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週刊デッキ構築劇場

第23回:鍛冶友浩のデッキ構築劇場・《幻影の熊》!?

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週刊デッキ構築劇場

2011.08.04

第23回:鍛冶友浩のデッキ構築劇場・《幻影の熊》!?

演者紹介:鍛冶 友浩

 『世界のKJ』。世界的な認知度の高いデッキビルダー。主な戦績は、プロツアー・チャールストン06優勝・世界選手権05トップ4を含むプロツアートップ8入賞3回、グランプリ・北九州05優勝など。
 現在はトーナメントシーンの一線を退いてはいるが、現役時は多くの練習と、レベルの高い理論により、多くのプレイヤーから信頼されていた。特に、齋藤 友晴や森 勝洋との交流は有名であり、当時の彼らの成績に一役買っていた。
 スクラップ&ビルドを繰り返し、練習時に欠点を洗い出した上で、独創的な方法で克服した練度の高いデッキを構築することから、『欠点の破壊者(クラックスミス)』の二つ名がある。
 代表作は、Rage against the Machine・セプターチャント(北九州の形はモリカツ型と呼ばれるが、メインの構築者は鍛冶)・ストラクチャー&フォース他多数。
 現在、mtg-jp.comにて火曜日に『鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」』を週刊連載中。


 基本セット2012(M12)の発売からそろそろ2週間が経つが、目新しいデッキも少なく、何か面白い構築ができないかと躍起になっているプレイヤーも多いのではないだろうか。

 実際、各国の選手権の結果を見ても、M12で使われているカードは少ない気がする。
 日本選手権で言えば藤本のプレイした白緑、フランス選手権ではTop8入りしたOliver Ruelの白緑青《出産の殻》と、面白いアーキタイプが出現してはいるが、《忘却の輪》と《真面目な身代わり》を除くと、新顔はサイドボードの《機を見た援軍》だったりと、新たなるファイレクシアが加わった時の衝撃に比べれば可愛いものだ。

 なので今回は、あえてこのM12のコンセプトを主軸にしたデッキを考えてみたいと思う。
 このデッキを考えることになった発端は、先日友人とプレイしたM12のドラフトでの、ありがちなひとコマからだった。

 初手に《業火のタイタン》、そして流れてきた《天使の運命》という強力なレアカードに加え、3枚の《ショック》に、2枚の《忘却の輪》、さらに《平和な心》といった優秀な除去呪文、そして複数の《血まみれ角のミノタウルス》など狂喜クリーチャーを揃えた、42枚の完璧なドラフトをすることができた。
 低マナ域の生物も充実し、色拘束だけが気がかりながらもマナカーブの綺麗なデッキを構築し、満足したものができ上がったはずだった。

 しかし、対戦の結果は散々なもので、青黒相手の3ゲーム目には1ターン目の《幻影の熊》へ《平和な心》を、2ターン目の《血の求道者》へは《忘却の輪》をキャストしなければならなくなり、マッチも負けてしまった。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 《幻影の熊》なんてデッキにはあまり入れたくないカードだったはずではなかったのか?
 その時の白赤には入っていなかったが、軽量システムクリーチャーの《ギデオンの法の番人》1枚で完封だし、そもそもなぜ初手でピックするような《忘却の輪》という万能除去を、どうでも良さそうな低マナのコモンクリーチャーに使わなければいけないんだ?

 これには理由が2つあると考えられる。

 よくマジックの理論で、カードアドバンテージという単語を耳にすることだろう。

 簡単に言ってしまえば、《予言》は1枚のカードを使うことで2枚のカードが引けるので、マナさえ払えればカードアドバンテージ的には得できるね、という理論だ。

 しかし、この《予言》という呪文を"マナと戦場への影響"という視点へと切り替えることで、まったく違ったものが見えてくる。
 3マナ支払っただけで、盤面にはまったく影響なし。そんな悠長なことをやっている間に対戦相手にクリーチャーを展開されれば、それを対処しなければならなくなる。

 これが1つめの理由、テンポだ。

 今回の白赤と青黒の対戦に、《予言》の例ではちょっと例えにくいのだが、《幻影の熊》へ《平和な心》では1マナ損をしているし、《血の求道者》へも《忘却の輪》で、さらに1マナ損している!
 後手だった場合、さらに1回づつアタックされてライフも支払っているのに、自分が早くピックしたカードで相手の遅く取ったカードを対処しなければならないなんて、何かがおかしい。

 もちろん、こちらのクリーチャーが出揃うまで我慢してライフを払うという選択肢もあるのだが、自分の引いたカードの中で1マナ2/2を止められるカードが他になかったので、どうしようもなかったのは事実だ。
 放置すれば、中盤以降にチャンプブロックを強要されたりと、盤面上で確実に不利になってしまう。


 サイドボード後には《群れの護衛》だったり、《ゴブリンの長槍使い》といったブロッカーを加えて軽量化したのだが、最後の3ゲーム目に面白い7枚を引いてしまった。

 《ショック》2枚、《平和な心》《忘却の輪》《平地》《》2枚で後手。

 もう1つの理由は、デッキが強いがために、このように初手に除去が集まりすぎたことにあるだろう。

 構築では環境に存在するすべてのカードを4枚まで使うことができるが、リミテッドはそうではない。
 よくリミテッドの指南で、「除去呪文は大切に」と必ず書いてあるように、だ。

 しかし、大事に使うのならこの初手からは何も使えない。
 何も使えるカードがないなら、この7枚はマリガンを考えなければならないハンドなのか?
 土地もあるし、1ターン目から動こうと思えば動けるのに、ハンドが強いからマリガン、という理由はいかがなものか。

 結果的に、対戦相手は1,2ターン目に《幻影の熊》を連続でキャストし、さらに《血の求道者》の連打から、こちらがクリーチャーを唱えればすぐに《霊気の達人》と、全くマナに無駄のない行動をとってきた。
 中盤から飛行クリーチャーをキャストされ始めたあたりで、こちらはようやく引いてくる低マナクリーチャー。ドローが全く噛み合わずに負けてしまった。


 ここで、非常に悔しい負け方に悶々としていたが、日本選手権で併催されたイベントの『バトル・オブ・チャンピオン』に参加していた中村修平の言っていたことを思い出した。

 いわく、スーパーシールドは通常のシールドと比べて2倍のカードプールを持っているので、たとえコモンで最強といわれる《破滅の刃》も複数枚使われて当然の世界だ。
 だから、クリーチャーでも土地でもないカードは、ほとんどが《平和な心》《火葬》《チャンドラの憤慨》といった優秀な呪文で埋まってしまう。
 これはつまり、《剛力化》や《歯止め》といった受け身なカードを入れる枠が減っていくというわけで、《幻影の熊》の「対象」が鍵のデメリットを持っているクリーチャーを処理するカードの価値が自然と高くなってしまい、かつ、こちらはキャストがたったの1マナなので、テンポの面でも優位に立ちやすくなるという理論だ。
 たとえクリーチャー同士の相打ちでも、後手に回ってしまえば1マナ2/2を止めるのに若干ライフを損することになるだろう。

 《幻影の熊》は死にやすい軽量クリーチャーだが、このような潜在的な利点があるのだ。


 では、この考えを構築に応用できないだろうかと考えたのが、以下のデッキだ。

幻影ビートダウン[MO] [ARENA]
16 《
3 《霧深い雨林
3 《沸騰する小湖
1 《地盤の際

-土地(23)-

4 《幻影の熊
4 《幻影の像
4 《非実在の王
4 《方解石のカミツキガメ
2 《ファイレクシアの変形者
3 《先駆のゴーレム

-クリーチャー(21)-
4 《定業
3 《呪文貫き
3 《よじれた映像
4 《マナ漏出
2 《四肢切断

-呪文(16)-
2 《ワームとぐろエンジン
1 《宝物の魔道士
4 《精神的つまづき
3 《瞬間凍結
4 《漸増爆弾
1 《四肢切断

-サイドボード(15)-


 ちょっとあやしい構成だが、以前の構築劇場:《激戦の戦域》も、新たなるファイレクシアの登場で一変し、石田を日本選手権優勝まで導いたことを考えれば、今後のカードセット次第ではよく見かけるアーキタイプになるかもしれない。
 イニストラードでイリュージョンが大量に現れる・・・なんてことはまだわからないが、ゼンディカーブロックの吸血鬼の多さを考えれば,、絶対起こらないとも言い切れない。

 具体的にカードの説明をしていくと、最序盤のクロックに《幻影の熊》が選ばれており、ここにもう少しカードがほしいのだが、今のプールでは若干カード不足感が否めない。

 続く《非実在の王》の修正と、《方解石のカミツキガメ》の上陸がダメージの主力を担うことになるのだが、ここで《幻影の像》が活きてくる。

 例えば、《幻影の像》が《非実在の王》をコピーすると、その《幻影の像》自身がイリュージョンであるので、+1/+1修正を2度受けて4/4呪禁クリーチャーの出来上がりだ。
 《方解石のカミツキガメ》だったとしても、コピーを選ぶのに被覆は関係ないし、戦場へ出れば対戦相手から「対象」に取られることもなくなる。
 つまり、幻影のデメリットが無視できるようになるのだ。
 そして、パンチ力の足りない分を《マナ漏出》と《呪文貫き》の打ち消し呪文の時間稼ぎで補い、エンドカードの《先駆のゴーレム》へと繋ぐ。

 仮に《稲妻》や、《火葬》といったカードが使われていたとして、序盤のクリーチャーを対処しなければダメージがかさむ構成なので、このゴーレムへの除去呪文の数は限られるだろう。

 さらに、《よじれた映像》はあまり見かけないタイプのカードだが、最近は流行りの《呪文滑り》、そして《草茂る胸壁》といった0/4を除去しつつ、《先駆のゴーレム》へ唱えればそれはまるで《Ancestral Recall》!
 もちろん、通常の戦闘でも予想外なカードの登場に、キャントリップ付きで1マナと軽量なため簡単にアドバンテージを獲得できるだろう。


 では次はサイドボードだ。
 このデッキのもっとも苦手とするのは、ぱっと見ただけでもわかる通り、赤単の《トゲ撃ちの古老》や《渋面の溶岩使い》といったカードだ。

 逆に、これらさえ対処できればゲームになるので、《はらわた撃ち》といったカードも候補なのだが、今回はその他のデッキも意識して《精神的つまづき》とした。
 その代わり、白単《鍛えられた鋼》にも効く《漸増爆弾》を選んだ。

 そして、軽い1対1交換するカードが増えた分、ゲームの優位を築きにくく、マナが伸びやすくなったので、《ワームとぐろエンジン》と《宝物の魔道士》を加えた。
 これで、自軍のクリーチャーが除去の嵐に全滅したとしても、1枚で勝てるカードがあるので安心だ。

 最後に青いデッキには必須になってきた《瞬間凍結》を加え、デッキ完成!


 なんだかスタンダードのデッキではなく、ブロック構築や構築済みっぽいテイストなデッキになってしまったが、新しいカードに挑戦!ってコンセプトだったということでひとつ(笑)。
 カードアドバンテージにばかり着目したり、重くて強いカードを使うのもいいですが、《ギデオン・ジュラ》を《呪文貫き》しながら、《呪文滑り》には《よじれた映像》、なんて玄人っぽくていいですね。
 そのために適度なライフへのプレッシャーが必要なんですが、そこは要調整ということで。

 それではまた、週刊連載で!

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