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EVENT COVERAGE
プロツアー『モダンホライゾン3』
The Week That Was:モダンの最重要カード
2024年6月26日
モダンをモダン足らしめているものとは何か?
2011年にフィラデルフィアで無限にフェアリーを繰り出し鮮烈なデビューを飾ったこのフォーマットは、今年13年目を迎えている。重ねた年月の中で変わることなく鎮座するものもあれば、変化を続けきたものある。
「プロツアー『モダンホライゾン3』」がいよいよ開幕のときを迎え、デッキリストが出揃い、世界中のプレイヤーたちがアムステルダムに集った。「第30回マジック世界選手権」前の最後のプロツアーに向けて、準備は万端だ。選手たちがこれから挑むのは、広大なる『モダンホライゾン3』ドラフトの解明だけではない。『モダンホライゾン3』がこの極めて重要なイベントにどのような影響を与えるのかも解明しなければならないのだ。
そのためにプロツアーに先がけてプレイテスト・チームが数多く結成され、難題に取りかかった。だがモダンを解明する前に、まずはどこから手をつけるか見極めなければならない。モダンは膨大なカードを擁する広大なフォーマットであり、今シーズンのトップチームであっても解明は困難を極めるのだ。モダンには長年にわたり確固たる地位を築いている戦略があり、マーフォークの達人のような特定のアーキタイプに特化した専門家も多数いる(「アミュレット・タイタン」の専門家、「ストーム」の専門家、「ラクドス」の専門家……おわかりいただけるだろうか)。
プロツアー参加者たちが大会に向けたデッキを構築する上で特に意識しているものを知るために、私たちは(選手に直接聞くという)高度な先進技術を駆使して彼らが大会に向けて用意したものを確かめた。すると、明らかに目立つものがいくつか挙げられた。
「1年以上にわたって、《悲嘆》がメタゲームの大きな部分を占めている。『想起』や『死せる生』、『ネクロドミナンス』など、《悲嘆》との対峙を覚悟しなきゃならない相手は多いよ」と答えたのは、昨年モダンで行われた「プロツアー『指輪物語』」で準優勝したクリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoだ。「だからこういう黒のデッキと相性が悪いデッキは使いたくないね。1ターン目の《悲嘆》からリアニメイトでゲームプランを完全に崩されないように、少ないカードでも機能するデッキを使うのが良いと思う。それから《悲嘆》相手にマリガンはそんなにしたくないから、リスクがある初手もキープせざるを得ない」
数字もそれを物語っている。このフォーマットの最重要カードを聞いたアンケートにおいて、《悲嘆》は最も多くの回答を集めた。先週、フランク・カーステン/Frank Karstenが『モダンホライゾン3』導入直後の好成績デッキをまとめたが、この週末に行われるプロツアーでは刺激的なデッキテクが見られることだろう。この1年が「《悲嘆》祭り」になったわけではないものの、手札破壊がゲームの中心になるマッチアップもこれまでにないほど存在している。「ルビー・ストーム」や「バント・ナドゥ」には、キーカードが戦場に出る前に対処するのが一番なのだ。
プレイヤーたちが最終的にアムステルダムへ持ち込むと決めたデッキが何であれ、《悲嘆》のことは意識した構築にしているはずだ。ジェイク・ビアズリー/Jake Beardsley(《悲嘆》で「プロツアー『指輪物語』」を制した男)に聞くと、その理由がすぐにわかった。
「《悲嘆》は『モダンホライゾン』セットが決定づけたモダンの進化の方向性を最も象徴するカードであると、少なくとも僕はそう思う。モダンに直接導入されるこのセットは、2つの戦略が互いに相手を止めるのではなくいち早くゲームプランを完遂することを求め『闇夜に行き交う2隻の船』と評されるモダンというフォーマットにおいて、やり取りを強調しているんだ」とビアズリーは言う。「《悲嘆》は特にそれを得意としており、フリースペルであることで環境最速のデッキを止めるためのごくわずかな猶予に干渉できる。《悲嘆》は、対戦相手が行動を起こさなくても効果的である点で、こちらから仕掛けられる妨害手段だ。積極的に使える《悲嘆》の能力は、《まだ死んでいない》のようなカードで『想起』を悪用することで単なる妨害手段に留まらず、早ければ1ターン目に対戦相手のゲームプランを完全に崩壊させられる。だからモダンはさっき言ったみたいな猛烈に早い環境に戻っているんだけど、今は自分のプランを完遂するレースじゃなくて相手のプランを引き裂くレースになっているんだ。《悲嘆》は『かつてのモダン』の速度と『ホライゾン後』の環境におけるやり取りを持ちあわせたカードであり、このフォーマットの現在と未来を象徴する存在になっているんだ」
これからモダンの最前線へ飛び込もうというときに、ビアズリーの洞察に触れることができたことに心から感謝したい。マジックの本質は究極の思考ゲームであり、プロツアーに向けての準備では大量のスプレッドシートが活用される。モダンに関わる膨大な計算を省略するための近道の1つは、最高の有識者に解読してもらうことである。ビアズリーの言葉には、皆さんが知っておくべきことがすべて含まれている。
そういうわけで、《悲嘆》から取り挙げた。それではもう一歩先へ進むとどうなるだろうか? そもそも《悲嘆》や《緻密》、《孤独》を実際に使うデッキはどのようなものなのか?
「このフォーマットを真に定義しているのは、フェッチランドですよ」と、デリック・デイヴィス/Derrick Davisが鋭く発した。
デイヴィスは世界選手権の席を争う中でアムステルダムへやってきた。「プロツアー『ファイレクシア』」で準決勝まで進出したこのプレイヤーは、フェッチランドのサイクルの重要性と強さは時を重ねるほど増すと見ていた。
「フェッチランドは、マナを使って何をするかを定めてくれます」とデイヴィス。「モダンを始めてからそれなりに、《召喚の調べ》のようなカードを使う4色デッキをプレイしてきましたが、その手のデッキはマナの重要性や何をいつ持ってくるかが大切であることなどを教えてくれます。フェッチランドで持ってくることができる『トライオーム』が登場したことで、だいぶ簡単になりましたね。それから、《地底街の下水道》のような『諜報ランド』を持ってくるデッキもありますよ」
私自身も、フェッチランドで持ってきた「諜報ランド」で《偉大なる統一者、アトラクサ》が墓地に落ち、すぐにリアニメイトする「奇跡」を目の当たりにしたことがあり、良い意味でとても面白いと思っている。その特定の相互作用についてどう思うかはさておき、あらゆるところで採用されるフェッチランドにまた新たな使い方が加わったことは間違いない。ひょっとしたら、今週末は《脈打つ知識》の姿も見受けられるかもしれないだろう。
それからデイヴィスは、《有翼の叡智、ナドゥ》コンボのような意欲的なデッキも、フェッチランドがなくては成立しないマナベースだと指摘する。モダンを定義するのはマナだと答えるプレイヤーは他にも数多くいた。
ナドゥといえば、この鳥もプロツアー参加者の間で多く言及されていた1枚であることは間違いない。
「モダンの最重要カードは《有翼の叡智、ナドゥ》だと思います。1ゲームプレイすれば、その強さと使う価値がわかりますよ」と回答したのは、「NRG Series2022」でMVPを獲得し、今大会へ向かう飛行機に乗る直前にもNRGでトップ8に入賞した、コナー・マラリー/Connor Mullalyだ。「NRGでは4色バージョンの「ナドゥ・コンボ」を使って6勝2敗でした。同じデッキを使った人たち全員を意見交換しましたよ。さまざまなバージョンを試したところ、このデッキはコントロール寄りにもコンボ速度を追求する形にも、あるいはコンボをじっくり進めて耐久力を上げる形にもできて、本当に多彩な構築ができることがわかりました。最高の形を見出したチームが優位に立つでしょう」
《有翼の叡智、ナドゥ》+《手甲》=利得。それがこの『モダンホライゾン3』収録のクリーチャーについての大前提であると、選手たちは口々に述べた。それから《モンスーンの魔道士、ラル》と《ルビーの大メダル》を擁する「ストーム」が同じく地位を上げており、モダンの世界に文字通り嵐が吹き荒れていると言う。
それら2つのデッキには、ティエリー・ランボア/Thierry Ramboaも取り組んでいた。両デッキはプロツアー常連のこのプレイヤーにも感銘を与えたそうだ。
「『ストーム』を試してみたところ、ラルの活躍ぶりに惚れた。だからモダンのベスト・カードにはまずこれを推すよ。でも正直なところ、他のみんなみたいに『ナドゥ』って言いたくないだけかもしれない!」とランボア。「ナドゥは積極的に攻める側の最高の選択肢の1つだし、じっくり戦うようにも構築できる。総合力は一番かもしれないね。でも《悲嘆》を使うデッキも捨てがたい。《思考囲い》と《悲嘆》の組み合わせはプロツアーの未知のメタゲームに対して大いに役立つと思う」
その未知のメタゲームこそ、モダンの観戦が楽しい大きな理由だ。新たなカードの一部が注目を集める一方で、『モダンホライゾン3』導入直後の環境では実にさまざまなアーキタイプが成功を収めており、「その他」に分類されたデッキがメタゲームの勝ち組になるほど強化されている。
以上のような流れが今のトレンドとなっているが、モダンを代表する呪文は他にもある。昨年の夏に登場してからすっかり定番カードとなった《オークの弓使い》や《一つの指輪》を挙げるプレイヤーも多かった。《オークの弓使い》については、タフネス1のクリーチャーの数や種類に大きな影響を与えている。《一つの指輪》は、自己完結型のデッキにおいて橋渡し役と勝ち手段の両方を担っている。
古き良き《稲妻》にも、称賛の声が上がっている。ここ数週間において「バーン」デッキが復権しており、《稲妻》は変わらずマジックを代表するダメージ呪文として、2024年の今でも1994年の頃のようにデッキを引き締めている。
最後に、私が天才的だと思った盲点を突いた回答をご紹介しよう。「ANZ Super Series」の優勝者であるジェイムズ・ウィルクス/James Wilksが注目したのは、仕掛ける側として特に優れたカードではなく、トップ8デッキのサイドボードにひっそりと数を増やしてきている新たな対応手段だった。
「《毒を選べ》は柔軟性の高いサイドボード・カードだ。強力ながら当たる範囲が狭いサイドボードになりがちなモダンのようなフォーマットでは、強力な干渉手段以外の枠に採用するカードは柔軟性が高ければ高いほど良い」とウィルクスは言う。
「《毒を選べ》は、コストが軽い割になかなか広範囲に対処できる。《濁浪の執政》のようなクリーチャーを排除できるところが単なる《解呪》を大きく超えている。加えて、即座にコンボを決められなければバリューを失うことなく《有翼の叡智、ナドゥ》にも対処できるんだ」
これぞモダンだ。可能性を自ら諦めない限り、どんなことでもできる。果たして「プロツアー『モダンホライゾン3』」に挑む数百名のプレイヤーたちが選択する道とは。Twitch.tv/Magicにて生放送でお届けする今大会が、いよいよ幕を開ける。(日本語放送は日本公式YouTubeチャンネルにて生放送をお送りします。)
「第30回マジック世界選手権」への道
この週末は「プロツアー『モダンホライゾン3』」に注目が集まると思われるが、「第30回マジック世界選手権」も刻々と近づいている。アムステルダムで行われるプロツアーをもって今年の世界選手権の席がほとんど確定し、「MagicCon: Las Vegas」にて行われる世界選手権で次の世界王者が誕生することだろう。
それに先がけて、フランク(・カーステン)と私は過去の世界選手権をそれぞれの記事で振り返っている。今週は2008年を取り挙げるが、おそらく私とフランクはまったく異なる理由でこの大会を懐かしく感じているだろう。私にとってこの大会は、その1年前にマジックを始めて、初めて観戦する世界選手権だった。そこで見たカバレージに私は心を掴まれたのだ。『ローウィン』時代に行われたこの大会では、有名なカードやプレイヤーが続々と登場した。
団体戦では、マイケル・ジェイコブ/Michael Jacob、サム・ブラック/Sam Blackポール・チェオン/Paul Cheonによるアメリカ代表が、オーストラリア代表を打ち破って優勝した。その後、舞台は57か国から329名が参加した個人戦へ移る。メンフィスで繰り広げられた激戦のすえに、5か国のプレイヤーによる綺羅星のごときトップ8が定まった(この大会でも日本勢が圧倒的な活躍を見せ、3人をトップ8の舞台へ送り出した)。この週末には、他を圧倒したデッキがあった。《苦花》、《霧縛りの徒党》、《呪文づまりのスプライト》、《謎めいた命令》、そしてその他フェアリーの大群が、フィンランドのアンティ・マリン/Antti Malinへ勝利をもたらしたのだった。
この大会では、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaが自身4度目のプロツアー・トップ8入賞を果たし、津村 健志が自身6度目のプロツアー・トップ8入賞を決めた。世界選手権でのトップ8入賞は初めてとなるが、大記録も達成したのだった!
アンティ・マリン。マジック世界選手権2008より。
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