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プロツアー『モダンホライゾン3』

観戦記事

プロツアー『モダンホライゾン3』トップ8ハイライト

Corbin Hosler

2024年7月1日

 

 アムステルダムで行われた「プロツアー『モダンホライゾン3』」で戦いの舞台に立ったのは、250名に迫るプレイヤーたちだった。その後ドラフト・ラウンド6回戦と新たなモダン環境による構築ラウンド10回戦を経て、最終日の舞台に上がり優勝トロフィーを争う8名が定まった。

  • マ・ノア/Ma Noah(黒単ネクロドミナンス)
  • イーライ・カシス/Eli Kassis (バント・ナドゥ)
  • ジェイソン・イェ/Jason Ye(バント・ナドゥ)
  • ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez(ジェスカイ・コントロール)
  • サイモン・ニールセン/Simon Nielsen(バント・ナドゥ)
  • サム・パーディー/Sam Pardee(バント・ナドゥ)
  • セス・マンフィールド/Seth Manfield(黒単ネクロドミナンス)
  • ダニエル・ゴーチェル/Daniel Goetschel(4色ナドゥ)
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 今回のトップ8を、そしてこの後繰り広げられる戦いを物語るのは、《有翼の叡智、ナドゥ》であった。この鳥は今大会を通してベスト・デッキを牽引し、トップ8に5人を送り込むに至った。そこへ挑戦する形になった残る3つのデッキは、準々決勝で「ナドゥ」デッキと対峙することになった。「プロツアー『モダンホライゾン3』」は今、「ナドゥ」のみのトップ4を迎えるかどうかの岐路に立っている。

 

 ここで改めて、このデッキをおさらいしておこう。基本となる「コンボ」は、《有翼の叡智、ナドゥ》と《手甲》や《コーの先導》の組み合わせだ。装備することで《有翼の叡智、ナドゥ》の能力が誘発し、デッキの一番上のカードがふるいにかけられていく。土地はそのまま戦場に出て、複数回誘発すればマナが増えていく。さらに《春心のナントゥーコ》も絡めば、戦場に出た土地がマナだけでなくクリーチャーももたらし、さらに《有翼の叡智、ナドゥ》の能力を誘発させられる。この能力は各クリーチャーにつき2回ずつ誘発するのだ。そうなれば、土地を出すかカードを手札に加えるかを続けることができる。

 ここからが少し複雑だ。このデッキには《忍耐》が採用されており、墓地をリセットするのに使う。それから《森を護る者》も、コンボを守るだけでなく土地を生け贄に捧げる手段として重要な役割を担っている(これについては後段で触れよう)。コンボが始まると、「ナドゥ」デッキは最終的にライブラリーを引き切る。そこで《春心のナントゥーコ》の出番だ。これをクリーチャーに「授与」することで、「上陸」するとそのクリーチャーをコピーできる。

 

 ここまで来たら、「ナドゥ」を使うプレイヤーは《森を護る者》で土地を生け贄に捧げ、《忍耐》をコピーしてその土地をライブラリーに戻す。そしてこれを繰り返せば、好きなだけマナを生み出せる。このループに《天上都市、大田原》も絡めれば(これがこのデッキの「勝ち手段」だ)、対戦相手の厄介なパーマネントをすべて手札に戻し続けることができるようになるのだ(実質ゲームに勝利する)。

準々決勝

 さて準備が整ったところで、最後のレースのゆくえを見ていこう。少なくともニールセンにとっては、ドミンゲスのコントロール・デッキが体勢を整えるまでにコンボを決める「レース」であった。しかしニールセンも最初の2ターンでクリーチャーを展開する力強いスタートを切ったが、後攻であるため先にマナを使う機会を常にドミンゲスに譲ることになり、元世界王者から繰り出される打ち消しや除去は彼がゲームを決めるまでニールセンの盤面を抑え込んだ。

サイモン・ニールセン

ハビエル・ドミンゲス

 続くゲーム、先攻を得たニールセンは序盤に繰り出した《貴族の教主》でマナの面で優位に立ち、さらに《手甲》につながり得る《ウルザの物語》も出た。しかしドミンゲスの打ち消し呪文が《召喚士の契約》を阻み、《有翼の叡智、ナドゥ》を止められたニールセンは《機能不全ダニ》を持ってきて「フェア」な戦いを選び、構築物トークンや《春心のナントゥーコ》と並べた。このゲームは、「ナドゥ」デッキがやり取りを交わす展開でも戦えることを示したものだった。しかしドミンゲスは《空の怒り》を放ち盤面を一掃すると、その後手早くゲームを決着させた。

 ここからサイドボーディング後のゲームが始まる。すなわち《陽光浄化者》の登場だ。

 

「そのプレイヤーはカウンターを得ることはできない。」

 ニールセンが所属するチームの「ナドゥ」デッキには、意外なレアの姿があった。しかしそれは、この準々決勝にてニールセンが最も必要とするタイミングで現れた。マナの確保にも苦戦していたドミンゲスを前に、ニールセンは第3ゲームの優位を素早く握った。「エネルギー」デッキは、エネルギーを供給できないと機能させるのが極めて難しくなるのだ。

 《陽光浄化者》は1体でも悪くないが、多ければさらに良い。このマッチアップの結果を左右する1枚であるこのカードは、続く2ゲームでさらに活躍を見せた。ニールセンが操るクリーチャー・ベースのバント・デッキは、《召喚の調べ》によりそれを必要なときに見つけ出すことができた。ほぼ対処できない3マナ域を2種類相手にすることになったドミンゲスのコントロール・デッキは最終ゲームでついに失速し、現プレイヤー・オブ・ザ・イヤーは大逆転で準決勝へと駒を進めたのだった。

@MrChecklistcard選手、準決勝進出一番乗りおめでとうございます!
引き続き大会の模様をTwitch.tv/Magicで御覧ください。

 次に「ナドゥ」へ挑んだのは、「黒単ネクロドミナンス」を使う殿堂顕彰者セス・マンフィールドだった。イーライ・カシスとの対戦だ。「黒単ネクロドミナンス」もまた『モダンホライゾン3』で新たに登場したデッキであり、全体的に目覚ましい活躍を見せたわけではなかったものの、マンフィールドとマの2人をトップ8へ送り出した。

セス・マンフィールド

イーライ・カシス

 しかし殿堂顕彰者をもってしても「ナドゥ」を打ち破ることは叶わなかった。このアーキタイプを見事に乗りこなしたカシスは、素早くトップ8の席を守りきった。カシスから1ゲーム奪うことには成功したマンフィールドだったが、次の舞台へ進出したのは「ナドゥ」だった。

 続いてはサム・パーディーとジェイソン・イェの戦いだ。この「バント・ナドゥ」の同系戦は1勝ずつゲームを分け合ったのちにサイドボーディングを迎え、コンボ速度のレースはコンボから身を守るレースに変わった。互いに除去が増えた後は、両者ともコンボの成立を防ごうとする展開になった。

サム・パーディ

ジェイソン・イェ

 必然、続く2ゲームも両者1つずつ取ることになり、決着は最終第5ゲームへ持ち越された。イェは《樹上の草食獣》により土地の数でリードしたが、先攻のパーディーは《貴族の教主》でスタートしており、両者ともフル回転だった。《有翼の叡智、ナドゥ》を先に見つけ出したのはパーディーだった。《召喚の調べ》から《春心のナントゥーコ》。それは決着を告げる予兆となり――そしてパーディーが準決勝へと歩みを進めたのだった。

 こうして重要な問題を残し、準々決勝は最終戦を迎えることになった。

 準々決勝も残り一戦、マ・ノアとダニエル・ゴーチェルの戦いを残すのみとなった。そしてこの試合は、「ナドゥ」を舞台から降ろす最後のチャンスだった。マは今大会、「黒単ネクロドミナンス」を操りトップ8入賞一番乗りを決めた。「黒単ネクロドミナンス」は、絶望的なカード・アドバンテージ差をつけられることなく「ナドゥ」に対応できる数少ないデッキの1つだった。全体的にはこの週末を席巻していたわけではなかったが、マが操るそれは圧巻の強さを見せてきた。

マ・ノア

ダニエル・ゴーチェル

 イェとパーディーの戦いと同じく、この試合も第5ゲームまでもつれ込んだ。

 こうして準決勝は鳥一色になったのだった。

準決勝

 はじめに現れたのは、この10年で特に安定した成績を残し続けている2人、カシスとパーディーだった。ここからプレイオフは、鳥同士の喧嘩になる。

 第1ゲームは予想されていたよりゆっくり進んだ。両者とも序盤から盤面を築いていったが、コンボ・レースは仕掛けなかった。そして片方のコンボが揃っても(第4ターンにパーディーが揃えた)、私たちが見慣れた爆発的な決着とはならなかった。パーディーのデッキの上には土地でない呪文が並び、コンボが中断してその場で勝負を決められない可能性が出てきたのだ。まれなケースではあるが、今大会を通して何度か見受けられた展開だ。このビッグ・ターンの間に、パーディーは何度も《有翼の叡智、ナドゥ》を誘発させられるクリーチャーがあと1体という状況に陥った。しかし長きにわたるコンボ・デッキの経験からタイトなプレイを通し続けた彼は窮地を脱し、第1ゲームの勝利を掴んだのだった。

 そこからは、「ナドゥ」同系戦ならではの流れになった。両者はゲームを取り合い、決着は最終第5ゲームへ。準々決勝における(ネタバレ注意:準決勝も)「ナドゥ」同系戦はすべてこの展開だった。そして決戦のゲームでもそれまでの4ゲームと同様にコンボ・レースが繰り広げられ、パーディーが先手4ターン目にコンボを揃えることに成功したのだった。

 決勝の席が1つ埋まり、残るはパーディーの対戦相手を決める戦いだ。グランプリ優勝経験を持つゲッシェルか、この1年以上にわたりまさに世界一のプレイヤーであり続けているニールセンか。王道の「バント・ナドゥ」と、黒を加えたテクニカルな構築が激突する。

 75枚の中に《思考囲い》が含まれることで、「ナドゥ」同系のマッチアップは根本から変わる。本来なら《手甲》の有無に関わらず、《有翼の叡智、ナドゥ》はひとたびプレイされれば対処不可能であるところ、《思考囲い》はそれを防ぐ手段となるのだ。

 

 両者とも、「ナドゥ」が使うべきデッキであり、同時に倒すべきデッキであることを意識した上で今大会に臨んでいた。通常の方法で《有翼の叡智、ナドゥ》を除去しようとする場合、少なくとも2回は誘発を許すことになる(戦場に出て最初に対象に取ったときと、除去することによる誘発)。特に《森を護る者》が絡むと、鳥を撃ち落としたところで大きな影響はないのだ。

 それがこの準決勝を物語っていた。両者は他の「ナドゥ」同系戦と同じような展開で試合の火蓋を切った。すなわちコンボ・レースである。そしてこれも同じく、両者は互いにコンボを決め合い、勝負のゆくえは第5ゲームまでもつれ込んだ。そして両者の緻密なプレイの応酬はナドゥ・コンボの成立という終着点へ向かい、最後により高く飛んだのは、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーのニールセンの方だった。

トロフィーを争うパーディーとニールセン

 こうして、プロツアー優勝経験を持つサム・パーディーとプロツアーの優勝トロフィーを追い求め続けるサイモン・ニールセンによる、アムステルダムの決戦の準備が整ったのだった。

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