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EVENT COVERAGE
神河チャンピオンシップ
スーパーチーム躍進の裏側
マジックの競技シーンにおいて、日本人プレイヤーの存在は欠かせない。革新的なデッキ構築や、それらを生み出すための試行錯誤に努力を惜しまない精神、そして卓越した彼らのプレイスキル――何より2000年代初期から獲得し続けているトロフィーの数々は(参考記事:英語)、常に世界に感嘆を呼ぶ。時が経つにつれ、競技シーンは徐々に日本のスーパースターたちによる独壇場ではなくなったものの、それは決して消え去ったものではなかったのだ。そして今、「神河チャンピオンシップ」に向けたあらゆる競技イベントにおいて、日本勢の隆盛が再び始まった。
現世界王者。リーグ昇格戦や予選大会での躍進。すでに「第28回世界選手権」出場が決定しているプレイヤー7名のうち実に5名を日本人が占めている。日本のトッププレイヤーたちの多くは互いに競い合うのではなく、ともに成功を収めるために戦っているのだ。
現在、最も好成績を収めている日本のチームには多くのプレイヤーが所属している。佐藤レイ、井川良彦、高橋優太、熊谷陸、原根健太、市川ユウキ、津村健志、廣澤遊太、河野融、小泉祐真、斎藤徹、矢田和樹、そして中村修平だ。「ストリクスヘイヴン・チャンピオンシップ」を皮切りに、2020-2021ポストシーズンを通して日本人プレイヤーは安定して好成績を残し、また圧倒的な活躍を見せた。
20数年積み上げ続けた経験値、そして磨かれたプレイスキルが彼らのチームの礎だ。彼らに成功の要因を聞くと、それは個々の努力のみではないと答える――築き上げられたチームワークの賜物なのだと。これだけ大人数のプレイヤーを抱えるチームともなると、各々が最大効率で力を発揮できるような調整方法を作りあげることが鍵となる。
「『カルドハイム・チャンピオンシップ』から、チームを2つに完全に分けて『フォーマットA担当』『フォーマットB担当』と振り分けるようにしています」と井川は説明する。これまでのチャンピオンシップと同様、「神河チャンピオンシップ」も2フォーマットで開催される。アルケミー、そしてヒストリック構築戦だ。
井川はチームからリーダーに任命されたプレイヤーの1人だ。「プロツアー・横浜2007」で競技シーンに飛び込んだ井川は、直近では2020年にライバルズ・リーグ入りを果たし、同リーグ内での活躍により「第28回世界選手権」出場と、2021-2022シーズンでのマジック・プロリーグ(MPL)入りを手中に収めている。
「プレイヤーズツアー・名古屋2020」優勝や「ワールド・マジック・カップ2017」優勝など、多くのタイトルを保持する原根健太はこのチームもう1人のリーダーだ。高い分析力と統率力により、井川に並びチームの支柱となっている。
「原根さんはデータをまとめてデッキやメタゲームの傾向をチェックしたり、片方のチームのまとめ役として活躍してくれています」と井川は話す。
「デッキを選択するまでのプロセス、ゲームプランの組み立て、練習のスケジュール管理など様々な分野で徹底的に論理的であり、集った人たちがひとつのチームとして活動するための基盤を作ってくれました」 原根について、熊谷はこう語る。「2人とも綿密にデッキ調整の進度を管理してくれ、最終的な判断への影響も大きいです」
熊谷は市川や現世界王者である高橋と同じく、すでに「第28回世界選手権」への出場を決めているプレイヤーの1人だ。彼のような世界の第一線で戦うプレイヤーにとって、大会への調整や、それらで好成績を収めるためにチームワークは重要なものだ。
「はじめにメンバーを集めます。過去一緒に練習したことがある方や友人たちなど縁のある人に声をかけます。次にフォーマットごとにチーム分けを行います。メンバーの特性、フォーマットへの理解、活動時間帯などを考慮して決めます。練習期間はデッキリスト提出前2週間ほどです。最初の一週間はUntapped.ggという外部ツールで戦績を共有して、MTGアリーナ上のランクマッチでさまざまなデッキの感触を確かめます。また、SNSや記事、大会結果などからめぼしい情報をチームのDiscordサーバーで積極的に共有します。次の1週間では、各チーム時間を合わせてDiscordのチャンネルに集合し、ダイレクトマッチを行ったりランクマッチの画面を同時に視聴しながら討論するなど、具体的にベストデッキ、ベストプレイは何かを追求していきます。デッキリスト提出の2日前くらいまでに各チームのベストデッキを作り、その後チーム全体でリストの微調整を行い、リストを提出します。大会までの数日で各フォーマットのデッキのノウハウを共有し、大会本番を迎えます」
二手に分かれての調整、これは彼らの強みのひとつと言えよう。多人数のチームメイトを有することで、チーム分けをしてより多くのフォーマットをカバーしつつも、各分野のスペシャリストを彼らが最大効率でその力を発揮できるポジションに配属することを可能にしている。
「デッキのチューニングなど、各方面でそれぞれトップレベルのプレイヤーが集まっているため、結果的に非常に質が高い練習ができています」と井川は説明する。
「まずデータ集めと、データをまとめる人と、データに反論する人。これは実社会の会議でも役立ちますね」 自身のスキルアップに繋がるチームメイトの知識や能力についての質問に対し、高橋はこう語った。
井川や原根がデータの分析やチームをまとめることに秀でているのに対し、高橋や他のチームメイトは特定のアーキタイプについての知識、知見を有する。
「高橋さんはインスタント・タイミングが多いデッキのスペシャリストで、主にトップメタのデッキを用いて雑多なデッキをなぎ倒す役割があります。彼が使うデッキに対抗できるかが調整の1つの軸になっているとも言えます」と井川は語る。
「フェアリーの王」たる高橋は、インスタントタイミングでの動きが多く、繊細な動きが要求されるデッキの達人として知られる。二つ名の由来となった「青黒フェアリー」や、直近では「第27回世界選手権」を構築ラウンド無敗で制した「イゼット・ドラゴン」などのデッキが挙げられる。
「高橋優太と佐藤レイ、津村健志は卓越したプレイスキルで、デッキの持つポテンシャルをシビアに測ってくれます」 チームメイトについて、熊谷はこう語る。「市川ユウキと廣澤遊太は最も重要な能力を持っています。皆を笑わせることです」
「熊谷は独自のデッキをよく組んできます」と言うのは市川だ。「原根は上手にまとめられたデータをチームに持ってきます。高橋は特定のデッキの達人として僕たちの前に立ちはだかります。そして僕は冗談を言って彼らと楽しくやります」
事実、市川はグループ内で「ムードメーカー」として認知されている。しかしながら、秀でているのは笑いのスキルだけではないのが市川だ。プレイの面でも才気を発揮し、プロツアーのトップ8には2度入賞、9回入賞したグランプリ・トップ8のうち、4回を優勝で飾っている。直近では「イニストラード・チャンピオンシップ」でトップ8に入るだけでは飽き足らず、決勝でサイモン・ゴーツェン/Simon Görtzenを破り見事王者に輝いた。その際に使用したデッキは、このスーパーチームによって調整された「ゴルガリ・フード」であった。
3 《沼》 1 《森》 4 《草むした墓》 4 《花盛りの湿地》 4 《闇孔の小道》 3 《カルニの庭》 1 《目玉の暴君の住処》 2 《ファイレクシアの塔》 -土地(22)- 4 《大釜の使い魔》 4 《金のガチョウ》 4 《貪欲なるリス》 3 《よろめく怪異》 -クリーチャー(15)- |
4 《魔女のかまど》 2 《魂標ランタン》 4 《致命的な一押し》 1 《村の儀式》 4 《命取りの論争》 4 《パンくずの道標》 4 《食肉鉤虐殺事件》 -呪文(23)- |
1 《夢の巣のルールス》
-相棒(1)- 2 《辺境地の罠外し》 2 《魂標ランタン》 4 《思考囲い》 2 《神秘の撤回》 1 《骨の破片》 1 《大渦の脈動》 1 《定命の槍》 1 《戦慄衆の指揮》 -サイドボード(14)- |
個々の長所を活かし、チームに分かれ、効率よく攻略する彼らの戦略は、チームに大きな成功をもたらした。それはトーナメントでの結果に最も顕著に表れているが、個々の能力を磨くことに繋がっているようにも感じる。互いを信頼し、能力を補完し合うことで、それぞれがゲームへの理解度をより一層高めることに成功したのだ。
「このチームの昨年の躍進は原根健太の力があってこそです。彼から学ぶことは数多く、同時に深く感謝しています」と熊谷。
「日本だけでなく世界のトップレベルのプレイヤーが集まってくれているので、チーム内で対戦していても、ラダーを見学しているだけでも、本当に学ぶことばかりです。いかに自分の視野が狭いか思いしらされますし、チーム調整を行うたびに自分もまたスキルアップしていると実感できます」 井川が付け加える。
「僕が苦手なアーキタイプの知見だったり、採用しようとしたことがないカードの採用理由だったり。自分にない考えに触れた時が一番勉強になりますし、楽しいですね」と最後に市川が語った。まもなく開幕する「神河チャンピオンシップ」に向け、世界選手権の座席争いに懸ける彼らの勢いは衰える兆しを見せていない。
またしても彼らの独壇場となるのか、一体誰が「神河チャンピオンシップ」の頂点に立つのか、激戦の模様は3月11日、12日、13日の9時(PT)から、英語特設ページと英語配信 twitch.tv/magic にてお送りいたします。お楽しみに!
「神河チャンピオンシップ」 日本語版放送ページ・放送日程
日本語版放送出演者
- 実況:石川朋彦(@katuobusi717)
- 実況:ブルナー実久(@mksnake007)
- 実況:海老江邦敬(@kuroebi_games)
- 解説:黒田正城(@masashiro41236)
- 解説:森山真秀(@SakeIzumo)
- and more...
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