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プロツアー『イクサランの相克』
『イニストラードを覆う影』から『イクサランの相克』までのモダンの進化
Frank Karsten / Tr. Chikara Aoki
2018年2月2日
『ゲートウォッチの誓い』発売直後に開催された最後のモダン・プロツアーはほぼ2年前である。それから4つの異なるブロック、8つのセットが発売された。すべてのセットがフォーマットに新しいカードを送り込んだので、その数を追うことにした。
8つの各セットそれぞれから、再録分を除き、プロツアー『イクサランの相克』で24枚以上使われているカードを抽出した。この数字は少なくとも6つのデッキで使われているということである。このリストに目を通して、2年間のもっとも重要なモダンへの追加を分析していこう。
『イニストラードを覆う影』
『イニストラードを覆う影』の発売は2016年4月8日。セットの発売と同時期に《ウギンの目》が禁止され、《祖先の幻視》と《弱者の剣》が解禁された。《弱者の剣》と《飛行機械の鋳造所》のコンボは大した影響もなかったのに対し、《祖先の幻視》は青ベースのコントロールデッキに適応した。そして《難題の予見者》と《現実を砕くもの》は「バンド・エルドラージ」に居場所を見つけた。
モダン史をひも解くあたって付け加えておくと、2016年前半のモダンのメタゲームは「親和」「バーン」「感染」「トロン」「タイタン・シフト」「ジャンド」「ジェスカイ・コントロール」、そして「アブザン」が大半を占めた。これらのデッキは新しいセットの影響を受けなかった。
『イニストラードを覆う影』での主要カードは《サリアの副官》《不屈の追跡者》《パズルの欠片》《秘蔵の縫合体》《傲慢な新生子》《ウルヴェンワルド横断》、そして《薄暮見の徴募兵》だ。これらは必ずしも発売直後から大きな影響を与えたわけではない。例えば《サリアの副官》は『イクサラン』で人間デッキが完成してからである。とはいえ今週末のプロツアー『イクサランの相克』のデッキリストで24枚以上使われているのであれば、それは『イニストラードを覆う影』の中でもモダンに影響を与えているといえるだろう。
役割を簡単に説明していこう。《不屈の追跡者》は《集合した中隊》デッキで付加価値のあるクリーチャーで、《パズルの欠片》は最近「青赤けちストーム」デッキのサイドボードによく見られるようになっている。《秘蔵の縫合体》と《傲慢な新生子》は「ドレッジ」デッキを強力なものにした。《薄暮見の徴募兵》は2017年に《療治の侍臣》がリリースされた後、無限マナ生成後に勝ち手段を探すために使われている。
《ウルヴェンワルド横断》は《死の影》デッキに一貫性を与える鍵であり、《ミシュラのガラクタ》と《通りの悪霊》が昂揚達成を簡単にするが、このギミックもグランプリ・バンクーバー2017まで待つことになる。2016年中の《死の影》デッキは《野生のナカティル》と《強大化》+《ティムールの激闘》コンボを搭載した「Zoo」型が大半で、《ウルヴェンワルド横断》はほとんど見ることがなかった。
『異界月』
『異界月』は2016年7月22日に発売され、ひとつ前のセットと同じように何枚かのカードをモダン・フォーマットに追加した。記事中の画像はこのプロツアーで使われている枚数が多い順に並べている。《集団的蛮行》は今週末『異界月』のカードで一番使われており、(大幅な枚数差があって)《呪文捕らえ》などが続く。
《集団的蛮行》は「バーン」のようなデッキに対する最高のカードで、低コストで複数効果を持つ。ライフを得つつ手札から火力呪文を落とし、厄介なクリーチャーを2マナで倒せる。「アブザン」のようなミッドレンジ・デッキに簡単に追加できて、たいていの場合《最後の望み、リリアナ》と《残忍な剥ぎ取り》が同時に使われる。
《呪文捕らえ》と《無私の霊魂》は「バント・ナイトフォール」のようなデッキで即座に使われた。いまでも《無私の霊魂》はさまざまな《集合した中隊》デッキに入っており、一方の《呪文捕らえ》は「白青コントロール」や「ジェスカイ・コントロール」で妨害手段として使われている。
《騒乱の歓楽者》はこのプロツアーで13名が選択した「マルドゥ・パイロマンサー」の中核を成している。《信仰無き物あさり》で墓地を肥やし、手札を空にしてから2マナで唱える《騒乱の歓楽者》は素晴らしい。
『カラデシュ』
『カラデシュ』は2016年9月30日に発売された。《頭蓋囲い》と《解放された者、カーン》への強力なサイドカードである《儀礼的拒否》と、「バーン」「ストーム」「アブザン」他さまざまなデッキのマナ基盤を改善する対抗色のファストランドが追加された。
『カラデシュ』にはさらに2枚の重要な赤い呪文がある。《安堵の再会》は「ドレッジ」に爆発的なツールを提供し、《向こう見ずな実験》は「マッドキャップ・ムーン」のような全く新しいデッキを生み出した。「マッドキャップ・ムーン」の基本的なプランは《向こう見ずな実験》で《白金の帝像》をめくることである。《向こう見ずな実験》がダメージを与えるときには《白金の帝像》がすでに戦場にいるのでライフが変わらず、4マナで《白金の帝像》を出せるのである。8/8を対処するのが難しいデッキはいくつもある。
《配分の領事、カンバール》は「マルドゥ・パイロマンサー」のようなデッキの素晴らしいサイド・カードだ。非クリーチャー呪文やドロー呪文を多用するデッキの計画を台無しにできる。
最後に特別賞として《顕在的防御》を挙げておこう。発売直後から「感染」デッキで除去呪文からクリーチャーを守るために使われていたが、その支配は長く続かなかった。
『霊気紛争』
『霊気紛争』は2017年1月20日に発売された。発売と同時期に《ゴルガリの墓トロール》と《ギタクシア派の調査》が禁止され、「ドレッジ」と《強大化》のために墓地を溜める「感染」や「死の影Zoo」のようなデッキが弱体化した。
新カードは禁止カードの追加と同じくらい重要であった。『霊気紛争』はモダンを大きく揺さぶったのだ。黒ベースのコントロールやミッドレンジ・デッキでは《稲妻》が《致命的な一押し》に取って代わられた。プレイヤーに撃てなくなったものの、モダンで使われているほとんどのクリーチャーを1マナで対処でき、その中には《稲妻》の範囲外であった《死の影》、《タルモゴイフ》、《難題の予見者》が含まれる。
モダンへの大きな変化の時点は《歩行バリスタ》だ。「トロン」デッキに柔軟性を与え、2ターン目に《鋼の監視者》や《貴族の教主》を倒し、ゲーム後半やウルザトロンが揃ってしまえばマナの注ぎ先にもなる。「バント・エルドラージ」が「エルドラージ・トロン」に変化したのは《歩行バリスタ》によるところが大きい。
《産業の塔》は「親和」デッキのマナ基盤のマイナーチェンジながらも、初手のリスキーな複数枚の《空僻地》を悩まずに済むようになった。
《遵法長、バラル》は「青赤けちストーム:を新しい領域に持ち上げた。《ゴブリンの電術師》と同じく2マナのコスト軽減クリーチャーで、最高のドローに恵まれ相手の妨害がなければ3ターンキルを演出する。現時点のモダンでも至高のコンボデッキといえるだろう。
最後に、《発明品の唸り》は「ランタン・コントロール」にさらなる一貫性を加えた。実際のところ、モダンのトップメタ・デッキの多くは『霊気紛争』の恩恵を受けたのだ。
モダンの発展はそんなところでは止まらなかった。先ほど《ウルヴェンワルド横断》のところで、グランプリ・バンクーバー2017の「横断・死の影」デッキを紹介したことを覚えているだろうか? それは『霊気紛争』発売と同じ月に行われた。ジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leyton、ジェリー・トンプソン/Gerry Thompson、サム・ブラック/Sam Blackは完璧にトーナメントを支配し、《死の影》が脅威となる新時代にモダンを導いた。彼らのパフォーマンスは、《死の影》が妨害型ミッドレンジの勝ち手段として「Zoo」スタイルのデッキを超えることを示した。数週間後、「グリクシス死の影」が13/13のさらなる棲み家として現れた。
『アモンケット』
『アモンケット』は2017年4月28日に発売された。モダンに一番影響のあるカードは《療治の侍臣》で、《献身のドルイド》との2枚無限マナコンボを可能にする。多くの《集合した中隊》デッキがこのコンボを内蔵した。
《試練に臨むギデオン》は「白青コントロール」に勝ち手段、時間稼ぎ、そして厄介なパーマネントへの対処法としての居場所を見つけた。
《炎刃の達人》はすぐに加わったわけではないが、次に登場するデッキにはうまく馴染むことになる。
『破滅の刻』
『破滅の刻』は2017年7月14日に発売された。《削剥》は柔軟なサイドボードカードとして相手のクリーチャーを除去し、《罠の橋》を破壊しうる。一方で、《虚ろな者》はまったく新しいデッキを生み出した。
6人が《虚ろな者》を登録し、 このプロツアーでも垂涎のデッキのひとつとなった。《燃え立つ調査》から4枚の《虚ろな者》を1ターン目にプレイする夢を見られる。前述の《炎刃の達人》は当然このデッキに納まる。
『イクサラン』
今週末もっとも使われた『イクサラン』のカードは《選択》だ。「グリクシス死の影」のようなデッキの安定性が向上し、《瞬唱の魔道士》で相手のターン終了ステップにフラッシュバックすることができる。
しかし、『イクサラン』がモダンに最も影響を与えたものは、「5色人間」デッキを現実的なものにした《帆凧の掠め盗り》と《手付かずの領土》と言ってもいいだろう。プロツアー参加者は妨害クリーチャーと安定したマナの組み合わせを好み、「5色人間」がプロツアー初日に最も使われたデッキとなった。
《廃墟の地》は「黒緑ミッドレンジ」と「青白コントロール」に重要な追加となった。多くのプレイヤーは「ジェスカイ」や「アブザン」といった流行のデッキから、無色土地を加えるために1色減らす選択をした。《廃墟の地》は土地の数を減らさずに「トロン」や「タイタン・シフト」といったビッグマナ・デッキを妨害できる、大きなおまけ付き《幽霊街》である。
最後に「ジェスカイ・コントロール」のプレイヤーによる《アズカンタの探索》と《残骸の漂着》だ。《アズカンタの探索》はたいていメインデッキに2枚使われており、強力なカード選択機能、最終的なマナ・ランプ、そして終盤のカード・アドバンテージ・エンジンの完全なパッケージが提供された。《残骸の漂着》はコントロール・プレイヤーにリセット呪文の選択肢を増やし、特に《僧院の速槍》、《カマキリの乗り手》、《現実を砕くもの》といった速攻クリーチャーに対して有用である。
『イクサランの相克』
とうとう現在にたどり着いた。プロツアーに提出されたデッキリストから判断すると『イクサランの相克』はモダンに多くをもたらしてはいない。《凶兆艦隊の向こう見ず》は人間なので「5色人間」のサイドボードに何枚かはいるようだ。インスタントやソーサリーを多く擁したデッキに対しては価値のあるクリーチャーだろう。
《凶兆艦隊の向こう見ず》と数枚ずつの《血染めの太陽》《むら気な長剣歯》《貪欲なチュパカブラ》を除き、新しいセットは環境に大きな影響を与えていない。誰も《マーフォークの霧縛り》を使っていないのは残念なことだ。
モダン愛好家が新しいおもちゃを最適活用しだすには、より多くの時間が必要になるかもしれない。この記事でモダン史を見てきたように、有力なデッキが見つかるまでは時間がかかり、それには新しいセットが必要になることもあるだろう。
ひとつだけ確かなことがある。モダンは常に進化し続けており、各セットはテーブルに新しいツールを用意してくれる。次の2年が楽しみだ。
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