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プレイヤーズコンベンション愛知2023

観戦記事

決勝:鈴木 一弘(静岡) vs. 行弘 賢(東京) 〜自分だけの1枚〜

富澤 洋平(撮影者:大須 晶)


 スタンダードは構築戦の中で最小のカードプールからなるフォーマットだ。近年ではMTGアリーナの普及も相まって環境の解析速度が早く、ともすればひと月も経たない内にメタゲームの行き止まり、つまりは環境限界をむかえてしまう。

 同時に環境変化の激しさもスタンダードの特徴である。ひとつのセットが、いや1枚のカードですらも戦略やデッキ相性を動かしてしまいかねない。たった一瞬でデッキの彩りは変わってしまうからこそ、プレイヤーはまだ見ぬ1枚を求めてカードプールを眺めるのだ。

 自分だけが見つけた最強の1枚を世界へと知らしめるために。

 『イクサラン:失われし洞窟』リリースされたことでスタンダードは最盛期をむかえており、このタイミングで開催された「スタンダードオープン Supported by 楽天ブックス」はまさに自分だけのデッキを披露するにうってつけのイベントとなった。

 早朝から368名が集まり、頂点を目指して激突したのだ。目新しいカードを前に喜怒哀楽混じりつつ、今大会は大いに盛り上がった。

 《地底のスクーナー船》は現スタンダードでもっともホットなトピックであり、事実、決勝戦を戦う2人のデッキも採用している。

 これから決勝戦を戦う2名のプレイヤーを紹介しよう。

 行弘 賢。構築戦のみならずリミテッドも得意とするオールラウンダーであり、「プレイヤーズツアー名古屋2020」準優勝など数々の世界大会で入賞経験を持つ強豪。デッキ構築力に定評があり、数々の名作を作り上げ勝利を手にしてきた。今大会ではインスタントタイミングでの動きに特化したアゾリウス・フラッシュを持ち込んでいる。《婚礼の発表》の代わりに戦線を支えるのは《エラントとジアーダ》だ。

 対するは鈴木 一弘。「日本選手権2018」でトップ8入賞歴を持つプレイヤーであり、今大会では決勝ラウンドにおいて黒田、斉田の2名の強豪を倒し、ここまで駒を進めてきた。二度のジャイアントキリングを果たしたことからも、もっとも波に乗っているプレイヤーといっても過言ではないだろう。相棒に選んだのはエスパー・ミッドレンジであり、《大洞窟のコウモリ》の加入により序盤の干渉手段を強めた構築だ。

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 そう、今現在残っているのはたった2名のプレイヤーである。多くのスタッフが見守る中、最後の一戦の幕が上がる。

ゲーム1

 行弘からゲームは始まり、《忠義の徳目》の出来事、鈴木は《地底のスクーナー船》と互角の序盤。続いて鈴木が《策謀の予見者、ラフィーン》を搭乗させれば、行弘は謀議に合わせて《フェアリーの黒幕》をプレイと息つく暇もなく、ダメージレースがスタートする。

 インスタントタイミングで動ける行弘は常にマナを立てたままターンを返して期を伺う。鈴木が同様に終えると、《放浪皇》を唱えて、無事着地を果たす。ここで騎士・トークンへ+1/+1カウンターを配置して自ターンに入ろうとするのを、鈴木が制す。

 鈴木の手からも《放浪皇》がプレイされ、《策謀の予見者、ラフィーン》を牽制していた《フェアリーの黒幕》を対処する。

 一連の流れを受けて、行弘は再度忠誠値を上げて騎士・トークンを4/4まで育て、鈴木の《放浪皇》目掛けて攻撃へと繰り出す。鈴木がこれを受け入れると、行弘はこのゲーム初めてとなる自身のメインフェイズに土地を寝かせ、《エラントとジアーダ》と《フェアリーの黒幕》を連続してプレイ。

 《フェアリーの黒幕》により再び苦境に立たされることとなった鈴木。しかし《地底のスクーナー船》と《策謀の予見者、ラフィーン》以外に攻め手はなく、追加のカードを引かれるのを承知で《放浪皇》の忠誠値を下げにかかる。追加戦力として《婚礼の発表》を続ける。

 しかし、行弘は《フェアリーの黒幕》と《エラントとジアーダ》をコントロールしている。彼らが次々とカードを届け、リソース差は開いていく。上空から襲い掛かるアタックを前に、鈴木に残された時間はほとんどない。

 やっとのことで《皇国の地、永岩城》、《喉首狙い》で厄介なフライヤーを、さらには《放浪皇》対処するも、今度は《忠義の徳目》で地上が育ち始めてしまう。ターン経過とともに行弘のボードは強固さを増していく。

 ここにきて、どうにも行弘の様子がおかしい。中盤にも関わらず後続をプレイできず、3マナオープンで返す。鈴木が恐る恐る《大洞窟のコウモリ》をプレイすると、苦笑しながら土地だらけの手札を公開した。情報という武器を得て、ゲームの主導権が鈴木へと移る。そのまま《放浪皇》を続けてプレイ。ライフは5-12と心許ないが、行弘に残された時間を考えると無駄なドローは許されない。

 目下のところ4/7まで育った《策謀の予見者、ラフィーン》を対処したいところだが、行弘のデッキに除去と呼べるカードはほとんどない。鈴木はゲームを決めるべく謀議を誘発させるが、そこに《ティシャーナの潮縛り》が突き刺さる!救いは《大洞窟のコウモリ》のサイズが4/4であり、行弘の戦場に飛行クリーチャーがいない点だろう。

 行弘に一切の無駄ドローは許されず、引いてはブロックを繰り返していく。決死のチャンプブロックが繰り返され、手が途切れた瞬間に鈴木の勝利かと見守るも、その時はこない。むしろ必死の抵抗を続ける行弘へと女神は微笑む。

 トップデッキを強要されていた行弘は《フェアリーの黒幕》へと辿り着くも、このゲーム一番ともいえるほど思考する。《フェアリーの黒幕》を2回起動できるマナはあるものの、代償として鈴木にもカードを与えてしまう。鈴木に2枚、行弘に3枚のカードが入り、ここで瞬速の飛行クリーチャーを引き込めれば良いものの、反対に《喉首狙い》でも引き込まれようものなら戦線が崩壊してしまう。

 下した決断はケアにケアを重ねたものであった。《フェアリーの黒幕》をブロックに差し出すと2回起動。自ターンをむかえるも場に飛行クリーチャーはなく、思わず「何枚土地引くのかな」と漏れる、しかも《不穏な投錨地》もいない。

 《大洞窟のコウモリ》の攻撃に合わせてプレイされたのは《エラントとジアーダ》。ここへ《切り崩し》がプレイされて勝負ありかと思うも、行弘がライブラリートップからプレイしたのは《人狐のボディガード》!やっとのことで《大洞窟のコウモリ》を対処に成功し、鈴木は残るライフを削る手段を失った。

 トップデッキしたばかりの《策謀の予見者、ラフィーン》を出すも、2枚目の《人狐のボディガード》がプレイされると鈴木は投了を宣言した。

鈴木 0-1 行弘

ゲーム2

 鈴木は《大洞窟のコウモリ》で早くも行弘の手札をチェック。《人狐のボディガード》、《フェアリーの黒幕》、《第三の道のロラン》を残して《エルズペスの強打》を奪う。

 続くターンに2号機がプレイされると、たまらず行弘はスタックして《フェアリーの黒幕》をプレイグラウンドへ。《人狐のボディガード》を奪われたものの、攻撃してきた1号機と《フェアリーの黒幕》の相打ちを選択肢、《エルズペスの強打》を取り戻す。

 鈴木の攻め手は止まらない。《フェアリーの黒幕》、《放浪皇》と行弘のエンドにしかけて揺さぶりをかける。この《放浪皇》こそ《かき消し》されたものの、行弘のアンタップ状態の土地は2枚のみ。

 さらに《エルズペスの強打》を承知で《フェアリーの黒幕》と《大洞窟のコウモリ》を攻撃へと送り出す。予定調和でプレイされた《エルズペスの強打》だが、そこへ《呪文貫き》が刺さる!

 行弘は後続をプレイするも《喉首狙い》と《復活したアーテイ》が適時対処し、華麗なるフライヤービートが決まる。

鈴木 1-1 行弘

ゲーム3

 最終ゲーム、行弘はマリガンの不運に見舞われる。互いにタップインスタートすると、《地底のスクーナー船》と《大洞窟のコウモリ》を出し合う。

 《大洞窟のコウモリ》がで明らかになったのは《邪悪を打ち砕く》に《フェアリーの黒幕》が2枚。鈴木のデッキの中軸である《策謀の予見者、ラフィーン》も《婚礼の発表》にも対応できる手札があったのだ。苦悶の表情を浮かべながらも鈴木は《フェアリーの黒幕》を選択する。

 返すターン、行弘は《フェアリーの黒幕》をプレイし、《地底のスクーナー船》へと搭乗。即座に探検し、このゲーム初めてライフが動く。探検で《》を手札に加えて、マリガン分を取り返したかたちだ。

 鈴木は攻撃後、《婚礼の発表》をプレイして地上を固めていく。

 行弘は《忠義の徳目》の出来事から機体で攻撃し、探検で見えた《かき消し》をライブラリートップにキープした上で、《婚礼の発表》を《邪悪を打ち砕く》で叩き割る。

 だが、鈴木も簡単に主導権を渡さない。タップアウトの隙に《放浪皇》で《フェアリーの黒幕》を対処し、行弘の戦力を騎士・トークンと《地底のスクーナー船》のみとする。

 《エラントとジアーダ》に対して、鈴木は元凶《フェアリーの黒幕》が消えたところで満を持して《策謀の予見者、ラフィーン》を戦場へ。《大洞窟のコウモリ》と《婚礼の発表》の忘れ形見の人間・トークンが攻撃し、謀議を受けてトークンは3/3まで成長。行弘がトークン同士の相打ちを選択すると、《忠義の徳目》でさらに騎士・トークンが追加された。

 行弘はライブラリートップを見ると手を止め、2枚の手札を前に思考を巡らせる。ターンを返すと鈴木の《婚礼の発表》を許可し、エンドにライブラリートップから力強く《放浪皇》を呼び出し、即座に侍・トークンを生成する。

 《放浪皇》と《地底のスクーナー船》が揃ったことで行弘はダメージレースを動かしにかかる。《忠義の徳目》でのタップアウトを嫌い、《地底のスクーナー船》2枚目を追加する。インスタントタイミングで行動可能な行弘のデッキは自ターンに動く必要はない。

 対して鈴木は2マナ残して《忠義の徳目》本体を。行弘は《かき消し》を犠牲込みでプレイし、これを甘んじて受け入れた。

 ここで鈴木は《策謀の予見者、ラフィーン》、婚礼のトークン、2/2の徳目トークンの3体で《放浪皇》へと向かう。《地底のスクーナー船》への搭乗を見届けると《邪悪を打ち砕く》でもって水没させ、《放浪皇》をも落とす。

 行弘の次なる手は《忠義の徳目》本体で《地底のスクーナー船》と《エラントとジアーダ》を育てることに。

 鈴木は今がライフの詰めときと行弘の手札に《エラントとジアーダ》の2枚目が手札にあるのを承知で《喉首狙い》を向ける。《地底のスクーナー船》には戦闘ダメージと《皇国の地、永岩城》の合わせ技で打ち取り、手札こそないものの一方的なボードを作り上げる。

 公開情報であった《エラントとジアーダ》、ライブラリートップチェック後に《地底のスクーナー船》が続く。

 鈴木の手札に有効牌カードはない。あるのはつい先ほど引いた土地のみだ。デッキを掘り進めるために《エラントとジアーダ》が立つ戦場へ《策謀の予見者、ラフィーン》を向かわせる。高タフネスのレジェンドはたとえブロックされたとしても落ちる心配はないからだ。そして。

 数々の強豪を倒してきた鈴木へと勝利の女神は鈴木へと微笑んだ。

 謀議で引き込んだのは値千金の《喉首狙い》!

 《エラントとジアーダ》で次のドローを確認している行弘はたまらず苦しい表情に。第2メインに《忠義の徳目》プレイされると、行弘は勝者を称えた。

鈴木 2-1 行弘



 368名の頂点に立ったのはエスパーミッドレンジだった。『イクサラン:失われし洞窟』から《地底のスクーナー船》と《大洞窟のコウモリ》を手に入れたことで、序盤のプレッシャーと対応力にさらに磨きがかかっていた。

 しかし、新しいカードが加入したのみではない。現代では新セットの使用感はすぐにプレイヤー間を駆け巡り、構築の最適化へと辿り着いてしまう。

 マジックはカードの絶対評価のみでは成り立たない。メタゲームやデッキ相性は複雑に絡み合い、ほかのプレイヤーを出し抜くために想像を巡らせる。

 マジックとは人とカードが揃って初めて意味をなすゲームである。だからこそ、多くのプレイヤーはカードプールを眺め、自分だけの1枚を世界へと知らしめようとする。

 鈴木に活躍したカードを聞く。それこそ新戦力の《地底のスクーナー船》や《策謀の予見者、ラフィーン》、もしくはゲームを決めた《喉首狙い》かと予想しながら。

鈴木「1枚の《呪文貫き》ですね。準決勝では《婚礼の発表》を、決勝では《エルズペスの強打》に合わせて吸い付くようにドローでき、テンポ良く使えましたので」

 スタンダードオープンが終わり、今宵、エスパーミッドレンジにひとつの答えが生まれた。この答えも刹那的なものであり、もしかするとメタゲームの変遷により塗り替えられるかもしれない。この変化こそがスタンダードというフォーマットの特色であり、スタンダードの面白さでもある。

 だから、マジックとは人とカードが揃って初めて意味をなすゲームなのだ。スタンダードオープンを《呪文貫き》とともに制した鈴木 一弘の名を、ここに刻もうではないか。

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スタンダードオープン、優勝者は鈴木 一弘!

おめでとう!

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