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週刊デッキ構築劇場
第5回:浅原晃のデッキ構築劇場?現代における「みのむしぶらりんしゃん」の復活?
読み物
週刊デッキ構築劇場
2011.03.03
第5回:浅原晃のデッキ構築劇場-現代における「みのむしぶらりんしゃん」の復活?
演者紹介:浅原 晃 マジック界のKing of Popとして知られる、強豪プレイヤーにして、デッキビルダー・ライター。主な戦績は、世界選手権05・世界選手権08トップ8、グランプリ優勝2回、The Finals2連覇など。 |
かつて、筆者が作ったデッキの中に「みのむしぶらりんしゃん」というデッキがあった。「みのむしぶらりんしゃん」というデッキを知らないひとも多いだろうから、まずは、「みのむしぶらりんしゃん」というデッキがどんなデッキなのかというのをおさらいしておこう。
2002年の夏、シドニーで行われた世界選手権で、その年の日本王者である三津家 和彦はいつものメガネで登場し、突然変異系の4色コントロールデッキを持ち込んだ。当時、誰もが《サイカトグ》に夢中になる中で、この変態としか思えないデッキで4勝1敗1分けの成績を残したのだ。この「みのむしぶらりんしゃん」はその世界選手権の日曜日に開催されていたオーストラリアオープンでも森 勝洋がベスト8に入り、カイ・ブッティをしてクレイジーと言わせたデッキだ。
その理由は明確に存在していて、メインボードに勝ち手段が全く入っていなかった。
3 《シャドーブラッドの尾根》 3 《ダークウォーターの地下墓地》 2 《モスファイアの谷》 3 《シヴのオアシス》 2 《アーボーグの火山》 2 《塩の湿地》 2 《硫黄泉》 2 《カープルーザンの森》 2 《地底の大河》 2 《ラノワールの荒原》 1 《沼》 -土地(24)- -クリーチャー(0)- |
4 《強迫》 3 《圧服》 4 《燃え立つ願い》 4 《汚れた契約》 4 《終止》 3 《チェイナーの布告》 4 《破滅的な行為》 4 《嘘か真か》 2 《迫害》 2 《悪意 // 敵意》 1 《消えないこだま》 1 《ミラーリ》 -呪文(36)- |
1 《圧服》 1 《紅蓮地獄》 1 《チェイナーの布告》 1 《頭の混乱》 1 《郷愁的な夢》 1 《平穏》 1 《迫害》 1 《洗い流し》 1 《凡人の錯覚》 1 《虚空》 1 《綿密な分析》 1 《消えないこだま》 1 《ワームの咆哮》 1 《道徳の変遷》 1 《命の川》 -サイドボード(15)- |
マジックというゲームは相手のライフを削る、または、ライブラリーを削るなどして能動的に勝利するゲームであるという認識が成されているかもしれない。しかし、このデッキの勝ち手段はひたすらに相手の勝ち手段を削り、相手が勝てなくなることで勝利するデッキである。
「やる気デストラクション」というアーキタイプを聞いたことがある人も居るのではないだろうか? このデッキはまさに「やる気破壊」デッキであり、マジックは人がプレイする以上、心を攻めるのは有効な手段だ。「心を攻めるを上となし、城を攻めるを下となす」という馬謖の名言もある。
そして、このデッキのメインに勝ち手段を入れないというのは、全てのカードを妨害行動に使えることであり、すなわち、コントロールの究極的な理想を目指して作られている。人が神へと近づくために作られたバベルの塔のように、このデッキはマジックの究極的な構築を目指し、神へ近づくためのデッキでもあるのだ。
しかし、人が神になろうとするには時間が短すぎた。生きる時間というよりも、マッチの時間が。
あまりにも気の長いコントロールだったために、トップ8で森勝洋は時間切れからのライフレースによって敗れている。
この「みのむしぶらりんしゃん」はこれ以降、勝ち手段を入れないコントロール思想を引き継いでバージョンアップを繰り返していく。
そして、神という究極へと近づくために、さらにおかしな形に進化したのが「みのむしぶらりんしゃん2」である。当時の関東でもっとも大きな大会の一つであったLOMチャンピオンシップ2002(Lord of Magic Championship)で八十岡翔太が使用し、スタンダードの予選ラウンドで2勝2敗2分けを記録した。
森勝洋も八十岡翔太はプレイは早い方に数えられる。しかし、鬼神といえども人には違いなく、この究極のデッキを使いこなすのは難しかったのかもしれない。ちなみに大会のカバレッジでは、「ディードトグ」(《破滅的な行為》入りサイカトグ)と勘違いされていたが、もちろん《サイカトグ》は入っていない。そんな勝ち手段はスタイリッシュではないからだ。当時のデッキリストが見つからなかったので、以下にコンセプトとうろ覚えのデッキリスト、だけ記しておこう。
4 《塩の湿地》 21 適当 -土地(25)- -クリーチャー(0)- |
4 《強迫》 4 《チェイナーの布告》 4 《対抗呪文》 2 《燻し》 4 《破滅的な行為》 4 《蝕み》 3 《狡猾な願い》 2 《排撃》 4 《嘘か真か》 1 《消えないこだま》 2 《洞察のひらめき》 1 《ミラーリ》 -呪文(35)- |
1 《クローサ流再利用》 1 《洞察のひらめき》 1 《一瞬の平和》 12 いろいろ -サイドボード(15)- |
みのむしぶらりんしゃんは「1」が《燃え立つ願い》を軸にしたデッキなら、「2」は緑黒青の《狡猾な願い》を軸にしたデッキだ。このデッキの勝ち手段と呼べるものは基本的に《蝕み》のみ。大事なことなので、明確に記すと《蝕み》7回がこのデッキで勝ち手段、いや、勝つことも出来る手段である。《ミラーリ》を置いた状態で《狡猾な願い》をコピーし、無限にインスタントを使いまわす。《蝕み》を使いまわすために、《洞察のひらめき》が入っており、これをフラッシュバックで使うと《蝕み》を墓地からリムーブすることができるので、それで《狡猾な願い》から持ってくることができた(現在のルールでは不可能)。他のデッキのカードは除去とドローと手札破壊で一杯になっているのは初代と同じだ。相手がライフ3以下になると、呪文を唱えてくれなくなるので、その後は《クローサ流再利用》でライブラリーを復元して心を折る形になっている。
この「2」は予想通りというか、トーナメントに持ち込むデッキではないということで短命に終わったが、その後に生み出された「3」はMO(Magic Online)上で一瞬だけ活躍した。
「3」はオンスロート発売後のバージョンであり、今までにないクリーチャーを入れたパターンの黒緑赤のデッキで、《燃え立つ願い》から《生き埋め》を打ちリアニメイトかと思わせといて、《起源》と《貪欲なるベイロス》、《クローサの大牙獣》などを落として使いまわす、気の長いデッキだった。《クローサの大牙獣》がアドバンテージであり、そして、クリーチャーであることで、意外と殴って試合に勝てるという点も悪くなかったが、あまりにもマナが掛かるのでデッキは弱かった。MO上で藤田剛史に「デッキレシピ教えて」と言われ教えたところ、1時間後に「ない」と言われたのはいい思い出になっている。
「3」はその場で死んだが、その後、「4」「5」(記録、および記憶無し)と経て「6」のバージョンがFinals 2002で登場した。
7 《沼》 5 《平地》 4 《森》 4 《クローサの境界》 4 《大闘技場》 1 《ナントゥーコの僧院》 -土地(25)- 4 《クローサの大牙獣》 -クリーチャー(4)- |
4 《無垢の血》 4 《強迫》 2 《陰謀団式療法》 4 《チェイナーの布告》 4 《燻し》 4 《生ける願い》 4 《神の怒り》 1 《消えないこだま》 4 《アクローマの復讐》 -呪文(31)- |
1 《貪欲なるベイロス》 1 《雲を追う鷲》 1 《罪を与えるもの》 1 《千足虫》 1 《起源》 3 《賛美されし天使》 1 《陰謀団式療法》 1 《天啓の光》 2 《迫害》 1 《消えないこだま》 1 《ナントゥーコの僧院》 -サイドボード(15)- |
《生ける願い》を軸にしたデッキで、メインのクリーチャーはアドバンテージソースとしての《クローサの大牙獣》のみで、勝ち手段は十分にコントロールした後にサイドボードから取って来る、もしくはアドバンテージリソースである《起源》を調達する。青が抜けているのは、この当時、《嘘か真か》を失った青には魅力は無かったため、この色の方がアドバンテージに優れていたという判断だ。
また、デッキの美しさにもこだわりがある。まさに、こだわりの4枚積みである。あまりにも過剰にそして無造作に詰まれた4枚構成の除去の束は、そこまで積む必要があるのかというくらいに機能的なデザインだろう。このデッキも予選ラウンド5回戦においては、2勝1敗2分けとこのデッキらしい成績を残した。勝ち方にこだわることと実際に勝利すること、それを同時にやらなくてはいけないのが究極のデッキ構築を目指すもののつらいところだろう。
そして、これ以降「みのむしぶらりんしゃん」の歴史は途絶えることになってしまう。《願い》が落ちたというのがもっとも大きいが、勝ち手段を入れないコントロールデッキという構成そのものが、一種の試練であるため、それに挑戦するだけの環境や自分に力が無かったと言ってもいいかもしれない。
しかし、9年の歳月を経て「ミラディン包囲戦」のリストを目にしたとき、一つの可能性を感じたカードがある、それが《頂点》だ。
《頂点》のカードは使用後にライブラリーに戻るため、ライブラリーが尽きるということが無い。《頂点》の頂点たるゆえんは、頂点を目指す権利、つまり、究極のコントロールを目指す権利が与えられると同義なのではないだろうか。特に《青の太陽の頂点》は自分に使い続け、全てのライブラリーを引いた後に、相手に使い全てのカードを引かせることが出来る。もしかして、理想的なコントロールデッキが出来るのでは?
そんな期待から生まれたのが、2011年度バージョンの「みのむしぶらりんしゃん7(仮)」だ。
5 《島》 4 《沼》 4 《忍び寄るタール坑》 4 《闇滑りの岸》 4 《水没した地下墓地》 4 《地盤の際》 -土地(25)- -クリーチャー(0)- |
3 《青の太陽の頂点》 3 《黒の太陽の頂点》 3 《永遠溢れの杯》 3 《強迫》 3 《見栄え損ない》 3 《喉首狙い》 3 《マナ漏出》 3 《漸増爆弾》 3 《記憶殺し》 4 《定業》 3 《全ては塵》 1 《消えないこだま》 -呪文(35)- |
3 《ニューロックの猛士》 3 《墓所のタイタン》 3 《広がりゆく海》 3 《瞬間凍結》 3 《ジェイス・ベレレン》 -サイドボード(15)- |
このデッキの基本的な動きは青黒コントロールであるが、《青の太陽の頂点》と《黒の太陽の頂点》を基準とする究極のコントロールを作るという理念によって作られている。本来は緑を加えて《法務官の相談》を使うという案もあったが纏まりきらなかったので、今製作中の「8」に回すことにした。
そして、このデッキは最近研究されたマジック理論の一つである、コントロールのドローの多様性の追求、というものにも目を向けている。このデッキでは《定業》という良質なドロー補助だけを4枚フルに使うことで、他のカードの枚数を額面以上に水増ししつつ、デッキとしての取りうる役割を増やしているのだ。3枚のカードが多いのは、スロットを増やす魔法であり、役割を増やす論理でもある。いわゆる、こだわりの3枚積みである。そのため、このデッキは他のデッキに比べてやれることが多い。ただ、なかなか勝つことが出来ないというだけのデッキだ。
一応、サイドには時間対策ようにクリーチャーを用意してみたが、これはコンセプトとしては美しくはない。ただ、トーナメントに参加するという目的ならしょうがない点かもしれない。
デッキに必要なのは絶対的に機能的な美しいデザインであると思う。そして、このデッキが(仮)であるのは、まだ完成に至っていないからだ。
あの、森勝洋や八十岡翔太も一度は通った道をあなたも辿り、自分を試してみてはどうだろうか。
勝利に飽いた人が辿り着くただの道楽なのか、それとも神に近づくバベルの塔なのか、それはあなた自身の手で確かめて欲しい。
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