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プロツアー『ラヴニカのギルド』

観戦記事

決勝:Luis Scott-Vargas(アメリカ) vs. Andrew Elenbogen(アメリカ)

Adam Styborski
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2018年11月11日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものとなります。)

ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas(白ウィニー) vs. アンドリュー・エレンボーゲン/Andrew Elenbogen(白ウィニー)

 アンドリュー・エレンボーゲンはうまく事を運んできた。準々決勝ではウィルソン・モク/Wilson Mokが操る「ジェスカイ・コントロール」の牙から間一髪逃れ、準決勝ではテイ・ジュンハオ/Tay Jun Haoとの「白ウィニー」同系戦を制した。予選8位通過のエレンボーゲンは、すべての戦いを後攻スタートで勝たなければならなかった。

 彼はその難題を次々と乗り越えてきた。そして自身初のプロツアー・トップ8入賞を果たした男の挑戦は、まだ終わらない。

 一方のルイス・スコット=ヴァーガスは、これでプロツアー・トップ8入賞9回目。彼が持つ「殿堂顕彰者」の肩書きを2度得てもなお余るほどの実績だ。(現役プレイヤーも引退したプレイヤーも含めて)最も偉大なマジック・プレイヤーのひとりである彼が、ここに来てようやくアグロ同系戦を先攻で始める。

「先手で」とスコット=ヴァーガスが口を開いた。

「ですよね」と、エレンボーゲンは頷く。「先手は大きなアドバンテージだ」

「うん、ようやく先手が取れたよ」と、準々決勝と準決勝では後攻スタートだったスコット=ヴァーガスは言った。「予選7位だったからね」

 両者が使用するデッキは、ともに「白ウィニー」。《不屈の護衛》や《ベナリアの軍司令》、《ベナリア史》、《空渡りの野心家》といった根幹部分は同じだ。エレンボーゲンは、他の同系デッキが採用している《英雄的援軍》や《正義の模範、オレリア》をサイドボードに搭載せず、《実験の狂乱》を選択している。スコット=ヴァーガスも《実験の狂乱》をサイドボードに採用しつつ、さらなる4マナ域の切り札として《正義の模範、オレリア》も積んでいる。

 スコット=ヴァーガスのサイドボードでひと際目を引くのは、《残骸の漂着》だろう。このカードを採用しているのはチーム「ChannelFireball」の中でも彼だけであり、その採用枚数もわずか1枚だ。プロツアーのメタゲームは狭く閉じたものであるため、チームがデッキテクの取材を申し込まれたときに彼は全員のデッキに《残骸の漂着》が入っているかのように匂わせた。構築ラウンドで「ChannelFireball」のメンバーと当たった相手が、《残骸の漂着》を意識した立ち回りになるよう印象づけることに成功したのだ。

 実際に《残骸の漂着》をサイドボードに搭載していたのは、スコット=ヴァーガスだけだった。そしてそのカードは、ジェレミー・デザーニ/Jérémy Dezaniとの準決勝で歴史に残る瞬間を演出した。

 

 エレンボーゲンはスコット=ヴァーガスのデッキリストを読み込み、準決勝の試合も観戦している。それゆえに、サイドボーディング後は《残骸の漂着》を意識せざるを得ないだろう――たとえそれがたった1枚だとしても。

ゲーム展開

 第1ゲームの戦場を支配したのは、スコット=ヴァーガスだった。彼は《ベナリア史》を連打して戦線を広げ、強烈な攻撃を繰り出していく。エレンボーゲンは《議事会の裁き》で《ベナリア史》を1枚追放し、その攻勢を抑えようとしたが、スコット=ヴァーガスは次々とダメージを重ねていき、エレンボーゲンは次のゲームへ気持ちを切り替えることになった。

「あなたのデッキリストを研究させてもらいましたよ」と、エレンボーゲンは近くに置いていたデッキリストを手に取る。「それでもあなたの方が有利だ」

「そうだね」と、スコット=ヴァーガスは同意した。

 《レオニンの先兵》を採用するかどうかはずいぶん悩んだ、とエレンボーゲンは自身のデッキ選択について語りだした。彼のチームは最終的に(他に懸念していたデッキに対して有効な)《短角獣の歩哨》を採用したが、白アグロの同系戦では《レオニンの先兵》が素晴らしい働きを見せると彼は言う。

「少なくとも、次のゲームは先攻もらえますね」と、エレンボーゲンは話を締めくくった。

「ああ、できれば残りすべて君の先手になると良いのだが」と、軽口を返さずにはいられないスコット=ヴァーガスであった。

 第2ゲームも再び、高速のライフ・レースが繰り広げられた。今度はエレンボーゲンが《空渡りの野心家》から《アダントの先兵》、《ベナリア史》という動きを見せ、スコット=ヴァーガスは《軍団の上陸》から《癒し手の鷹》、《不屈の護衛》、《ベナリア史》と展開した。

 戦場がそれぞれの理想通りのクリーチャーで埋まると、ひと息入れたのちにスコット=ヴァーガスは《ベナリアの軍司令》を繰り出し、エレンボーゲンの攻撃に備えターンを終了した。

 だがエレンボーゲンは《議事会の裁き》で《ベナリアの軍司令》を追放し、攻撃を仕掛ける。スコット=ヴァーガスのライフは一気に残り1点まで減らされ、戦場にも《癒し手の鷹》が残るのみとなった。最後のカードを確かめると、スコット=ヴァーガスはエレンボーゲンの精鋭たちを前にこのゲームの投了を宣言したのだった。

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 第3ゲーム、スコット=ヴァーガスは《癒し手の鷹》から《アジャニの群れ仲間》と展開し、序盤からエレンボーゲンに回答を迫った。さらに《レオニンの先兵》に続いて2枚目の《アジャニの群れ仲間》まで出てくると、エレンボーゲンは大きな問題に直面することになった。まさにスコット=ヴァーガスが理想とする初動だった。

 

 エレンボーゲンは《ベナリアの軍司令》を2枚持っていたものの、スコット=ヴァーガスへ攻撃することはできなかった。エレンボーゲンのライフは残り7点まで追い詰められた。

 そして《正義の模範、オレリア》まで登場すると、事態はさらに深刻になった。攻撃を受けたエレンボーゲンは、残りライフ3点で最後のドローを迎え、負けを認めた。

「負けました」

 これでスコット=ヴァーガスが優勝に王手をかけ、会場に拍手が巻き起こった。

「さっきのは引きが良すぎたね」と、スコット=ヴァーガスが声をかける。「《癒し手の鷹》から《アジャニの群れ仲間》、《レオニンの先兵》、《ベナリアの軍司令》、《正義の模範、オレリア》。完璧だ」

「何やっても勝てませんでしたね」と、エレンボーゲンも応じる。

「君の引きもかなり強かった」と、スコット=ヴァーガスは続けた。「1マナ域3枚から《ベナリアの軍司令》とは」

 第4ゲーム、スコット=ヴァーガスはマリガンを喫し、素早いスタートを切れなかった。一方のエレンボーゲンは、燃え上がらんばかりの速度を見せる。《短角獣の歩哨》、《不屈の護衛》、《癒し手の鷹》、《空渡りの野心家》と1マナ域の群れを築くと、《議事会の裁き》も駆使してスコット=ヴァーガスとのライフ差を18対4まで広げた。

 ここでエレンボーゲンは動きを止めた。「さあ、ここからは《残骸の漂着》をめぐる攻防ですね。絶対に持っているはずだ。豪運のあなたなら」

「3枚入れたからね」とスコット=ヴァーガスは冗談で答える。

 エレンボーゲンは《短角獣の歩哨》2体のみで攻撃し、スコット=ヴァーガスのライフは残り1点になった。スコット=ヴァーガスは《癒し手の鷹》1体のみを盤面に加え、4マナ立たせてターンを返した。

 

 続くターンもエレンボーゲンはわずかなクリーチャーで攻撃した。「これを続けますよ」と、軍勢の大半を残して彼は言う。果たして、スコット=ヴァーガスは数ターンにわたって時間を稼いでくれた《残骸の漂着》を放った。

 そしてそれが、彼にできるすべてだった。

 エレンボーゲンは《ベナリアの軍司令》で自軍を強化し、飛行持ちのクリーチャーだけで再び攻撃を行った。スコット=ヴァーガスはついに投了の意思を示したのだった。

「次が第5ゲーム、ですよね?」とエレンボーゲンは尋ねた。

「ああ」スコット=ヴァーガスは臨戦態勢だ。

「優勝するにはもう1回勝たないといけないんですか? 今日のあなたは『持ってる』と聞いたんですが」

 それを聞いてスコット=ヴァーガスは頷いた。「その通りだとも」

 しかしスコット=ヴァーガスはここに来てダブル・マリガンを喫することになり、最終ゲームはなかなか始まらなかった。

「もう何も言いません」と、7枚の手札をキープしたエレンボーゲンはそのときを待つ。「グッド・ラック」

 だが次の瞬間、スコット=ヴァーガスは3回目のマリガンに移った。

「なんてこった」 エレンボーゲンもそれしか言えなかった。このあまりに厳しいスタートを覆すには、信じられないほどの強運が必要だろう。

 スコット=ヴァーガスは土地をタップ・インしたのちに《癒し手の鷹》、《不屈の護衛》と展開した。対するエレンボーゲンは《軍団の上陸》、《空渡りの野心家》、《不屈の護衛》と1マナ域を3枚続けて繰り出す。その直後に3体で攻撃し《軍団の上陸》を「変身」させたエレンボーゲンは、2枚目の《軍団の上陸》と《短角獣の歩哨》を追加した。

 スコット=ヴァーガスはカードを引き、土地を2枚立たせたままターンを返す。

 エレンボーゲンは2枚目の《空渡りの野心家》を繰り出して「都市の承認」を得ることに成功し、全軍で攻撃した。スコット=ヴァーガスは《征服者の誇り》で戦線を維持したが、エレンボーゲンはターンを終える前に《敬慕されるロクソドン》を盤面に加え、さらに強烈な攻撃の準備を整えた。

 そしてそのときが来た。ブロック指定を終えたあとに《征服者の誇り》が示されると、スコット=ヴァーガスは右手を伸ばしたのだった。

 
アンドリュー・エレンボーゲンがルイス・スコット=ヴァーガスを3勝2敗で破った! エレンボーゲン、プロツアー『ラヴニカのギルド』優勝おめでとう!

(Tr. Tetsuya Yabuki)

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RESULTS

対戦結果 順位
最終
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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