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プレイヤーズコンベンション静岡2024
八十岡 翔太のマジック:ザ・ギャザリング解説 ~メタゲームの正体~
モダンやレガシーといったその他の"ローテーションが存在しないフォーマット"と比べ、カードプールが狭い分新カードの追加の影響を受けやすく、しかしその全容を見通すにはカードプールが広い。それがパイオニアというフォーマットだ。
フォーマットの成立は2019年の10月。それからちょうど5年の月日が経過し、プレイヤーたちの研究も進んでいるが、今なお我々はパイオニアは最果てにたどり着いているとは言いがたい。
今大会でもメタゲームブレイクダウンを掲載しているが、最も多いアーキタイプでもメタゲーム占有率は11.3%程度。2日間で12回戦を戦うチャンピオンズカップファイナルでは、単純計算で全試合を通してもトップメタのデッキと1~2回程度しか当たらないということになる。もちろん、実際には1回も当たらないこともあるわけで、これだけ偏りがないフォーマットとなるとメタゲーム──大会におけるデッキ分布の予想とそれを元にデッキ選択を行うという戦略も成立しない。
それでもメタゲームブレイクダウンという記事が毎回コンテンツになるのは、それは単純に「みんながメタゲームを気にしているから」だ。身も蓋もない言い方をすれば、メタゲームブレイクダウンのようなコンテンツは数字になるのである。これは何もマジックに限った話ではなく、他のカードゲームも同様──さらに言えば、格闘ゲームやFPSのようなまったく別種のゲームにおいても、メタゲームに置き換えられる言葉、使用率や占有率という言葉はいつだってゲーマーの興味の中心にある。
ところで、去るプレイヤーズコンベンション愛知2024では、プロツアー『カラデシュ』の優勝者であり日本を代表するプロプレイヤー、八十岡 翔太にインタビューを行った。このインタビューの中で、八十岡は「メタゲームという言葉は幻想」であるという印象的な発言があった。
メタゲームが幻想ならば、我々はこの言葉に、その実際の存在感以上に縛られていないか? そもそもメタゲームとは何なのか? ここでは、今一度この「メタゲーム」という言葉を手がかりに、八十岡へとパイオニア攻略の糸口を聞いた。
八十岡 翔太
メタゲームとは何なのか?
八十岡「そもそもメタゲームとは何かがけっこう曖昧。デッキの分布なのか、強さなのか。言葉の意味が広いから、人によって使ってる意味が違ってたりする。仮想敵として意識するなら当然強いデッキに照準を合わせるべきだよね」
──「たしかにそうですね。とはいえ、強いデッキだから使用者が多いとか、使用者が多いデッキだから結果的に勝ち残りやすいとか、そういった要素もあるように思います」
八十岡「人気のあるデッキを研究するというのはもちろん大事だけど、使用者が多い=デッキが強いというのは違うよ。たとえば『Aを使う人が多いからAを使えば間違いないだろう』とか『A以外には不利だけどAには勝てるBを選ぼう』みたいな考え方って、結局読みが当たったとか外れたみたいな博打でしかないよね。仮に特定のデッキがフィールドに3割いたとしても7割が別のデッキで、もしそれらのデッキに対して不利がつくならそれは果たしてメタゲームを読めていることになるのか、とか」
──「では、いわゆるメタゲームブレイクダウンなどはどのように活用していくべきなのでしょうか?」
八十岡「環境に存在するアーキタイプを確認するのには役立つと思う。けど、使用率みたいな割合までは予想できないというか、しなくていいと思う。自分が大会のデッキ占有率を意識するとしたら、サイドボードに入れる最後の1枚で迷ったときに少し参考にするくらいかな。でも、それをデッキ選択の理由にするのはあまり意味がないと思う。前回のインタビューでも話した通り、まずちゃんと強いデッキを見定めたり、自分が深く理解しているデッキを選ぶことが大事だよ」
──「強いデッキを見定めるというのは、具体的にどうすればできるのでしょうか?」
八十岡「自分の場合は経験と直感だけど、そういう技術を鍛えることはできるよ。具体的にはとにかくたくさんのデッキリストを見て、何が、なぜ勝っているのかよく考えること。そうして仮説を立てて、自分でデッキを組んだりプレイしたりして経験を蓄積させていく。そうすれば、たとえその週末負けたとしても経験が残るから」
──「泥臭くやっていくしかない、と」
八十岡「そうだね。どんなゲームでも知見を貯めるフェイズっていうのは必要で、負けて覚えることもあれば勝って覚えることもある。大変だけど、腰据えてやっていくしかないよ。『読み間違えて負けた』『読みが当たって勝った』だとただの結果論になっちゃって、そこから得られるものも再現性もないからね。デッキ選択の成功や失敗はあくまでも答え合わせで、基本はプレイングとロジックだから。強いて言うなら、最新のデータを収集する情報感度は大切だと思う」
メタゲームという幻想
──「そもそも、なぜ我々はメタゲームという言葉に惹かれるのでしょうか?」
八十岡「分かりやすい答えを求めるからじゃないかな。この大会はこのデッキが多かった、だから負けた(勝った)というのはすごくシンプルで簡単な答えだよね。悪く言うと言い訳にもしやすい。もちろん、さっきも言ったとおり環境にどういうデッキがいるのか把握して、それらがどうして勝っているのか、どうすると負けるのかロジックを組み立てるのは大切だけどね」
──「なるほど。たしかにメタゲームを読み切って勝つ、当たり勝ちみたいなイージーウィンを夢見てしまうことはあるかもしれません」
八十岡「一昔前だったらチームで調整したシークレットテクとか、ある特定のデッキをメタったオリジナルデッキみたいなアプローチが刺さることもあったかもしれないけどね。今は情報の出回る速度も早いし、国内だけじゃなく海外の大会の結果も含めて誰でも見ることができるから、そういう抜け道を見つけるのは言うほど簡単じゃないね」
八十岡「まぁこの大会(チャンピオンズカップファイナル)に限って言えば、エリア予選抜けた人のデッキリストとかは見れるし、予選抜けたときと同じデッキを持ち込む人は結構多いから、ある程度デッキ分布は読めるけどね。あと、日本は海外と比べてラクドスが多い、みたいな傾向みたいなこともデータを見れば分かる。まぁ読み切ってたとしてもそこまで大きな偏りはないからあまり意味がないけど」
──「では、メタゲームの代替となる指標はどういったものがあるのでしょうか?」
八十岡「一番大切なのはデッキの練度。サイドボーディングとか主要なデッキとの相性を自分の言葉できちんと言語化できていたり、ミラーマッチで勝てるようになっていることが大事。その一歩手前にデッキ選択があって、そこは自分が一番強いと思うデッキを使うしかない。そして、強いと思うデッキを見つけるには経験が必要で、それが足りていないのであれば試行回数とか何か別のところで差を埋めていくしかない。たくさんのデッキリストや大会の結果をチェックして自分の身にしていくことができる人というのは昔からいて、そういう人たちはやっぱり強いよね」
──「たとえば八十岡さんは今回どういったデッキを選択されているのでしょうか?」
八十岡「イゼット・フェニックス。ラクドス果敢とか黒単デーモンみたいな新しいデッキもいいデッキだし、人気があるのも分かるけど、カードリスト見てたらもうどう考えてもイゼット・フェニックスが頭一つ抜けて強いと思ったから。でも、会場でイゼット・フェニックス使ってる人が一番多いかって言ったらそんなことないんじゃない?」
※八十岡は今大会でイゼット・フェニックスを使って実際に初日全勝を果たしている。
──「ありがとうございます。最後に総括として、メタゲームを気にするべきかしないべきか、気にするとしたらどういうときなのか教えてください」
八十岡「どちらか言い切らなきゃいけないなら『気にしない』。さっきも言ったとおり、会場の分布みたいなものは考えても仕方ない。けど、もっと広義でのメタゲーム、"環境に存在するデッキ"を確認する手段としてなら気にすべき。ラクドスが多そうだからラクドスに強いデッキを選ぼう、じゃなくて、ラクドス"にも"勝てるように、もちろん他のデッキにも勝てるように練習するっていう考え方が大事。そもそもパイオニアみたいにいろんなデッキがある環境では、結局はその人の腕が物を言うし、それ以外の要素はほとんど運というか誤差だから」
何気なく使っている「メタ読み」という言葉だが、大局的に見たときの勝敗への影響はそこまで大きくないのではないか。
日頃プレイしている店舗のイベントやMTGアリーナ、Magic Onlineの対戦でも「なんとなくこのデッキとよく当たる気がするな」と思うことは多いし、もしもそのデッキとの対戦に負けたなら、思い切って徹底的にマークしたデッキを使ってみたいという気分に駆られることもある。しかし、果たしてそのとき本当に足りていないのはメタ読みなのだろうか。そこには十分な創意とデッキを完璧に乗りこなすまでの練習量があっただろうか。
八十岡の有名な言葉に「どのデッキに対しても勝率が5割5分のデッキを選ぶ」というものがある(参照元。リンク先は外部サイト)。文字面だけを見るとデッキ選択の妙について語った言葉のように思えるが、その実正しくは「ミラーマッチを含め全てのデッキに5割5分勝てるくらいプレイングを磨く」という意味合いが強い。だから八十岡は、常にカードリストを徹底的にチェックし、誰よりもそのデッキを深く理解するために練習する。ともすれば、いわば「職人」のように、ただ一つのデッキを研ぎ澄ませて徹底的にロジックを突き詰めるというのが勝利への最適解ということになろう。
プロプレイヤーたちのインタビューではよく「楽しいから続けてきただけだ」という言葉が出ることがある。遠回りが一番の近道になるのだとすれば、その道中を楽しむ気構えこそが最強の"トップメタ"なのかもしれない。
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