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プロツアー『タルキール覇王譚』
第10回戦:Ari Lax(アメリカ) vs. 渡辺 雄也(日本)
Marc Calderaro / Tr. Masashi Koyama
2014年10月11日
アリ・ラックス/Ari Laxは元気を失ってしまったように見える。ゆっくりとテーブルに近づきため息をついて、デッキとダイスをテーブルに置いてから静かに席に着いた。これはもちろん駆け引きの一種だ。たった1時間前、ラックスはクレイジーなドラフトデッキに非常に興奮していた。彼のチームである「TCGPlayer」が開発した戦略は見たところ効果を挙げているようだ。
デッキ・テクとして後ほど公開されるが、デッキの急所は《神秘の痕跡》を何よりも先に取ることで、それから土地を取っていくことだ。最終的に、世にある強力な3色土地と優良な変異を全て吸収した。
このデッキは多くの利点を備えている。その中でも3つの点について言及しよう。皆から全ての土地と優良カードを取ることで、彼らのデッキ完成度を下げることができる。それらの呪文をプレイすることができる。そして最後に、誰もどんなカードがあるか知らない。どんなことだってありうるのだから。
世界ランキング11位の渡辺雄也は、少なくともその3番目の部分については抑えていた。彼は先ほどアリ・ラックスの試合を見ていたが、何枚か驚くべきカードが含まれていた。最低でも《飛鶴の技》、《凶暴な拳刃》、そして《兜砕きのズルゴ》があることを知っていた。
「フェアだと思うね。彼はさっき僕の試合を見ていた。そして僕は彼のドラフト全部を見ていたからね」そうラックスは言った。彼が参照していたのは、皆の役に立つドラフト生中継だ。渡辺の攻撃的な赤白ベースのデッキは、インターネットで衆目にさらされていたのだ。
ラックスはジャッジを呼んで、いつ「ゲーム中」が始まるのかと、ゲーム中にメモを取ることを念頭に聞いた。外部のメモはゲーム中に参照することはできないが、試合中に書いたものは問題ない。ジャッジは初手をキープしてからであればよいと明示した。ラックスは彼に礼を言うと、手札をキープして、ジャッジを呼び戻し、メモを取り始めてよいかを確認した。
「そんなことでペナルティをもらうのは怖いからね」と彼は言った。確認の後、彼はペンを手にして猛烈な勢いでメモ帳に書き始めた。
渡辺は平然としていた。シークレットテクがあったがために、あるいは偶然に、彼はここにたどり着いたわけではない。彼のマルドゥ・デッキは攻撃的なマシンだ。ほとんどが赤で構成されており、白がサポートし、3枚の《子馬乗り部隊》と1枚の《マルドゥの魔除け》を擁する。何が来るか分かっていても大した助けにはならないだろう。簡単マジックだ。
ゲーム中のメモを取り終わって、2人が火花を散らす。
ゲーム展開
ラックスからゲームを開始し、渡辺が有する大量の攻勢に対し、序盤にできる限り、自身の変異を相打ちのために差し出した。《僧院の群れ》が《マルドゥの悪刃》と、《雪角の乗り手》が《跳躍の達人》と交換になった。彼がしなければいけなかったのは、速いゲーム展開から生き残ることだけだった。マルドゥに対し速いゲーム展開から生き残ることは、パイロットが渡辺雄也であればなおさら難しい。
ラックスは1対1交換を繰り返し、《絞首》を裏向きの《軍団の伏兵》へと使った。だが渡辺が3体のゴブリンを従えた《子馬乗り部隊》を唱えると、1対1交換戦術は頓挫してしまった。ここでこのアメリカ人は3枚裏向きのカードを追加した(5枚目、6枚目、7枚目で、分かるようにするためしばらくメモしていた)。渡辺は《子馬乗り部隊》と《跳躍の達人》を攻撃に向かわせた。ラックスは《爪鳴らしの神秘家》を《子馬乗り部隊》と交換し、戦闘中に《不気味な腸卜師》を表にして、渡辺に《嘲る扇動者》を表にすることを強要した。渡辺はラックスのライフを15にして、借りている《不気味な腸卜師》の能力でカードを引いた。
3体の1/1トークンがいまだ後ろに控えており、対戦相手が一直線にダメージレースすることを妨げていた。そしてラックスは日本人プレイヤーの下にいる赤い一団、2体の《跳躍の達人》、表になった《嘲る扇動者》、《沸血の熟練者》、そして3体のトークンからダメージを受け続けている。渡辺は1体の《跳躍の達人》を残してレッド・ゾーンへめがけてフルスイングした。ラックスは《イフリートの武器熟練者》と《不気味な腸卜師》という乏しい盤面を支えるために《飛鶴の技》を使わざるを得ず、この過程でさらに数点のダメージを受けることになった。渡辺は6マナがオープンになっているのを見て、ありうる可能性について熟考した。だが彼がダメージを与え続けなければ、変異の怪物がゲームを終わらせてしまうだろう。ラックスのライフは減り続け、お互いのライフは6対13になった。
だが、ラックスは攻撃的な姿勢を取り、クリーチャーを送り出した。彼はぎりぎりまでダメージを受けなければいけなかった。ブロックしないことが宣言され、ライフが6-6のタイになった。渡辺はアンタップすると、召喚されたばかりの《沸血の導師》を前に、ダメージ計算を始めた。自身のクリーチャーをタップしたりアンタップし、指でテーブルをコツコツしてダメージを示し、長考したことについて謝ると、最終的に《跳躍の達人》のみで攻撃した。
《跳躍の達人》は盤上を飛び越えられる、両軍で唯一のカードだった。あえて他には何もせずに、次のターン、その次のターンと続いた。ライフが6のラックスと一緒に考えてみよう。「次のターン、その次のターン」でたった3ターンで終わりだ。だが、《平穏な入り江》と《岩だらけの高地》のおかげで、ほんの少し死から遠ざかることができた。
ラックスは《沸血の導師》のルーター能力を起動し続けたが、引けども見つかるのは土地ばかりで、高い起動コストを持つ2/1を止めることができない。彼のデッキには多くの強力カードがあり、単なる2/1を止めるられる何かがあるはずなのだ。ラックスはカードを引きに引き、そして死んだ。《跳躍の達人》の跳躍を阻止できるカードが何もなかったのだ。
ラックス 0-1 渡辺
「さっきの試合負けておけばよかったよ。そしたら君のデッキを相手にしなくて済んだのに」ラックスが渡辺に言葉をかける。「うん、いつだって君は敵にしたくないんだけど、今回の大部分はそのデッキについてだね」5色のデッキは準備に時間を必要とし、マルドゥ・デッキはラックスにその時間を全く与えてくれないのだ。
2ゲーム目、ラックスは先手をとり、2ターン目にウインドミル・ダンクを決めてみせる。《神秘の痕跡》だ。このカードがエンジンとなり彼のマシンに燃料を供給する。渡辺の対応が《跳躍の達人》と変異クリーチャーだけだったので、ラックスは変異マシンを稼働させることができた。
渡辺が知らなかったのは、ラックスは手札にほとんど何も持っていなかったことだ。《はじける破滅》は間違いなく強力であったが、残りはただの土地だったのだ。彼はエンジンを押して始動させなければいけなかった。
渡辺はしっかりとマウントポジションを取ったが、攻撃は頼りないもので、致命的な《まばゆい塁壁》召喚というターンを迎えた。このラックスの0/7を乗り越えるのは非常に困難で、対応策を見つける決定的な時間をもたらしてしまう。
そしてその時がやってきた。《爪鳴らしの神秘家》が戦闘中、渡辺がブロッカーを宣言した後に表になった。《爪鳴らしの神秘家》は《神秘の痕跡》により強化され、ラックスはそのマナを使って攻撃中の《イフリートの武器熟練者》を表にし、《爪鳴らしの神秘家》をさらにパンプアップした。渡辺がブロックに使った全てが死亡し、ラックスの全てが生き残った。このターン、《まばゆい塁壁》によってもたらされた時間が、テンポを稼いで渡辺を仰天させた。
ラックスは盤面にかなり満足していたが、渡辺の2枚の《子馬乗り部隊》が彼にゴブリン軍団を与えた。彼は2体のゴブリンを残して攻撃した(その前に《まばゆい塁壁》が新たな《塩路の巡回兵》をタップしていた)。
ラックスは先ほどの猛攻に大きな追撃を欠いていたため、徐々に停滞が生まれつつあった。ラックスの《イフリートの武器熟練者》は実質、攻撃できる唯一のクリーチャーであったが、渡辺はゴブリンを毎ターン生け贄に捧げるだけで、それに関連して何か行うこともできなかったのだ。しかし、ラックスは別のプランを手に入れた。変異クリーチャーが幾度も駆けつけ、《神秘の痕跡》によって通常は2/2であるクリーチャーが安全に攻撃できるようになったのだ。ラックスのライブラリーはターンを経るごとに薄くなり、良いドローの可能性が渡辺よりも高くなってきた。そして彼は引いた。
強大な追撃は計画より少し遅かったかもしれないが、ラックスはカードを引くと、土地をタップして、カードを落として手札を空中へと放り上げた。
《兜砕きのズルゴ》が猛烈な勢いで攻撃し、全てのクリーチャーをなぎ倒した。ラックスは盤上から体を引いて、椅子を傾けた。勝利を確信したのだ。そして、その通りになった。
ラックス 1-1 渡辺
渡辺は先手を取り、2ターン目に何もプレイしなかった。
「よし、まず第一段階だ」ラックスは言った。
どうやら、第二段階は《爪鳴らしの神秘家》を表にし、マナを加速して《凶暴な拳刃》を勢いよく送り出すことのようだった。
渡辺は《矢の嵐》と《反逆の行動》、そして《嘲る扇動者》を抱えていた。そう、彼の二段階あるプランは、まず火力で道を切り開き、それからラックスの顔を彼自身の《凶暴な拳刃》でひっぱたいてやるというものらしい。彼は防御に回った《爪鳴らしの神秘家》を矢の雨で追い出し、2体の変異で攻撃してプレッシャーをかけた。次のターンに《嘲る扇動者》が《凶暴な拳刃》を奪って、ラックスのライフを11にした。
ライフは11-9でラックスがリードしており、彼はタップ状態の「ナッキー・トンプソン(※1)」こと《凶暴な拳刃》とアンタップ状態の変異をコントロールしていた。渡辺の盤上は一見印象が薄かった。表になった《嘲る扇動者》と《沸血の熟練者》だけしかいないのだ。だが、《反逆の行動》が決定的なものになりうる。9点を受けてしまう前に、どうにかして11点のダメージを掠め取らなければいけなかった。彼は意を決して《反逆の行動》を変異へと向け、敵対する者のいない戦場へ忍び込もうとした。ラックスは彼にサプライズを与えた。《反逆の行動》が解決される前に、その変異を表にしたのだ。ソーサリー呪文が解決されると、それはただの0/5の《僧院の群れ》になっていた。額面通り、ダメージ計算には何も及ぼさない。もはやこの状況を脱するものは、さらなる除去呪文の他にない。
渡辺はラックスのライフを5にしたが、ほとんど打つ手がなくなってしまった。ラックスは「ナッキー」と《僧院の群れ》にペアを組ませ、攻撃を自制し、盾として立たせた。そもそも、彼は勇敢な渡辺を前に、最後の5点しか残されていないのだった。大接戦だ。ラックスはもう1枚の0/5である《沸血の導師》を加えプレッシャーをかける。ラックスは「ズルゴ先生」を手札に抱えており、荒療治を渡辺に仕掛けようとしたが、《平地》がなかったのだ。
渡辺が毎ターンカードをを引くたびに、ラックスは祈りをささげた。どうか対戦相手が《矢の嵐》を引きませんように、と。問答無用に彼を殺してしまうカードだ。《焼き払い》が《凶暴な拳刃》を取り除き、渡辺は一安心することができた。ラックスはもはやアタッカーを有していなかったのだ。
試合は殴り合いで始まったが、互いに1点2点を争う張り詰めた消耗戦へと変化した。渡辺が《高峰のカマキリ》をキャストした時、ライフは4対5だった。1ゲーム目の大スターである《跳躍の達人》と共に、上空からラックスの防御網を台無しにしようとするが、《絞首》がすみやかにそのプランを阻止した。
渡辺が勝つためには《マルドゥの魔除け》をいいタイミングで見つけ出す必要があったが、まずは有利な盤面を作り出さなければいけなかった。
そしてラックスはもう一度カードを引いた。引いてきた《吹きさらしの荒野》が彼を恐怖のライフ0への針を進めたが、もはやどうでもよいことだった。《平地》を持ってきて、お医者様の《兜砕きのズルゴ》先生が戦場へと呼び出され、渡辺の盤上に血塗られたメスを入れた。
ナッキー・トンプソンとズルゴ先生のドタバタ救出劇。まるで身内のコメディーだ。
ラックス 2-1 渡辺
ラックスは、全力でさっきの試合に負けて渡辺と対戦しないようにしたにも関わらず、勝つことを止められなかったようだ。
※訳注1 「ナッキー・トンプソン/Enoch "Nucky" Thompson」は米国のテレビドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』の主人公。《凶暴な拳刃》(Savage 「Knuckleblade」)からの連想。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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