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プレイヤーズコンベンション横浜2024
決勝:佐藤 啓輔(新潟) vs. 髙村 竜馬(神奈川) ~初代王者をかけて~
「プレイヤーズコンベンション横浜2024」がシリーズ初開催となった「ジャパンスタンダードカップ:『カルロフ邸殺人事件』 Supported by 楽天ブックス」。同大会は総勢448名によるスイスドローによる予選ラウンド10回戦、さらに準決勝までの2回戦を1日でこなすハードなイベントとなった。
明けて本日行われる決勝戦。昨晩22時過ぎまで行われた準決勝の疲労がいまだ抜けず、いや興奮冷めやらぬといったところだろうか。
その栄えある第一回大会の覇者が、もうじきに決まろうとしている。ここから新たなスタンダードの歴史が紡がれていくわけだが、そのはじまりに相応しい熱戦を期待したい。
決勝戦を戦う2名のプレイヤーを紹介しよう。
髙村 竜馬
髙村 竜馬のプロフィールのこれまでの主な戦績欄には「なし」と記載されていた。それもそのはず、構築戦よりもリミテッドを好んでいるとのことだった。ここ最近プレイヤーズコンベンションクラスの規模のリミテッド大会は開催されていない。
髙村に特に好きなフォーマットを聞くと、間髪入れずにドラフトと返ってきた。MTGアリーナを中心にリミテッドをプレイしているとのことで、その腕前は毎月ミシック入りするほど。友人に誘われてチャンピオンズカップ予選にも参加するが、本業はMTGアリーナでのリミテッドとのことだ。
とはいえ、ジャパンスタンダードカップの決勝戦まで勝ち進んできたのは、決してフロックではない。メタゲームの筆頭であるボロス召集を強く意識して構築されたドメイン・ランプ、《一時的封鎖》はこの大舞台で見事的中した。スイスラウンドではボロス召集に対して4戦全勝したのだ。
デッキパワーの高いドメイン・ランプを、環境に合わせて最適化させるだけの分析力と実力を兼ね備えたプレイヤーだからこそ、このフィーチャーマッチの席へとやってきているのだ。
佐藤 啓輔
対するは競技マジックの最高峰MPL(マジック・プロリーグ)に所属経験があり、「アリーナ・チャンピオンシップ1」準優勝、グランプリトップ8と輝かしい経歴を持つ佐藤 啓輔。構築戦を得意としており、デッキタイプとしてはミッドレンジを好む傾向にある。
膨大なインプットと飽くなき反復練習、この愚直なまでの練習スタイルが彼の力の源であり、結果へと繋がっていたのだ。今大会ではトップメタの一角、エスパー・ミッドレンジを使用している。
戦歴豊富な佐藤だが、これまでにタイトル獲得歴はない。「プレイヤーズコンベンション愛知2023」において友人である増門 健太(新潟)がチャンピオンズカップファイナルで初優勝を遂げたことで、大いに刺激を受けたとのこと。実際にこの刺激は好循環を生み、佐藤は決勝戦のテーブルにいる。
ここはジャパンスタンダードカップ、競技マジックの原点にして新たなタイトルとなるべき場所である。
大型大会の第一回目、そしてともに初優勝を狙うもの同士。両者の視線が交錯し、最後の一戦がはじまる。
ゲーム1
予選ラウンドの順位の高い佐藤が先手を選ぶも、マリガン。髙村は《豆の木をのぼれ》や《装飾庭園を踏み歩くもの》、《太陽降下》、《スパーラの本部》とバランスの良い初手をキープ。
《ラフィーンの塔》と《スパーラの本部》を置き合うこの環境らしい始まりで決勝戦は始まるが、続くターンに佐藤の手からクリーチャーは出ず。初動は《捜査の達人、アルキスト・プロフト》からとなる。
対する髙村は《スパーラの本部》を2枚重ねてから《山》を置き、プレイ《装飾庭園を踏み歩くもの》。《沼》をフェッチすると、わずか3ターン目にして5タイプの版図を達成する。
返す4ターン目、佐藤はキーカードである《策謀の予見者、ラフィーン》をプレイグラウンドへ。謀議で 強化し、髙村のライフを削っていく。
髙村は《豆の木をのぼれ》をプレイしてドローを進め、《魂の洞窟》を天使指定でセット。佐藤の攻撃に合わせて《力線の束縛》をプレイし、《策謀の予見者、ラフィーン》を対処する。この間にも《豆の木をのぼれ》が手札を補充しつつ、だ。
一進一退の攻防が続く中、佐藤は《大洞窟のコウモリ》で手札を検閲すると、そこには絶望が広がっていた。
公開されたのは《怒りの大天使》、《力線の束縛》、《装飾庭園を踏み歩くもの》、そして《太陽降下》2枚。悩みながら《力線の束縛》を追放するが、予定調和に《怒りの大天使》で対処されてしまう。髙村は手札を取り返し、ライフは14と高水準。絆魂付きのクリーチャーを得て、護身完成してしまう。
佐藤は《怒りの大天使》を《喉首狙い》で対処し攻撃するも、残るライフは10とまだ遠い。
髙村の戦場に7枚目の土地が出ると、《装飾庭園を踏み歩くもの》が攻撃へと向かい、《群れの渡り》が続く。仮にこれらとを対処しようとも、《太陽降下》による二段構えでの展開が確約されている。
スタックして手がかりでドローするも《かき消し》はなく、《忠義の徳目》で戦線を横に広げるのみ。自ターンに《大洞窟のコウモリ》をプレイすると、髙村の手札には《力線の束縛》、《怒りの大天使》、《太陽降下》×2が変わらずに鎮座していた。
流石の佐藤も、この除去の海を越えることはかなわないと悟り、投了。
佐藤 0-1 髙村
ゲーム1はドメイン・ランプのボードコントロール力を存分に見せつけた髙村が先取した。的確な除去の打ち回し、攻守の切り替えはリミテッド巧者を思わせるプレイであった。
追い込まれた佐藤だが、かつて、最高峰に位置するMPLをかけた「チャレンジャー・ガントレット」でも、同様のことがあったのを思い出した。予選ラウンド終了から数えて4連勝。しかし、これは1敗すれば即終了の背水の陣での戦いだった。
佐藤 啓輔は追い込まれてから。そう、佐藤 啓輔は追い込まれてからが強い。
ゲーム2
サイドボードを経て、佐藤はマナ総量の大きなカードを打ち消し呪文などと入れかえ、髙村は《豆の木をのぼれ》や《偉大なる統一者、アトラクサ》などの重いフィニッシャーを減らし、《石術の連射》など延命措置を増量した。
このマッチアップの攻防の焦点は2~3ターン目に置かれる。佐藤がクロックを用意し、それを増強しゲーム時間を短縮できるか、髙村が版図を達成しつつ、ダメージソースを対処できるか、だ。最終的に打ち消し呪文による攻防へと発展するが、それは下準備が完了した後のお話し。クリーチャーが定着し、版図が揃わないことにはスタートラインにすらたどり着けない。
両者マリガンし、髙村はやや長考。《太陽降下》こそあるものの、やや土地が多く、それでいて版図の揃わない手札を見て悩む。結局はキープするが、この決断は吉と出るか。
佐藤は《敬虔な新米、デニック》からゲームをスタートし、対する髙村は《ジェトミアの庭》を重ねる。続く《大洞窟のコウモリ》は《怒りの大天使》を奪い、《太陽降下》と《偉大なる統一者、アトラクサ》を白日の下にさらす。
《石術の連射》で《大洞窟のコウモリ》は打ち落とされるが、返すターンの攻撃に合わせて《放浪皇》をプレイし、クロックを再び3点へと戻す。髙村のライフは15。
髙村はセットランドのみでターンを終え、佐藤は《敬虔な新米、デニック》を再度強化して4点。《忠義の徳目》と《軽蔑的な一撃》を構え、最小限の動きでプレッシャーを与えていく。
未だに版図を達成できない髙村は《魂の洞窟》をセットすると、《太陽降下》。ここは予定調和に《軽蔑的な一撃》との交換を経て、《忠義の徳目》でクロックは6点まで増量される。
追い打ちをかけるように佐藤は《大洞窟のコウモリ》をプレイし、《怒りの大天使》を追放。《力線の束縛》を承知の上で残し、ライフを4まで詰める。
佐藤は《放浪皇》と4/4、3/3のクリーチャーをコントロールしており、《力線の束縛》はケアされているため、どうやっても髙村の敗北は不可避だ。髙村に求められるのは《太陽降下》や《怒りの大天使》といった2体以上のクリーチャーを1枚で対処できるカードだ。
髙村は《金属の徒党の種子鮫》を戦場へと送り込み、《力線の束縛》を構える。ギリギリのところで踏みとどまり、もう1ターン稼げるかにみえた。
《放浪皇》で強化後、2体の4/4のクリーチャーで攻撃へと向かう。攻撃に合わせて《力線の束縛》がプレイされるも、佐藤はトップデッキした《否認》を見せる。構えたことが裏目となったか。
佐藤 1-1 髙村
泣いても笑っても最後の一戦。佐藤は入念にサイドボードを検討する。最後の最後、一度は抜いた《黙示録、シェオルドレッド》を再び、デッキへと戻す。
ゲーム3
佐藤、三度のマリガン。マリガン後の手札に2マナ域はないが、ダブルマリガンするよりはキープを宣言する。
髙村の手には《豆の木をのぼれ》、《太陽降下》などゲームに必要なカード、そして打ち消し呪文を無効化する《魂の洞窟》を含めた土地が揃っていた。
最終戦の口火は《豆の木をのぼれ》によって切られる。佐藤の《大洞窟のコウモリ》は2枚目の《豆の木をのぼれ》を奪いリソース差がこれ以上つかないようにするも、《太陽降下》と《怒りの大天使》、《偉大なる統一者、アトラクサ》が残ってしまう。
髙村は三度タップインを続ける。加速できなかったこのタイミングで、佐藤は《第三の道のロラン》をプレイし《豆の木をのぼれ》を割り、リソース面での憂いを断つ。本来佐藤側が攻守の主導権を握るはずだが、先ずは髙村のカードに応じるしかない。
返す4ターン目、髙村は迷いつつも《怒りの大天使》をブロッカーとして配備する。
佐藤の手に除去はなく、返すターンの《太陽降下》を考えて《黙示録、シェオルドレッド》をプレイせずに、4マナを立てたままでエンド。この挙動に対し、髙村は
髙村「《放浪皇》か」
とゲーム2の勝敗を決めた《放浪皇》を警戒し、《怒りの大天使》で攻撃はせず。
しかし、予想外のところでゲームは進行していた。髙村が5枚目の土地をセットできなかったのだ。佐藤はここが勝負所と読み、力強く、タップアウトで《黙示録、シェオルドレッド》を送り込む。
そして、佐藤の予想は違わず。髙村は続くターンにもアンタップインの土地を引けない。代わりに《ゼンディカーへの侵攻》をトップデッキし、マナ加速しつつ版図を達成する。マナを求めて《怒りの大天使》が《ゼンディカーへの侵攻》へ向かうも、ここは《大洞窟のコウモリ》が身を挺してブロック。
佐藤は2体を攻撃へ送り出し、6点刻み、髙村のライフは12まで落ち込む。追加戦力はないものの、《黙示録、シェオルドレッド》が着々と髙村のライフを蝕んでいく。
髙村は再度《怒りの大天使》で攻撃するも、予定調和的に《放浪皇》で対処されてしまう。間の悪いことに髙村の手に7枚目の土地はない。潤沢な手札こそあれど、《偉大なる統一者、アトラクサ》はプレイできない。
脅威に対処すべく《怒りの大天使》をプレイし、出たばかりの《放浪皇》と《第三の道のロラン》を対処する。佐藤はスタックして《第三の道のロラン》の能力を起動し、髙村は溢れんばかりの手札を抱えることとなった。
ここで佐藤はデッキの代名詞である《策謀の予見者、ラフィーン》をプレイし攻撃を宣言。《英雄の公有地》を含む4枚の土地をアンタップ状態で残し、ターンを返す。
髙村は自身のアップキープに《力線の束縛》をプレイし《黙示録、シェオルドレッド》を対象にとり、《英雄の公有地》の起動を促す。仮に佐藤が《英雄の公有地》を起動しタップアウトしたこのタイミングならば、確実に《太陽降下》をプレイできると考えて。
いや、できない。残る白マナはひとつのみだ。
しかし、《ゼンディカーへの侵攻》を《覚醒したスカイクレイブ》へと変身させればピタリと足りる。そう思い、《怒りの大天使》でアタックする。佐藤の戦場に降り立った、《策謀の予見者、ラフィーン》の存在を見落として。
大舞台、全13回戦、2日間に渡る長丁場の末、髙村の疲労は限界にきていた。ほんの一瞬、思考の糸が途切れてしまった。
佐藤は《策謀の予見者、ラフィーン》でブロックの意を伝える。止むなく《群れの渡り》経由で白マナを揃え、《集団失踪》をプレイするも、先ほどの《英雄の公有地》の効果で《策謀の予見者、ラフィーン》を除去するのみにとどまる。
佐藤は《黙示録、シェオルドレッド》で攻撃後、6マナ立ててターンを返す。残ライフはわずかに6。
髙村は8枚目の土地をセットすると、最善手を求め思案する。《太陽降下》、《偉大なる統一者、アトラクサ》と状況を打開するカードはあるが、佐藤の手札に何があるかはわからない。しかもどちらも裏目が存在している。
《太陽降下》は佐藤がサイドボードから入れているであろう《否認》や《軽蔑的な一撃》で対処されてしまう。《魂の洞窟》を経由した《偉大なる統一者、アトラクサ》は打ち消されないものの、《ティシャーナの潮縛り》で戦場に出たときの誘発型能力どころか絆魂すらも失ってしまう。
髙村は悩んだ末に、佐藤の手札に打ち消し呪文があると信じて《偉大なる統一者、アトラクサ》をプレイする。佐藤はスタックして《ラフィーンの塔》をサイクリングし、《ティシャーナの潮縛り》で封じる。このサイクリングのドローは《否認》だったため、仮に《太陽降下》をプレイされたとしても対応できたことにはなる。だが、今求めるカードは打ち消し呪文ではなく、除去なのだ。
ターンが返り、ドローするとここで《喉首狙い》をトップデッキ!
ガッツポーズと同時に迷わず放たれた《喉首狙い》はその名に違わず、髙村への介錯となった。
佐藤 2-1 髙村
対戦後
決勝戦が終わると、髙村は《英雄の公有地》を使わせるために《力線の束縛》をプレイした場面を悔やんだ。普段ならば打ち消し呪文など気にせずに《太陽降下》をプレイしていくところを、やや慎重になり過ぎたとも。せめて《怒りの大天使》を攻撃へ送り出さなければと、しきりに悔やんでいた。
わずかなミスにより未来は変わってしまったのかもしれないが、佐藤をギリギリまで追いつめていた。それも2日間に渡る長丁場を戦ったうえでだ。このほろ苦い経験は髙村の財産として、ジャパンスタンダードカップ準優勝は初めての戦績として刻まれたはずだ。次回優勝するための、回り道として。
佐藤は決してドローに恵まれたわけでも、一手でゲームをひっくり返すほどのビッグプレイがあったわけでもない。ただし、適切なプレイをこころがけ、少しずつ天秤を自分のほうへと傾けていった。丁寧に、最適解を追い求めた続けた。
そして時には髙村の土地の少なさ、白マナの少なさを見逃さず、大胆にもタップアウトで《黙示録、シェオルドレッド》をプレイし、勝利を手繰り寄せた。
優勝が決まったあと、佐藤はゲーム3の初手をこう振り返る。マリガン後の手札も芳しくなくかなりギリギリのキープであったと。ダブルマリガンするよりは2回のドローで2マナ域を引くほうが可能性があるのではないか、とキープしたと。
3ターン目の《第三の道のロラン》のプレイも、手なりで《策謀の予見者、ラフィーン》をプレイしてしまいそうだが、アドバンテージ面で差がつかないように前者を選択した。その上で、《黙示録、シェオルドレッド》と揃えば、相手にリソースを与えてしまうのも承知の上で能力を起動し、果敢にライフを攻めていく冷静な判断力が垣間見えた。
その瞬間ごとにどのリソースが最重要か判断するのは並大抵のことではない。何が勝負の焦点か把握し、互いのリソースを見比べてバランスをとる冷静な思考があった。
ジャパンスタンダードカップには真剣勝負ならでは駆け引き、プレイの奥深さ、トップデッキを巻き込んだ喜怒哀楽、そして何よりスタンダードの面白さがつまっていた。
マジックと出会いパックを購入し、おそらく最初に経験するフォーマットはスタンダードだ。
友人と遊び、近所のカードショップへと通いだし、大会を経てなお、スタンダードは一番身近なフォーマットであり続ける。
次なるステップや新鮮刺激、新しい体験を求める方には、是非ともジャパンスタンダードカップへと参加していただきたい。ここにはきっと求めるものが手に入る。なぜなら。
ここはジャパンスタンダードカップ、競技マジックの原点にして新たなタイトルとなるべき場所だから。
その初代王者として佐藤 啓輔の名を、ジャパンスタンダードカップのタイトルとともに、未来永劫マジックの歴史に刻印しようではないか。
初代ジャパンスタンダードカップ王者は佐藤 啓輔!!
おめでとう!!
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