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ワールド・マジック・カップ2015

トピック

ああ、キャプテン! 我らがキャプテン!

矢吹 哲也
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Tobi Henke / Tr. Tetsuya Yabuki

2015年12月11日


「ワールド・マジック・カップ」は、対戦相手だけでなくチームメイトも選ぶことのできない唯一の大会だ。そのため、この大会では「ダビデとゴリアテの戦い」、つまり大番狂わせが起きるだけでなく、無名の選手が強豪選手とチームを組むこともあるのだ!

 大抵は、どのチームも少なくともひとりは実績あるプレイヤーを擁している。そのプレイヤーは、2014~2015年シーズンに国内で最も多くのプロ・ポイントを稼ぎ出して代表となった「国内王者」だ。そしてシーズン終了後間もなくして、そこへ各ワールド・マジック・カップ予選を勝ち抜いた3人のチームメイトが加わる。そうやって組まれたチームは、ときにビッグ・ネームを複数人抱えた紛れもなく強力なものになることもあるし、4人中3人がこれから名を上げようと意欲を燃やす若手になることもある。

 それぞれの例を挙げて語ると面白いだろう、と考えた私たちは、折よくぴったりなチームを見つけることができた。日本代表とブラジル代表だ。そこで、甲乙つけがたい強力なキャプテンふたりに、チームでの活動について話を聞いてみた。

 何と言っても、今大会で最も実績あるプレイヤーのひとりは、現在世界ランキング6位のパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaだろう。そのキャリアにおいて、彼は優勝1回を含めてプロツアー・トップ8入賞10回を果たしており、グランプリではそのおよそ2倍のトップ8入賞数を誇る、殿堂顕彰者の名に恥じない最強プレイヤーの一角だ。

 ブラジル代表の他の面々にダモ・ダ・ロサに匹敵する戦績を持ったプレイヤーはいないが、それは無理な話というものだろう。ルーカス・エスペル・ベルソー/Lucas Esper Berthoud、レオナルド・デ・カストロ/Leonardo De Castro、ブルーノ・ミュラー/Bruno Mullerの3人もそれぞれグランプリ・トップ8入賞やプロツアー出場の経験があり、ブラジルのワールド・マジック・カップ予選を勝ち抜いて今大会への参加権利を獲得した優れたプレイヤーたちだ。だがそれでも、このチームを率いているのがダモ・ダ・ロサであるのは明白だ。彼がその座に収まるなら間違いなく「名ばかりのキャプテン」ということにはならず、異論を挟む余地はないだろう。

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殿堂顕彰者パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ率いるブラジル代表

 ダモ・ダ・ロサは、かつて2012年、初めてワールド・マジック・カップが開催されたときもブラジル代表のキャプテンを務めている。キャプテンとチームメイトのこういった経験の差も、特筆すべき事柄だ。

「全然違うね」 ワールド・マジック・カップのチーム・キャプテンならではの難しさを尋ねると、ダモ・ダ・ロサはそう答えた。「例えば、プロツアーに向けてチームで練習するのとは、内容が変わる。プロツアー向けの練習では、チームの誰かがあるマッチアップの練習をしてその結果を報告すると、それを自分のものとしてしっかりと吸収できる。でもワールド・マジック・カップ向けの練習では、必ずしもそうはならないんだ。もっと丁寧に伝える必要がある」

「こういったイベントではよくあることだ」とダモ・ダ・ロサ。だからこそ、ワールド・マジック・カップは経験を積む機会として素晴らしいのだという。チーム・シールドのカード・プールやチーム・スタンダードのデッキについて研究するのも大切だが、ワールド・マジック・カップは何よりも「チーム戦であること」に意味のあるイベントだ。キャプテンとなる国内王者と経験値の異なるチームメイトたちが手を組み、それぞれを鍛え上げるだけでなくチーム全員で良好な関係を築いていくものなのだ。

 ワールド・マジック・カップによって積める経験の多さは、デンマークのプレイヤーたちが証明している。昨年のワールド・マジック・カップで優勝する以前はまったくと言っていいほど知られていなかった彼らだが、その後今シーズンに目覚ましい活躍を見せ、プロツアー優勝者ひとり、プロツアー・トップ8入賞者ひとり、そしてグランプリ・トップ8入賞者多数を輩出している。

 またダモ・ダ・ロサは、世界中に持つプロ・プレイヤーとのコネクションを活かし、ブラジル国外からも一緒に練習する相手を見つけた。「僕らは、イタリア代表とアメリカ代表、それからカナダ代表とも一緒に練習した」と、ダモ・ダ・ロサは言うが、それらのチームはどれも、ブラジル代表と異なり実績あるプロ・プレイヤーを複数人擁している。それでも、ダモ・ダ・ロサいわく「どのチームも、鍛えたいプレイヤーを抱えていた」そうだ。

 彼らは大きなアパートの一室を借りて、先週の日曜日からバルセロナに滞在した。こうやって大きなグループを作って大勢で練習するのは非常に効果的で、チームがまとまる助けにもなった、とダモ・ダ・ロサは語る。「これは本当にうまくいったよ」。

 一方の日本代表は、予選シーズンの時点でもう、非常に恵まれた状況にあった。最初のワールド・マジック・カップ予選を勝ち抜いた玉田 遼一は、昨年にグランプリ・トップ8入賞2回、そして今年はプロツアー『戦乱のゼンディカー』で準優勝と、最近猛烈な勢いを見せているプレイヤーだ。その上、3つ目の予選では、他ならぬあの津村 健志が、プロツアー・トップ8入賞6回を誇る強豪が今大会への参戦を決めたのだ。唯一、残る楊 塑予の名は広く知れ渡ってはいないものの、津村をして「モダン・フォーマットの達人」と言わしめるほどのプレイヤーだ。

 そして、そのメンバーをまとめる国内王者については、もはや驚くことは一切ないだろう。現在世界ランキング16位の渡辺 雄也は、ワールド・マジック・カップが始まった2012年以来、毎年日本のプロ・ポイント最上位を獲得している。これまでワールド・マジック・カップ本戦では目覚ましい活躍を見せることができていない日本代表だが、それが渡辺の名を損ねることにはならない。グランプリ・トップ8入賞23回のうち優勝7回、2012年マジック・プレイヤー選手権優勝を含め、プロツアー・トップ8入賞3回という戦績を誇る渡辺は、強豪揃いの日本においても文句なしで最強プレイヤーのひとりと言えるだろう。2009年のプレイヤー・オブ・ザ・イヤーも獲得している渡辺を、津村 健志はこう評する。「なべ君はなべ君としか言いようがありません。我らがキャプテンを心から誇りに思います」

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世界ランキング16位の渡辺 雄也率いる日本代表

 ブラジル代表と日本代表の状況の違いについては、これ以上語る必要はないだろう。渡辺にこれだけ強力なチームを率いることになった今の気持ちを尋ねると、4人はキャプテンとチームメンバーという垣根を感じさせず、打ち解けた様子を見せた。渡辺はチームメイトと話し、日本語で冗談を言い合う。それから彼は、「さっき2回戦で負けましたけど」と切り出し、「でもチームは良い感じです」と続けたのだった。

 それから渡辺の采配について尋ねると、キャプテンの渡辺はあちこちへ指を差し向けてチームメイトに命令を下すしぐさを見せ、再び4人の笑い声が上がった。「厄介なボスですよ」と玉田 遼一が冗談を飛ばす。「めちゃくちゃ厳しいです」。

 そして今大会に向けた練習について話を聞くと、津村が答えてくれた。「今回は3人が東京に住んでいて、もうひとりも毎週末に東京まで来てくれたので、実際に集まって練習しました。なべ君と僕はいつもプロツアーの練習をともにしていたので、今回も同じような方法で練習を行いました」。しかし津村は、他の代表チームと練習をしなかったことについて、やや残念そうな様子を見せる。「海外のプレイヤーと一緒に練習するのはすごく楽しそうで、チームのためにもなると思います。もっと英語を学んで、積極的に外へ行く必要がありますね」

「このチームのベスト・プレイヤーは?」という質問に、渡辺はひと呼吸置いて玉田 遼一を指差した。それに津村と楊もうなずく。「自分の個人成績はここまで1勝1敗です」と渡辺は言い、悲しげな表情を見せた。「でも実は、これもみんなのものだと考えています」

「勝ちも負けもみんなで分かち合う」ということだろうか? ともあれ、早い段階で1敗を喫した日本代表だが、その様子は今大会を心から楽しむ友人たちの集まりのようだ。それだけでも、彼らは「勝ち組」と言えるだろう。

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RESULTS

対戦結果 順位
S2-3 S2-3
S2-2 S2-2
S2-1 S2-1
S1-3 S1-3
S1-2 S1-2
S1-1 S1-1
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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