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プロツアー・フィラデルフィア11
(翻訳記事)モダンの世界へようこそ
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翻訳記事
モダンの世界へようこそ
Tom LaPille / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年8月12日
今年前半に行なわれた Magic Online Community Cup で、私たちは「モダン」と呼ばれる新しい形式を公開しました。基本セット第8版およびミラディン拡張セット、ならびにそれらよりも新しい全てのブースターを含む、カードがローテーション落ちすることのない形式です。Community Cupで成功を収めて以来、モダンは紙のマジックでは使われないのかという問い合わせが相次いでいました。今日、ここに、モダンが紙のマジックで、しかも衝撃的な形で使われるようになるということをお知らせします。
来るプロツアー・フィラデルフィアの形式は、エクステンデッドからモダンに変更されることが決定しました。
変更の理由は?
最近、プロツアーに向けてエクステンデッドの調整をしているプロ・プレイヤーたちから、《石鍛冶の神秘家》系の青コントロールが図抜けて強いデッキで、対抗手段も見当たらない、という意見を耳にしました。聞き覚えのある話だと思った人はいるでしょう。そう、ミラディン包囲戦以来スタンダードを不健康なほどに支配してきて、ついには《石鍛冶の神秘家》や《精神を刻む者、ジェイス》をスタンダードで禁止することになった「Caw-Blade」デッキです。それらのカード抜きでも、やはりスタンダードでは猛威をふるっていますが、レガシーとなると《石鍛冶の神秘家》と《精神を刻む者、ジェイス》は健在で、そこかしこで人々をトップ8に押し上げているのです。
これまで、ある形式が壊れていると主張するプレイヤーはしばしば間違っていました。たとえば、時のらせんブロック構築で行なわれたプロツアー・横浜の開催前に、プレイヤーはアグロ戦略が最強なのは明らかだと言っていましたが、実際にはそれらのデッキは惨憺たるものでした。今回のエクステンデッドに関する意見も同じように聞こえましたが、私たちはマジック・オンラインの大会データを元に検証してみました。その結果、この意見が正しいと分かったのです。そこでプレイされていたデッキの実に7割が青の《石鍛冶の神秘家》デッキで、他のデッキとの対戦における勝率は65%に上りました。これは健全な環境ではない証です。
4年間のエクステンデッド形式は大間違いだったというよくある主張は、ほとんど正しいとは言えません。それまでのエクステンデッドと比べて、良くもなっていないし悪くもなっていないと言えます。変更前と比べると、エクステンデッド形式で行なわれるイベントの外ではほとんどプレイされることはないのも変わりませんでしたが、それらのイベントの参加人数は以前と同じように堅調でした。他方、レガシーの人気は高まっており、多くの人々がモダンに興奮しているようです。もうひとつ資料となったのが、プレイヤーの手による「オーバーエクステンデッド」という形式が示した興奮でした。ガビン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyとその仲間たちが、プレイヤー主催で一連のイベントをマジックオンラインで行なったのです。私たちは、以前私が書いたモダンの告知コラム(リンク先は英語)に書いてある理由により「オーバーエクステンデッド」よりもモダンのほうが好きですが、それでも彼の作業への協力の結果を見たり、ローテーションしない形式のサポートに関する資料を得られたりしたことは非常にありがたいことだと思っています。
マジックオンラインのエクステンデッドの資料を見て、私たちはこの不均衡を改めることにしました。エクステンデッドでカードを禁止にしたり、エクステンデッド形式を大きく変えたりしたら、これまでのエクステンデッドにあわせての努力に影響を及ぼすことがわかっていました。そこで、プレイヤー全体のためによりよくしようとしたのです。つまり、形式そのものを人々がプレイしたい、試合を見たいと思うものに変える決定を下しました。私たちは来月のプロツアーでモダン形式を見るのを楽しみにしていますし、この変更によってプレイヤーにより健全で楽しい環境を提供できると信じています。
今年、モダンを皆さんにお目にかけるのはプロツアー・フィラデルフィアが最後ではありません。今年の世界選手権の3日目はモダンによる6回戦が行なわれますし、各国代表チーム戦でもチームの3人のうち1人はモダン環境で対戦することになります。そして、来年、各地のグランプリのうちいくつかはモダンで行なわれることになります。来年から、すべての主催者はモダンのイベントを開催できるようになります。モダンは既存の形式を置き換えるものではありません。たとえば、来年、レガシー形式のグランプリも予定されています。
多くのプロツアー・プレイヤーがマジック・オンラインで練習をしていることが分かっています。そして、マジックオンラインでは公式なサポートなしでさえモダンのプレイが盛んです。ここに、モダンが2011年8月24日をもってマジックオンラインでも公式な環境になる(リンク先は英語)ということをお伝えいたします。
禁止リスト
Magic Online Community Cupで用いられた禁止リストは堅実なもので、できる限り枚数を抑えていました。今回、このモダン形式をプロツアーで使うに当たって、よりよい環境を提供するために禁止リストをより充実させることにしました。
どのカードを禁止するかの策定にあたり、私たちは2つの分類を定めました。まず、レガシーにおいて2ターン目確定のコンボ・デッキは認めませんが、3ターン目ならOK、という指針が存在します。これをモダンにあわせて修正しました。つまり、4ターン目のコンボ・デッキは許容しますが、3ターン目確定で勝負を決めるようなデッキは認めません。そのようなデッキが存在できないよう、禁止カードを追加していきました。追加されたカードは以下のものです。
《超起源》[TSP]
《猿人の指導霊》と《宝石の洞窟》と組み合わせると、《超起源》は3マナの続唱呪文に2ターン目にアクセスできます。場合によっては第1ターンにも動くかもしれません。そして《超起源》からは《引き裂かれし永劫、エムラクール》や《大祖始》といった巨大クリーチャー、あるいは《テラストドン》や《絶望の天使》《別館の大長》など、対戦相手が呪文を唱えることを規制するカードが出てきます。また、《隠れしウラブラスク》があればそれらのクリーチャーが即座に攻撃することさえ可能になります。これは「3ターン目確定」規定に反するので、禁止となりました。
《垣間見る自然》[CHK]
Community Cupで見かけた、もう一種類の3ターン目確定コンボ・デッキは、《垣間見る自然》を使ったエルフ・デッキでした。《イラクサの歩哨》《遺産のドルイド》《垣間見る自然》と大量の軽いエルフを組み合わせることで大量のマナを生み出し、大量のカードを引くことができます。《威厳の魔力》のドロー・エンジンの裏付けと《緑の太陽の頂点》や《召喚士の契約》でさらに安定性が上がっていました。《垣間見る自然》はこのデッキに爆発的な勢いを与える核となっていたので、禁止となりました。《垣間見る自然》なしでもこのデッキはプレイできるでしょうが、そうなれば3ターン目確定とは言えません。
《戦慄の復活》[TSP]
もう一つ、3ターン目確定デッキは発掘デッキです。《ゴルガリの墓トロール》は禁止になっていますが、それでもまだ発掘には3ターン目確定の可能性があると判断しました。そして、発掘は楽しみの元とは言えません。発掘と対戦すること自体は場合によっては楽しいこともありますが、より大きな目で見ると、発掘対策をサイドボードに充分入れるか、発掘には当たらないと信じて無視を決め込むかの二択を迫られることになります。そして、それはほとんどのプレイヤーにとって楽しいことではありません。そこで、その対策として、最も爆発的な墓地カードを禁止することに決定しました。
第2の分類は、モダンで使えるセットだけからなる7年分あるいは4年分のエクステンデッド環境を支配したデッキはモダンでも破壊的な強力さを持つ危険性があるというものです。他にも、簡単にモダン化できるようなレガシー・デッキの中にも危険なものはあります。それらを野放しにしておくと、それらが最強のデッキになってしまうことでしょう。1種類だけを野放しにすれば、当然それが最強になることでしょう。この理由によって禁止されたカードは以下のものです。
《石鍛冶の神秘家》[WWK]
これが禁止カードに入るのは当然だと思っていただけるでしょう。《石鍛冶の神秘家》はスタンダードからレガシーに至るまであらゆる環境で存在感を示してきました。そして《石鍛冶の神秘家》系の青コントロール・デッキはレガシー環境でも常に結果を残しています。そのようなデッキをモダン化するのは簡単なことで、その結果非常に強力なデッキができあがります。《石鍛冶の神秘家》に支配される環境を一つ増やす危険を避けるため、このカードを禁止することにしました。
《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》[ZEN]
もう一つ、モダンで見かけた強力なコンボ・デッキは《風景の変容》《虹色の前兆》《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキでした。《風景の変容》は3ターン目確定のコンボ・デッキではありませんが、その種のデッキが蔓延しており、その多くは他のカードに足を引っ張られる形でモダンでは全力を発揮できていません。ほとんどが土地であり、マナ加速を含み、カードを引く能力が高いと、マジックの歴史上に存在した最強のコンボ・デッキたちと共通する特色を持っています。妨害がなければ、《風景の変容》《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキは最強のデッキの一つだと言えるでしょう。
《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を含まない《風景の変容》を使ったデッキでは、時々おもしろいものを見かけます。たとえば《板金鎧の土百足》《ステップのオオヤマネコ》あたりと組み合わせて《風景の変容》を《憎悪》代わりに使うようなアグロ・デッキです。一方、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》は、そろったら一方的にコンボを決めて終わり、ということしかできないのがほとんどです。そこで、私たちはこのコンボのうちでおもしろいデッキを作ることが多い方だけを残すことにしました。
《苦花》[MOR]
ここまで何を禁止にするかの選び方を語ってきて、あとに残されているのはフェアリー・デッキです。直前の4年分のエクステンデッドでの最強と言っても異論はないでしょう。現在、フェアリー・デッキは《石鍛冶の神秘家》デッキのようにプレイヤーの憎しみを買ってはいませんが、歴史上の人気が高かったとも言えません。フェアリー一色のプロツアーになる危険性を避けるべく、禁止することにしました。
ここまで見て、青のカードに触れていないことにお気づきかもしれません。青が無傷であることに気づいた時、非常に強力な青コントロール・デッキが残っているので対処しなければならないと言うことが分かっていました。さまざまな選択肢がありましたが、マジックの高レベル・イベントにおいてどのカードが使われているかを見る方法としてレガシーを手がかりにして判断しました。
《精神を刻む者、ジェイス》[WWK]
《精神を刻む者、ジェイス》は当然候補に挙がりました。スタンダードで禁止されるほどのカードで、レガシーでも常連で、そして過去2回のヴィンテージ選手権で決勝に残った4つのデッキのうち3つに入っていたのです。
《精神的つまづき》[NPH]
モダンで使用可能な青のカードのうちで、レガシーで最も使われていたカードが《精神的つまづき》でした。第1ターンから動きたいビートダウン・デッキを押さえつけるという、モダンでも指折りの危険な効果です。そこで、ビートダウンに圧力をかけるこれを取り除くべく禁止することにしました。
《祖先の幻視》[TSP]
レガシーのコントロール・デッキでよく使われているモダン内のカードとしてもう1枚、この《祖先の幻視》があります。レガシーの《精神を刻む者、ジェイス》デッキ全てに入っているわけではありませんが、その大多数には入っていました。《祖先の幻視》と《呪文嵌め》その他の打ち消し呪文の組み合わせは、コントロール・デッキにデメリットなしでカードを安く引かせる結果をもたらし、安全と言うことは出来なかったので禁止しました。
最終的な禁止カード・リストは以下の通りです。
- 《祖先の幻視》
- 《古えの居住地》
- 《苦花》
- 《金属モックス》
- 《暗黒の深部》
- 《戦慄の復活》
- 《垣間見る自然》
- 《ゴルガリの墓トロール》
- 《大焼炉》
- 《超起源》
- 《精神を刻む者、ジェイス》
- 《精神的つまづき》
- 《教議会の座席》
- 《師範の占い独楽》
- 《頭蓋骨絞め》
- 《石鍛冶の神秘家》
- 《弱者の剣》
- 《伝承の樹》
- 《梅澤の十手》
- 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
- 《囁きの大霊堂》
この最終の禁止リストについて一言付け加えておきます。まず、これはCommunity Cupの時のものよりもずっと長くなっています。通常、マジックのプレイヤーはできる限り多くのカードを使いたいと思うものですし、好きなカードが禁止されたということに不快感を覚えるものです。確かにカードが禁止されるのは楽しいことではありませんが、それは近視眼的というものです。あるデッキが強力すぎて他のおもしろいデッキがプレイできないような環境になれば、その強力なデッキに含まれる何かを禁止することによってルール上プレイできるカードは減っても、実際にその環境でプレイできるカードは増えることになります。たとえばレガシーにおいて、《神秘の教示者》と《適者生存》を禁止したことで比較的弱いデッキを使えるようになり、形式内の多様性が増えました。カードを禁止することは、より長い目でその環境を見たときに楽しいものにするための代償なのです。ある環境が立ち上がる前にカードを禁止することはその代償を最小限に抑えるための手法で、今回は将来禁止しなければならなくなる危険性を減らすために何枚も禁止しておくことにしたのです。
次に、私たちは将来カードを解禁することがあり得ます。ヴィンテージやレガシーにおいて、私たちはこれまでずっと制限リストや禁止リストからカードを取り除き続けてきて、どちらの環境も史上最も禁止率や制限率が低い状態になっています。さらに情報を集めていくので、モダンの禁止リストも将来変更することになるでしょう。禁止しすぎかもしれませんし、そうだとしたらいずれ立ち戻って改善することになります。
これが新しい環境の立ち上げのための理想的な方法だとは言えないということには同意しますが、モダンのような環境で遊びたいというプレイヤー数の増加に勇気づけられました。プロツアーの形式をモダンにするという決定は、いつからモダンでプレイできるのかという多くのプレイヤーの声があったからこそなされたのです。プロツアー参加者の皆さん、私はこの決定が皆さんのこれまでの準備に影響を及ぼすかもしれないということを理解しています。ですが、この変更によってより楽しい環境が提供できていれば幸いです。観客の皆さん、エクステンデッドのイベントを見る以上にこのモダン環境のイベントを見ることを楽しんでいただければ幸いです。そしてそれ以外の皆さん、モダンをプレイする機会を得たなら、楽しんでいただければ幸いです。
皆さん、モダンの世界へようこそ。
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