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第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

観戦記事

The Week That Was: 熱烈な勇者の帰還

Corbin Hosler

2024年11月2日

 

 私たちは長い時間をかけて考えてきた──マジックにおいて可能なこととは何なのかを。

 『ファウンデーションズ』がマジック:ザ・ギャザリングの新たな時代到来の下地を作る、現在のスタンダードへと至るまでには、段ボールを使って遊んでいた時代から、オンラインでのプレイに移行し、更にそこからリモートでのプレイも登場し、また再びテーブルトップへと戻ってくる、という道程があった。プロツアーでのトップ8進出も、選手としてのキャリアを左右していたものであった時代から、世界最高峰のプレイヤーたちが毎シーズン何を成し遂げられるのかを再考する時代へと変化した。先日「第30回世界選手権」が幕を下ろしたばかりだが、プロツアーの新たな時代が始まりを目の前にし、驚きは絶えることがない。

 「第30回世界選手権」の決勝戦を終えたばかりの我々に、マジックにおいて達成可能な偉業について再考する時が再び訪れたのだ。この30年間で、3度目となる到来だ。

「第30回世界選手権」決勝戦。世界選手権決勝進出回数最多の2人、ハビエル・ドミンゲス/ Javier Dominguezとマルシオ・カルヴァーリョ/Márcio Carvalhoの対決となった。

 

 あの「第30回世界選手権」の後なら、何でも可能に思える。決勝戦には、これまでに3回も世界選手権の決勝卓に登場した唯一の2人のプレイヤーが座り、その一方は2度世界選手権を制した王者に、そして世界王者とプレイヤー・オブ・ザ・イヤーの2冠を達成した、「ジャーマン・ジャガーノート」のニックネームを持たない唯一のプレイヤーとなったのだ。

 また、現世界王者となったハビエル・ドミンゲスは、今シーズン一度もプロツアーにおいて10位以下の成績で終えたことはなかった。これぞ、スーパースター時代の到来だ。

競技シーンの歴史上最も他を寄せ付けないシーズンを終え、世界選手権で優勝を果たしたハビエル・ドミンゲス。

 

 その始まりは、パンデミック期に大きな成長を遂げ世界王者となった若き才、ネイサン・ストイア/Nathan Steuerの快進撃だった。ストイアは2022年の2月と10月のMagic Online Championship Seriesで優勝すると、「第28回世界選手権」を制し、2023年2月の「プロツアー・ファイレクシア」ではトップ8入り、2023年5月にはプロツアー『機械兵団の進軍』で優勝と、立て続けに上位入賞を果たした。以前にも別の記事で述べたように、彼はただ年齢的に不可能であることをやってのけただけでなく、他の誰もできないようなことを成し遂げたのだ。

 これにより、私たちはプロツアーに関する従来の知識を見直さなければならなかった。最高峰のプレイヤーたちが成し遂げ得ることを過小評価してはならないことを学んだのだ。そして、それは再び証明された。

 ストイアの快進撃を再現するかのように、サイモン・ニールセン/Simon Nielsenも2022年から爆発的な活躍を始めた。ストイアに関して注目すべき点が、プレミア・イベントで優勝回数がカイ・ブッディ/Kai Buddeに次ぎ、セス・マンフィールド/Seth Manfieldと並ぶ4回であるのに対し、ニールセンのそれはとにかく快進撃が止まらないことにあった。しかし、そんなニールセンもストイアと同様に、複数の称号を獲得することとなる。

 ニールセンはプロツアー『機械兵団の進軍』でトップ8入りし、昨年夏のプロツアー『指輪物語』でもトップ8進出。その後、2023年の「第29回世界選手権」では準決勝に進出し、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーのタイトルを獲得した。しかし、彼はそれで満足せず、プロツアー『カルロフ邸殺人事件』では決勝に進出し、マンフィールドに敗れるも、同年のプロツアー『モダン・ホライゾン3』ではサム・パーディー/Sam Pardeeとの決勝戦を制し優勝を果たした。これにより、ニールセンはプロツアー王者の称号を手に入れると同時に、直近24ヶ月で6度目のトップフィニッシュの達成という偉業も成し遂げたのだ。こうして、私たちは再びマジックにおいて達成可能な偉業について再考する時を迎えるのだ。

サイモン・ニールセン、プロツアー『モダンホライゾン3』優勝おめでとうございます!
プレイヤー・オブ・ザ・イヤーの獲得と6イベント中5回のトップ8進出という、驚異的な快進撃を見せた2年間の最後を、見事トロフィーで飾りました。
もう一度、サイモンさんおめでとうございます!

 そして、ドミンゲスが登場した。彼はマジックの歴史で2人目となる二度目の世界選手権優勝を達成し、カイ・ブッディが以前に打ち立てた世界選手権優勝とプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを同年に獲得という偉業に、唯一名を連ねるプレイヤーとなった。ドミンゲスと、共に決勝へと進んだマルシオ・カルヴァーリョは、これまでに三度世界選手権の決勝に進出した唯一の2人であり、ドミンゲスは過去18ヶ月で4回のトップフィニッシュ(さらに2回の惜しい結果)を達成している。

 30年というプロツアーの歴史の中で、あらゆる記録に共通する唯一のものとは何か?

 それは、ハビエル・ドミンゲスだ。

 「ええ、今年は本当にすごい年でした。カードが自分に都合の良いように動く時があるんですよね」とドミンゲスは世界選手権の後に語った。「前回世界王者になったときと比べて、今回の方が良いかと聞かれればわかりませんが、確実に違うものです。一度目のときは、自分が世界王者になれるなんて思ってもみませんでしたから。もう一度優勝できると思っていたかどうかもわかりません。」

 2018年に彼が世界王者となったときのことはよく覚えている。グジェゴジュ・コワルスキ/Grzegorz Kowalskiとの決勝を制した後、私はドミンゲスとしばらく話し込み、転換期を迎え大きく変化をしているマジックにどう向き合っていくのか、という話題を語り合った。頂点に立った後、どのようにして同じモチベーションを持ち続け、また登頂を始めるのか、と。

 世界選手権を一度制覇するということは、世界王者になるためにはどれだけの努力、熱量、犠牲、そして運が必要なのかを完全に理解することを意味する。だからこそ、もう一度それを達成するにはどれだけのことをしなければならないかを正確に知っているのだ。プレイヤーであれば、それがいかに実現困難なことであるのかもわかるだろう。

 ドミンゲスの答えは今も当時も変わらない。彼は世界選手権の決勝へと進むために毎日Magic Onlineを6時間プレイしたり、「あとドラフトもう1回だけ」とランクを上げるために粘ったりしているのではない。彼がそうしているのは、マジックをプレイするのが大好きだからだ。ドミンゲスのマジック愛は、彼がフィーチャーマッチに登場するたびに明確になる。また、この愛こそが彼のキャリアが長続きしている理由でもある。その証拠に、「世界選手権」に向けたこの一年は、プロツアーで9位と10位の惜しい結果に終わったものの、ドミンゲスはその結果を冷静に受け止めたのだ。決して過信せず、また落ち込まず、ただ冷静に、マジックが彼の元へと戻る瞬間を待っていた。

 その結果がこれだ。近年のスーパースターの1人であるドミンゲスの、スーパーシーズンを目の当たりにすることとなった。

  • プロツアー『カルロフ邸殺人事件』:9位
  • プロツアー『サンダー・ジャンクション』:10位
  • プロツアー『モダン・ホライゾン3』:7位
  • 「第30回世界選手権」:優勝

 極めて端的に言うと、これは前例がないことだ。私たちがかつて殿堂顕彰者の候補者を評価する際に用いた「最も良い2年間」の記録と比べても、ドミンゲスの記録に近いものが見つからなかった。

 世界選手権の優勝を、チームメイトであるニールセンとストイアと共に祝ったことは、この歴史的瞬間にぴったりだと感じた。彼らこそがマジックを次の時代へと導いた立役者であり、新たな世界王者にふさわしい旗手は他にいない。

世界選手権優勝した!!!!!!!!
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まだ信じられないよ。みんなありがとう!本当に、本当にありがとう。

 「嬉しいです。ただそれよりも感謝の気持ちが大きいですね」とドミンゲスは語る。「色々と自分に都合の良い方向に進んでくれましたし、友人やチームメイトにサポートしてもらえてラッキーですよ。彼らが楽にしてくれてるんです。」

 これが成功の鍵を握っていたことは間違いない。「チーム・ハンドシェイク・アルティメットガード」は過去3年間、最も安定的に好成績を残しているチームだ。ドミンゲスは彼らのチーム調整において重要な役割を果たし、それによりチームは常に進化し続けている。

 ドミンゲスの優勝で、2024年シーズンは幕を閉じた。しかし、心配することはない。次のプロツアーに向けた地域選手権はすでに始まっている。ズー・ユアン・チェン/Szu Yuan ChenがMITチャンピオンシップを制し、プロツアーのサーキットは《熱烈な勇者》の先導によりさらに続いていく。

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