2018年11月10日

　ヴァンス・モーガン/Vance Morganは彼の息子について、皆さんに知ってもらいたいと思っている。その名前――ダスティン・ウェイド・ロバーソン/Dustin Wade Roberson――と、彼の人生の素晴らしい瞬間について。そして、彼がどれだけ溌剌とした子供時代を過ごしたか、いつも一緒に子供時代を過ごした３つ年上の兄ハリー/Harryとの絆がどれほどのものなのかを。ダスティンとハリーがかつて日が暮れるまで遊んでいたTボールの試合で、彼らがベースを駆け回っていたことを。フラッグ・フットボールのシーズンでダスティンが期待を裏切ったこと、そして「テネシー・タイタンズ」のジェフ・フィッシャー/Jeff Fisherの試合に家族がゲストとして招かれた日のことを。兄弟の実の父親が失踪してそう長くは経っていない頃に、彼らの母であるローリー/Laurieと出会った日、そしてヴァンスがローリーと結婚し、初めて兄弟を息子と呼び誇りを覚えた日のことを。

　ヴァンスはもっと他のことも知ってもらいたいと思っている。若い男の子２人のいる家族に起こる、典型的な兄弟喧嘩や親子喧嘩について。ハリーが初めてつまずいて転んだとき、どう助けられて立ち上がったのか。そして、初めて医者のもとへ行き、血液検査を受けたときのことを。そこでダスティンも兄と同じ困難に直面するということを知らされたときのことを。初めての車椅子が家に届き、彼が自分の足で最後の一歩を踏み出したときのことを。息子たちを学校で助けるために技術者としての仕事を辞めたが、息子たちは友人の前に父親を出すことに悔しさを覚えたことについて。人々に、筋ジストロフィーを抱えた子供２人を連れた女性と結婚するなど正気ではないと言われたことについて。その残酷な病は子供たちから飛んだり走ったりする能力、そして歩く能力、最後には呼吸するための筋力すらも奪っていくということを。そして、彼らの日常生活――彼が重労働をしている間に、ローリーが子どもたちのために多くの面談や書類仕事をこなしているということを、知ってほしいのだ。

　ヴァンスは皆さんに知ってもらいたいと思っている。ハリーが呼吸を続けるために気管切開手術をすることになった朝について、そして友人たちと高校卒業を祝いあってからたった一年後、19歳で手術の合併症によって命を落とした夜について。彼とダスティンが、最後まで息子たちの世話をし続けた、妻であり母であるローリーを看取ったときのことを知ってほしいのだ。その日がどれだけ人生における厳しい日で、どれだけ悲しみに沈む出来事だったのかを。

　そしてヴァンスは、僭越ながら物事が好転し始めた日についても知ってもらいたいと思っている。彼の友人が、当時19歳だったダスティンに、マジックという名のゲームを紹介した日のことを。この幻想的な戦略ゲームを、「ギアヘッド」を自称するバイク好きたちに教えようとすることが、ダスティンにとってどれほど素晴らしいものだったのかを。ダスティンの決定にしたがってカードを動かす手伝いをするために必要な、このゲームの基本を学ぶためにヴァンスが費やした時間を。ダスティンが他のどんなデッキを試しても、結局好きなジャンドに戻ってきてしまうことを。そして、彼が初めてグランプリに参加した幸せや、グランプリ・メンフィス2015でトップ32に入り賞金を獲得して得た満足感を。

　ヴァンスは、彼の息子を受け入れてくれたコミュニティについて話すときにだけ、少し泣いてしまうだろう。彼らが友人となり、他の仲間と同じようにダスティンを扱ったことが、どれだけ彼の人生を変えたかを知ってほしいのだ。彼らがメンフィスの500マイル圏内ならどこでも大会への旅行を手助けし、そしてアリ・バーカー/Ari Barkerのような友人たちが、車の中でダスティンの思考を助け、また彼の意向を聞いてカードを管理してくれたことを教えたいのだ。

　ヴァンスは知らせたいと思っている。ダスティンの姿に感銘を受けたブランドン・ジョーンズ/Brandon Jonesが、「プロツアーでプレイする」というダスティンの夢を叶えてほしい、とウィザーズ・オブ・ザ・コーストに手紙で伝えたことを。早く息子に良い知らせを届けたくて仕方がなかったことを。そして、ダスティンがプロツアー『ラヴニカのギルド』への招待を知らせるメールを開いたときに、どれほど純粋に喜んだのかを。この週末で得られる経験は、他の何をおいても親子にとって永遠のものとなることだろう。

　ヴァンスは、この先に家族を待ち受けている未来を知っている。筋ジストロフィーには42の類型があるが、いずれであっても根治する方法はない。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合は20歳を迎えられないと言われているが、ダスティンは今や26歳である。彼の健康状態は悪化を続けており、彼が年を越せるかどうかもヴァンスにはわからない。

　しかしその一方で、ヴァンスには１つ確実にわかっていることがある――マジックは彼に、息子と長い時間を過ごす機会を数年前に与えてくれたということだ。そして、それもまた彼が伝えたいことの１つなのだ。

「ダスティンがまだこの星に残ることができている理由は、まさにマジックとそれをプレイしている人のおかげだと私は知っています」と彼は言う。「朝起きて食事や着替えを済ませると、彼は決まってマジック・オンラインを起動します。かつて自動車番組をやっていた私の友人はよく『これは車の番組じゃない、人の番組なんだ』と言っていましたが、マジックも同じです。他の国から来た人も含め、この週末も本当に多くの人と挨拶を交わしました。みんなダスティンを公平に扱って、それが彼にとって大事なことなんです。彼は高校時代にも友達に恵まれましたが、その多くは卒業後結婚して、家庭を持ち、もはや彼のそばに長く居ることはできません。しかしマジックは、今まで関わりのなかったようなまったく新しいグループを彼にもたらしてくれたんです」

「私たちは、ダスティンや同じような境遇の人のことを知ってほしいんです。家族は私と彼だけになりましたが、彼がしっかりしてくれているおかげで、私は感情に流されずにいられます。彼が大丈夫である限り私も大丈夫です。そしてマジックがあれば、彼は大丈夫です」

(Tr. Keiichi Kawazoe)