EVENT COVERAGE

プロツアー『久遠の終端』

観戦記事

プロツアー『久遠の終端』初日の注目の出来事

Corbin Hosler

2025年9月27日



 アトランタへようこそ!

 今年最後のMagicConの舞台として、我々はジョージア州のアトランタへやってきた。そしてその目玉となるのがプロツアー『久遠の終端』。世界中から集まった300人の競技者たちが、特別なこのイベントのために集結している。

 モダンは2011年のプロツアー・フィラデルフィアで伝説的なデビューを果たし、それ以来10回開催されてきた。それから14年が経過し、モダンの様相は大きく変わったとはいえ、このフォーマットには変わらない側面も多く残っている。たとえば、当時「欠片の双子」というコンボでプロツアー・フィラデルフィアを制したサミュエル・エストラティ/Samuele Estrattiは、今回も「エルドラージ・トロン」によるコンボでアトランタに戻ってきていた。

 変わらないもう一つの要素は、モダンの多様なデッキ分布だ。たしかに『モダンホライゾン3』の登場によって、《有翼の叡智、ナドゥ》を中心としたメタゲームが一気に形成されたが、禁止カードリストの更新によってモダンは新たな安定期に突入した。この新たなモダンの姿は、当時のフィラデルフィアで見られたモダンにどこか似ている。それは、高速マナ、大量マナ、そして無マナといった3つの要素が共存するフォーマットだ。

 では、このモダンの戦場において、ドラフト3回を含む全8ラウンドで最も上手く乗り越えたプレイヤーは誰か? それは他でもない、あの伝説のプロツアーにも出場していた殿堂プレイヤー・中村修平だ。彼は「イゼット親和」というクラシックなモダンアーキタイプを操り、「タメシ・ベルチャー」を使用する西飛雄馬を最終ラウンドで下して8勝0敗の全勝、300人の中でただ一人の無敗プレイヤーとして初日を終えたのだ!

中村修平

 

 中村に続く形で、300人の中には6人の7勝1敗のプレイヤーたちが続いており、彼らはそれぞれ異なるアーキタイプを使用している。12点以上の勝ち点を獲得したすべてのプレイヤーが2日目への進出を果たし、トップ8進出を懸けた戦いに臨むことになる。

『久遠の終端』の終端で

 『久遠の終端』ドラフトでは無限コンボが可能だということをご存知だろうか?その方法がこちら:

 「このコンボは黒単でも完結するから、見逃さないようにね」と語るのは、Team Handshakeの注目プレイヤーであり、トップ8入賞5回、さらに神河チャンピオンシップの優勝者でもあるイーライ・カシス/Eli Kasisだ。

 この手のコンボは、100回以上このセットをドラフトしているカシスだからこそ見出せたとも言える。そして初日ではこのコンボを実現できなかったものの、彼の発言はプロツアー『久遠の終端』に出場するプレイヤーたちが直面している状況を象徴している。今回のプロツアーは最近の大会とは異なり、新セットではなく、すでに確立されたリミテッド環境が舞台となっている。そのため、競技者たちにとっては未知の要素がない代わりに、情報戦の重要性が増している。カシスはだからこそ、入念に準備を進めてきたという。

「みんなが準備していない状況のほうが、実は好きなんだよね」
「全員が準備万端だと、運の要素が大きくなるからさ」

 この考え方は、多くのプレイヤーがリミテッド環境こそが差をつける場だと捉えている点と一致する。そして今回、多くのチームはモダンに時間を割いたが、それはすでに『久遠の終端』のテストをやり尽くしていたからに他ならない。

 その中でも特に難所となったのが「宇宙船」や「ワープ」クリーチャーといったカードたちだった。これらは疑似的な機体であり、強力だが起動が難しく、リスクも大きい。バウンスや除去1枚で数ターン分の労力が無駄になることもあり、タップ状態が続くことで相手の攻勢を許してしまうこともある。

「結局のところ、コモンは大半を無視して、アンコモンは1枚だけ(2枚はなし)、レアなら基本的に採用、って感じで落ち着いたよ」──と語るのは、初日を2勝1敗で終えたブレント・ヴォス/Brent Vos。唯一の敗北は《検体輸送船》によるライブラリーアウト負けだった。

 「個人的には、新しいリミテッド環境のほうが競技的には楽しいとは思うけど、今回はちょっと変化球で、それも悪くなかったよ。おかげで構築のテストに時間を割けたしね」

 もっとも、プレイヤーたちは直前までドラフトの練習を怠ったわけではない。次回以降も含め、この安定したリミテッド環境がどんな影響をもたらすのか注目したいところだ。

ドラフトの回数はどれくらいで十分な回数になるのでしょうか?Team Worldly Councilにとって、プレイヤーパーティーは#PTEOE前に24回目のドラフトを行うチャンスでした!

 探求されたリミテッド環境だったからこそ、プレイヤーたちは新しい試みに挑戦する余地もあった。たとえば、Team Sanctum of Allのメンバーであるニコル・ティップル/Nicole Tippleは、このリミテッド環境で最もクールかつドラフト難度の高いデッキのひとつである《武器製造》デッキを構築した。

 彼女はこの赤のレアカードを、もう1枚の赤レアである《記念軍の保管庫》と組み合わせ、ドラフトラウンドで2勝1敗の好成績を収めた。

時には夢は本当に叶うのです!
@NicoleTipple

 元プレイヤー・オブ・ザ・イヤーであり、競技シーンへの復帰を果たしたルイス・サルヴァット/Luis Salvattoは、初日を6勝2敗という大成功で締めくくった。その成功の一因は、《記念軍の少尉、タヌーク》と《シードシップの幼生御守り》をそれぞれ2枚ずつ含む完璧なドラフトデッキにあった。

 一方で、殿堂顕彰者のウィリー・エデル/Willy Edelも負けてはいなかった。彼は『久遠の終端』の星景カードの1枚であるクリーチャー土地《伐採地の滝》を2枚手に入れていたのだ。

 総じて、『久遠の終端』のドラフトはメインイベントであるモダンフォーマットへの完璧な導線となり、初日をリミテッド全勝で終えたプレイヤーは35人にのぼった。その中には殿堂プレイヤーのセス・マンフィールド/Seth Manfieldとガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifも含まれている。

モダンメタゲームの開放

 前回のモダンプロツアーは昨夏のプロツアー『モダンホライゾン3』で行われ、《有翼の叡智、ナドゥ》がメタゲームを支配・歪めていた。その後、《有翼の叡智、ナドゥ》がフォーマットから禁止されたことで、モダン本来の「開かれた環境」が戻り、今回のプロツアーもその例に漏れなかった。

 

 プロツアー『久遠の終端』の全デッキリストはmagic.ggで確認できる。フランク・カーステン/Frank Karstenによる刺激的なデッキのピックアップも併せてご一読あれ

 ひとつのデッキを極めることが重視されがちなこのフォーマットでは、モダンのメタゲームを語る上でその歴史も重要な要素となる。初日では、デッキは大きく三つの軸に分類されていた。ある程度の干渉を交えつつ素早く勝利を狙う柔軟なコンボデッキ、それらを制御しようとするミッドレンジ、そして莫大なマナを生み出して巨大クリーチャーを展開するビッグマナのエルドラージ・トロンだ。

 このエルドラージ・トロンの爆発力は凄まじく、5回戦でサミュエル・エストラティと対戦したセバスティアン・ラチャンス/Sébastien Lachanceは、思わず笑うしかなかった。エストラティが3ターン目に 《災厄の先触れ》を唱え、その効果で公開された4種のカードタイプの中に《約束された終末、エムラクール》が含まれていたからだ。エストラティはそのままエムラクールを踏み倒し、ゲームは一瞬で終わった。

 

 多くのエルドラージ・トロンプレイヤーは《先触れ》を採用していなかったが、採用していたプレイヤーにとっては、開かれたメタゲームにおける重要な技術革新の一つとなった。実際、これによってある元プレイヤー・オブ・ザ・イヤーは8勝2敗という好成績を収めた。

 「最初はフルの青トロンリストから始めたけど、最終的には他の青いカードをすべてカットして、《災厄の先触れ》だけが残った」と2017–18年シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーであるルイス・サルヴァットは語った。「すごくいい働きをしてくれてるよ」。

 今週末、もうひとつサプライズとして登場したテクノロジーは? それは『Assassin's Creed』からの、あまり知られていないカード、《アブスターゴ・エンターテイメント社》だった。ビッグマナ系のデッキにさらなる冗長性を与える一枚として採用された。

このカードのおかげで4回戦を勝利。そうでなければ1勝3敗だったでしょう。

 メタゲーム上位を構成していた他の3つのデッキは、ボロス・エネルギー、タメシ・ベルチャー、そしてエスパー御霊だった。これらはそれぞれまったく異なる出自を持っている。ボロス・エネルギーは『モダンホライゾン3』から大量に追加された新カードによって生まれ、会場内で最も優れた「フェア」デッキとしての旗を掲げていた。

 ボロス・エネルギーのプレイヤーたちは、《苛立たしいガラクタ》や《外科的摘出》といった強力なサイドボードカードに注目していた。エスパー御霊は、大型クリーチャーを墓地に送る多様な手段を活用し、さらに《儚い存在》を使って《偉大なる統一者、アトラクサ》や《孤独》を繰り返し使うことができた。白のエレメンタル・インカーネーションである《孤独》は、フォーマットにおける鍵となるカードであり、他のもう1枚の5マナ域とともに、複数の青系アーキタイプの最上位層を支えていた。

 

 《量子の謎かけ屋》はスタンダードではやや遅咲きの存在だったが、今やモダンに飛躍し、しかも非常に大きな影響を与えている。《超能力蛙》とのシナジーにより、手札を1枚まで捨ててから《量子の謎かけ屋》で複数枚ドローするという動きが可能となり、この多才なクリーチャーはアトランタで結果を出した多くのエスパー》系アーキタイプに採用されている。たとえば、ジョニー・ガットマン/Johnny Guttmanはこのリストで4勝1敗、1日を通して7勝1敗の成績を収め、唯一の敗北は中村修平に対するものだった。

 「《量子の謎かけ屋》はデッキ全体をまとめる存在なんだ」と語るのは、カナダ出身で地域チャンピオンシップ優勝経験もあるリンデン・クート/Linden Kootだ。彼はこのカードをグリクシス・ミッドレンジの中核パーツとして採用していた。「《量子の謎かけ屋》は《一つの指輪》と似た役割を果たす。相手とのインタラクションでカードを使った後、手札を補充してくれるんだ」

 そして《ゴブリンの放火砲》についてはどうだろうか。このアーキタイプはエターナル環境と切っても切れない存在であり、近年再び大きく復権を果たしている。

2年前の私の5勝0敗が、PTで2番目に多く使われるデッキにまで発展するなんて、絶対に思わなかったよ。このデッキには、デザインや進化の過程にまつわるとても面白い話があって、いつかシェアしたいと思ってる。大きなコミュニティの努力だったんだ!

 《ゴブリンの放火砲》は、起動コストのタトゥーまで入れてしまうほどの愛好家であるアウストン・デセデ/Austin Decederによって広まった《リス》トにその現代的なルーツを持ち、『モダンホライゾン3』で登場した両面の呪文/土地カードによって、かつての「欠点」がむしろ最大の強みに変わったことで、本格的に現環境の一角を担うようになった。

 そしてもう一つの懐かしいコンボ、《等時の王笏》と《オアリムの詠唱》の組み合わせは、ジェイソン・イェ/Jason Yeのリストを含むいくつかのコントロールデッキの中核を成していた。著名なデッキビルダーである彼は、このゲームを決めるロック機構を勝ち筋に据え、初日を6勝1敗1分で終えた。さらに、モダン環境には親和も復活を遂げており、殿堂入りプレイヤーの中村修平が新たな構成のイゼット親和を操り、見事8勝0敗という完璧な成績を収めている。

 初日のモダンはその評判に違わぬ盛り上がりを見せた。(訳注:1敗ラインの)上位7名までに5つの異なるデッキが入り、上位12位に至っては8種類ものデッキが顔を揃えた。

展望

 合計188人のプレイヤーが12点以上のマッチポイントを獲得し、土曜朝のDAY2へと駒を進めることとなった。トップ8までに残されたのは8回戦のみ。土曜日は『久遠の終端』のドラフト3回戦から始まり、続いてモダンによる短期決戦が展開される。トップ8進出が懸かっているのはもちろんのこと、多くのプレイヤーが今後開催される世界選手権への出場権も目指している。

 土曜日には中村修平を筆頭に、トッププレイヤーたちが再びパックを剥き、フェッチランドを探しに戻ってくる。プロツアー『久遠の終端』はまだまだ続く!試合の模様はtwitch.tv/magicおよびMagic.ggでライブ配信される。(日本放送の情報はこちらから)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

サイト内検索