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プロツアー『モダンホライゾン3』

戦略記事

プロツアー『モダンホライゾン3』メタゲームブレイクダウン

Frank Karsten

2024年6月28日

 

 デッキリストは出揃い、データも準備できた。そして2024年3つ目のプロツアーがいよいよ始まる! 6月28~30日開催の「MagicCon: Amsterdam」で行われる「プロツアー『モダンホライゾン3』」では、世界最高のマジック:ザ・ギャザリング・プレイヤー243名がそれぞれのモダン・デッキを手に集い、賞金総額500,000ドルや世界選手権の席、そして優勝トロフィーを懸けて競い合う。地域チャンピオンシップやオンライン予選、前回のプロツアーなどを勝ち抜いてきたトップレベルのプレイヤーたちによるこの大会は、ハイレベルなマジックが繰り広げられる驚嘆の週末となるだろう。

 採用フォーマットは、初日と2日目が各日とも『モダンホライゾン3』ドラフトで開幕し、その後モダン構築5回戦が続く。最終日のトップ8によるプレイオフもモダン構築戦だ。『モダンホライゾン3』は、ユニークで強力な構築基盤をモダンにもたらした。その結果まったく新しいアーキタイプが続々と出現し、メタゲームは激動の時を迎えている。

 大会の模様はtwitch.tv/magicにて生放送でお届けする(日本語放送は日本公式YouTubeチャンネルをご覧ください)。初日と2日目が11時(日本時間18時)から、最終日は10時(日本時間17時)から開始だ。詳細はプロツアー『モダンホライゾン3』観戦ガイドをご確認あれ。

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メタゲームブレイクダウン(モダン)

 モダンは、『第8版』以降の21年分にわたるエキスパンション・セットや基本セット、それからモダンに直接導入されるセットのカードを使用できる、60枚デッキ構築のローテーションなしのフォーマットだ。

 この数か月の間にも、「諜報ランド」の導入や「続唱」デッキによる環境支配、《暴力的な突発》の禁止、《ギルドパクトの力線》の予想外の力、《精鋭射手団の目立ちたがり》の登場など、モダンのメタゲームはいくらかの変化を迎えていた。しかしそれらの変化も、『モダンホライゾン3』が与えたインパクトと比較すると霞んで見えてしまうだろう。この新たなセットによりさらに活性化した環境で迎えたプロツアーのメタゲームは、以下のようになった。

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アーキタイプ名 使用者数 使用率
1. バント・ナドゥ 49 20.2%
2. ルビー・ストーム 23 9.5%
3. ジェスカイ・コントロール 22 9.1%
4. 黒単ネクロ 17 7.0%
5. エルドラージ・トロン 14 5.8%
6. 4色ナドゥ 13 5.3%
7. ボロス・エネルギー 13 5.3%
8. ジェスカイ・ウィザード 12 4.9%
9. 黒単悲嘆 6 2.5%
10. ジェスカイ・ドレスダウン 6 2.5%
11. グルール・エルドラージ 6 2.5%
12. イゼット・マークタイド 5 2.1%
13. エスパー御霊 5 2.1%
14. マルドゥ・エネルギー 5 2.1%
15. ゴルガリ・ヨーグモス 4 1.6%
16. グルール果敢 4 1.6%
17. イゼット・ウィザード 3 1.2%
18. ボロス・バーン 3 1.2%
19. 死せる生 3 1.2%
20. ラクドス悲嘆 2 0.8%
21. ジェスカイ・チャント 2 0.8%
22. ティムール・エルドラージ 2 0.8%
23. マーフォーク 2 0.8%
24. アミュレット・タイタン 2 0.8%
25. ディミーア・ミル 1 0.4%
26. グリクシス・シャドウ 1 0.4%
27. アブザン・ソウルトレーダー 1 0.4%
28. アゾリウス・ハンマー 1 0.4%
29. グルール・スケープシフト 1 0.4%
30. ジャンド独創力 1 0.4%
31. ディミーア悲嘆 1 0.4%
32. バント・コントロール 1 0.4%
33. ボロス果敢 1 0.4%
34. 赤単果敢 1 0.4%
35. マルドゥ・ミッドレンジ 1 0.4%
36. 硬化した鱗 1 0.4%
37. 4色コントロール 1 0.4%
38. スゥルタイ復讐蔦 1 0.4%
39. ドメインZoo 1 0.4%
40. ディミーア・マークタイド 1 0.4%
41. ジェスカイ果敢 1 0.4%
42. ディミーア・ネザーゴイフ 1 0.4%
43. 4色再生 1 0.4%
44. 献身のナドゥ 1 0.4%

 今大会におけるモダンの全デッキリストは、イベントページにて公開されている。ここでは、特に多くの使用者を集めたアーキタイプを簡単に紹介しよう。

バント・ナドゥ(使用者49名):「バント・ナドゥ」は、《有翼の叡智、ナドゥ》と《手甲》を揃えることを狙う新たなコンボ戦略だ。《手甲》は0マナでクリーチャーを対象に取ることができるため、コントロールしているクリーチャー1体ごとに《有翼の叡智、ナドゥ》の能力を誘発させることができ、それにより大量のカードを無償で手に入れられる。《有翼の叡智、ナドゥ》により戦場に出た土地は《春心のナントゥーコ》の能力を誘発させ、1/1のクリーチャーが生成されることでまた《手甲》で2回対象に取れるようになる。このデッキはひとたび動き出せば、たやすくライブラリーをすべて引き切ることが可能だ。途中で《有翼の叡智、ナドゥ》を新たにプレイすれば、「1ターンに2回まで」の制限もリセットできる。最終的には《タッサの神託者》や、《忍耐》を絡ませる複雑なループでゲームに勝利するのだ。

ルビー・ストーム(使用者23名):「ルビー・ストーム」は、『モダンホライゾン3』で登場した《ルビーの大メダル》と《モンスーンの魔道士、ラル》を軸にした新たなコンボ戦略だ。それらが戦場にあると、《発熱の儀式》や《捨て身の儀式》が1マナで3マナ生み出すカードになり、強力なマナ・ブーストになる。また《無謀なる衝動》や《レンの決意》のコストも下がるため、デッキを素早く掘り進めることができる。勝利への道筋としては、コストが減った状態で1ターン中に大量の呪文を唱え、《炎の中の過去》でさらに呪文を重ねて、最後は《ぶどう弾》で決着をつける。

ジェスカイ・コントロール(使用者22名):「ジェスカイ・コントロール」は、単体除去や打ち消し呪文、ドロー手段、全体除去、そして強力な新戦力である《火の怒りのタイタン、フレージ》を駆使しゲームをコントロールして勝利するデッキだ。このデッキには、『モダンホライゾン3』の新たな「エネルギー」要素である《語りの調律》や《電気放出》、《空の怒り》も採用されている。他のジェスカイ3色のデッキと違うのは、《一つの指輪》や《記憶の氾濫》を少なくとも3枚以上採用してカード・アドバンテージを獲得し、コントロール・プランを支えている点だろう。

黒単ネクロ(使用者17名):「黒単ネクロ」は、軽く効率的な干渉手段で序盤からリソースを交換し、こちらが失った分を《ネクロドミナンス》で補充するデッキだ。元となる《ネクロポーテンス》と異なり、この新たなエンチャントはカードを「引く」ため、《黙示録、シェオルドレッド》とともに使うことで完璧な5枚を作り上げながらライフ総量をほぼ倍にできる。またカードを引いてからクリンナップ・ステップで手札を捨てるまでに呪文を唱えられるタイミングもあるため、大量のライフを支払って引いたカードを《不憫な悲哀の行進》や《魂の撃ち込み》に注ぎ込み、ターンを始めたときより多くのライフを持った状態で終了できる。

エルドラージ・トロン(使用者14名):「エルドラージ・トロン」は、『モダンホライゾン3』の《ウギンの迷宮》に《運命を貪るもの》や《全ては塵》を「刻印」して、1ターン目から2マナを出せるようにするデッキだ。これを《エルドラージの寺院》や「ウルザトロン」の3土地とともに使うことで、このデッキは早い段階で大量の無色マナを生み出せるようになる。マナの使い道としては、どの使用者も《大いなる創造者、カーン》や《一つの指輪》、《コジレックの命令》を採用している。

4色ナドゥ(使用者13名):「4色ナドゥ」は「バント・ナドゥ」を基本とし、そこへ《オークの弓使い》や《思考囲い》をタッチした形だ。面白いことに、今大会の《有翼の叡智、ナドゥ》デッキの多くが、《タッサの神託者》を削って代わりに《忍耐》ループを勝ち手段として採用している。これは「4色ナドゥ」の方が説明しやすいだろう。ライブラリーが土地4枚のみになり、《春心のナントゥーコ》を《忍耐》と《オークの弓使い》に「授与」している状態になったら、昆虫・トークン4体を《手甲》で対象に取る。戦場に出た土地で《オークの弓使い》と《忍耐》のコピーを生成し、《森を護る者》でそれらの土地を生け贄に捧げて、《忍耐》の能力でそれらをライブラリーに戻す。これを繰り返すことで《オークの弓使い》のコピーを無限に生成でき、無限にダメージを与えられるのだ。

ボロス・エネルギー(使用者13名):「ボロス・エネルギー」は、《魂の導き手》や《色めき立つ猛竜》、《電気放出》、《不安定な護符》、《静牢》といったカードを組み合わせ、『モダンホライゾン3』で再びやってきた「エネルギー」メカニズムを最大限に活かしたミッドレンジ・デッキだ。これらの強力なカードを使うことで、エネルギーを常に最大効率で使うことができ、ゲーム序盤から繰り出されるクリーチャーは対戦相手に決して無視できないプレッシャーを与える。

ジェスカイ・ウィザード(使用者12名):「ジェスカイ・コントロール」と同様に、「ジェスカイ・ウィザード」も《火の怒りのタイタン、フレージ》や《語りの調律》、《電気放出》、《空の怒り》の「エネルギー」要素に注目したデッキだ。「ジェスカイ・ウィザード」が他のジェスカイ3色のデッキと異なるのは、《知りたがりの学徒、タミヨウ》や《瞬唱の魔道士》を採用して《アノールの焔》を使えるようにしている点だろう。4ターン目に《知りたがりの学徒、タミヨウ》を唱え、直後に《アノールの焔》を放てば、すぐに《知りたがりの学徒、タミヨウ》をプレインズウォーカーへ変身させるという強力な動きが実現できる。プレインズウォーカーとなったタミヨウは防御に優れた能力を持ち、ゲームを終わらせる奥義にも到達しやすい。

黒単悲嘆(使用者6名):「黒単悲嘆」が夢見るのは、1ターン目に《悲嘆》を「想起」して対戦相手の《電気放出》を捨てさせ、「想起」の能力がスタック上にある間に《まだ死んでいない》を使い、《悲嘆》を戦場に戻すことだ。この恐るべき動きはおよそ7回に1回の割合で実現可能であり、もう1回手札破壊がついた上で4/3威迫を残すことができる。この戦略には、《ミシュラのガラクタ》や《ウルザの物語》が墓地に落ちると育つ『モダンホライゾン3』の《ネザーゴイフ》が新たに加わっている。

ジェスカイ・ドレスダウン(使用者6名):「ジェスカイ・ドレスダウン」も「ジェスカイ・コントロール」や「ジェスカイ・ウィザード」と似ているものの、少なくとも3枚の《激しい叱責》と複数枚の《虚構漂い》を採用していることが特徴だ。《激しい叱責》を使うことで、3マナでプレイした《火の怒りのタイタン、フレージ》や《虚構漂い》を生け贄に捧げなくてもよくなり、強大な脅威を少ないコストで繰り出すことができる。生け贄に捧げる誘発は《記憶への放逐》で打ち消すこともできるため、《虚構漂い》は早い段階から対戦相手を「滅殺」できるのだ。

グルール・エルドラージ(使用者6名):「グルール・エルドラージ」は、「エルドラージ・トロン」と同様に《エルドラージの寺院》や《ウギンの迷宮》で素早くマナを加速し、ゲーム中盤に強力なエルドラージや最重量級の呪文を叩きつけていく。このデッキ独自の必殺技と言えるのが、《裂け目の突破》で《引き裂かれし永劫、エムラクール》を繰り出す動きだ。その後の攻撃で、「滅殺6」が待ち受けている。

 全体的にみて、今回のプロツアーにおけるメタゲームはコンボ戦略が大勢を占めている。私は先週にも『モダンホライゾン3』導入直後のオンライン・イベントを分析したが、その時点ですでに「ルビー・ストーム」や「バント・ナドゥ」がこの舞台に現れるのは約束されていたように見えた。それから1週間が経ち、それら2デッキはプロツアーのメタゲームで最上位に立っている。「バント・ナドゥ」と「4色ナドゥ」と「献身のナドゥ」で合わせて26%近くのプレイヤーが、《有翼の叡智、ナドゥ》と《手甲》のコンボを揃えようとしている。「ルビー・ストーム」やその他のコンボ戦略もかなりの勢力を築いており、今大会のゲームは多くが早ければ3ターンで決着するものになるだろう。

 とはいえモダンの進化は早い。例えば「死せる生」のような実績あるアーキタイプは、プレイヤーたちが新しいカードの分析に取り組む中で勢いを落としていった。一方で「黒単ネクロ」のような新たなアーキタイプが一気に勢力を広げている。中でも特に大きく発展しているのは、『モダンホライゾン3』で登場した新たな「エネルギー」カードと《火の怒りのタイタン、フレージ》を使う、さまざまな形のボロス、ジェスカイ、マルドゥ・デッキだろう。すべて合わせると25%近くのプレイヤーがそれらを使っており、「ナドゥ」の勢力に迫るほどである。ではこれらのデータをより詳しく分析するために、新セットで特に多く使われているカードを見ていこう。

『モダンホライゾン3』で特に多く使われているカード

 既存のカードプールによって高いハードルが設定されているモダンにおいても、『モダンホライゾン3』は十分なインパクトを与えた。実際に、プロツアー参加者243名のうち242名が、このセットに収録されたモダン新録のカードを少なくとも1枚以上使用している。プロツアー参加者のデッキリストに採用されている、モダン新録カードの使用枚数は以下の通りだ。

カード名 合計枚数 メインデッキ サイドボード
電気放出 268 268 0
火の怒りのタイタン、フレージ 264 211 53
有翼の叡智、ナドゥ 252 252 0
春心のナントゥーコ 232 232 0
記憶への放逐 190 20 170
空の怒り 183 138 45
語りの調律 162 162 0
静牢 115 50 65
モンスーンの魔道士、ラル 92 92 0
ルビーの大メダル 92 92 0
色めき立つ猛竜 92 92 0
運命を貪るもの 88 88 0
コジレックの命令 88 88 0
ウギンの迷宮 88 88 0
知りたがりの学徒、タミヨウ 85 81 4
不安定な護符 79 79 0
魂の導き手 78 78 0
ナカティルの最下層民、アジャニ 77 77 0
不可能の一瞥 73 73 0
ネクロドミナンス 68 68 0
森を護る者 68 68 0
栄光の闘技場 65 65 0
極性の逆転 55 45 10
攪乱のフルート 53 9 44
ボガートの獲物さらい 52 52 0
不敬者破り 48 48 0
変容する森林 43 42 1
悪意の閃光 41 31 10
ファイレクシアの塔 36 36 0
オアリムの詠唱 36 6 30
ネザーゴイフ 34 34 0
荒れ模様のストームドレイク 33 10 23
朦朧への没入 27 27 0
苛立たしいガラクタ 27 4 23
虚構漂い 27 26 1
マルコフ家のソリン 23 23 0
超能力蛙 22 22 0
再誕世界、エムラクール 22 22 0
毒の濁流 21 0 21
海の先駆け 21 7 14
拒絶の閃光 20 19 1
邪悪鳴らし 20 20 0
まき散らす菌糸生物 16 10 6
オセロットの群れ 16 16 0
穢すもの、ウラモグ 15 15 0
溌剌の牧羊犬、フィリア 13 13 0
黄泉帰る悪夢 9 9 0
存在を盗むもの 9 0 9
荒景学院の戦闘魔道士 9 8 1
耕作の閃光 8 8 0
エルドラージの戦線破り 8 8 0
終わりを告げるもの 8 8 0
脈打つ知識 8 8 0
蛮族のリング 6 6 0
マリオネットの見習い 6 6 0
記念碑的列石 5 5 0
溶融 5 0 5
密偵長の大霊堂 4 4 0
発想の奔出 4 4 0
巣穴の魂商人 4 4 0
セファリッドの円形競技場 4 4 0
真実を溺れさせるもの 4 4 0
白蘭の幻影 4 4 0
出産の儀 4 4 0
狼狽の嵐 3 0 3
綿密な分析 3 3 0
崩壊した現実、コジレック 2 0 2
橋仕掛けの戦い 2 2 0
六番 2 2 0
呪われた匪賊 2 0 2
激しい腐敗 2 2 0
大食の幼生、グリスト 2 2 0
生き埋め 2 2 0
無霊破 2 0 2
集団的防衛 1 0 1
幽霊火斬り 1 0 1
力漲る腹拵え 1 1 0
軍団の統率 1 1 0
 

 単純な採用枚数で見れば、最も重要な新カードは《電気放出》と《火の怒りのタイタン、フレージ》であると言えるだろう。両カードは「ジェスカイ・コントロール」や「ボロス・エネルギー」、「ジェスカイ・ウィザード」、「ジェスカイ・ドレスダウン」、「マルドゥ・エネルギー」、その他さまざまなデッキで採用されている。加えて「ルビー・ストーム」の多くが、《ドラニスの判事》への対処手段と別の勝ち手段として《火の怒りのタイタン、フレージ》をサイドボードに備えている。《電気放出》も同じく、「グルール果敢」などでも採用されている。

 《電気放出》は新たな「エネルギー」関連カードで最も採用されているカードだ。クリーチャーやプレインズウォーカーに対しては、基本的に柔軟性が加わった《稲妻》として機能する。他のエネルギー関連カードと組み合わせることで多くのクリーチャーを除去できるようになり、《邪悪な熱気》のようにも機能する。さらに小型クリーチャーを焼くならエネルギーを温存でき、その後の《空の怒り》に使える。だがプロツアー参加者の多くはこの流れを予想しており、対戦相手がエネルギー・カウンターを集められなくなる強烈な回答として《陽光浄化者》の採用も見受けられ始めている。

 《火の怒りのタイタン、フレージ》は、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》や《死の飢えのタイタン、クロクサ》の亜種だ。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》は現在モダンで禁止されており、《死の飢えのタイタン、クロクサ》は昨年の「プロツアー『指輪物語』」を制した。マジックの歴史に残る血統書付きの種なのである。2マナで手札を捨てさせる《死の飢えのタイタン、クロクサ》よりも、3マナで《稲妻のらせん》を撃つ《火の怒りのタイタン、フレージ》の方が、基本的に優れている。盤面のコントロールに長けるこのカードはゲームを長引かせ、「脱出」に成功すれば戦場を支配し、その後のダメージレースも圧倒するだろう。

 

 《有翼の叡智、ナドゥ》はまったく新しいコンボ戦略を成立させ、今大会の先頭を走っている。《有翼の叡智、ナドゥ》自身も3/4の飛行持ちということで《稲妻》で死亡せず、対戦相手がこれを除去しようとすればカードを1枚引ける。そして《手甲》や《コーの先導》のような0マナで自身のクリーチャーを対象に取る手段と組み合わせたとき、そこから一気にゲームを決められる。《有翼の叡智、ナドゥ》の能力は全体で2回ではなく、あなたがコントロールしているクリーチャー1体ごとに2回ずつ誘発するため、すべてのクリーチャーが無償でカードを2枚もたらす効率的な存在となり、さらに土地は戦場に出せるのだ。

 《春心のナントゥーコ》は、《有翼の叡智、ナドゥ》と犯罪的なまでに相性の良いパートナーだ。これらが戦場に揃うと、《有翼の叡智、ナドゥ》で引き当てた土地がすべて1/1の昆虫・トークンを生成し、対象に取るクリーチャーが基本的に枯渇しなくなるためコンボを継続できる。さらに「授与」を行うことでさらなるバリュー獲得の可能性があり、今大会でも《春心のナントゥーコ》を授与した《樹上の草食獣》と《精力の護符》、《シミックの成長室》を組み合わせて《樹上の草食獣》を無限に生成するプランを組み込んでいるプレイヤーがいる。

 

 「エネルギー」関連カードは、採用した分だけ強くなる。エネルギー獲得源を複数用意することで、ゲームを通してエネルギーを最適に扱えるのだ。最も多く使われているのは《電気放出》だが、《空の怒り》や《語りの調律》、《静牢》、《色めき立つ猛竜》、《不安定な護符》、《魂の導き手》と『モダンホライゾン3』の新カードがよく使われているのが見受けられる。

 中でも《空の怒り》はジェスカイ・デッキに軽い全体除去をもたらし、盤面への大量展開に頼った戦略に壊滅的な被害を与える。また《ウルザの物語》に対しても非常に強く、結果的に「バント・ナドゥ」への最高の回答になっている。その上さらに、《語りの調律》から《空の怒り》とつなげることで、早ければ2ターン目や3ターン目に盤面を一掃できる。

 《静牢》、《色めき立つ猛竜》、《不安定な護符》、《魂の導き手》はジェスカイ・デッキに広く見受けられるわけではないが、「ボロス・エネルギー」や「マルドゥ・エネルギー」で採用されている。《静牢》はまた、《減衰球》のようなカードを1マナで対処できる点が買われ、「ルビー・ストーム」のサイド・カードとして人気を集めている。

回転

 

 《モンスーンの魔道士、ラル》と《ルビーの大メダル》も、『モダンホライゾン3』で特に使用されているカードの上位に入っている。採用されているアーキタイプは「ルビー・ストーム」1つだが、4枚ずつ採用が必須となっている。これら呪文のコストを減らす2マナ域と《発熱の儀式》や《無謀なる衝動》を組み合わせることで、このコンボ戦略は3ターン目にゲーム勝利することを可能としている。

 

 最後に、新たなエルドラージ・カードを取り挙げたい。《運命を貪るもの》を《ウギンの迷宮》に「刻印」することで2マナを生み出す土地がもたらされ、加速したマナは《コジレックの命令》に注ぎ込める。これらのカードは、新たな「エルドラージ・トロン」や「グルール・エルドラージ」、「ティムール・エルドラージ」を成立させている。それらの構築には少しずつ差異があるものの(「エルドラージ・トロン」は大量マナを目指し、『グルール・エルドラージ』は《裂け目の突破》を使い、「ティムール・エルドラージ」はよりアグレッシブな形だ)、どれもすべてを貪るエルドラージの力を見せつけている。

 《運命を貪るもの》の輝きに引かれてか、エルドラージとそれを唱えたときの誘発型能力を両方打ち消せる《記憶への放逐》がサイドボードで非常に人気を集めている。《記憶への放逐》は《一つの指輪》への回答にもなるほか、《火の怒りのタイタン、フレージ》の生け贄に捧げる能力をもみ消すといった使い方もできるため、その用途は多岐にわたるのだ。実際に『モダンホライゾン3』の新カードの中でもサイドボードに最も多く採用されており、新たな脅威に対する適切な回答になることを示している。以上のように、モダン環境は刷新された。今大会が閉幕したそのとき、最終的にどのデッキが頂点に立ったのか見届けるのが楽しみだ!

「第30回マジック世界選手権」への道

 「プロツアー『モダンホライゾン3』」にて36点以上のマッチ・ポイントを獲得したプレイヤーやトップ8に入賞したプレイヤーは、競技マジックの頂点たる「第30回マジック世界選手権」への参加権利が授与される。私たちは10月の後半に行われるこの大会に向けてカウントダウンを行っており、私は過去のマジック世界選手権から素晴らしいデッキを紹介している。これまで1994年1995年1996年1997年1998年1999年2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年と見てきたので、今回は2008年を振り返ろう。

 「マジック世界選手権2008」は、57か国から合計329名のプレイヤーがアメリカ・テネシー州メンフィスに集い、スタンダードとドラフトとエクステンデッドで競われた。最終的にトロフィーを掲げたのは、「フェアリー」を使うフィンランドのアンティ・マリン/Antti Malinだった。もちろん彼が仕上げたデッキリストとそのパフォーマンスは最高のものであったのだが、今回は同じトップ8から別の「フェアリー」デッキを取り挙げたいと思う――私が使ったやつだ!

Frank Karsten - 「フェアリー」
マジック世界選手権2008 / スタンダード(2008年12月11日)[MO] [ARENA]
2 《フェアリーの集会場
5 《
4 《変わり谷
4 《人里離れた谷間
4 《沈んだ廃墟
2 《
4 《地底の大河
-土地(25)-

4 《霧縛りの徒党
4 《ウーナの末裔
2 《誘惑蒔き
4 《呪文づまりのスプライト
1 《ヴェンディリオン三人衆
-クリーチャー(15)-
4 《苦悶のねじれ
4 《苦花
1 《砕けた野望
4 《謎めいた命令
1 《ジェイス・ベレレン
1 《ロクソドンの戦槌
1 《思案
2 《霊魂放逐
2 《思考囲い
-呪文(20)-
1 《深水の底引き
2 《瞬間凍結
1 《エレンドラ谷の大魔導師
4 《蔓延
1 《否認
1 《コショウ煙
2 《誘惑蒔き
1 《恐怖
2 《思考囲い
-サイドボード(15)-
 

 「フェアリー」デッキは、この大会で最も多くの使用者数を集め、トップ8へ5人を送り込んだ。このデッキの力の源となっているのが、《苦花》である。この強力なエンチャントはゆっくりとフェアリーの群れを生み出し、チャンプ・ブロックで時間を稼いだり、《呪文づまりのスプライト》を確定カウンターに変えたり、《ウーナの末裔》による全体強化を受けたりできるのだ。

 ライフを毎ターン失うのは負担になるが、《霧縛りの徒党》の「覇権」でいつでも戦場から取り除ける。「フェアリー」デッキは、優れたテンポ感覚や役割判断力を持ち、空中戦のダメージ・レースを制することができる者に勝利をもたらした。「マジック世界選手権2008」での大流行を受けて、2011年のモダン導入時にはあらかじめ禁止されるほどだった。しかし2014年に解禁された後は、2008年のスタンダード当時ほどの高みへは至れないでいる。

 「マジック世界選手権2008」で私がトップ8入賞を果たしたデッキリストには、《思案》1枚や《砕けた野望》1枚、《ロクソドンの戦槌》1枚など奇妙に見える数字が散見される。その理由は、私が100人近い「フェアリー」デッキの先人たちの知恵を駆使してデッキを組み上げたからだ。私はデッキリストをかき集めてデータを分析し、平均値を計算した。その結果、《謎めいた命令》4枚積みのプレイヤーや《》5枚採用のプレイヤー、《霊魂放逐》3枚のプレイヤーなどの人数の集計をもとにしたリストが完成したのだ。それは完璧に機能し、データ分析が成功をもたらすことが証明されたのだった。

 自身がプロツアーに参戦する日々は過ぎ去ったが、私は今でもデータをふるいにかけることが大好きで、毎週デッキリストの集計とメタゲーム分析を行っている。今大会は私の母国であるオランダで開催されるのもあり、ニュースデスクに座り、モダンのメタゲームやデッキ、カード、マッチアップなどの数字を皆さんにお届けする予定だ。twitch.tv/magicでの生放送をお見逃しなく!(日本語放送は日本公式YouTubeチャンネルをご覧ください)

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