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プレイヤーズコンベンション愛知2024

戦略記事

デッキテク:吉平 裕陽の「グルール・ランプ」 ~スタンダードに現れた一撃必殺の駿馬~

富澤 洋平(撮影者:瀬尾 亜沙子)


 一撃必殺に浪漫をみない者はいない。一介のデッキビルダーであれ、プレイヤーであれ、観戦者であれ、フォーマットや遊び方を問わず誰しもが劇的な勝利手段、いわゆる一撃必殺のコンボが決まる瞬間を夢想しデッキを構築する。

 しかし、現実は非情である。コンボはその殺傷力とは対照的に再現性と脆さを浮き彫りにしてしまう。そして現実に打ちのめされたプレイヤーたちは、思考を切り替えてあるものはアグロを、またあるものはコントロールを、と無難なデッキを選択していく。それはゲームとはいえ勝負事ゆえの必然といえる。

 だが、夢と浪漫を追い求め、現代のスタンダードへ一撃必殺コンボを持ち込んだプレイヤーがいた。地元愛知がプレイヤー、吉平 裕陽(愛知)である。

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 更地から瞬間的に20点以上のダメージを叩き出すコンボ、そのキーカードは『サンダー・ジャンクションの無法者』にあった。密輸人の驚き》から走り出す駿馬である《早駆ける業火、カラミティ》は一撃必殺の引き金となる。

 今回は一撃必殺コンボを内蔵したグルール・ランプをご紹介しよう。

吉平 裕陽 - 「グルール・ランプ」
ジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』Supported by 楽天ブックス / スタンダード(2024年5月25日)[MO] [ARENA]
1 《乾燥地帯のアーチ道
1 《耐え抜くもの、母聖樹
1 《逆棘の辺境林
4 《魂の洞窟
1 《商業地区
4 《
4 《カープルーザンの森
2 《
1 《不穏な尾根
4 《落石の谷間
1 《反逆のるつぼ、霜剣山
-土地(24)-

4 《早駆ける業火、カラミティ
2 《宝物庫生まれの暴君
3 《荒野無頼団の先駆者
4 《棘林のアルマジロ
4 《峰の恐怖
4 《装飾庭園を踏み歩くもの
4 《嘶くカルノサウルス
-クリーチャー(25)-
3 《兄弟仲の終焉
4 《中心核の瞥見
4 《密輸人の驚き
-呪文(11)-
1 《兄弟仲の終焉
1 《強情なベイロス
3 《毒を選べ
1 《掘り返し
2 《火山の悪意
2 《地盤の危険
1 《ティラナックス・レックス
1 《向上した精霊信者、ニッサ
3 《ウラブラスクの溶鉱炉
-サイドボード(15)-

 

グルール・ランプとは

──「グルール・ランプとはどんなデッキでしょうか」

吉平「基本は《中心核の瞥見》や《装飾庭園を踏み歩くもの》で土地を伸ばし、《峰の恐怖》や《嘶くカルノサウルス》などの5マナ以上のクリーチャーを展開していくランプ戦略です」

──「現時点ですと一撃必殺には程遠い感じがありますが」

吉平「対戦相手の土地がタップアウトしている必要があります。その条件下で6マナから《密輸人の驚き》をプレイしてクリーチャーを2体出すモードを選択し、《峰の恐怖》と《早駆ける業火、カラミティ》を登場させます。この時点で《峰の恐怖》の効果が誘発し、4点のダメージが入ります」

吉平「続いて《峰の恐怖》を《早駆ける業火、カラミティ》へと騎乗させ戦闘へと送り出します。峰の恐怖》のコピーが生成されて誘発型能力で5点、コピー2号機が生成されて誘発型能力×2で10点、戦闘ダメージで14点と最大33点のダメージが入ります

──「さ、33点!?」

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吉平「《峰の恐怖》はクリーチャーも対象にとれるため、例えブロッカーがいたとしてもゆうに20点を狙えます」

デッキ選択の理由

──「このデッキの選択理由を教えてください」

吉平「元々ランプ愛好家で『ラヴニカ』時代のソーラーフレアが好きでした。一時期離れていて、エルドレインの森から復帰したんですよ。その際ランプはなかったため、ゴルガリミッドレンジを使いましたが、やはりランプが使いたい。版図ランプのように除去でコントロールするのではなく、マナを伸ばして巨大クリーチャーを出したかったんです」

──「そんな吉平さんの欲望をかなえてくれたのが『サンダー・ジャンクションの無法者』だったわけですね。

吉平「初見ではロマン砲(安定性の欠けるデッキやコンボ)かなとも思ったんですが、《密輸人の驚き》の選択肢やテクニックが多く、意外とやれるなと気が付きまして。《荒野無頼団の先駆者》を計画しておき多面展開したり、《峰の恐怖》とセットでボードコントロールしたりと器用に立ち回れます。早駆ける業火、カラミティ》も出たターンに仕事するのが偉いですね

デッキリストの変化と工夫

──「元々はMO(Magic Online/マジック・オンライン)の大会結果に掲載されていたデッキリストをベースに構築されたとのことですが、変更した点はありますか?」

吉平「元は《開拓地の地図作成》と砂漠ギミックが仕込まれていたのですが、アゾリウス・コントロールなどを考慮して4マナ系のランプ呪文を減らし、クロック兼リソースを伸ばせる《荒野無頼団の先駆者》増量しました。採用しているクリーチャーはパワー4以上のため後続を出すたびにカードを引くことができます」

吉平「それとフィニッシャー枠を《原初の征服者、エターリ》から《宝物庫生まれの暴君》へと変更しています。アゾリウス・コントロールやボロス召集相手では戦場に出たときの効果はバリューが低く、それならば確実にアドバンテージを稼げて《早駆ける業火、カラミティ》でコピーできる《宝物庫生まれの暴君》のほうが優れていると思いました。殺傷力では《峰の恐怖》はに及びませんが、こちらは大量のライフと手札が手に入ります」

デッキ詳細

──「デッキの強みとしてはどんな点があげられますか」

吉平対戦相手の不用意なフルタップを咎められる点ですね。《荒野無頼団の先駆者》のおかげでグルールというカラーボードながらリソースを伸ばせたり、計画から多面展開と攻めのオプションも多彩です。基本的には《早駆ける業火、カラミティ》でコピーして美味しいクリーチャーで統一していますね」

吉平「アゾリウスやディミーアコントロールには《記憶の氾濫》などのタイミングを狙って《密輸人の驚き》をプレイします。単に巨大クリーチャーを出すだけですと、返しの全体除去で美味しく対処されてしまいますが、嘶くカルノサウルス》と《宝物庫生まれの暴君》ならば二の矢を確保しながらプレッシャーをかけられます。タップアウトで《太陽降下》でもプレイしてくれれば33点コンボチャンスが生まれますからね」

吉平「細かい部分ですと《嘶くカルノサウルス》から《密輸人の驚き》が発見された際は、手札へと加えておくことをお勧めします。次の仕掛けにもなりますし、《死人に口無し》や《集団失踪》といった破壊に対するカウンターとしても機能しますので」

主要なデッキとの相性

──「今回のメタゲームブレイクダウンの上位デッキとの相性を教えてください。まずはアゾリウスコントロールからお願いします」

吉平「厳しい相手です。打ち消し呪文との1対1交換となりますし、除去も刺さりやすい。《三歩先》は序盤に3マナでうってくれたら御の字くらいの温度感です」

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吉平「こちらの狙いとすると《記憶の氾濫》などでタップアウトした瞬間に《密輸人の驚き》をプレイし、《宝物庫生まれの暴君》と《嘶くカルノサウルス》で脅威を展開しつつリソースを稼ぐかたちですね。太陽降下》を唱えられたとしても、次の脅威を補充するイメージで」

吉平サイドボードからは《ティラナックス・レックス》や《向上した精霊信者、ニッサ》、《ウラブラスクの溶鉱炉》を入れて、脅威の数を増やします。どれか通る、もしくは対処に追われて《密輸人の驚き》へのガードが下がることを願います」

──「ボロス召集はいかがでしょうか」

吉平兄弟仲の終焉》次第なところはありますが、先手3ターン目に《イモデーンの徴募兵》が走ってくる展開は厳しいです。除去で遅延させ、一撃必殺狙いか《宝物庫生まれの暴君》と《早駆ける業火、カラミティ》で耐えるプランですね」

──「では、攻めが早く太いエスパーミッドレンジはどうでしょう」

吉平「クリーチャーを展開する関係上不用意にフルタップするので、こちらのカードも通りやすい印象です。打ち消し呪文は《喝破》しかありませんし、互いに動いて展開し合う中で隙をつくり、一刺し《密輸人の驚き》できれば、と。このマッチアップでは棘林のアルマジロ》が良い壁役になってくれますね」

吉平「反面、ほかのゴルガリやラクドスといった黒系ミッドレンジに対しては滅法強くでれます。仮に《喉首狙い》のようなインスタント除去呪文があったとしても、7マナまで伸びれば《密輸人の驚き》から呪禁と破壊不能を得たクリーチャーを定着させられますから」

──「土地が伸びるランプなら放題も選び放題ってわけですね!最後に同じランプである版図ランプについてもお願いします」

吉平「正直プレイング次第といったところでしょうか。最大のガンとなる《偉大なる統一者、アトラクサ》を対処できる手段が少ないので。お互い土地伸び合いなので不用意なタップアウトを咎められますが、《力線の束縛》だけは警戒が必要です。7マナから《密輸人の驚き》で《早駆ける業火、カラミティ》と《峰の恐怖》を出す一撃必殺コンボは、ほとんど除去では防げないため安定した勝ち手段となりますね

―ありがとうございました。


 突如としてスタンダードへと現れた一撃必殺コンボ、グルール・ランプ。タップアウトを咎めるこのコンボランプは、マナを伸ばして大型クリーチャーを展開するランプの本質と採用されたクリーチャー同士が良質なシナジーを形成した理想的な戦略であった。

 《早駆ける業火、カラミティ》のもたらす疾走感と爽快感は一度プレイすればハマること間違いなしだろう。この紅蓮の駿馬は、環境を独走する存在となるだろうか。

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