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プレイヤーズツアー・名古屋2020
デッキテク:行弘 賢の「白黒オーラ」 ~あなたもきっとデッキリストの見た目に惑わされる~
(本記事は1日目、2月1日(土)に取材したものです)
この世には「弱そうなデッキリスト」というものがある。
そうしたリストは往々にして「入っているカードが弱そう」「見たことないカードが入っている」「どうやって勝つのか分からない」などの共通点を持っていることが多い。
無論、いくら見た目が弱そうでも、実際に回してみるまでその真価は分からないというのがマジックの妙だ。入っているカードが弱そうでも、強烈なシナジーによって化けることは大いにある。それに、見たことがないカードが弱いとは限らない。さらに言えば、どうやって勝つのか分からないというのは、対戦する側にしてみればかえってやりにくいこともある。
しかしこう、「正気か?」と言いたくなるリストは存在する。
たとえば、今回のプレイヤーズツアーで、MPLプレイヤーの行弘 賢が持ち込んだデッキリストはまさにそうしたデッキと言えるだろう。
6 《平地》 1 《沼》 4 《神無き祭殿》 4 《秘密の中庭》 4 《コイロスの洞窟》 1 《マナの合流点》 -土地(20)- 4 《命の恵みのアルセイド》 4 《憎しみの幻霊》 2 《恩寵の重装歩兵》 4 《上級建設官、スラム》 3 《騒音のアフィミア》 -クリーチャー(17)- |
4 《結束のカルトーシュ》 4 《天上の鎧》 4 《歩哨の目》 3 《グリフの加護》 4 《ケイラメトラの恩恵》 4 《きらきらするすべて》 -呪文(23)- |
3 《浄光の使徒》 3 《脳蛆》 2 《死の重み》 2 《思考囲い》 1 《墓掘りの檻》 2 《不可解な終焉》 2 《試練に臨むギデオン》 -サイドボード(15)- |
これを見て「これこそ新時代のジャンドだ」と言う人はそういるまい。というか、このデッキに入っているカードのテキストをすべて諳んじている人というさえ少ないだろう。イラストを見れば「あー、これね」と思い出すのだが……まさか《歩哨の目》をリミテッド以外のフォーマットで見ることになるとは思わなかった。《結束のカルトーシュ》に至ってはリミテッドでさえほとんど使った記憶がない。
無論、このデッキを使用しているのは会場にもほとんどいない。というか、行弘以外にこのデッキを使用しているのは行弘と一緒にデッキを調整していたという高尾 翔太だけ。つまり2名だ。
しかし。プレイヤーズツアーの構築ラウンド3回戦が終了した時点で、行弘は3-0しているというのだから分からない。果たしてこのデッキは一体何なのか、さっそく話を伺った。
行弘 賢 |
デッキ選択に難航
――まず、このデッキを使うことにした経緯を教えてください。
行弘「まぁ、ぶっちゃけデッキ選びに難航してたんだよね。Magic Onlineの結果や直前予選の結果を見て、『青黒《真実を覆すもの》』や『黒単アグロ』が多いだろうってところまでは予想できていたんだけど、これらのデッキに習熟していないから、ミラーマッチが多いであろう青黒や黒単を使う気にはなれなかったんだ。するとデッキの選択肢は自分で調整したデッキになるわけだけど、他の選択肢は『青単信心タッチ《真実を覆すもの》』くらいで……」
――そこで手にとったのがもうひとつの選択肢である「白黒オーラ」だったというわけですね。しかしこのデッキ、こう言っちゃなんですけど、あまり強いリストには見えないですね……
行弘「高尾くんと一緒にデッキを調整して、武蔵のメンバーにリストをシェアしたときも同じような反応だった。というか、このリストを実際に回したのは俺と高尾くんと宇都宮くんの3人だけだね。でも、このデッキを選んだことにもちゃんとロジックはあるよ。まずこのデッキはアグロに強くて、『黒単アグロ』や『赤単アグロ』を一方的にカモれるんだ。絆魂持ちのクリーチャーにオーラつけるだけで簡単に勝てるし、警戒や先制攻撃も強い。1枚オーラ貼るだけでもほとんどサイズ負けしなくなるからね」
――なるほど。とはいえ「青黒《真実を覆すもの》」デッキなどには無防備なように見えます。
行弘「『青黒《真実を覆すもの》』は速度が速いアグロ戦略に弱いから、そもそも黒単みたいなアグロデッキが一定数いるこのフィールドでは勝ち組になりにくいと思うんだよね。このデッキも青黒相手にはアグロっぽい動きをするから、うまく回れば戦えないこともないしね。『青黒に強いアグロ』に強いデッキってことで、噛み合えば6-3くらいできるかな?と思って持ってきたんだ」
――じゃんけんのような理論ですね。
行弘「経験上、デッキ選択に自信がないときは上振れを重視した方がいい結果になりやすいと思っていて。実際このデッキも相性がいい相手にはイージーウィンできるからね」
――今大会のメタゲームは読みどおりでしたか?
行弘「予想よりも赤単が少なかったけど、概ね予想通りだよ。このデッキは赤単との相性もいいから、そこが少なかったのはちょっと残念かな」
カード選択について
――「カード選択について伺いたいのですが、《結束のカルトーシュ》はガチですか? 正直リミテッドでもあまり強くなかった記憶があるのですが……」
行弘「ガチも何も、かなり強いよ、《結束のカルトーシュ》。このデッキは土地を1枚でキープすることも多いくらいピーキーなデッキだから、1マナでプレイできる上に後続も用意できる《結束のカルトーシュ》はすごく強い。トークンにオーラを付けたりすると、対戦相手もトークンに除去を使わざるを得なくなるようなこともあるし、地味にトークンに警戒が付いているからアグロ耐性も高い」
――とはいえ、クリーチャーを強化するオーラはどのセットにも必ず収録されていますし、他にも選択肢はありそうなものですが……
行弘「そう思うでしょ? でも、実は1マナでパワー修整がつくオーラはそんなに多くないんだよ。このデッキはさっきも言ったとおり土地1枚でキープすることも少なくないから、とにかくマナがタイトでね。《きらきらするすべて》くらいのバリューがないと、オーラに2マナは払いたくないんだよ」
――たしかに、《きらきらするすべて》以外に2マナのオーラは入っていませんね。
行弘「うん。《天上の鎧》もそうだけど、《きらきらするすべて》でも打点が跳ね上がるから、さすがにこの枠は確定だしね。あと、元々高尾くんが最初にこのリストを見せてくれたときは《ケイラメトラの恩恵》が入っていなかったんだけど、このカードもかなり強い。というか、このカードが入る前のリストは正直言って弱かったよ」
――《ケイラメトラの恩恵》が入ったことでデッキがレベルアップしたわけですね。
行弘「そのとおりだね。やっぱりオーラを使うデッキだから《致命的な一押し》みたいな軽い除去はキツいんだけど、そうした弱点を《ケイラメトラの恩恵》で補っているよ」
――《ケイラメトラの恩恵》をはじめとして、『テーロス還魂記』の新カードも多く入っていますね
行弘「《憎しみの幻霊》とか《騒音のアフィミア》だね。これらと《上級建設官、スラム》は、オーラ特有のアドバンテージの損失を抑えてくれるキーカードだよ」
――なるほど……。あとは《歩哨の目》が4枚入っているのもおもしろいですね。墓地から戻ってくるオーラには、他に《グリフの加護》もありますが……
行弘「《上級建設官、スラム》とのシナジーがあるから《歩哨の目》のほうが優先されるかな。でも、《グリフの加護》も本当は4枚入れたかったんだよ。だけど抜けるカードがなくて……強いて言うなら土地を1枚抜くことは検討したけど、これ以上土地を減らすのは事故のリスクのほうが高いからこの構成に落ち着いているよ」
――フィーチャーマッチでは、「青黒《真実を覆すもの》」相手にサイドボードから《浄光の使徒》を入れて一方的にボコボコにしている姿も見られました。プロテクション(黒)はかなり有効そうに見えるので、メインでもいいのではないかと感じました。
行弘「まぁメタの上位にいる『黒単アグロ』に対しても強いからメインも絶対にないというわけではないけど、アグロ相手はそもそも有利だし、それよりも赤単相手に取りこぼすような展開が嫌だからね」
――今大会のトップメタの一つである「青黒《真実を覆すもの》」デッキに対して、《浄光の使徒》以外にもサイドボードカードはありますか?
行弘「まぁ、一番は《試練に臨むギデオン》かな。相手はほとんどこのカードに触れなくて、相手の勝利を防ぐことができる。[0]能力から入って、《真実を覆すもの》に[+1]能力を使っていれば、あとは相手がライブラリーアウトするだけだね」
――たしかに《試練に臨むギデオン》はおもしろいサイドプランですね。最後になりますが、今大会はグランプリと違って対戦前にデッキリストを交換します。これは今回のようなオリジナルデッキを使う側にとって不利に働いたりはしませんか?
行弘「もちろん、分からん殺しみたいなことはできないね。でもその分こちらも相手のデッキの構成が分かるメリットもあるよ。たとえばこのデッキはクリーチャーが1枚しかいない手札でもキープすることは多々あるけど、相手のデッキに除去が多いなら当然そういう手札はマリガンするし、サイドボードの全体除去が《衰滅》しかないことが分かっているなら、《衰滅》圏外までクリーチャーを育てるようにする、とかそういうプレイが考えられるからね。だからいいところも悪いところもどっちもあるよ。それに相手がこっちのデッキと戦うのが初めてなのは変わらないから、分からん殺しとまではいかずとも、裏目を引かせたりプレイミスを誘ったりはしやすいね」
――なるほど。今回はおもしろいデッキのお話を聞かせていただきありがとうございました! この後も頑張ってください!
今回、行弘の「白黒オーラ」についての話を聞いたが、筆者が特に印象に残ったのは「デッキ選択に自信がないときは上振れを重視」という言葉だった。
常に最強のデッキを最強の状態で使いこなすことができるのであればそれに越したことはないが、いかにMPLプレイヤーと言えど、そんなことは不可能だ。であるとすれば、自分の持ち物をうまく活用して勝機を見出すのが二番目にいいやり方と言える。そして、そうした引き出しを増やすためにも、デッキリストの見た目に惑わされることなく、「弱そうなデッキの優位性」を最大限引き出せるように努力をするのが重要と言えるだろう。
実際、行弘はこのデッキの見た目が弱そうなことは否定しなかったが、しかし自身のデッキを弱いとは一言も言わなかった。その上で実際に勝利を重ねていることを踏まえても、このデッキを選んだことは失敗などでは決してないのだろう。
デッキが強いかどうか以上に大切なのは、なぜそのデッキを使うのかどうかなのだ。私もつい漫然とデッキリストをコピーして回すだけになってしまうだけになってしまうことは多いが、今回行弘が語ってくれた言葉を胸に、デッキの本当の価値を模索していけるようになりたいと感じた。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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