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ワールド・マジック・カップ2018

戦略記事

「チーム共同デッキ構築スタンダード」メタゲーム・ブレイクダウン

Frank Karsten
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2018年12月14日

 

 ワールド・マジック・カップ2018の大会初日となる本日は、最初の3回戦が『ラヴニカのギルド』チーム・シールドで行われ、そして残りのラウンドは「チーム共同デッキ構築スタンダード」で行われる。そこで私は、222枚のデッキリストを集計・分析した。まずはこのフォーマットの概要を説明しよう。

デッキ構築のルール

 チーム共同デッキ構築スタンダードでは、各チームともスタンダードのデッキを3つ構築し、それらを3人に振り分けて使用する。

 ただし、構築に際してはひとつ制限がある。基本土地を除いて、同名のカードはひとつのデッキにしか採用できないのだ。つまりひとつのデッキに《溶岩コイル》を採用すると、そのカードは他のデッキに採用できない。2枚ずつに分けることもできない。《溶岩コイル》を使用できるのは、チーム内でひとりだけなのだ。

 このチーム全体にかかる制限により、プレイヤーたちはカードの被りが最小限になるようデッキの構成を考えなければならない。例えば《溶岩コイル》が制限されるため、「イゼット・ドレイク」と「赤単アグロ」を完全な形で両立させることはできないだろう。また同様に《蒸気孔》が制限されるため、「イゼット・ドレイク」と「ジェスカイ・コントロール」の組み合わせも成り立たない。さらに《ベナリア史》を採用できるデッキもひとつに限られるため、「ボロス・アグロ」と「セレズニア・トークン」はどちらかを選ぶことになる。

 いずれにせよ、チーム共同デッキ構築スタンダードの鍵を握るカードは2色土地だ。現在の環境はチェック・ランドとショック・ランドがあるものの、ショック・ランドの方は現時点で5種類しかないため、より特殊な状況と言えるだろう。どのデッキにも安定したマナ基盤は必須だ。そのため各ギルドのデッキはチーム内でひとつに限られるだろう。

メタゲーム分析

 以上の構築制限を念頭に置いた上で、74チームが取り組んだチーム共同デッキ構築スタンダードのデッキ分布を見てみよう。以下に集計結果を掲載する。最初の表はアーキタイプごとの使用チーム数、2つ目の表は2チーム以上が選択したデッキ構成の一覧となっている。

アーキタイプ 使用チーム数
ゴルガリ・ミッドレンジ 70
セレズニア・トークン 38
ジェスカイ・コントロール 30
イゼット・ドレイク 28
ボロス・アグロ 16
ビッグ・レッド 10
赤単アグロ 10
ボロス・天使 4
白ウィニー 4
ディミーア・コントロール 2
ジェスカイ・ドレイク 2
ターボ・フォグ 2
アブザン・探検 1
彩色黒単 1
宿根型ゴルガリ 1
グリクシス・ドラゴン 1
青単テンポ 1
セレズニア・アグロ 1

 表を見るに、「ゴルガリ・ミッドレンジ」が他を大きく離して最大勢力となったようだ。そこに「セレズニア・トークン」と「ジェスカイ・コントロール」が続いている。だから必然、最も人気を集めた3デッキ構成もその3つの組み合わせになった。

ゴルガリ系 蒸気孔》使用デッキ 第3のデッキ 使用チーム数
ゴルガリ・ミッドレンジ ジェスカイ・コントロール セレズニア・トークン 16
ゴルガリ・ミッドレンジ イゼット・ドレイク セレズニア・トークン 12
ゴルガリ・ミッドレンジ イゼット・ドレイク ボロス・アグロ 10
ゴルガリ・ミッドレンジ ジェスカイ・コントロール 赤単アグロ 5
ゴルガリ・ミッドレンジ ジェスカイ・コントロール ビッグ・レッド 4
ゴルガリ・ミッドレンジ ジェスカイ・コントロール 白ウィニー 4
ゴルガリ・ミッドレンジ イゼット・ドレイク ボロス・天使 3

 以上に加えて、「ゴルガリ・ミッドレンジ/セレズニア・トークン/ビッグ・レッド」の組み合わせが4チーム、「ゴルガリ・ミッドレンジ/セレズニア・トークン/赤単アグロ」の組み合わせが2チームあったが、それらは「《蒸気孔》使用デッキ」が含まれないため便宜上表からは除外させていただいた。したがって、1チームのみが選択した3デッキ構成は14パターンとなる。

ほぼ全チームが「ゴルガリ・ミッドレンジ」を採用

 ほぼすべてのチーム(正確に言うなら74チーム中70チーム)が、3デッキ構成の中に「ゴルガリ・ミッドレンジ」を含めた。《採取 // 最終》は《貪欲なチュパカブラ》や《マーフォークの枝渡り》のようなアドバンテージを生み出すクリーチャーと素晴らしいシナジーを形成し、また探検を行うクリーチャーたちはこのデッキに高い安定性をもたらしている。優れたカードの密度や多彩な回答、安定したマナ基盤、そしてゲーム後半の強力な脅威も持つ「ゴルガリ・ミッドレンジ」は、環境のあらゆるデッキと渡り合える王道と言うべきデッキであり、個人戦のスタンダード・イベントで最大勢力を築いてきたことも記憶に新しい。

 現環境の上位デッキと採用カードがほとんど被らない点からも、このデッキがワールド・マジック・カップで流行することは予想されていた。むしろ「彩色黒単」や「宿根型ゴルガリ」、「ディミーア・コントロール」といった他の黒系デッキを選択したチームが4つもあることの方が驚きだろう。

 「ゴルガリ・ミッドレンジ」の内容はほとんど変わっていないものの、サイドボードの《最古再誕》や《疫病造り師》が増える傾向にあることが見受けられる。それらは、「《蒸気孔》使用デッキ」の多くが採用している《パルン、ニヴ=ミゼット》と《潜水》の「コンボ」に対する、最高の回答なのだ。

大半のチームが「《蒸気孔》使用デッキ」を採用

 大半のチーム(74チーム中65チーム)が、青系デッキ(通常は「ジェスカイ・コントロール」や「イゼット・ドレイク」)を採用している。(青系デッキを採用していないチームは、「ゴルガリ・ミッドレンジ」の次に《ベナリア史》を用いるデッキや《ゴブリンの鎖回し》を用いるデッキを採用している。)

 「イゼット・ドレイク」を選択したのは28チームだ。そのすべてが《弾けるドレイク》と《航路の作成》や《ショック》といった軽量呪文を採用しているが、《弧光のフェニックス》の採用/不採用については、ちょうど14チームずつに二分された。なお、《弧光のフェニックス》不採用のデッキには、《轟音のクラリオン》をタッチした「ジェスカイ・ドレイク」を選択した2チームも含まれている。

 《弧光のフェニックス》は1ターン中に大量の呪文を唱えることが求められるため、数を揃えるのが難しかったり除去耐性のない《ゴブリンの電術師》に頼らざるを得なかったりと、やや安定性に欠ける。《奇怪なドレイク》や《パルン、ニヴ=ミゼット》などのクリーチャーを中心にした「《弧光のフェニックス》不採用」の形は、安定性の点で優れているのだ。通常、こちらの形は《潜水》や《呪文貫き》が増量されており、大型の飛行持ちを守る姿勢を作っている。特に「イゼット・ドレイク」同系戦において、《弧光のフェニックス》は大型の脅威に比べて見劣りする。一方、《パルン、ニヴ=ミゼット》を戦場に残してアンタップを迎えることができれば、勝利をほぼ確実なものにできるのだ。

 最後にデッキリストを一通り見直してみると、サイドボードに《猛竜の幼生》を採用する形が散見された。なるほど、《ヴィーアシーノの紅蓮術師》や《不屈の護衛》との相討ち要員として極めて効果的な1枚と言えるだろう。

 「ジェスカイ・コントロール」は、多かれ少なかれ典型的なコントロール・デッキの動きを目指している。つまり単体除去や全体除去を駆使して盤面に何もない状態を維持し、打ち消し呪文でゲームの流れを支配し、そしてプレインズウォーカーで勝負を決める。とはいえ、《轟音のクラリオン》や《ドミナリアの英雄、テフェリー》はどの形にも採用されているものの、他のカード、とりわけ勝ち手段の選択については本当にさまざまだ。

 中でも、主な勝ち手段として《再燃するフェニックス》を採用した2チームは特筆すべきだろう。《喪心》や《貪欲なチュパカブラ》が幅を利かせる環境においては、よく採用される《弾けるドレイク》よりも《再燃するフェニックス》の方が極めて有効だ。それから、グランプリ・ニュージャージー2018におけるイーライ・カシス/Eli Kassisの優勝デッキをもとにした形にも注目すべきだろう。《アゾールの門口》を「変身」させて大量のマナを生み出し、《発展 // 発破》を放つことを目指すデッキだ。

 そしてグランプリ・ミルウォーキー2018にてエイドリアン・サリバン/Adrian Sullivanが使用した、《宝物の地図》を「変身」させてマナ加速し、《潜水》や《呪文貫き》を構えながら《パルン、ニヴ=ミゼット》を繰り出す形も5チームが選択した。これが強力な戦略であることは間違いないだろう。「赤単アグロ」や「ビッグ・レッド」も《宝物の地図》を必要とするという事実さえなければ、《宝物の地図》と《パルン、ニヴ=ミゼット》4枚積みの「ジェスカイ・コントロール」がもっと数を増やしていたかもしれない。今大会では採用カードの被りが許されないため、このプランをとる「ジェスカイ・コントロール」の数が少なくなったものと思われる。

「第3のデッキ」は、《ベナリア史》や《ゴブリンの鎖回し》を使用するものが多くを占める

 第3のデッキは《ベナリア史》を用いるデッキ(「セレズニア・トークン」や「ボロス・アグロ」、「白ウィニー」)と《ゴブリンの鎖回し》を用いるデッキ(「ビッグ・レッド」や「赤単アグロ」)が多くを占めた。どれになるかは、青系デッキの選択による。青系デッキに「ジェスカイ・コントロール」を採用したチームは、《聖なる鋳造所》が被るため「ボロス・アグロ」は選択肢から除外される。「イゼット・ドレイク」を採用したチームは、《溶岩コイル》が被るため「赤単アグロ」と「ビッグ・レッド」が除外されるだろう。

 今大会で最も驚くべきことは、(少なくともカバレージ・ライターの私にとっては)「セレズニア・トークン」が全体で2番目に人気を集めたことだ。プロツアー『ラヴニカのギルド』のトップ8入賞デッキのうち6つを「ボロス・アグロ」(サイドボードに赤のカードを数枚搭載した「ほぼ白単」の形も、《ボロスの挑戦者》のようなカードを採用したより赤の濃い形も、ひとまとめにこう呼ばせていただく)が占めたことを受けて、私は今大会の《ベナリア史》を用いるデッキは「ボロス・アグロ」が最大勢力になるとばかり思っていた。しかしその予想は完全に外れた――「セレズニア・トークン」がずっと多くの参加者数を集めたのだ。

 「セレズニア・トークン」の基本戦略は、《苗木の移牧》や《大集団の行進》を用いて大量のトークンを並べ、その後《不和のトロスターニ》や《敬慕されるロクソドン》、《開花 // 華麗》で全体強化して広大かつ強大な軍勢を築き上げることだ。

 「セレズニア・トークン」はもともと、グランプリ・静岡2018(スタンダード)では2名のプレイヤーをトップ8に送り出すなど、ここ最近になって勢力を伸ばしてきているデッキではあった。プレイヤーたちが言うには、単体除去の比重が大きい「ゴルガリ・ミッドレンジ」がメタゲームの上位を占めていることで、戦線が広がるため単体除去の効果が薄い「セレズニア・トークン」の立ち位置が良くなっているという。そしてチーム共同デッキ構築スタンダードにおいては、《聖なる鋳造所》の被りを気にせず「ジェスカイ・コントロール」と両立できる点も、このデッキが「ボロス・アグロ」より好まれた一因と言えるだろう。

 被りという点で言うなら、《ビビアン・リード》の採用が悩みどころだ。唯一無二の能力を持つ強力なプレインズウォーカーとして、《ビビアン・リード》は「セレズニア・トークン」のサイドボードや「ゴルガリ・ミッドレンジ」のメインデッキによく採用されている。しかしながら[+1]能力を「ゴルガリ・ミッドレンジ」の方がより効果的に使えるため、「ゴルガリ・ミッドレンジ」と「セレズニア・トークン」を組み合わせたチームはすべて、《ビビアン・リード》を「ゴルガリ・ミッドレンジ」の方に採用している。その代わりに多くの「セレズニア・トークン」は、飛行対策の《クロールの銛撃ち》をサイドボードに搭載しているようだ。また、これにより緑マナの必要量が減ったため、《ベナリアの軍司令》をメインから採用できるようマナ基盤を調整したチームもある。いずれにせよ、今大会の「セレズニア・トークン」を使ってみたいなら、構築制限によるカード選択への影響を念頭に置いておくべきだろう。個人戦イベントで使う場合は、サイドボードに《ビビアン・リード》の採用を検討しよう。

 プロツアー『ラヴニカのギルド』では、《ゴブリンの鎖回し》を用いるデッキの中で最も多くの使用者数を集めたのは《ギトゥの溶岩走り》や《魔術師の稲妻》、《実験の狂乱》などの爆発的な力を駆使する「赤単アグロ」だった。中でもグランプリ・リール2018を制したエティエンヌ・ブッソン/Etienne Bussonが使用した形が広く使われている。プロツアー当時、「ビッグ・レッド」を使用するプレイヤーはベン・ウェイツ/Ben Weitzただひとりだった。それでも彼の赤単に対する努力は実を結び、スタンダード・ラウンド7勝3敗の好成績を収めることができた。ウェイツはグランプリ・ミルウォーキー2018でも同じデッキで11勝4敗の成績を記録し、MOCSでも7勝1敗という結果を出した。それ以来、「ビッグ・レッド」を選択するプレイヤーの数は増えていった。そしてこの週末、《ゴブリンの鎖回し》を用いるデッキの勢力を「赤単アグロ」10人と「ビッグ・レッド」10人で二分するまでに至ったのだ。

 同じ「赤単」のデッキではあるが、「ビッグ・レッド」は「赤単アグロ」よりずっと遅く、じっくりと消耗戦を進めていく。注目すべきカードは、《宝物の地図》だ。このアーティファクトは序盤はドローの質を上げる助けになり、土地を探したり鍵となる除去呪文を探したりに役立つ。そしてひとたび「変身」すると、生成された宝物・トークンがカード・アドバンテージを生み出し、《オラーズカの拱門》の「昇殿」達成を助け、《包囲攻撃の司令官》やゲームを決める《苦悩火》を唱えるためのマナを供給してくれる。このデッキはX=10の《苦悩火》で勝つことが多いのだが、その燃料となるのが《宝物の地図》なのだ。《削剥》が去った現在のスタンダード環境には、《宝物の地図》に対する有効な回答がない。そのため、このアーティファクトがカード・アドバンテージやマナを生み出すエンジンとして一級品であることを証明しているのだ。

 また採用している脅威の点でも、「ビッグ・レッド」は「赤単アグロ」と比べて「イゼット・ドレイク」や「ボロス・アグロ」との相性改善に成功している。《包囲攻撃の司令官》は「ボロス・アグロ」を圧倒する1枚であり、他にも単体除去満載のデッキに対して素晴らしい働きを見せてくれる。そして《凶兆艦隊の向こう見ず》は、「イゼット・ドレイク」の《溶岩コイル》を再利用して相手の飛行クリーチャーを追放できる。このデッキについてもっと詳しく知りたい方には、ベン・ウェイツ本人によるデッキガイド(リンク先は英語)をおすすめしよう。

この環境の多様性を象徴する一風変わったデッキの姿も

 大多数のチームは実績あるアーキタイプを揃えてきたが、今大会には一風変わった戦略を手にしたプレイヤーもいた。私のお気に入りは、《陰謀団の要塞》から大量のマナを生み出し《彩色の灯籠》と《首謀者の収得》を駆使してサイドボードから色を問わずさまざまな脅威を繰り出す「彩色黒単」だ。他にも《縫い師への供給者》で《腐れ巨人》を活かし、《愚蒙の記念像》を戦場に戻してアドバンテージを稼ぎ続ける「宿根型ゴルガリ」や、《火の血脈、サルカン》、《ドラゴンの財宝》、《破滅の龍、ニコル・ボーラス》に注目した「グリクシス・ドラゴン」などを操るプレイヤーの姿が見受けられた。

 ここで紹介したデッキを含め、222個のチーム共同デッキ構築スタンダード・デッキリストは後日掲載予定なので、興味のある方はぜひそちらもご覧いただきたい。

(Tr. Tetsuya Yabuki)

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RESULTS

対戦結果 順位
S2-3 S2-3
S2-2 S2-2
S2-1 S2-1
S1-3 S1-3
S1-2 S1-2
S1-1 S1-1
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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