に自分はM13を加えて新たな挑戦をしたいと思う。
そこで、今回は自分が今研究している構築理論でもある幸せの青天井デッキを2つほど紹介していこう。
まず、一つ目は「原作再現Verミラディンの傷跡、涙のプレインズウォーカー物語。てめーは俺を怒らせた、もはやマリガンすら許さん!」デッキだ。
4 《島》 4 《山》 1 《平地》 4 《金属海の沿岸》 4 《硫黄の滝》 4 《進化する未開地》 -土地(23)- 3 《ボーラスの占い師》 2 《願いのジン》 -クリーチャー(5)- |
4 《太陽の宝球》 3 《はらわた撃ち》 4 《思案》 4 《思考掃き》 4 《信仰無き物あさり》 4 《呪文ねじり》 4 《世界火》 3 《滞留者ヴェンセール》 2 《解放された者、カーン》 -呪文(32)- |
4 《精神叫び》 2 《心爪のシャーマン》 4 《スラーグ牙》 4 《鞭打ち炎》 1 《森》 -サイドボード(15)- |
このデッキ、《世界火》を使っているところは前回の井川良彦の構築劇場と同じくだが、メインボードでは《スラーグ牙》などという効率的ではあるものの幸福度の低いアイテムは使用しない。何故なら、《スラーグ牙》を出してしまうと、「やっぱり《スラーグ牙》強いですよねー」と言われてしまうからだ。そもそも、最初に間違って《スラーグ牙》が殴って勝ってしまってはこっちが困る。ここはしっかりと、効率的かつ最高の勝利手段を提示したい。
そして、それが、《滞留者ヴェンセール》と《解放された者、カーン》だ。
ミラディンの傷跡ブロックの物語でもっとも有名なものに、《滞留者ヴェンセール》が命を賭けて《解放された者、カーン》を復活させたという感涙もののエピソードがある。そんな流れを沿ってゲームに勝利するというのも、また、マジック人として美しい行いなのではないだろうか。
このデッキの理想的な勝ち方は、《滞留者ヴェンセール》で《解放された者、カーン》を一旦ゲームから除外しておき、そこで《世界火》を炸裂させる。その後、誰も居ない新世界に《解放された者、カーン》が降臨ということになる。この際、《滞留者ヴェンセール》は犠牲になってしまうので、涙を流しながら《世界火》を打つのが正しいプレイの仕方になるだろう。
そして、その後は怒りに震えながら《解放された者、カーン》の能力を起動していこう。相手もリソースの無い状態なので、《解放された者、カーン》でほぼロック状態にできるばすだ。
もちろん、《世界火》も《解放された者、カーン》も重いんじゃ?という疑問を解決するために、それを効率的に運用するカードも用意してある。《呪文ねじり》は《世界火》を安価に唱えることができるし(対戦相手のスペルは《思考掃き》などで無理矢理落とそう)、《願いのジン》もまたしかり、《願いのジン》ならば、インスタントタイミングで《世界火》を打つこともできるので、《はらわた撃ち》スタックで《願いのジン》起動、《世界火》ドーン!も可能になるので、オプションとして覚えておくといいかもしれない。
サイドカードの解説も行っておこう、《心爪のシャーマン》は相手のスペルを強引に落とすためもあるが同デッキ対策や《原初のうねり》デッキなどの同タイプの人対策(幸せの青天井狙いの人)などに有効だ。また、サイドには逆に《スラーグ牙》も採用、「何で《スラーグ牙》使ってないんですか?」的なことを言ってきそうな相手対策などに、非常に汎用性が高い。
次のブロックである「ラヴニカへの回帰」へ向けて、ミラディンブロックの思い出を語りながら《解放された者、カーン》の能力を起動していくのも、風情があっていいのではないだろうか。
2つ目のデッキは多彩な勝利手段と最大値にこだわったデッキだ。
マジックにはさまざまな勝利手段がある。M13では特殊な勝利条件を持った《機知の戦い》が帰ってきた。もちろん、《機知の戦い》自体は条件がクリアしやすく、強力なカードであるのは間違いない。そして、何よりも、200枚を越えるデッキが勝てるデッキとして構築できるのは可能性を広げる喜ばしいことだろう。
ただ、《機知の戦い》デッキはかつて活躍したこともあり、現代で驚きをもたらす戦略とは言い難い部分もある。むしろ、強さの証明されているデッキが帰ってきたという印象を持つ人も多いはずだ。戦略的にも、ドローと除去とフィニッシャーと《機知の戦い》といった、水増ししやすいコントロール要素を満載にした240枚程度のデッキを作るのが既に一般論として確立されている。現代に復活したことでまたパーツの取捨選択はあるが、基本的にはそれに準じることになるのが普通だ。
巨大なデッキのリスクを軽減するというのは、理に適っている構築法であると思う。
・・・
しかし、しかしである。
それで、果たして《機知の戦い》のポテンシャル、ひいては200枚以上のデッキのポテンシャルを生かしているといえるのだろうか。せっかく、200枚以上でデッキを組めるのであるから、ここで狙いたいのは《機知の戦い》を使った上での最大の成果ではないだろうか。
つまり、リスクの軽減ではなく、ここで狙うのはリターンの最大化である。
また、今の環境は2つのブロックと2つの基本セットが使える、もっともカードプールの多い時期であり、今はクリーチャーの優秀さは類を見ない。スペル中心の200枚以上のデッキが組めるなら、逆もまた然り、200枚以上のクリーチャーデッキも組めるのではないだろうか。
しかも、クリーチャーならば、最大という魅力を盛り込むことができる。
では、さっそく新時代の《機知の戦い》デッキを見ていただこう。
28 《森》 14 《島》 12 《沼》 2 《平地》 2 《山》 4 《内陸の湾港》 4 《森林の墓地》 4 《闇滑りの岸》 4 《水没した地下墓地》 4 《魂の洞窟》 4 《ゆらめく岩屋》 4 《幽霊街》 4 《進化する未開地》 1 《僻地の灯台》 1 《ガヴォニーの居住区》 1 《ケッシグの狼の地》 1 《大天使の霊堂》 -土地(94)- 4 《極楽鳥》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《ラノワールのエルフ》 4 《夜明け歩きの大鹿》 4 《軽蔑された村人》 4 《ヴィリジアンの密使》 4 《幻影の像》 4 《血の芸術家》 4 《国境地帯のレインジャー》 4 《ソンバーワルドの賢者》 4 《ファイレクシアの変形者》 4 《クローン》 4 《塔の霊》 4 《皮裂き》 4 《真面目な身代わり》 4 《ウルフィーの銀心》 4 《スラーグ牙》 4 《酸のスライム》 4 《願いのジン》 4 《士気溢れる徴集兵》 4 《霜のタイタン》 4 《原始のタイタン》 4 《墓所のタイタン》 4 《虐殺のワーム》 4 《ワームとぐろエンジン》 4 《ルーン傷の悪魔》 4 《孔蹄のビヒモス》 1 《聖所の猫》 1 《研究室の偏執狂》 1 《ファルケンラスの貴種》 1 《隠れしウラブラスク》 1 《ヘイヴングルの死者》 1 《化膿獣》 1 《黄金夜の刃、ギセラ》 1 《囁く者、シェオルドレッド》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 1 《希望の天使アヴァシン》 1 《グリセルブランド》 1 《飢餓の声、ヴォリンクレックス》 1 《核の占い師、ジン=ギタクシアス》 -クリーチャー(121)- |
4 《太陽の宝球》 4 《終わりなき休息の器》 4 《出産の殻》 4 《機知の戦い》 4 《情け知らずのガラク》 1 《狂乱病の砂》 1 《ヴェールのリリアナ》 1 《月の賢者タミヨウ》 1 《記憶の熟達者、ジェイス》 1 《滞留者ヴェンセール》 1 《空虚への扉》 1 《精神隷属器》 1 《解放された者、カーン》 1 《原初のうねり》 -呪文(29)- |
この《機知の戦い》デッキは、その構成要素のほぼ全てがクリーチャーであり、パーマネントである。まず言いたいのは、現環境のクリーチャーの強さと広いカードプールに支えられた重厚なクリーチャー陣で構成されているということだろう。クリーチャーデッキとしての動きから、一転して《機知の戦い》で勝負を決められる動きも兼ね備えており、ドキドキ感があるのも、《機知の戦い》をユニットとして機能させることで成しえている要素だ。
他にも、《機知の戦い》を考える上で細かい要素はいろいろとあるが、めんど...キリが無いので、このデッキの最大とも言える大技《原初のうねり》について説明しよう。
《原初のうねり》はこのデッキのように1枚だけ挿しておき、残りをパーマネントで構成すれば、デッキが尽きるまでデッキのあらゆるパーマネントを戦場に出していけるカードだ。しかも、通常のデッキでは最高でも60枚程度だが、このデッキでは実に240枚近くのパーマネントを出すことができる。その数、実に4倍。
しかも、これは単純に4倍のパワーがあるということではない。
60枚のデッキではその重さゆえに1枚程度しか採用できない今世紀最大のパンプアップクリーチャーと言われる《孔蹄のビヒモス》もこのデッキでは240枚デッキだしいけるやろ!ということで4枚採用、これが4倍のクリーチャー数で押し寄せると考えるだけでも、4×4で16倍となる。これをシナジーと言わずして何をシナジーというのか。
さらに、せっかくなので勝ち方のバリエーションを広げる意味での1枚枠も用意した。これによって、複数の勝ち手段を同時にとんでもない量で達成することができる。
見ていただければ説明の必要も無いかもしれないが、単純なダメージでは全てに速攻を与える《隠れしウラブラスク》、さらに2倍ダメージの《黄金夜の刃、ギセラ》。
ダメージと一緒に毒でも殺してしまう《化膿獣》。
マナが異常なほど出るため《狂乱病の砂》で相手のデッキを空に。また、逆にこっちのデッキが空であることを利用して《研究室の偏執狂》を出し、《真面目な身代わり》を《ファルケンラスの貴種》で生け贄に捧げて勝利などがある。
《空虚への扉》を《士気溢れる徴集兵》で起こして起動なども可能だ。
この、1枚の《原初のうねり》をどうやって引くのか? というのが疑問になるだろうが、《ルーン傷の悪魔》を出すことで《原初のうねり》の効果を妨害せずにサーチが可能になっている。《ルーン傷の悪魔》自体も《出産の殻》や《情け知らずのガラク》の変身後の能力でサーチ可能。結構、それなりに意外とサーチ可能である。
「《秘密を掘り下げる者》は7回殴ると勝てるから強いんだよな」という話、確かにもっともだ。しかし、このデッキで行われる会話は「君の《ケッシグの檻破り》、最高で狼・トークン何体出せるの?」とか、「パワー500のクリーチャーで殴ると爽快だよね」とか、そういう会話である。最大は最高のパフォーマンスの一つであると思う。
クリーチャーデッキとしての動き、コンボデッキとしての動き、そして、マックスパフォーマンス。デッキを好きなように作り、そして勝つ、それがマジックをやっていて最大の幸せであると思う。ぜひ、皆さんも何かとんでもないデッキを考えて勝つことを目標にしてみてはどうだろうか。
注)このようなデッキ構築を行った場合、あなたが幸せでも対戦相手が幸せでない可能性もあるのでご注意ください。
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