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プレイヤーズコンベンション横浜2025

インタビュー

伊藤 敦インタビュー:モダンの魔力

大久保 寛


 モダン・フォーマットの特徴といえば、やはりフォーマットの絶妙なバランス調整にあると言えよう。

 禁止改定、あるいは解除などのテコ入れが入る頻度がそれなりに高く、デッキの強さの均整が取られていること。ローテーションがないために一つのデッキを長く使えること。そうしたフォーマットの傾向があるがゆえに、メタゲームを読み切る力以上にプレイヤー自身のデッキ理解度や経験、モダンというフォーマットそのものへの"やりこみ"が勝率に影響を及ぼしやすい。

 「環境解明」という言葉から最も遠いフォーマット。一生味のするガム。ゆえに、たまにモダンには怪物が生まれる。

 《死の影》を用いた革新的なアグロデッキ「Super Crazy Zoo」(※リンク先は外部サイト)の生みの親であり、駆り立てられたかのようにXのアカウントで延々とMagic Onlineのモダンの大会結果をポストし続け、今なおデッキビルダーとしてその狂気をモダンというフォーマットにぶつけ続ける幽鬼──"まつがん"こと伊藤 敦。

 モダン・フォーマットの魅力を語ってもらうのに、これほど適切な人選はあるまい。ここでは、モダンで開催された今回のチャンピオンズカップファイナルの公式配信でも解説を務めた伊藤 敦に、モダンの秘める魔力を語ってもらった。

 

モダンの魅力とは?

──「まずざっくりとした質問で恐縮ですが、モダンの魅力とはどのようなところにあるのでしょうか?」

伊藤「一つのデッキが長く使えるってことと、環境に存在している各デッキの総合的な勝率がだいたい45~55%くらいのダイアグラムに収まっていることだね。モダン自体長い歴史があって、禁止カードが出たり『モダンホライゾン』のような"爆弾"が投げ込まれたりして何度も環境が変わってきたけど、全体的には安定しているフォーマットだと言える。その証拠に、今回のチャンピオンズカップファイナルでは、使用者が5人以上いるデッキが15種類もあった(参考:メタゲームブレイクダウン)し、安定感と多様性を両立しているフォーマットだと思うよ」

──「なるほど。『モダン』と『多様性』は昔からセットで語られることが多い組み合わせの言葉でしたが、今おっしゃられた『モダンホライゾン』などはモダンをどのように変化させましたか?」

 

伊藤「一番大きいのはピッチスペルの存在だね。昔のモダンはオールインコンボがわりと通りやすくて、フェアなデッキは相対的に不利な立ち位置にいたけど、今はフルタップでも《孤独》が飛んできたり、気が抜けない。それに『モダンホライゾン』以外にも、フェッチランド+諜報ランドの組み合わせでゲームの再現性が向上したり分岐が増えていて、極めがいのあるフォーマットになってるね」

──「ローテーションがなく、比較的近年に作られたカードが使えるフォーマットとしては他にパイオニアがありますが、パイオニアとはどのような点で異なっているでしょうか?」

伊藤「今言ったピッチスペルとフェッチランドの有無が一番大きな差といえるかな。パイオニアはスタンダードの延長線にある感じだけど、モダンはレガシーともスタンダードともパイオニアとも違う、かなり特異なゲームだと思う。プレイヤー本人のスキルがゲームに干渉できる部分が大きいと感じるね。まぁ、それは相手も同じ条件なわけだけど……あと、パイオニアと比べて少ないカード枚数で勝てるから、マリガンが許容されやすい。事故も少ないし、『マジックを我が物にして遊びたい』って人にはうってつけのフォーマットだと思うよ」

モダンを攻略していく糸口

──「多種多様なデッキが存在し、かつどのデッキもあまり事故を起こさずフルパワーで戦える、というのがモダンの魅力なわけですね。しかし、そう聞くとフォーマットを攻略していくのは難しそうにも感じます」

伊藤「難しいのは間違いないね。ただ、多様なデッキがありつつも時期によって、なんなら週ごとに微妙にデッキの立ち位置が入れ替わっていたりして、サイクルが回ってるんだよ。特に、モダンで今一番強いインタラクション(妨害)は《記憶への放逐》と《否定の力》と《孤独》の3種類があるけど、それぞれ役割も違えばこれらを使うデッキも違う。この3つのうち、どれかがよく使われる週なのか、あるいは使われない週なのか、そこを読み解くことで環境に隙を見つけられると思う」

 

──「《記憶への放逐》と《否定の力》と《孤独》の動向をチェックしていれば環境を攻略できるわけですか」

伊藤「まぁ、攻略のチャンスがある、って感じかな。いつでも先が分かるわけではないけど、思わぬタイミングで思わぬデッキが勝ち残るってこともある。レガシーよりは環境の足切りラインも低いから、ワンチャンを信じながら隙を見つけていくっていう姿勢が環境攻略の鍵になると思う」

──「ありがとうございます。攻略について考えていくうえで、モダンのデッキの大まかな特徴についてもお伺いできますか?」

伊藤「全体の特徴としては、どのデッキも"必殺技"を持っているってことかな。コンボ要素と言い換えてもいい。《御霊の復讐》デッキとか《日を浴びる繁殖鱗》コンボとかアミュレット・タイタンはそもそもがコンボデッキだから分かりやすい例だけど、ボロス・エネルギーなら《ゴブリンの砲撃》とか、イゼット果敢の《精鋭射手団の目立ちたがり》や《暴力的衝動》、イゼット親和の《河童の砲手》とかね。コントロールデッキでさえ《等時の王笏》+《オアリムの詠唱》のコンボを取り入れていたりするくらい、どのデッキも最強の技がある。全選手入場だよ、まさしく」

 

伊藤"まつがん"敦とモダン

──「ここまでモダンの魅力をいろいろと掘り下げていただきましたが、伊藤さん自身もそうした魅力を感じてモダンをプレイし続けているんでしょうか?」

 

伊藤「いや、じつを言うと俺自身は"もう一つ上のレイヤー"にいる」

──「?」

 

伊藤「モダンを破壊して"神"に至る」

──「???」

 

伊藤 黄金時代 (オウゴン) に還る」

──「???????????????????????」

伊藤「環境に15個のデッキがあるなら、俺は16個目のデッキを作る。健全で行儀のいいモダンはしない。俺だけは蛮族でいる。俺は過去に向かって全力で加速し続けるから、ついて来たいやつだけついて来ればいい。俺がいるのは"この領域"



伊藤「──ここが、私のアナザースカイ
 


 全てのプレイヤーにとって、超えるべき壁とは目の前の対戦相手を指す。マジックが対戦型のゲームである以上、これは当たり前の前提だ。しかしながら伊藤にとっての対戦相手とは自分自身、そして"モダンというフォーマットの枠組みそのもの"なのだ。ソリティアとも少し違う、1人用マジック。かつての対戦カバレージでは、伊藤の生き様そのものが記録されている。

伊藤「マジックが対人ゲームだとしても俺はそれを否定する。モダンは、自分との戦いなんだよ……!!」

マジックフェスト・横浜2019 第5回戦:畠山 省吾(島根) vs. 伊藤 敦(東京) より引用

 それは孤独な戦いなのかもしれない。まぁ、そもそもマジックってそういうゲームじゃないし……。

 しかしながら、強引にまとめるのであれば、それもまた広大なカードプールを擁しつつ多様な戦略を許容する「モダン」というサンドボックスの懐の広さが成し得る極まった遊び方の一つなのだろう。

 この記事を読んでモダンの魅力を感じられたあなたは、ぜひ一度モダンのデッキを手に大会に挑んでみてはいかがだろうか? きっと、新たなマジックの魅力がそこにあるだろう。

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