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プレイヤーズコンベンション静岡2024
決勝:川口 哲(Magic Online) vs. 小林 智明(神奈川県) ~競技者たち~
総勢244名が参加した「ジャパンスタンダードカップ:『ダスクモーン:戦慄の館』 Supported by 楽天ブックス」(以下、ジャパンスタンダードカップ)もいよいよ2名まで絞られた。
この舞台には最大勢力であったグルール果敢も次点であったディミーア・ミッドレンジも、はたまたローグの姿もない。アゾリウス眼魔とゴルガリ・ミッドレンジ、第2勢力の筆頭同士が、ここまで勝ち上がってきた。
決勝へ残った2人のプレイヤーを紹介しよう。
川口 哲が提出したプロフィールの居住地欄には「Magic Online(以下、MO)」と書かれていた。その記載からは相当なやり込み感が伝わってきたが、事実、過去にはプロツアー参加歴もあった。現在はMOでリミテッドを中心にプレイしているが、MTGアリーナで開催されるアリーナ・オープンにも積極的に参加しており、賞金をもらうほどの腕前だと教えてくれた。
プレイヤーズコンベンションが開催されるようになり、テーブルトップの盛り上がりを知ると、テーブルトップでのスタンダードへも復帰を果たしここまで勝ち進んできた。もっぱら練習場所はオンラインが中心であるが。
所属コミュニティについて聞くと、前回にあたる「ジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』」の覇者であるryuumeiこと矢嶋 竜明やアリーナ・チャンピオンシップ4チャンピオン斎藤 慎也、はまさんこと金川 俊哉の名前があがった。実際、今回のデッキは矢嶋のお墨付きであり、MTGアリーナのラダーで回した限りは不利なマッチアップは見当たらなかったとのこと。
ほかのチームメイトがチャンピオンズカップファイナルへ参加する中、見事決勝の舞台まで進んできた。仲間たちからは「自分たちのコミュニティからジャパンスタンダードカップ二連覇あるぞ」と祝福とともに檄を飛ばされた。果たして、同コミュニティによる二連覇は実現するだろうか。
対する小林 智明は日本選手権2019でトップ8入賞の経歴があり、その際の使用デッキは奇しくも黒と緑からなるゴルガリ・ランデスであった。
普段からスタンダードに勤しみ、テーブルトップではFの集会場、オンラインではMTGアリーナを中心にプレイしている。
コミュニティについて深堀すると日本選手権2019で同じくトップ8入りしていた藤原 瑞季の名前があがり、彼の所属するグループと一緒に練習しているとのこと。実際のところ、今回のデッキは藤原に作ってもらったと語っており、ローテーション直前くらいから煮詰めてきたいわば集大成ともいえる構築である。
実際のところ、メインボードに採用された《鋼と油の夢》、《除霊用掃除機》からもわかる通り、決勝がアゾリウス眼魔であることを予見したような構成になっている。ゴルガリカラーのデッキを使うと結果がついてくる、相思相愛の関係と語る口ぶりからは、勝利への強い意気込みが感じられる。
ここはジャパンスタンダードカップ、競技マジックの原点にして新たなタイトルとなるべき場所である。
その最後の一戦を始めよう。
ゲーム1
小林「一番上に《除霊用掃除機》頼むー」
川口「いやーマジマジ(勘弁して)」
とシャッフルの段階から気は張りつめつつも和やかな両者。ゲームは川口のテイクマリガンで始まる。
《行き届いた書庫》がライブラリートップを検閲する。その先に見えたのは希望か絶望か。墓地へ置かないところから推察するに残念ながら《忌まわしき眼魔》の姿はないようだ。
川口が《行き届いた書庫》を重ねている間に、小林は《大洞窟のコウモリ》をプレイ。これによりあかされた手札は、
《傲慢なジン》
《救いの手》
《再稼働》
《魂の仕切り》
《島》
の5枚。ここから《傲慢なジン》を奪う。
川口は自分のターンへ入ると先ほどの諜報でライブラリートップへ待機させておいた《フェイの解放》をプレイし、クリーチャーの落下を願うも《救いの手》が加わるのみ。返すターンの2体目の《大洞窟のコウモリ》2号機によって《魂の仕切り》まで奪われてしまう。
そして、ここからがゴルガリ・ミッドレンジの真骨頂。黒系ミッドレンジの王、不動の4マナ域であった《黙示録、シェオルドレッド》が登場する。
《錠前破りのいたずら屋》のみが鎮座する川口のボードに対し、このタイミングでの《黙示録、シェオルドレッド》はあまりにもフィジカルで、プリミティブで、フェティッシュな存在である。
小林は攻撃の手を緩めず《喉首狙い》で《錠前破りのいたずら屋》を処理し、アタックで6点。川口へターンが返りドロー時の誘発型能力でライフは川口9-27小林。
依然として解決策の引けない川口は《眠らずの小屋》の起動を見届けると、たまらず天を仰いだ。
川口「メインを落としたのは厳しいな」
川口 0-1 小林
ゲーム2
後手の小林は7枚を見るや否やマリガン。
ゲーム1とは違い、今回の川口のスタートは順風満帆。《手練》から《忌まわしき眼魔》を手札へ加えると、《航路の作成》で墓地へ送り込み早くもリアニメイトチャンスが訪れる。
しかし、小林は慌てず騒がず《強迫》で前方確認。
《救いの手》
《錠前破りのいたずら屋》
《失せろ》
土地×3
の手札から《救いの手》を捨てさせる。
さらに《鋼と油の夢》をプレイして手札から《錠前破りのいたずら屋》を、墓地の《忌まわしき眼魔》を同時に対処してみせる。
あまりにもフェイタルな1枚に動きの止まってしまった川口に対し、小林は《苔森の戦慄騎士》をプレイ。
返すターンに《錠前破りのいたずら屋》をトップデッキし、《傲慢なジン》を落としつつ、再度《三歩先》を手札へ加える。
《苔森の戦慄騎士》が3点のダメージを刻むと、今度は《温厚な襞背》により墓地を一掃。完全にアゾリウス眼魔の戦略を封じ込めにかかる。
川口は《三歩先》を構えながら甘んじて、6点のダメージを受ける。ターン終了時に《失せろ》で両クリーチャーを対処し、ボードは空っぽに。主導権を取り戻せるだろうか。
小林は《強迫》をプレイするが、ここに《三歩先》を打ち消しとドローで合わせる。《苔森の戦慄騎士》を出来事でプレイしそのまま召喚、ではなく《除霊用掃除機》と徹底して墓地を攻める。
川口は《決定的瞬間》から《航路の作成》を流れるようにプレイすると墓地の枚数を確認。枚数はゆうに6枚を越えており、見事《忌まわしき眼魔》のプレイに成功する。
小林は一度は戦慄予示を許すも、すかさず《喉首狙い》を見舞い、《グリッサ・サンスレイヤー》を召喚と攻撃の手を一切緩めない。
川口は《傲慢なジン》をプレイするも《除霊用掃除機》の前では持ち前の傲慢さは感じられず、謙虚なパワーに抑えこまれてしまう。
ボード、墓地と徹底して妨害しながら、再度クロックを刻みだす小林。《大洞窟のコウモリ》には《三歩先》を当てるも、現状の川口視点では《三歩先》どころか一歩先すら見えぬ闇の中。ここから逆転できるだろうか。
可能性はすでにボードに用意されていた。《忌まわしき眼魔》の忘れ形見であった戦慄予示クリーチャーが《傲慢なジン》であったのだ。フリップアップし2体とも攻撃へ向かい、4点が入りライフは川口8-14小林。
ドローすると盤面を見つめる小林。《グリッサ・サンスレイヤー》は《錠前破りのいたずら屋》でブロックされ、《腐食の荒馬》と《苔森の戦慄騎士》を連続して召喚。
川口は最後の望みとして《僧院の導師》から《決定的瞬間》をプレイするも、無情にもスタックされる《喉首狙い》。悪いことは重なり、《決定的瞬間》で確認した3枚すべてがまさかの土地と選択肢すら与えられない。土地が川口のプランを狂わせる。
川口は自分と小林のクロックを数え、わずかな可能性にかけて《傲慢なジン》1体のみでアタックし、2点が入り残12。
小林はドローすると、すぐさま地図・トークンを《腐食の荒馬》へと3回起動し5/5まで育て、最後にライブラリートップをリフレッシュする。そして《眠らずの小屋》をアクティベートすると、4体のクリーチャーをアタックへと送り出す。
しかし、ここに一瞬の隙があった。《腐食の荒馬》の攻撃時の誘発型能力で公開されたのはまさかの《黙示録、シェオルドレッド》!一気にライフが8まで落ち込み、《グリッサ・サンスレイヤー》の効果でドローを選択し7となる。
目的まであと一歩という時に足を引っ張るのは、敵ではなく必ず味方とは誰の言葉だったか。《腐食の荒馬》へ騎乗せずに強気に攻撃へいったのが裏目となってしまい、川口にワンチャンスが生まれた。
この攻防に際し川口はライフというリソースを限界まで差し出し、残るライフは1に。クリーチャーは《傲慢なジン》1体のみとなった。何かを得るには何かを失うのが常である。
ここで川口は《フェイの解放》をプレイする。
およそのカードの価値というものはその時々で変わる。今、川口が求めているのはさらなる《フェイの解放》であり、《傲慢なジン》のパワーを小林のライフまで届かせるドローソースの連鎖である。
緊張の一瞬の後、切削されたのは、
そして
《救いの手》。
川口「負け……か」
川口に《救いの手》が差し伸べられることはなかった。
川口 0-2 小林
試合後のインタビュー
川口「ゲーム2は焦ったな」
戦後、川口はこう振り返る。2ターン目は《航路の作成》ではなく《フェイの解放》を構えるべきだった、と。決勝ラウンドはデッキリスト公開性であり、小林のデッキに《鋼と油の夢》があることはわかっていた。あのタイミングで手札と墓地併せて2枚を追放されたのは痛手だった。
続けて、中盤の《忌まわしき眼魔》のプレイも悔やんでいた。あそこは動くのではなく、グッとこらえて《三歩先》を構えていれば、《グリッサ・サンスレイヤー》が着地することはなかった、とも。
その反省はサイドボードにまで及び、川口の真剣さとこの一戦にかけていた想いが強く感じられた。敗北から学ぶとはまさに言葉通りであり、川口はこの一敗を糧に、さらに一歩先へと進んだことだろう。
一方、小林は《鋼と油の夢》によって序盤からゲームのイニシアチブを握り続けた。本人の言葉をかりるならば、引きたいカードを引きたい時に引いてこれた、まさに今日の人というべき力強さがあった。
しかし、これは単に小林が運を味方につけ、それのみで勝利したという意味ではない。
決勝当日の早朝から友人に仮想敵として練習してもらい、具体的なプランを練り上げてきていた。全11回戦にも及ぶ初日の疲労もなんのその、合間を使い練習したと教えてくれた。
プランを教えられただけでは勝利へはほど遠く、ゲーム中は常に適切な判断力とプレイを求められる。その道を踏み外さす慎重に進み続けたからこそ、勝利が待っていたのだ。
愛の分だけ強かったなんて競技レベルの大会においてはひどく幻想的な解釈ではあるが、今回ばかりはゴルガリへの愛の分だけ小林が強く、マッチアップの理解度が高く、結果として彼へと軍配が上がった。
プレイヤー同士を繋ぐ架け橋であり、プレイヤーとデッキの親和性を確かめる場所。
競技マジックの原点にして新たなタイトル、それがジャパンスタンダードカップなのだから。
ゴルガリへの愛により、小林は新たな王者となった。
ジャパンスタンダードカップ:『ダスクモーン:戦慄の館』 Supported by 楽天ブックス、優勝は小林 智明!! おめでとう!!
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