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プレイヤーズコンベンション横浜2024
第11回戦:市川 ユウキ(神奈川) vs. 棚橋 雅康(新潟) ~理不尽の押し付け合い~
チャンピオンズカップファイナルもいよいよ11回戦。予選12ラウンドが行われる本大会もいよいよ終盤戦に差し掛かり、トップ8進出のラインが薄ら見えてきた。
プレイオフ進出はもちろん誰もが望むところだろうが、上位12名に次回プロツアーの権利が付与されるこの大会では12回戦はID(両者任意による引き分け処理)が行われることも多く、実質的にこの11回戦目が予選ラウンドの大一番ということになる。
そんな上位進出の懸かったこの試合で、フィーチャーマッチテーブルに呼ばれたプレイヤーの一人が市川 ユウキだ。
市川の実力の証左となる戦績は、プロツアーで数度のトップ8進出やグランプリ優勝など枚挙に暇がない。ここ数年の間にもイニストラード・チャンピオンシップでの優勝やアリーナ・チャンピオンシップ2でのトップ8入賞といったレコードを積み重ねている、言わずとしれた関東のトッププレイヤーの一人だ。
その使用デッキは「御霊ブリンク」。《御霊の復讐》で《偉大なる統一者、アトラクサ》などのフィニッシャーを釣り上げ、《儚い存在》などのブリンク手段で戦場に定着させながら戦場に出たときの誘発型能力も使い回すコンボデッキだ。『カルロフ邸殺人事件』の新カードである諜報ランドも採用されており、昨日は1ターン目に諜報で《偉大なる統一者、アトラクサ》を墓地に落として2ターン目に《御霊の復讐》を釣り上げるという掟破りのコンボも成立させたそうだ。
リアニメイトにこだわらずとも《悲嘆》を《儚い存在》で使いまわしながらクロックを刻むいやらしいビートダウンプランも可能となっているこのデッキはこれまで市川に8勝1敗の好成績をもたらした。はたしてトップ8進出に向けたこの大事な試合でも白星を勝ち取ることができるだろうか。
相対するは新潟のマジックコミュニティ「Onogames」のメンバーが一人、棚橋 雅康だ。このOnogamesは過去にグランプリで3度のファイナリストに輝いた木原 惇希や、The Finlas2018優勝者の渡邊 崇憲、そして先のチャンピオンズカップファイナル シーズン2 サイクル1で優勝した増門 健太を輩出するなどマジック界における存在感は年々増している強豪集団だ。
棚橋自身も過去にはプロツアーサンデー(ベスト8)進出経験もあり、実力は十分。使用デッキは過去にBIGMAGIC OPENでも使用し、棚橋を準優勝へと導いた白緑の無限コンボ入り《集合した中隊》デッキの最新版「ヘリオッド・カンパニー」だ。緑白のウィニー戦略を取りつつも、その名を冠する《太陽冠のヘリオッド》が戦場にいる状態で《スパイクの飼育係》がいれば無限ライフ、《歩行バリスタ》に絆魂を付与すれば無限ダメージを与えられるという中速コンボデッキである。
仲間たちの視線をそのテーブルへと集める棚橋。立ち位置がよさそうだから選んだという愛機、そのキーカードである《集合した中隊》は棚橋に微笑んでくれるのか?
プロツアー権利獲得とその先にある決勝ラウンド進出のため、両者ともに負けられない戦い。決戦の火蓋が切って落とされた。
市川 ユウキ(神奈川) vs. 棚橋 雅康(新潟)
ゲーム1
先攻の棚橋が素早く《霧深い雨林》を起動すると《森》から《東屋のエルフ》をプレイする。そんな棚橋に呼吸を合わせるかのごとく、市川は《致命的な一押し》で《東屋のエルフ》を除去。
ならばと棚橋が《復活の声》をプレイし、返す市川は《ファラジの考古学者》をプレイ。残念ながらこれによって落ちたのは土地3枚でリアニメイト先を墓地に送り込むことは叶わない。
返す棚橋が3ターン目にプレイしたのは《太陽冠のヘリオッド》。さらに続くターンを3マナをオープンにして終える市川の前に《オーリオックのチャンピオン》と《機能不全ダニ》を並べ、《オーリオックのチャンピオン》でライフを回復すると《太陽冠のヘリオッド》の誘発型能力によって《オーリオックのチャンピオン》に+1/+1カウンターを載せる。
互いにコンボ成立のための下準備を進める序盤の攻防。ここまでは棚橋が軽快に展開してきたが、市川がフェッチランドを起動して《薄暗い裏通り》をセット、諜報1によってライブラリートップを検めると再び状況が変わる。
市川「落ちた落ちた。これはプレイ変わるな」
そう言いながらライブラリートップから墓地に置いたのは《偉大なる統一者、アトラクサ》。まだ棚橋の第4ターン終了時、市川はここが仕掛けどころとばかりに《御霊の復讐》で《偉大なる統一者、アトラクサ》をリアニメイトする。
苦い顔を浮かべつつも市川の《御霊の復讐》を眺めることしかできない棚橋は、その誘発型能力によって一気に手札を潤沢にした市川の続く《偉大なる統一者、アトラクサ》の攻撃を受ける。さらに《偉大なる統一者、アトラクサ》によって手札に加えられた《儚い存在》が《偉大なる統一者、アトラクサ》をブリンクし、市川にさらなるアドバンテージをもたらす。
しかし、手札の枚数で勝敗が決まるのであればこのゲームの勝者は手札がない棚橋に対してディスカードステップに手札を捨てるほどの余裕がある市川であることに違いないが、棚橋の盤面にはすでに《太陽冠のヘリオッド》も出ておりコンボ成立は目前だ。しかも棚橋のトップデッキは《集合した中隊》!
市川「《集合した中隊》……どうぞどうぞ」
棚橋がライブラリーの上からカードを次々に取り出す。こうなると今度は市川が棚橋を眺める番だ。もしこの7枚の中に《スパイクの飼育係》がいれば棚橋の無限コンボが成立するが……
めくれたのは《イーオスのレインジャー長》と《東屋のエルフ》。棚橋にとっては残念なことにこのターン中に勝利、もしくは敗北の目がなくなることはなかったが、《イーオスのレインジャー長》はその誘発型能力で《歩行バリスタ》を探し出している。
ここからはコンボの解説になる。棚橋の土地からのマナは4マナしか出ないが、市川からの妨害さえなければ次のターンに《歩行バリスタ》を「X=1」でプレイ。これが戦場に出たときに《オーリオックのチャンピオン》の誘発型能力でライフを得て、《太陽冠のヘリオッド》の能力で《歩行バリスタ》に+1/+1カウンターを載せることができる。さらに残った2マナで《太陽冠のヘリオッド》の起動型能力で《歩行バリスタ》に絆魂を付与。あとは《歩行バリスタ》で本体にダメージを与え、そのたびに《太陽冠のヘリオッド》の能力が誘発して《歩行バリスタ》に+1/+1カウンターが載って……この過程を繰り返すことで市川に無限ダメージを与えることができるという寸法だ。
つまり市川は《太陽冠のヘリオッド》か《オーリオックのチャンピオン》のいずれかに対処せねばならないというわけだ。ならばと市川はその大量の手札から棚橋の《オーリオックのチャンピオン》に《虹色の終焉》をプレイして除去。こうなると《歩行バリスタ》を「X=2」でプレイするほかなくなり、そうなると《太陽冠のヘリオッド》の起動型能力を起動するマナがなくなってしまうため、見た目上は次ターンにコンボ成立することはなくなった。
しかし、返す棚橋は《イーオスのレインジャー長》を生け贄に捧げて市川のこのターンの呪文による妨害を牽制すると《楽園の拡散》をプレイ。《東屋のエルフ》で《楽園の拡散》の付いた土地をアンタップし、都合6マナを捻出して満を持して《歩行バリスタ》「X=2」!
だが、これに市川は《精霊界との接触》の「魂力」を起動。《イーオスのレインジャー長》が封じるのは呪文のプレイだけなので「魂力」による《歩行バリスタ》の追放は防ぐことができない。
「それがあったか……」と頭を抱える棚橋を前に、市川は《精霊界との接触》の能力の解決。コンボ成立を目前にしながら《歩行バリスタ》が無情にも追放され、その後戦場に戻るや0/0の《歩行バリスタ》が状況起因処理によって墓地に落ちる。
全力でコンボ成立に向けて駆け抜けた棚橋にリソースは残されていない。対する市川は2枚目となる《虹色の終焉》で《太陽冠のヘリオッド》も追放して《偉大なる統一者、アトラクサ》で3度目となる攻撃を仕掛け、棚橋の縋る寄る辺はいよいよトップ《集合した中隊》からのコンボパーツを一度に揃えるしかなくなってしまう。
最後となるドロー。棚橋はライブラリーの一番上にあったそのカードを確認すると、「投了します」と力なくカードを片付けるほかなかった。
市川 1-0 棚橋
ゲーム2
再び先攻の棚橋は《楽園の拡散》でマナを伸ばすスタート。対する市川はまず《平地》を置いて……
市川「《悲嘆》、ピッチで」
《致命的な一押し》をコストに《悲嘆》をプレイ。棚橋の手札にあった《集合した中隊》と《スパイクの飼育係》を確認し、棚橋がどちらにするか尋ねると──
市川「どっちもで」
《儚い存在》で《悲嘆》をブリンク。再度誘発した《悲嘆》の手札破壊能力によってわずか1ターン目にして棚橋の手札から全ての呪文を捨てさせながら、3/2威迫の《悲嘆》を戦場へと定着させる。完全に手札が機能不全となってしまった棚橋は手札の土地を並べることしかできなくなってしまい、市川の《悲嘆》は無人の荒野を悠々と駆け抜けてゆく。
暴風雨のような市川の第1ターンにゲームプランを崩壊させられた棚橋だったが、その苦境にデッキも応えた。《悲嘆》にライフを持っていかれながらも、市川の4ターン目のターン終了時に《集合した中隊》をプレイ。これによって《ヴェクの聖別者》と《イーオスのレインジャー長》を戦場に出し、《イーオスのレインジャー長》が《歩行バリスタ》をサーチする。墓地対策とコンボパーツの両方を獲得した棚橋はここから巻き返さんと言わんばかりだ。
ならばと市川は再びの《儚い存在》で《悲嘆》をブリンクして棚橋の手札から《歩行バリスタ》を捨てさせ、「紛争」を達成した《致命的な一押し》で《イーオスのレインジャー長》を除去。市川も序盤に築いたリードを譲るまいと、苛烈なまでに棚橋を責め立てる。
しかし、棚橋は諦めず《オーリオックのチャンピオン》をプレイ。《ヴェクの聖別者》と合わせてプロテクション(黒)のクリーチャーを2体並べたことで一旦《悲嘆》の攻撃を押し止めることに成功する。仕方なしに市川は《薄暗い裏通り》の諜報でライブラリートップにあった《偉大なる統一者、アトラクサ》を捨てるが、これもまた《ヴェクの聖別者》によって追放される。
市川の墓地利用を封じ込めている棚橋はさらにダメ押しとばかりに《安らかなる眠り》。残りライフ4というギリギリのラインで棚橋は市川の猛攻を耐え凌ぎ、あとはライフ回復手段を引いて安全圏に逃げることができるかという展開だ。
が、即死コンボや大量のライフ獲得手段を擁する棚橋に猶予を与えることがいかに危険であるかは市川も分かっている。プロテクション(黒)を持った2体のクリーチャーへの解答を求めんとプレイしたのは《ファラジの考古学者》。
さて、《ファラジの考古学者》の能力は切削したカードの中からカードを手札に加える。このとき、切削したカードは棚橋の《安らかなる眠り》によって追放されるが、墓地から追放領域に移動する公開領域間のカード移動は《ファラジの考古学者》の能力によって切削されたという情報を追うことができる。
要するに、《ファラジの考古学者》の能力に書かれたとおり呪文を手札に加えるという処理が可能となる。市川と棚橋は念のためジャッジにもルールを確認し、市川はこの状況を打開する切り札の一つ、《滅ぼし》を手札に加えることに成功する。
が、もちろんそれを唱えてしまっては市川の《悲嘆》も破壊されてしまう。あくまで《滅ぼし》はお守りとして、《精霊界との接触》で《ヴェクの聖別者》を追放。ブロッカーが《オーリオックのチャンピオン》1体のみとなってしまった棚橋のライフめがけて再び《悲嘆》がクロックを刻み、残るライフは1点となってしまう。
トップデッキした《集合した中隊》から何とか盤面を立て直しつつあった棚橋だったが、ここまでのゲーム展開の中で削られたライフは予断を許してはくれなかった。2枚目のブロッカーを用意しなければすなわち敗北が確定するというこの状況で、棚橋はトップデッキを確認し、そして市川へと右手を差し出すのだった。
市川 2-0 棚橋
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