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週刊デッキ構築劇場
第47回:清水直樹のデッキ構築劇場・アイデンティティの曲芸的変身
読み物
週刊デッキ構築劇場
2012.01.30
第47回:清水直樹のデッキ構築劇場・アイデンティティの曲芸的変身
演者紹介:清水 直樹
言わずとしれた、デッキ構築劇場看板役者。主な戦績は、プロツアー・オースティン09トップ8、グランプリ・京都07トップ8、日本選手権06トップ8など。
「シミックの王子」の二つ名で呼ばれるように、シミックギルド(青緑)を愛し、青緑を含むデッキを構築した数で言えば、日本ではトップ、世界でも屈指のデッキビルダー。個性的なデッキ名をはじめとした数々のパフォーマンスには多くのファンがおり、青緑を使うプレイヤー数の増加に多大な貢献を果たした。
また、交友関係も広く、清水を中心としたコミュニティの爆発的な広がりを『爆発的青緑(パンシミック)』と表現することもある。
代表作は、スクリブ&フォース・セル・ABSOLUTE ZERO・ユグドラシル・イオナズン他多数。
みなさん、またまたこんにちは!
先週の「まつがんお別れ会」には時間的な都合上参加することができず、痛恨の極みでありました。
「まつがん」といえばその圧倒的な文章力、圧倒的な歌唱力、圧倒的な銀弾力で圧倒的なデッキを常に送り出し続けてメタゲームを圧倒し、デッキ構築劇場でも圧倒的存在感を見せつけてくれていました。
この場を借りて、今まで本当にありがとう!とお礼を言いたいと思います。
「で、なんで今週もシミチンさんが構築劇場書いているんですか?」 |
そうなんです。1週間空けてもう1度、皆さんに新しいデッキを提供させてもらうことになりました!
というのも、「闇の隆盛」スポイラーリストで「こんなカード」を見つけてしまったからです!
新しい「ソリン」?
いやいや、もちろんそんな色のカードではありません。
《追跡者の本能》
追跡者の本能、というよりはもはや「シミチンの本能」ですね、このカード。
青緑という組み合わせをこよなく愛している僕は、新しいセットが出るたびに「青緑っぽいカード」を探しています。
時のらせんで《神秘の蛇》が復活したときは狂喜乱舞しましたし、イーヴンタイドでは《岸砕きのミミック》をどうすれば5/3にできるかなんてことばかり考えていました。
ゼンディカーでは《霧深い雨林》の登場にほぼ昇天してしまうかと思いましたね。
ところがイニストラードでは《記憶の旅》に目を付けたものの、残念ながらカードの能力的にデッキとして完成させることができませんでした。
墓地からライブラリにカードを戻す、という能力だけでは流石にキーカードとしては地味すぎますからね。
しかしこの《追跡者の本能》は違います。初めて見たときからこのカードに可能性を感じずにはいられなかったので、まずこのカードにどういう特徴があるかを語らせて貰いましょう。
1.特定のクリーチャーを探してくることができる
緑と言えばクリーチャーの色ですが、昨今クリーチャーには色々なことができます。
例えば《皮裂き》のようにクリーチャーを除去したり、新顔では《塔の霊》のようにドローを操作してみたり。
もちろん《原始のタイタン》なんていう、出るだけでゲームに勝ってしまうレベルのクリーチャーもいますね。
とにかく今のマジックでは、状況に応じて、有効なクリーチャーを上手に使うことが勝利への近道となるのです。
2.選択しなかったカードは墓地に置かれる
この特徴がこのカードのアイデンティティというところです。
《禁忌の錬金術》をよく使う方ならご存知かと思いますが、これはすなわちデッキに眠っている《追跡者の本能》を更に墓地に落とすことができたり、或いは他のフラッシュバック呪文を墓地に落とすことができます。
勿論このカードを採用するということは、それなりの数のクリーチャーをデッキの中に入れているということですから、自然に墓地にクリーチャーも溜まることになるでしょう。
ということは、1、2から導かれるのは?
「{1}{U}の俺の出番か!?」 |
ちがいます。
《瞬唱の魔道士》との相性が抜群です!
《追跡者の本能》で《瞬唱の魔道士》を探してきて、その副産物となって墓地に落ちたインスタントやソーサリーをフラッシュバックすることができるのです!
このエンジンは是非ともデッキに組み込んでおきたいところですね。何もなければ。
他にも例えば、こんな使い方が考えられます。
《裂け木の恐怖》
《追跡者の本能》で探してきて、更に自分の能力で墓地にカードを送り込む...その過程でクリーチャーや次の《追跡者の本能》が落ちてきて更に連鎖!?
《グール樹》
新顔! 8マナ10/10という素のスペックですが、《追跡者の本能》を使って《グール樹》を手に入れながら、墓地に他のクリーチャーを落としていくことで《グール樹》を安くすることができます。
ゲームが進んでいれば、1マナで10/10というとんでもないお買い得が実現するかも!?
《壊死のウーズ》
色が禍々しいことになりそうですが、コンボの完成に近づくことができそうです。
浅原さんの構築劇場(中村シウ平殺人事件の回)で、実はこっそりその即死コンボのレシピが公開されていたりするのでマニアの皆さんはCheck it out!!
《ケッシグの檻破り》
ひとたび攻撃に成功すれば、とんでもない大群での攻撃が成功しそうです。
《溶鉄の尾のマスティコア》
アップキープに手札から《追跡者の本能》を捨ててフラッシュバック、クリーチャーを墓地に落として砲弾を補充・・・といった動きが可能です!
《大建築家》と合わせてみたりすると面白いかもしれません。
《渋面の溶岩使い》
渋面というよりは最近「ドヤ顔」のほうが合っているんじゃないかと思う今日この頃の彼(彼女?)ですが、
《溶鉄の尾のマスティコア》と同様に《追跡者の本能》で探してきて→溶岩発射というアクションが可能です。
エクステンデッドやレガシーで活躍した、「発掘」デッキのように、墓地をリソースとして戦うデッキは通常では考えられないようなアドバンテージを生み出すことができます。
何しろ通常は1ターンに1枚しかカードを引けないのに、「墓地が第二の手札」と言わんばかりに墓地のカードが何枚も何枚も増えていては通常のデッキでは太刀打ちができるはずがありません。
《追跡者の本能》はフラッシュバックを持った呪文ですから、その時点で「1枚で2枚分の活躍」が約束されているカードというわけですが、副産物として墓地を肥やす特性を持っているため、場合によっては1枚で3、4枚分以上の活躍をすることもできるでしょう。
では、今回のデッキのレシピを御覧に入れましょう。
3 《島》 2 《森》 1 《山》 4 《銅線の地溝》 4 《内陸の湾港》 3 《硫黄の滝》 3 《進化する未開地》 -土地(20)- 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《渋面の溶岩使い》 3 《極楽鳥》 3 《アヴァブルックの町長》 3 《瞬唱の魔道士》 3 《高原の狩りの達人》 -クリーチャー(20)- |
4 《思案》 4 《思考掃き》 4 《蒸気の絡みつき》 4 《追跡者の本能》 4 《マナ漏出》 -呪文(20)- |
3 《幻影の像》 2 《スカーブの殲滅者》 2 《霊炎》 3 《電弧の痕跡》 2 《古えの遺恨》 3 《骨までの齧りつき》 -サイドボード(15)- |
流行りの《秘密を掘り下げる者》を半ば無理やりにハイブリッドを実現!!
そして見よ、この美しい 土地/クリーチャー/スペル=20/20/20のバランスを!!
かつて、一世を風靡した「RDW=Red Deck Wins」の基本形は、土地とクリーチャーと火力のバランスが20枚ずつ、というものでした。
とにかく手数を増やして、とにかく土地の引きすぎを減らすのが赤単にとっては重要なことだったわけですが、その黄金のバランスを思い出しながら今回のデッキを構築してみました。
「青白Delver」というデッキは昨今とにかく猛威を奮っていますが、《進化する未開地》が追加されたということ(地味ながら重要!)、そして《極楽鳥》の力も借りて、3色目の赤を足すというアプローチに挑戦してみました。
青白Delverは《ムーアランドの憑依地》があったから粘り強くて強かったんだよ!という声が聞かれるかもしれませんが、そこで登場してくるのが《追跡者の本能》なわけです。
フラッシュバックがついていますから、とにかく息切れしにくいのです。
また、これまで「Delver」にはなかった墓地を積極利用するというアプローチが加わっているので、サイドボードから《スカーブの殲滅者》や《骨までの齧りつき》といった、イニストラードならではのカードも加わっています。
前者は《審判の日》なんかを撃ってくるコントロール対策向け、後者はこの手のデッキが苦手とする赤単系のデッキに対して特に有効です。
《アヴァブルックの町長》は、実はこのデッキは《極楽鳥》以外全員が恩恵を受けられるクリーチャーだったので採用してみました。
《秘密を掘り下げる者》が変身してもなお人間、というのはなかなか不思議なものですが、《アヴァブルックの町長》が変身しなくても活躍できる、というのは非常に重要なことです。
枠的に、サイドボードの《幻影の像》と相手によって入れ替えながら使うといいんじゃないかと思います。
そして、このデッキのもう一つの目玉はこのカードです。
《高原の狩りの達人》
個人的には《イニストラードの君主、ソリン》よりも推している闇の隆盛の目玉カードなわけですが、とにかくアドバンテージの取り方が尋常ではないですね。
このような強力クリーチャーを、序盤は《秘密を掘り下げる者》《渋面の溶岩使い》で支えつつ《追跡者の本能》で墓地を肥やしながら探してくるわけですね。
まず場に出てきて2/2が2体と2点ライフ。この時点で4マナのクリーチャーとしては十分な仕事をしているのですが、こいつの変身を許したらこれはもう大変な騒ぎになります。
相手からすれば《秘密を掘り下げる者》などを除去される挙句、4/4を元に戻さねば、となるわけですが元に戻ったら戻ったでまた2/2と2点ライフの追加です。
軽いインスタント呪文が豊富に入っているこのデッキであれば、自分の好きなタイミングでコイツを変身させることができるかもしれません。
つまり、人間から狼男にしたかったらいったん呪文を唱えずにターンを終了、その後相手のターンで《瞬唱の魔道士》を唱えてフラッシュバックして狼男から人間に戻す・・・なんて動きですね。
これぞわがシミックの王国が求めていた曲芸的変身(アクロバティック・トランスフォーム)!!
《思考掃き》も地味ながら、今後《瞬唱の魔道士》との相性を買われて、特に「Delver」系のデッキでよく見られるようになるかもしれません。
かつて《渋面の溶岩使い》が《留意》を相方にしていたのと同様、その組み合わせが現在のスタンダードによみがえっているのです。
《ギタクシア派の調査》が今まで使われていたスペースかと思われますが、好みによって使い分けてみるといいでしょう。
今回のデッキの大きな特徴は《秘密を掘り下げる者》デッキと形をハイブリッドにしたことによって、墓地利用デッキが抱えている「墓地対策」の影響を最小限に抑えていることです。
墓地を全開のリソースとして使用するデッキの多くは、このジレンマに苦しみながらサイドボード後の試合を戦ってきたわけなのですが、この「Insect/Instinct」は、例えば《虚無の呪文爆弾》を食らっても、このデッキであれば機能を停止することはありませんし、新顔の《墓掘りの檻》を置かれたとしても、一部フラッシュバックが封じられるだけで、《秘密を掘り下げる者》や《渋面の溶岩使い》は元気に働くことができます!
今回のデッキ名は、《秘密を掘り下げる者》が虫人間、ということと《追跡者の本能》の英語名=「Tracker's Instinct」から取ってきて「Insect/Instinct」とクールに決めました。この「In-ct」の語感の連なりとかがなんか美しいと思いませんか?
思いますよね?
思ってくださいね?
1月も終わりが目前となり、すなわちプロツアー・闇の隆盛やグランプリ神戸も目前となってきました。プロツアーでどんなスタンダードデッキが活躍するのかも楽しみですが、デッキ構築の一番のヒントになるのはリミテッドでの経験だったりします。
プロツアーの権利をもっていなくても、グランプリに出る予定のある皆さんはシールド戦やドラフトの練習をしながら、新しいデッキを思いついてみたりして、スタンダードの大会に出てみることをお勧めします!
気が付いたら、プレインズウォーカーポイントもいい感じに貯まってくれるんじゃないかなーと思っています。
それでは、Decks,be Amibtious!!
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