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プレイヤーズコンベンション横浜2023
デッキテク:伊藤 大明の「黒単バーン」 ~まさかのカードが大活躍~
チャンピオンズカップファイナルの会場を見ていると、ある場面が目に飛び込んできた。あるプレイヤーが6枚の土地をタップし、《堕落》をプレイ。ゲームの勝敗が決した場面だった。
20年前ならいざ知らず、令和の時代に《堕落》がフィニッシャーになるデッキが存在するなど誰が夢見たことか。そんな往年の名カードを使いこなしてみせたのが"ブラマス"の愛称でも知られる伊藤 大明だ。
多くの強豪を排出してきた首都圏のコミュニティ主催の大会「PWC」の常連であり、スタンダードの名手としても知られる伊藤。過去にはグランプリ・仙台2010でトップ4に、グランプリ・静岡2017春でトップ8に輝いた経歴を持つ強豪であり、今大会でもオリジナルの黒単を持ち込んで2日目に進出している。
22 《沼》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 2 《ミシュラの鋳造所》 -土地(25)- 2 《苦難の影》 3 《進化した潜伏工作員》 2 《しつこい負け犬》 4 《墓地の侵入者》 3 《黙示録、シェオルドレッド》 2 《ファイレクシアの肉体喰らい》 2 《ヨーグモスの法務官、ギックス》 -クリーチャー(18)- |
2 《切り崩し》 4 《喉首狙い》 1 《ヴェールのリリアナ》 4 《絶望招来》 2 《堕落》 3 《勢団の銀行破り》 -呪文(16)- |
4 《強迫》 2 《ギックスの命令》 1 《切り崩し》 1 《未認可霊柩車》 2 《ファイレクシアの闘技場》 1 《ヴェールのリリアナ》 2 《シェオルドレッドの勅令》 1 《魂転移》 1 《堕落》 -サイドボード(15)- |
果たして、なぜ《堕落》デッキを持ち込んだのか。そのデッキの作成経緯や構築の内容について話を伺った。
伊藤 大明
黒単を選択した理由
──「まずは黒単を構築するに至るまでの経緯をお聞かせください」
伊藤「黒単に行き着くまでに、いくつかのデッキを試しました。まず最初に『ファイレクシア:完全なる統一』のカードリストを見ていて、《グリッサ・サンスレイヤー》が強そうだと思ったんです。そこでまずはジャンド・ミッドレンジを回してみたのですが、《偉大なる統一者、アトラクサ》を使うデッキに弱いなと」
伊藤「で、次に赤単も使ってみたけど言うほどグリクシス・ミッドレンジに強くないし、グリクシス以外のデッキに勝てない。特に白単などはライフを詰めきれない展開も多くて、かなりキツいなと。ただ、現在のようなミッドレンジ環境を攻略していく上では、テンポで攻めるアプローチ自体は環境に合っていると思っていて、ある程度ライフを詰めて本体火力で焼き切るデッキを使いたいなと思いました」
──「それで《堕落》にたどり着いたと」
伊藤「そうですね、このデッキは黒単ではあるのですが、発想自体はバーンに着想を得ています。《堕落》はフィニッシャーとしても十分な火力で、赤単ではライフを詰めきれなかった白単などに対しても強いです。メインボードから墓地対策が入っているので《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキに対しても多少耐性がありますし、ロングゲームをしてくる相手にはとにかく《堕落》が効果的なので相性は悪くないです」
──「たしかに《苦難の影》や《しつこい負け犬》など軽量クリーチャーも多く、アグロやバーンのような構築ですね」
伊藤「そうですね。クリーチャーで攻めるプランに加えて、黒には《黙示録、シェオルドレッド》や《絶望招来》、《墓地の侵入者》、《ファイレクシアの肉体喰らい》の護法能力のように飛び道具でライフを攻める手段もあって、意外と今回の戦略に合うカードが多かったです」
──「デッキの理想の動きはどういった動きになるのでしょうか?」
伊藤「デッキの動き自体はシンプルで、クリーチャー、クリーチャーと展開してどんどん殴って、相手の勝負ターンまでになるべくライフを削ります。終盤の《絶望招来》や《黙示録、シェオルドレッド》、《堕落》でトドメ、という感じですね」
各カードの採用枚数について
──「デッキには2~3枚差しのカードが多く、サイドボード後のようなメインボードになっているのも特徴的だと感じました。各カードの採用枚数について解説をお願いします」
《切り崩し》2枚、《苦痛ある選定》1枚
伊藤「元々は《切り崩し》3枚でしたが、《喉首狙い》で処理できない白単の《鋼の熾天使》やアゾリウス・アグロの《精神連繋メカ》のようなクリーチャーを除去できないのが気になって、枚数を散らすことにしました。《冥府の掌握》なども検討しましたが、ライフレースしたいデッキなので2点ルーズが重く感じる場面も多く、《苦痛ある選定》を1枚だけ入れています」
《進化した潜伏工作員》3枚、《苦難の影》2枚、《しつこい負け犬》2枚
伊藤「軽量クリーチャーの枠も枚数を散らしています。《進化した潜伏工作員》は1マナクリーチャーではありますが、実際には1/1のままでは戦力にならず、まともにクロックとして運用するには地味にマナを食うので、3枚にしています。サイド後に減らすこともよくありますね」
伊藤「《苦難の影》は相手の盤面に《スレイベンの守護者、サリア》や《策謀の予見者、ラフィーン》がいても殴りに行けるいいクリーチャーなのですが、《墓地の侵入者》でライフを削る戦略とはアンチシナジーなので4枚は入れたくない。そこで、別の2マナ域として《しつこい負け犬》を採用しています。このカードは正直全然強くありません(笑) ただ、《勢団の銀行破り》に搭乗できたり、たまに奇襲能力を使って墓地から唱えたりできるので、ギリギリ及第点という感じですね」
《ファイレクシアの肉体喰らい》2枚
伊藤「同じ3マナ域の《墓地の侵入者》は4枚採用しています。《墓地の侵入者》の場合は単体除去に耐性があり、グリクシス・ミッドレンジに対して不利な交換を要求できます。能力でライフを削ることもできるので、このデッキの目指す戦略と合っているため4枚です。しかし《ファイレクシアの肉体喰らい》の場合、護法によって3点のペイライフを要求することはできますが、手札を捨てさせる《墓地の侵入者》の方がコストとしては重いので、カードパワーの面から2枚に抑えています」
《勢団の銀行破り》3枚、《ヨーグモスの法務官、ギックス》2枚
伊藤「《勢団の銀行破り》、強いカードではありますが2枚は引きたくないですよね。《ヨーグモスの法務官、ギックス》も強いカードではありますが、まぁ伝説のクリーチャーなので。ペイライフしてしまいますが、《黙示録、シェオルドレッド》と並ぶと差し引き1点回復しながらカードを引けるのでそこまでデメリットは重くありません。これはサイドボードの《ファイレクシアの闘技場》にも言えます」
各マッチアップの相性
──「環境の他のデッキとの相性はどうでしょうか?」
伊藤「グリクシス・ミッドレンジにはまあまあ有利です。このマッチアップではこちらが序盤からクロックを刻んでライフを減らしているので、相手の《絶望招来》よりもこっちの《絶望招来》の方が強いんですよね。カウンターも効きづらいですし、肉厚なデッキなので相手に除去、除去と動かれてしまった場合でも比較的簡単にリカバリーができます」
──「赤単や青単などのアグロ・テンポ系のデッキはどうでしょう?」
伊藤「《墓地の侵入者》が輝くマッチアップですね。ライフ回復もできるし、赤単のようなリソースを大切にするデッキに対しては護法能力も非常に効果的です。除去も効きやすい相手なので、こちらもまあまあ有利です。速度自体は相手のほうが速いので、きれいに動かれたときは捌ききれないこともあります」
伊藤「青単とはあまり練習できていなかったのですが、なんか勝てますね。たぶんカウンターが効きづらいことや除去が効果的なこと、こっちの方がデッキが太いことなどが理由だと思います」
──「白単はどうですか?」
伊藤「冒頭でお話したこのデッキを組んだ理由にも通じますが、《堕落》を引けるかどうかに懸かっていますね。盤面は全て捌かれてしまいますし、《婚礼の発表》のせいで《絶望招来》も効果的ではないので。白単のためだけにサイドボードにも1枚《堕落》を取っています。今大会では思ったより勝ち上がってこなかったようなので、あまり出番はありませんでしたが」
一見奇怪にも見える伊藤の黒単だが、各カードの採用枚数や《堕落》の底力を聞くと、全てが考え尽くされたデッキだということが分かる。
単色デッキながら構築の幅も自由度が高く、メタゲームや好みに合わせてデッキを調整していけそうなのもおもしろい。伊藤曰く、今大会では白単が思ったよりも少なかったため、サイドボードの《堕落》は過剰だったことや、《ギックスの命令》はサイドインする機会が多かったのでメインボードに投入することを検討してもよかったかも、とのことだ。
『ファイレクシア:完全なる統一』環境はまだまだ開拓の余地が残されている。みなさんもぜひ、《堕落》をお供に環境の解明に乗り出してみてはいかがだろうか。
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