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第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

インタビュー

一流の調整チームから学ぶ

2024年10月17日

 

 熟練のプレイヤーたちが集い、権利の獲得やトップ8入賞を果たすためにドラフトの攻略法を紐解き、構築を練る。調整チームは今や、競技シーンの土台とも呼べる存在になっている。

 2023年にプロツアーが復活して以来、来たる「第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」に至るまで、チーム「チャネルファイアーボール・アルティメットガード」とチーム「ハンドシェイク・アルティメットガード」は特に秀でた成績を誇っている。今年に入り、チーム「サンクタム・オブ・オール」があらゆるトーナメントで脅威の活躍を見せ、競技シーンにおける新たなる“ジャガーノート”として先の二組に名を連ねる形となった。

 調整チームが知識や見解をより深め、それらを共有する場である一方で、チームメイトから学びを得ることもできるのだ。前述の三組とも、それぞれ独自の方法で調整や協力を重ね、トーナメントに挑んでいる。また、他のチームの強みやスキルを的確に評価し、対戦の際にどのようにプレイすべきであるかを知ることは、チームとしての成績を上げるにあたって大事なことだ。

 これらのチームを構成するプレイヤーから見て、他チームの注目すべき点はどこなのだろうか?

 「チャネルファイアーボール・アルティメットガード」は現在と異なる構成であった時期も含め、8年以上調整を共にしているチームだ。競技歴や参加した大会の数において、どのトーナメントでも最高峰を誇る彼らは、まさに百戦錬磨のチームと言えよう。

 「ハンドシェイク・アルティメットガード」に所属するアンソニー・リー/Anthony Leeは、「チャネルファイアーボール・アルティメットガード」の巧みなプレイに、彼らが百戦錬磨たる所以を見ている。

アンソニー・リー、2022年のANZ Super Series Finalsにて


 「チャネルファイアーボールには巧みなプレイにおいて最強格のプレイヤーが揃ってますから、トーナメントで当たる相手としては一番怖いですね。いつだって」と、リーは語る。「本当に、本当に、ずっと難しいんですよ。彼らとの対戦は。」

 チーム「サンクタム・オブ・オール」のクレア・リアンハード/Claire Rianhardもリーの意見に頷く。「彼らのプレイには本当に隙がありません。このレベルまで極められていることに感服します。」

 チャネルファイアーボールといえば、プロツアー『カルロフ邸殺人事件』で使用した、パイオニアの「ラクドス吸血鬼」によって、今シーズンもっともド派手に、かつ効果的な革新をもたらしたチームでもある。

セス・マンフィールド/Seth Manfield、プロツアー『カルロフ邸殺人事件』にて


 「彼らの吸血鬼デッキと当たらないことは困難でしたからね」昨シーズンで特に注目すべきトピックについて語るリアンハードは、このように思い返す。サンクタム・オブ・オールも革新的なデッキが好きですから、他の誰かと同じ道で競れるのは嬉しいですよね。」

 構築の熟練以外の側面もあるのがチャネルファイアーボールだ。シーズンを通しての彼らのリミテッドにおける活躍について、リアンハードはこう続けた。

 「彼らはリミテッドの腕前も素晴らしいですよね。大体のトーナメントで、皆さん安定して4-2以上の成績っていうのが本当にすごいんです。勝てば勝つほど次の一勝の難易度は上がりますからね。彼らのこと、なんて言われてるか聞いたことあります?“ドラフトでチャネルと当たったらコテンパンにされる”ですよ。」

 ハンドシェイクのような他チーム同様に、チャネルファイアーボールもチームの土台を築き上げてきた。

 「彼らは普通のこと全部他のプレイヤーより上手くやるんですよね。元祖スーパーチームたる彼らですから、それも納得がいきます。ですから、私たちがやってきたことって全部彼らがしてきたことなんです」リーはこのように説明する。「彼らの後に続く私たちのために基礎を築いたと思いますし、大規模な調整チームという概念そのものも彼らが創り出したと思います。今では当たり前になっているリミテッドの練習集会や調整合宿みたいなものの大半は、チャネルファイアーボールがしてきたことですよね。」

 チャネルファイアーボールが熟練のプレイヤーたちで構成されている一方で、サンクタム・オブ・オールはもっと最近になって競技シーンに現れたチームだ。

 「サンクタム・オブ・オールが彗星の如く競技シーンに現れた様には本当に感服しました」リーは言った。「競技シーンにおいてもっとも大切なことの一つは、ネットワークを形成することです。長く活躍するスーパーチームのプレイヤーたちが優位に立っている点は、既に形成されたネットワークを利用していることです。少数派に属するプレイヤーはこの恩恵にあやかりづらいですから、チャネルファイアーボールやハンドシェイクに比べてネットワークの形成が困難であったはずです。それでも彼らは成し遂げましたからね。サンクタム・オブ・オールのプレイヤーたちがどれだけ素晴らしいかを見れば、一目瞭然だと思います。」

 リーに言わせれば、サンクタム・オブ・オールはまだまだトップへと上り続ける歩を緩めないそうだ。

 「サンクタム・オブ・オールは、既に優れた才能が揃っていますから、それは本当に素晴らしいことだと思います。他の大きなチームよりも、これから開花するポテンシャルが多いはずです。今後数年で、どんどん成績を伸ばしていくと思いますよ。」

 チャネルファイアーボールのメンバーであるリード・デューク/Reid Dukeは、サンクタム・オブ・オールのメンバーについて「広く、そして他にない才能をプロツアーに加えた」と評している。

クレア・リアンハード、プロツアー『機械兵団の進軍』にて


 「サンクタムは一つのアーキタイプを熟達することが、好成績を上げるためのアプローチであることを証明しました」デュークは語る。「例えば、プロツアー『サンダージャンクション』で私たちのチームも《大スライム、スローグルク》を軸にした4色レジェンズを試したんですが、客観的に見て最良の戦略とは言えないという結論に至りました。しかし、サンクタムはより良い構成のデッキを練り上げ、私たちのチームでテストしていたプレイヤーよりも上のレベルで4色レジェンズをプレイしていました。あのプロツアーでは彼らが一番恐ろしい対戦相手になりましたよ。他の誰も知らないことを知っている上に、デッキの熟練度が素晴らしかったですから。」

 「彼らはリミテッドにおいても、構築においても他のチームより大胆な独創性があると思います」サンクタム・オブ・オールについてリーはこう語る。「大体不適ですね。変わったアイディアを採用し、実際にそれを使いこなしていると思います。突飛なアイディアを思いつくこと自体はさほど困難ではないんですよ。実際、色んなプレイヤーが変わったデッキについて話していたり、作っているのを見かけますよね。サンクタムが唯一無二である点は、プロツアーという環境下で理に適う形でそれができることです。これが他に類を見ない、サンクタムの強みですね。」

 ハンドシェイクも、サンクタムのような独創的なアプローチをチームの方針として開拓中であるとリーは語る。

 「彼らが予想外の戦略を持ち込み好成績を上げているのを見て、もっと独創的なアプローチに寄せようと試みました。新しくメンバーを採用するときに見ていた資質でもありますね。この方針がより上手く行くよう、チームのマッドサイエンティスト的な役割を担ってくれるプレイヤーを探しています。」

 デュークは、サンクタム・オブ・オールが個性豊かな才能を育成することで、他のチームに対して優位に立つと認識している。

 「サンクタムは、各メンバーの個性的で代替不可能なスキルを上手く活用しているようです。サンクタムには、他のプロツアー参加選手たちができないことをできる選手がいて、そのような選手が多数いることで、誰かが競争相手よりも一段、あるいは複数段上の勝利戦略を生み出すチャンスが増えています。」

 チーム「ハンドシェイク・アルティメット・ガード」は、長年の実績を持つチャネルファイアボールと、新勢力であるサンクタム・オブ・オールの中間点に位置している。彼らは年々立ち位置を変え、再編成し、形を変えてきたが、その結果は一貫して強力である。

 「ハンドシェイクの強みは、シーズン中にいくつかの著名な選手が入れ替わっても、卓越性と規律を維持できることです」とリアンハードは言った。「長い間、私はハンドシェイクと言えばTangrams(デイヴィッド・イングリス/David Ingliss)ネイサン・ストイア/Nathan Steuerだと思っていましたが、昨シーズンの途中で彼らはプロツアーへの参加権利を失いました。それでもハンドシェイクはすべてのイベントで圧倒的な成績を収めています。プロツアーの参加権利については、今のチームが直面している最大の問題の一つだと思いますが、彼らがそれを上手く乗り越えている姿には感心しますね。」

チーム「ハンドシェイク」、プロツアー『機械兵団の進軍』にて


 「チーム・ハンドシェイクは、本当にプロフェッショナルなチームとして機能していて、勤勉でプレイ量の多い選手を選んでいます」とデュークは述べた。「ハンドシェイクは、メンバーのスキルと努力の交差点が最も高いチームです。彼らは私たちよりも若く、競技マジックのキャリアの最高峰にいて、多大な時間を費やす意欲があるプレイヤーで構成することにシフトしています。彼らのスキルと、トーナメント毎に費やす努力の総量には到底敵いませんね。」

 ハンドシェイクの準備にかける熱量は、各イベントの厳格な調整とデッキ選定につながっており、デュークとリアンハードの両者はこれこそが彼らの最大の強みとして挙げている。

 「彼らは競技シーンの頂点にいて、トーナメントにおいて好成績を上げるための最良の選択肢を熟知しています」とデュークは言った。「それはデッキ選択に柔軟性を持つことです。ハンドシェイクは頑なに、明らかにベストでないデッキに固執することは決してありません。彼らは柔軟なアプローチと戦略を使いこなし、各イベントに最適なデッキ選択と調整をしています。」

 「ハンドシェイクは、強いデッキをプレイすべきタイミングを把握するのが本当に上手いですね」とリアンハードは言った。「全員がそれをできますし、私たちが認めたくないほどに、それが正しい選択であることが多いです。これもまた一つの鍛錬の形ですよね:良いデッキに注力するタイミングを熟知する、という。」

 彼らの鍛錬の結晶は、ただ最高のデッキを見出すことのみに留まらない。

 「彼らは最高のデッキをプレイするだけでなく、そのデッキの限界を押し上げる形で安定して素晴らしい成績をあげているのです」とリアンハードは言った。「プロツアー『カルロフ邸殺人事件』では、ミラーマッチやロータスデッキに対抗するために、メインにアショクを採用していました。これは当時の最高と言われていたデッキを改善する上では、あまり直観的ではありませんでしたが、それでも彼らは結果を出したんですよね。私も彼らのような保守性と独創性を兼ね備えた視点が欲しいです。」

 もちろん、これらの3つのトップチームは世界選手権参加者の一部に過ぎない。

 「私たちは、トップチーム以外からも多くの情報を得ています」とリーは言った。「すごく大事なことですよ。」

 そして、すべてのチームが共通の目標を持っている一方で、選手をトップ8に進めるための道筋は大きく異なる。

 「競技シーンで活躍するチームにはそれぞれ異なる方針があり、それらすべてが高いレベルで成功しているのは本当に興味深いですね」とリアンハードは語る。「私たちは他のチームのようにエグゼクティブディレクター的な存在がいるタイプではなく、もっと緩い、コミュニティ的なグループです。それぞれのチームが独自の方法で活躍しているのを見るのは嬉しいですね。」

 それぞれが異なる特色を持つ各チームのプレイヤーも、たちまち世界選手権第1ラウンドの卓につけば、同じ思いを共有することになるだろう。

 「才能ある競技者や他のプレイヤーと一緒にプレイできることが本当に幸運だと感じています」とデュークは言った。「マジックの最も好きなところは、実力も熱量も高いプレイヤーたちと対戦できることです。私たちが自分の最高の力を出せているのは、ハンドシェイク、サンクタム、そして他の大きなチームや競技プレイヤーたちのおかげだと思っています。」

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