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戦略記事

ドクター原根のパイオニア解説 ~黎明期から現在へ、環境の変遷~

Hiroshi Okubo

 マジック界では、自らのデッキの調整録や大会参加レポートといったコンテンツを発信するプレイヤーは少なくない。殊にプロプレイヤーと呼ばれる層においては、これまでに一度も記事の執筆や動画の配信などを行ったことがないというプレイヤーはほとんどいないだろう。

 そうしたコンテンツの発信者たちの中には、スポンサーの意向で記事を書いている者もいれば、自ら率先して、誰に頼まれるでもなく筆を執る者もいる。原根 健太は、まさにそうしたプレイヤーのひとりだ。

原根 健太(東京)

 プロプレイヤーとしてこれまで様々な実績を重ねてきた原根。そんな彼は、昨年からブログを通して、自身の思考を言語化してきた。私も彼のブログを愛読している読者の一人だが、すべての記事に共通して圧倒的な情報量と凄まじい熱量が込められており、競技プレイヤーならずとも必読と言える。

 そんな彼が最近ブログで発信している主たるコンテンツは、「パイオニア環境分析」だ。Magic Onlineの大会結果を俯瞰し、原根による分析が添えられたそれは、パイオニア環境を知る足がかりとしてこの上なく貴重な資料と言える。

 今回はそんなブログの作者である原根本人に、パイオニアの環境の変遷についての話を伺った。

パイオニアの黎明 ~次々に禁止カードが出た環境初期~

――まず、パイオニアでは2020年1月末までに、全14種類の禁止カードが出ました。

禁止発効日 禁止カード
2019年10月23日 フェッチランド5種
(※《溢れかえる岸辺》、《汚染された三角州》、《血染めのぬかるみ》、《樹木茂る山麓》、《吹きさらしの荒野》)
2019年11月8日 守護フェリダー》、《豊穣の力線》、《ニッサの誓い
2019年11月12日 夏の帳
2019年12月3日 死者の原野》、《むかしむかし》、《密輸人の回転翼機
2019年12月17日 王冠泥棒、オーコ》、《運命のきずな

――これらの禁止カードが出るまでの出来事を振り返っていきたいと思います。

2019年10月23日 フェッチランド5種禁止

――まずはフォーマットが開始された昨年10月。パイオニア始動と同時に禁止されたカード、フェッチランドがありましたね。

原根「まず、この禁止によってあることがはっきりしたんだ。それは”パイオニアの限界”だね。フェッチランドがあった場合、『ラヴニカへの回帰』ブロックや『ラヴニカのギルド』で登場したギルドランドや、『戦乱のゼンディカー』で使われていたバトルランドとの組み合わせによって多色化はより容易になっただろうけど、そういうわけにもいかなくなった」

――パイオニアの限界、ですか。

原根「そう。まず、この時点ではっきりと分かっていたのは友好色の弱さ。『カラデシュ』には対抗色のファストランド(※1)があったけど、友好色のサイクルは現在まで出ていない。また、友好色にはダメージランド(※2)も存在しない。よって、カラーリングの強弱の差がマナベースにはっきりと出るようになった。このころの友好色のデッキでは、『イニストラードを覆う影』に収録されていたシャドウランド(※3)まで採用されていたからね。」

※1:ファストランド
秘密の中庭》、《尖塔断の運河》、《花盛りの湿地》、《感動的な眺望所》、《植物の聖域》のこと。友好色のものは『ミラディンの傷跡』に収録されている。

※2:ダメージランド
コイロスの洞窟》、《シヴの浅瀬》、《ラノワールの荒原》、《戦場の鍛冶場》、《ヤヴィマヤの沿岸》のこと。友好色のものは『基本セット第10版』に収録されている。

※3:シャドウランド
港町》、《詰まった河口》、《凶兆の廃墟》、《獲物道》、《要塞化した村》のこと。対抗色のサイクルは存在しない。歴代でも最弱クラスの多色土地と言われている。

――たしかに友好色のデッキでは確定タップインランドである《曲がりくねる川》のサイクルまで採用されることがあるなど、マナベースの弱さが目立ちますね。

原根「うん。これはパイオニアの一番の大きな前提で、この『多色化が容易ではない』という前提のもとにこの後の環境が形作られていくことになるんだ」

2019年11月8日 《守護フェリダー》、《豊穣の力線》、《ニッサの誓い》禁止

――次に禁止されたのは《守護フェリダー》をはじめとする3枚のカードでした。この時点でのパイオニアはどのような環境だったのでしょうか?

原根「この頃、多くのプレイヤーが注目していたカードがいくつかあった。大きく分けると1マナのマナクリーチャー守護フェリダーだった。まず前者は《ラノワールのエルフ》と《エルフの神秘家》の2種8枚(《金のガチョウ》を加えると3種12枚)が存在していて、序盤の動きを大きく安定させることができた。また、《守護フェリダー》は言わずもがな、《サヒーリ・ライ》とのお手軽即死コンボが注目されていたね」

――《守護フェリダー》は最初期の一番の注目株でしたね。逆に言えば、大方のプレイヤーが禁止を予想していた枠でもありました」

原根「実際、このデッキは支配的と言えるほど強かった。前の項目で話したとおり、この環境には『容易な多色化ができない』という前提があるんだ。対してサヒーリコンボは最低でも3色のデッキで、大抵の場合は緑を足した4色の構築になることが多かった。それはつまり、多色化のリスクを負ってなお、圧倒的な強さを誇っていたということ。後で詳しく話をするけど、パイオニアで多色化が敬遠されがちなのは、マナベースに負荷がかかることはもちろんだけど、リスクに見合ったリターンがないということも理由のひとつなんだよ」

――つまり、サヒーリコンボくらいのエッジがなければ多色化はしたくないということですね」

原根「カードプールが広いから、色を足さなくても十分強いデッキを組むことができるんだよね。たとえば《豊穣の力線》はまさに最初期の緑単を象徴するカードだけど、『緑単信心』は3ターン目に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》をプレイすることも可能だった。そうなると、多色化する意味ないよね。相手を出し抜くために、圧倒的な押し付けが必要だったのがこの環境の特徴だね。」

――「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」ってことですね。

2019年11月12日 《夏の帳》禁止

原根「これもほとんど《守護フェリダー》や《豊穣の力線》と同タイミングと言えるね。《豊穣の力線》を失った『緑単信心』は、『緑単ランプ』や『緑単アグロ』のような形に路線変更していくんだけど、このときまでコントロールデッキは息をしていなかったんだ」

――《夏の帳》のせいですね。

原根「そのとおり。『どうせ《夏の帳》があるしなぁ』という状況だと、コントロールを使うメリットよりもデメリットの方が目立つよね。ただでさえこの頃のパイオニアでは『サヒーリコンボ』と『緑単信心』がいなくなったことでフェアデッキ寄りの環境になってたんだけど、緑系のデッキが《夏の帳》を持っているせいで、依然としてミッドレンジやコントロールが成立しにくい環境だったんだ」

――しかも、フェア寄りの環境ということは……

原根「うん、王冠泥棒、オーコ》の天下だね。マナクリーチャーは依然として使えるから、2ターン目《王冠泥棒、オーコ》、3ターン目以降《夏の帳》構えてグッドゲーム、みたいな展開があった。《夏の帳》は、スタンダードっぽい環境では許されないカードだったね」

――この時期には「黒単アグロ」も勝っていましたね。

原根「そうだね。この時期、Magic Onlineで開催されていたPTQで頭角を表してきていたのが『黒単アグロ』だった。さっきも言ったとおり、パイオニアでは多色化が敬遠されがちなんだけど、その理由のひとつが『強い能力を持った土地が採用しにくくなる』ということなんだよね。たとえば『黒単アグロ』は《変わり谷》と《ロークスワイン城》の2種類の土地が使えて継戦能力が高く、かつこの頃は《密輸人の回転翼機》も使うことができたから、アグロデッキの中では非常に強力だったんだ」

2019年12月3日 《死者の原野》、《むかしむかし》、《密輸人の回転翼機》禁止

――続く12月には《死者の原野》をはじめとしたカードが禁止されました。

原根「どれも妥当な禁止だったね。特にこれまで触れてこなかったけど、《死者の原野》はスタンダード以上に強力で、コントロールを死滅させていた要因のひとつだった」

――なにかとコントロールの人権が奪われていますね。

原根「《死者の原野》はこれまで紹介してきたデッキの中でも格別だね。何しろ絶対に打ち消すことができないセットランドというアクションでフィニッシャーをプレイすることができて、しかもスタンダードと違って《約束の刻》も使うことができたから。この《約束の刻》はこの手のカードにしては珍しく基本でない土地を探すことができるから、ほとんどパイオニアの《原始のタイタン》と呼んでも差し支えないと思う」

――それに《むかしむかし》も禁止されました。

原根「《むかしむかし》はパイオニアのカードプールの中でも頭ひとつ抜けて強いカードだったからね。《王冠泥棒、オーコ》を使ったデッキはもちろんだけど、このとき注目されていた『ロータスコンボ』もかなりの弱体化を余儀なくされた。『ロータスコンボ』は《樹上の草食獣》で土地を並べて《睡蓮の原野》を出して《砂時計の侍臣》でマナを増やしていくデッキなんだけど……」

――そのすべてのカードにアクセスできるのが《むかしむかし》だったと。

原根「そのとおり。《むかしむかし》はデッキの潤滑油というか、『ロータスコンボ』がエッジを出せる要素のひとつだったんだけど、この禁止によって格段にマリガン率が高まって、メタゲームの表舞台から姿を消すことになったんだ。人によっては『《むかしむかし》がなくなってロータスコンボは一段階弱くなった』みたいに言う人がいるけど、個人的には20段階くらい弱くなったと感じるよ」

――《密輸人の回転翼機》についてはいかがですか?

原根「これは『黒単アグロ』に対する調整だね。PTQの結果を見れば明らかな通り、『黒単アグロ』は強すぎたから。だけど『黒単アグロ』って、入ってるカード自体はどれも並のカードなんだよね。だから調整が入るとしたら《密輸人の回転翼機》は妥当なところだったと思う。もちろん、《密輸人の回転翼機》がない今でも十分一線級の強さなんだけどね」

2019年12月17日 《王冠泥棒、オーコ》、《運命のきずな》禁止

原根「お疲れさまでした」

――やっぱダメすか?

原根「はい」

禁止カードが出揃ってから、『テーロス還魂記』リリースまで

――12月17日の禁止改定を境に、パイオニア環境はメタゲームを固めていくフェイズに移行するようになりました。

原根「まず最初に勝ったのは『イゼット・フェニックス』と『青白コントロール』だった。これらが出てきた理由は2つあって、『既存デッキだから組みやすい』ということと『環境が固まってきた』からだと思う。同様にこの時期『グルール・アグロ』なんかも出てきたんだけど、これもこの理由が当てはまるね。逆に、パイオニアならではの完全新規のデッキとして『5色《ニヴ=ミゼット再誕》』のようなデッキもあるんだけど、これがメタゲーム上に登場するようになるまで結構時間が空いているよね」

――それまではファンデッキのような感じで、たまに結果を残す程度でしたね。

原根「うん、カードプールはほとんど変わっていないにも関わらずね。そもそもパイオニアというフォーマット自体が始まってから日も浅いし、まったく新しいコンセプトのデッキは組みにくい環境だとは思うよ。ただ、今後はある程度メタゲームの方向性もはっきりするだろうし、コントロールやミッドレンジのようなデッキも増えていくかもね」

――この頃の環境の特徴はどんなものが挙げられますか?

原根「まず、『イゼット・フェニックス』を倒すために『赤単』が流行った。というより、流行りすぎた。ボロスカラーで《ボロスの魔除け》だけ入っている形をはじめとして、いろんなタイプの赤単が生まれたんだ。ミラーマッチ対策を豊富に搭載したミッドレンジデッキが出てきたり、『カラデシュ』の頃のように《屑鉄場のたかり屋》をタッチした赤タッチ黒も出てきて、さらに《無許可の分解》まで採用した『赤黒ミッドレンジ』も見られるようになったりね」

――これはどういった理由から流行ったのでしょうか?

原根「どのような形の赤単だとしても、メタゲームの上位だった『イゼット・フェニックス』に非常に有利だったということが1つ。あとは《ラムナプの遺跡》のような単色デッキならではの土地が強かったことも理由の1つだね。そして何より、あらかたの”ズル要素”が禁止されていったことで、エッジの効いたデッキは組みにくくなっていった。そんな中で、尖ったデッキである『赤単アグロ』はそれだけでイニシアチブがあったんだ」

――やはりパイオニアは単色環境なんですね。

原根「というより、色を足すことによるバリューを出しにくい環境といえるかな。たとえば『アブザン・ミッドレンジ』なんかはいい例だけど、《包囲サイ》を出すまでにギルドランドを何度かショックインしていたりすると、ライフゲインしてもプラスマイナスゼロだったり。対して単色デッキでもできることは十分に多いから、結果的に3色以上のデッキは『5色《ニヴ=ミゼット再誕》』のように、多色であることを十分活かすことのできるデッキでないと成立しにくいんだ」

――なるほど。話は変わりますが、『テーロス還魂記』リリースの影響はどのように感じますか?」

原根「まだはっきりとは分からないけど、『青黒《真実を覆すもの》』だったり、『イゼット《死の国からの脱出》』、あるいは『白単《太陽冠のヘリオッド》』のような新デッキが出てきているし、環境は大きく変化していきそうだね。これらのデッキはまだ最適な形も生まれていないだろうし、これからもっと強くなっていくと思う」

――新デッキも出てきますかね?

原根「まったく新しいコンセプトのデッキアイディアが埋没しているかどうかは分からないけど、いろいろなデッキが増えてきて、最初の頃と比べれば相対的に単色アグロの比率も下がってきているよね。それに加えて今後もカードプールが広がり続けることを考えると、ひとつのデッキのシェアはどんどん下がっていって、最終的には『何でもいる環境』、要するにモダンのようなフォーマットになっていくんじゃないかな?」

――それは楽しみですね。今回は詳しいお話ありがとうございました!


 以上が原根の分析するパイオニアという環境の変遷である。「デッキを多色化するリターンが薄い≒単色デッキが強い」「新しいコンセプトを持ったデッキは生まれにくい」とした上で、「(カードプールが拡大していく一方である以上)今後はデッキが増え、モダンのような環境になっていく」と結論づけていたのが印象的だった。

 原根は誰よりも深く、的確に環境を把握しているプレイヤーのひとりだ。それは自身の思考と経験を言語化し、丁寧に保存してきたからなのだろう。今後も原根の言葉と、活躍に注目していきたい。

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RESULTS

対戦結果 順位
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11 11
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