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プレイヤーズコンベンション愛知2024

インタビュー

八十岡翔太に聞いた「スタンダード環境終盤の考え方」

大久保 寛


 スタンダードというフォーマットの最大の特徴、それはローテーションの存在だろう。

 カードプールが増え続けるパイオニアやモダン、レガシーなどと異なり、スタンダードでは年に一度カードプールの新陳代謝が起こる。これにより、年に一度スタンダード環境には劇的な変化がもたらされるのだ。逆に言えば、直前の最もカードプールが広いタイミングというのは最もスタンダード環境が変化しにくいタイミングでもある。すでに既存のアーキタイプが十分な成果を残しており、それら既存のアーキタイプと互角以上に渡り合うデッキを生み出すことは難しいからだ。

 特に昨年はローテーション周期の変更のため特例的にローテーションが起こらず(参考)、現行のスタンダード環境は丸2年近く「使用できるカードが増えることはあっても(禁止カードなどの例外を除いて)減ることはない」という状態だった。

 そのため既存デッキの中での有利不利などは日々変化しつつも、特定のアーキタイプが成立しなくなったり、逆にメタゲーム上の勢力圏を劇的に伸ばすということはそこまで多くなかった(ティムール・アナリストなどは比較的新しいアーキタイプだが、『カルロフ邸殺人事件』~『サンダー・ジャンクションの無法者』の2セットが追加されてなお新たに増えたデッキはそれだけとも言える)。

 ではこうしたローテーション直前の、メタゲームの主役たちが出揃ったタイミングで勝利するには何か独特な考え方があるのだろうか? ここでは、ジャパンスタンダードカップの解説として生放送に出演していた八十岡 翔太に「スタンダード環境終盤の考え方」をテーマに話を聞いた。

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デッキ選択の基準とは?

──「ローテーション直前の、カードプールが最大になったスタンダード環境はメタゲームに劇的な変化が起こりにくい環境でもあります。そこで、今回は八十岡さんにそうした環境を攻略していくコツなどをお話いただければと思います。まず、環境終盤でデッキを選択する際にはどういったことを考えればよいですか?」

八十岡「いわゆる一強環境(ないしニ強)か、そうじゃないかで変わってくるね。まず一強のときは、自分がそれを使うかメタるかって話になってくるからシンプルだよね。たとえばじゃんけんのグーが強いときは自分もグーを持ち込むかパーを持ち込むか、みたいな。ただ、このとき一強をメタったデッキをさらにメタるとだいたい失敗する。今のじゃんけんの例で言うなら、奇をてらってチョキを持ち込むという選択はあまりしない方がいいかな」

──「ありがとうございます。では現行のスタンダードのようにどのデッキも強いときはどうするのがよいでしょうか?」

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八十岡「そういうときは素直に練度が高いデッキを選ぶといいよ。他のデッキとの相性をしっかり理解できていることや、サイドボーディングやキープ基準がしっかりしているデッキ。一つの基準として、『ミラーマッチで勝てる術があるデッキ』というのはデッキを選ぶ理由になる。ミラーマッチは基本的に相性は五分になるはずだから、デッキの理解度で差が出てくる。つまりミラーマッチで勝てる自信がないなら、そのデッキのことをあまり理解できていないということでもあるね」

──「メタゲームの予測を立てるといったデジタルな志向ではなく、練度を基準にしていいんですね」

八十岡「デッキの強さが平均化されている環境だと、差が出るのはデッキ選択よりもプレイングだからね。周りが完璧に回せるデッキを使ってるときに、自分だけ練度の低いデッキを持ち込む方がビハインドが大きい。そもそもメタゲームっていう言葉は幻想だから。トップメタのデッキの使用率が20%を超えたあたりから意識した方がいいかもしれないけど、たとえば使用率12%くらいのデッキと8%くらいのデッキがいたとして、どっちに当たる確率も同じくらいじゃん。基本的にはメタゲームを基準にするよりも、自分がうまくデッキを回せることのほうが大事だね」

──「環境終盤で勝つための調整方法や練習方法などもお聞かせください」

八十岡「(他のデッキの情報も出揃っているから)主要なマッチアップの相性を理解することや、サイドボードなどをしっかり考えること。もちろん、さっき言った通りミラーマッチも練習する必要があるね」

環境初期と終盤の違い

──「ローテーション直後の環境と、今のような環境終盤では強いデッキの傾向なども変わるのでしょうか?」

八十岡「一概には言えないけど、カードプールが広いほどアグロが強くなる傾向にはあるかもね。たとえば1マナ域のクリーチャーの選択肢が増えるとデッキ全体を軽くできるし、より強いカードに入れ替えたりできる。コントロールもカードの入れ替えなどはあるけど、除去やドローの質が向上するといってもそれほど劇的な変化はないからね」

──「なるほど。なんとなくコントロールは環境終盤ほど強いというイメージがありました」

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八十岡「お互いのデッキのことを理解していない環境初期はたしかに押し引きの正解がわかりにくいから自分の都合を押し付けることができるアグロデッキが使いやすくて、逆に受ける側になるコントロールを使うのは難しいけど、むしろ環境初期はカードが少ない分ゲームスピードも遅くなりやすいからコントロール向きの環境でもあるよ。難しいけど強いって感じかな」

──「ありがとうございます。最後になりますが、ローテーション周期が変わったことで今後スタンダードでのローテーションはどういうふうに変わっていくと思いますか?」

八十岡「次に出る新セット次第ではあるけど、案外環境は大きくは変わらないかも、と思ってる。今まではローテーション直後はカードプールが半分になっていたけど、今回は1/3がスタンダード落ちするだけだから、今までのローテーションとは全然違いそうだね。あと、少し話は変わるけど環境終盤でも新環境でも常に新しいコンボデッキが出てくる可能性はゼロではないね。『カルロフ邸殺人事件』で《事件現場の分析者》が出たことで生まれたティムール・アナリストもそうだけど、ミッドレンジやコントロールと違ってコンボデッキやシナジーデッキは新しいカードが1~2枚追加されたり、同じ役割のカードが出てくるだけで大きな影響を受けるから」


 今回、八十岡にスタンダード環境終盤の攻略法についてのインタビューを行った。

 ポイントは、環境終盤には新しいデッキは出てきにくい分、プレイヤーの既存デッキの理解度は蓄積されているため、自分自身がデッキを選ぶ際にもデッキ自体の習熟が重要であるといこと。また、全体的な傾向としてカードプールが広がるほど強いカードの選択肢が増えるアグロデッキが有利になっていき、コントロールデッキは相対的に変化が少ないことなどが語られた。

 もちろんローテーションはカードプールが狭まるだけではなく新しいカードも追加されるため、一概に全ての環境に適用される法則とは言えないが、今後の『イニストラード:真夜中の狩り』~『サンダー・ジャンクションの無法者』期のスタンダードと次なるセットがリリースされた後の新たなスタンダードの趨勢を占う上で今回の話は大いに参考になりそうだ。

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