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プロツアー『モダンホライゾン3』

インタビュー

闘いの中に楽しみを見出す

Corbin Hosler

2024年7月13日

 

「自分の脳内の音を生み出す部分に働きかけて、生み出した音が画面を通して世界中に伝達されて、別の脳の音を聞き取る部分に届いて、それで意味を理解してもらえるってヤバくないですか?」

 私は今、怒涛の連続トップフィニッシュの締めを、見事に「プロツアー『モダンホライゾン3』」王者というタイトルで飾ったサイモン・ニールセン/Simon Nielsenとのインタビューの席についている。直近6回のプロツアー及び世界選手権で5度のトップ8入賞という比類なき偉業の中に、プロツアーのトロフィーまでもが加わったのだ。サイモンとの会話は予定していた話題からは逸れ、戴冠後他にはどのようなことが起きているか、何をしているかについてまで及んだ。マジックで見せる活力の高さは、当然他のことにも発揮されているというわけだ。

 ポール・リーツェル/Paul Rietzlが併催されたグランプリとプロツアーで同時にトップ8に入るなど、凄まじい“二面打ち”をするプレイヤーの話しは耳にしたことがあるが、サイモンは2023-24年シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーとしてマジック競技シーンの頂点に立ちながら、コペンハーゲン大学で2つ目の研究を終えていたのだ。プロツアーで戴冠するその少し前に、言語を科学的に研究する分野である、言語学の学位を取得したのだ。

 「デンマーク語と英語、あとはドイツ語も少し話せるんですけど、言語そのものと、そのメカニズムについてずっと夢中だったんですよね。」サイモンがこう語ったのは、私が彼にモダンのデッキについて聞いた後、ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Depraz、ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezやパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaのような歴代世界王者のような、強豪プレイヤー立ちの中で、自分をランク付けするならどこになるか?と聞こうとした時だった。「本当にね、興味深い分野なんですよ。」

 サイモンとの通話を終えた瞬間に、改めて彼は謎の多いプレイヤーだという印象が残っていることに気付く。スリープ・インのサイモン。常にネクタイ装備のサイモン。会場で一番ふざけていながら、一番真剣なジョーク屋のサイモン。ワールド・マジック・カップで自国の代表チームを優勝へと導いた、かの有名な”Daneblast”のサイモン。会場まで自転車で来たかったがために、危うくプロツアー出場を逃しかけたサイモン。プロツアー優勝直後、音楽フェス参加のため足早に飛び立ったサイモン。プロツアートップ8の場で冗談を言い、あのハビエル・ドミンゲスをも爆笑させたサイモン。リミテッドと同じくらい言語学について語れるサイモン。世界選手権に向けての調整についての話題に移行しながらも、私にコミュニケーションの本質について見直しをさせることのできる男、それもまたサイモンだ。

 現プレイヤー・オブ・ザ・イヤーであるサイモン。今年もプレイヤー・オブ・ザ・イヤーも筆頭候補なサイモン。プロツアー王者サイモン。現在マジックの競技シーンを圧倒的戦績でぶっちぎるプレイヤー、サイモン・ニールセン。

 そして彼が駆け抜けたこの旅路を、誰よりも楽しんでいるのもまた彼に他ならないだろう。

「プロツアー『モダンホライゾン3』」優勝はサイモン・ニールセン!
プレイヤー・オブ・ザ・イヤーの獲得、6イベント中5回のトップ8入りという、2年間でとてつもない戦績を残したサイモンが、遂に初となるプロツアートロフィーを獲得。
改めて、優勝おめでとうございます!

 「プロツアー優勝ってことを特段夢に見ていたわけではないんですよね。本当、偶然だったわけですが、とても良い経験になりました」とてもサイモンらしい楽天的なコメントだ。「プロツアーで優勝するには、いくつものマッチが自分に都合の良く進行しなければいけませんからね。何よりも大事なのは筋書だと思います。去年から今年にかけて、4位、3位、2位と来ての優勝でしたから、とても良い物語ですよね。」

 もちろん、それだけではないというのは明白だ。彼の戦績に比肩するプレイヤーは極わずかしかいない。他にも素晴らしい戦績の連続で世界選手権へと駒を進めたプレイヤーが複数いる中で、やはりサイモンは際立つ存在だ。

サイモンの歩み

 去年7月、「プロツアー『機械兵団の進軍』」でのトップ8入賞を皮切りに、私たちはネイサン・ストイア/Nathan Steuer以来の連続入賞を目の当たりにすることとなる。同年7月に行われた「プロツアー『指輪物語』」ではトップ4入りし、その後の世界選手権では再び準決勝の卓に姿を見せ、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。そして今年2月、シカゴで行われたプロツアー『カルロフ邸殺人事件』では決勝戦にてセス・マンフィールド/Seth Manfieldと対峙。アムステルダムの「プロツアー『モダンホライゾン3』」で、プロツアー優勝経験のあるサム・パーディ/Sam Pardeeを決勝の卓で下し、見事プロツアー優勝を成し遂げたのだ。

 近年のマジック競技シーンにおいて、これほどまでの好成績は他に聞いたことがない。だが、更に驚くべき点は、彼がどのようにこの輝かしき旅路を歩んできたかだ。30年かけて築き上げられたプロツアーの印象がひっくり返ってしまうかのような、笑いとジョークにに満ちたものなのだ。

この間のPTでのお気に入り:
ハビエルが4枚ドローする。
私「君って、ドローする時そんなに嬉しそうにするんだね」
*熱視線を送る
ハビエル「おお、随分と熱いまなざしを送ってくれるじゃないか!」
私「こうなっちゃうと、もうこれしかないんだよ。君に恋に落ちてもらうしかね。」

 私たちが考える典型とはこのようなものだ:ストイックなプロのマジックプレイヤーは、卓につくと逆チューリングテストにも合格できるような、どれだけ計算機のようになれるかを目指している。対戦においては感情を一切排し、脳内では恐ろしい速さで計算を遂行し、それを決して表には出さない。一喜一憂せず、勝利も敗北も等しく扱う。

 だが、サイモンはこれらに当てはまらない。“Daneblast”で世界を沸かせた時から一貫して、私は彼を表すものとしてシンプルかつ簡潔なこの言葉を使っている:aware(意識が高い)だ。

 ジョークを放ち、くだらない話をし、対戦相手に熱視線を送る裏側には、自分自身のみならず、対戦相手にも、そして最も重要なことであろうマジック全体を強く意識している男の姿があるのだ。仲の良い友人であるハビエルとのフィーチャーマッチで、真髄の針を使うときもカメラへの意識を欠かすことはなかった。初めて挑むトーナメントに、鮮やかなスーツとネクタイという姿で現れたその瞬間から、彼は自身が型破りであることを知っていた。サイモンは決してスポットライトを避けはしないのだ。むしろ進んで光の中へと躍り出す。

 サイモンは、マジックをプレイして数万ドルを獲得するということが、彼自身の栄光や銀行口座のためだけでなく、マジックの世界全体にも影響を及ぼすということを認識している。スポットライトの中へと歩みを進めることによって、更なる重圧がどれだけかかるのかわかっていながら、それを受け止めた。それだけでは終わらないのがサイモンだ。彼はこれらの重圧を自身の力へと変換したのだ。

 トレードマークである卓上でのおしゃべりについても、関わる者全員に良い体験をしてもらえるように、という彼の意識の高さから来るものだ。

 「自分自身と、対戦プレイヤーの緊張をほぐす方法として組み立ててきました。ある時に、自分も相手もマジックの対戦を快適にできるようにしようって決めたんですよね」サイモンはこう語る。「どのマッチも、ラウンド終了後には勝者と敗者が生まれます。2人のプレイヤーがマッチをプレイしていて、負けた方がゲームを楽しめていたのであれば、勝った対戦相手も楽しんでいたんだろうなと。これは良いマインドセットだと思っています。私は負けてる時や試合の合間の方がふざけがちですね。そうしたら必要な時に集中力を高められますから。」

サイモンの楽しみ

 私たち視聴者にとってサイモンのおどけた姿は、時に辛いものとなる環境の中で見出すことのできる、枯れることのない喜びの源だ。だが、サイモンはもっと核心に迫った説明をしてくれた。トッププレイヤーたちは、大きな報酬が懸かった場で戦っている。彼らにかかるレベルのプレッシャーや緊張感は、人を壊すに足るものだ。マジック・プロ・リーグが存在していた頃は、リーグ所属プレイヤーがストレスを緩和するためにスポーツカウンセラーを雇うことも珍しくなかったそうだ。サイモンは自分が最高の状態で戦うために何が必要かをはっきりと知っている。

「マジックのあらゆるスキルにはバランスが大事なんです。誰かには良いアドバイスであっても、他の誰かにとっては酷いアドバイスかもしれない。卓についたときにどのように振舞うかも同じですね。どれだけのプレッシャーを自分自身にかけるか」サイモンはこう続けた。「もちろん、自分の周りにいる人には常に気を配るべきです。陽気でいることって、1人じゃできないことなんですよ。1人でやったら道化になっちゃいますからね。」

#PTMH3 王者サイモン・ニールセン、優勝おめでとう!

 道化、もちろんサイモンは違う。現在マジックの頂点に立つプレイヤーは―サイモンだろう。これは、この1年間どのタイミングで同じ疑問が頭に浮かぼうとも、答えは同じだったはずだ。

 「誰かがそう言ってても理解はできますよ」彼はそう言った。「私の視点だと違いますけどね。トップ5の中にだったら自分を入れるってことは認めます。私が現在最強のプレイヤーを挙げるなら、ハビエルかドゥプラになるでしょうね。パウロも現役でプロツアーに出ていたらこの中に入ります。でも、今最強のプレイヤーってまだトップ8に入ったことのない方かもしれないですからね。」

 約100日後まで開催が迫った世界選手権で、彼は過去ただ1人しか達成していない偉業に挑むこととなる。世界選手権の優勝トロフィーと、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーと同時に獲得することだ。それを成し遂げた1人は誰なのかって?カイ・ブッディだ。あなたもきっと耳にしたことのある名だろう。今年より、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーが彼の名を冠することになるのだ。

 「2回目のプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを取れたら良いですけどね、自分じゃどうしようもないことですから。私はただ、ドラフトの練習に尽力して、ドラフトからどれだけ連勝を繋げられるかってところです」サイモンはこう語った。「正直言って、今気になっていることは初日のドラフトでピックをフィーチャーされるかってことなんですよ。前にプロツアーの1日目を8-0で通過したときは、次の日のドラフトでフィーチャーされなかったですからね。私じゃなくてカイでした。」

 物語というのは時折、それ自体が筆を取るものだ。そして、サイモンの物語はまだ完結から程遠い。

 「正直言って、ここまで成功できたのは最高でした。おかげで自由が増えましたからね。少なくとも来年はマジックのプロとしてやっていけますし。金銭的にはあと最低2年はいけますね」サイモンはほのめかすようにそう言った。「以前は考えたこともなかったことなんですが、日本のエターナル・ウィークエンドに出ようと思ってるんです。本当に、これまで残して来た結果には感謝してるんですよ。やりたいことを楽しむ時間とお金を与えてくれたし、実際に楽しんでいます。」

世界選手権への道のり

 「第30回世界選手権」の開催まであと約100日に迫り、この記念すべき回をお祝いすべく、私とフランク・カーステン/Frank Karstenで歴代の王者たちを振り返っている。今週は2009年に400名以上のプレイヤーがローマへと集った回へとタイムスリップ。

 開催フォーマットはユニークなものだった。3日間で、3つのフォーマット、ドラフト、スタンダード、そしてエクステンデッドを用いて競うというものだ。本イベントでは、《貴族の教主》、《野生のナカティル》、《血編み髪のエルフ》、そして《悪斬の天使》を擁する、マジック史で最も有名なデッキの1つである「ナヤ・ライトセーバー」が優勝を飾った。

 更に視点を拡げると、アンドレ・コインブラ/André Coimbraの優勝によって、ポルトガルから初の世界王者が生まれた年でもあったのだ。彼にとってこの年の世界王者となることが最高のタイトルであると同時に最後のものとなったが、2005年にも世界選手権にもトップ8入賞経験のあるアンドレの戴冠は、自国の競技シーンにおいて多大な影響を与えた。現在、ポルトガルのマジックコミュニティは世界有数の強さを誇っており、今後もプロツアーのようなハイレベルな場に、影響の波を起こし続けるだろう。

 次は何かって?地域チャンピオンシップのサイクルの後、「第30回世界選手権」が10月25~27日にMagicCon: Las Vegasにて開催される。どちらもお見逃しなく!

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