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第29回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権
第29回マジック世界選手権 決勝戦
2023年9月25日
2022–23シーズンの全てがここに結実する。何十回もの地域チャンピオンシップ、3度のプロツアー、そして『エルドレインの森』ドラフトとスタンダードの研究に費やした時間が、105名の出場選手たちを、世界王者のタイトルを掲げるチャンスがある大舞台である第29回マジック世界選手権へと導いた。
金曜日と土曜日に14ラウンドのスタンダードを含む戦いが行われたが、トップ8への道は関係者全員にとって過酷なものだった。そして、それは積み重ねた先のトップ8ブラケットのウォームアップに過ぎなかった。しかし事態が沈静化し、何万人もの視聴者が世界選手権の決勝戦を目にしようと駆けつけた時、残るプレイヤーはただ二人。ともにマジック界の頂点に立つ準備を整えていた。
一方に座すジャン=エマニュエル・ドゥプラは、過去5年間で最も安定しているプレイヤーのひとりだ。このフランス人のプロは以前にもこの場にいたことがある。具体的には、2021年の第27回マジック世界選手権での準優勝、高橋優太を相手にあと一歩のところで届かなかった。さらに多くのトップフィニッシュに名を連ね、今回は再度これまで惜しくも逃してきた日曜日の栄冠、トロフィーを獲得する新たなチャンスだ。
他方の小坂和音は、世界選手権とプロツアーシーズンを通じて夢のようなパフォーマンスを発揮して、ついにキャリア初のトップフィニッシュを果たした。小坂は今シーズン、3度のプロツアーでトップ8に姿を現すことなくこの世界選手権への参加権利を手にしたが、全体を通じた力強く、かつ安定したパフォーマンスの賜物だ。2017年に初めてマジックを手にしたさいたま市出身の彼にとって、ここまでの旅路は長いものだった。
4 《英雄の公有地》 3 《天上都市、大田原》 4 《金属海の沿岸》 2 《皇国の地、永岩城》 4 《コイロスの洞窟》 1 《沼》 2 《難破船の湿地》 1 《砕かれた聖域》 2 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 4 《闇滑りの岸》 -土地(27)- 2 《復活したアーテイ》 4 《黙示録、シェオルドレッド》 4 《策謀の予見者、ラフィーン》 2 《下水王、駆け抜け侯》 4 《スレイベンの守護者、サリア》 4 《敬虔な新米、デニック》 2 《侵攻の伝令、ローナ》 3 《フェアリーの黒幕》 4 《離反ダニ、スクレルヴ》 -クリーチャー(29)- |
3 《喉首狙い》 1 《かき消し》 -呪文(4)- |
2 《夜明けの空、猗旺》 1 《覆い隠し》 2 《軽蔑的な一撃》 1 《否認》 4 《切り崩し》 1 《救済の波濤》 4 《婚礼の発表》 -サイドボード(15)- |
2 《眠らずの城塞》 3 《地底の大河》 4 《闇滑りの岸》 2 《アダーカー荒原》 1 《平地》 2 《金属海の沿岸》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《天上都市、大田原》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 2 《ラフィーンの塔》 2 《さびれた浜》 4 《砕かれた聖域》 1 《英雄の公有地》 -土地(26)- 3 《黙示録、シェオルドレッド》 4 《策謀の予見者、ラフィーン》 2 《下水王、駆け抜け侯》 4 《敬虔な新米、デニック》 -クリーチャー(13)- |
3 《放浪皇》 4 《忠義の徳目》 4 《喉首狙い》 4 《かき消し》 2 《切り崩し》 4 《婚礼の発表》 -呪文(21)- |
2 《漆月魁渡》 1 《告別》 2 《邪悪を打ち砕く》 1 《苦痛ある選定》 3 《軽蔑的な一撃》 2 《否認》 2 《エルズペスの強打》 2 《切り崩し》 -サイドボード(15)- |
互いのデッキは似通っているものだった。ドゥプラが駆る「エスパー・レジェンズ」はかつてこのフォーマットの頼れる存在だったが、この世界選手権においては中堅のデッキの一つだった。だが、《スレイベンの守護者、サリア》、《離反ダニ、スクレルヴ》、《策謀の予見者、ラフィーン》とこの色で最強の伝説たちが駆け回り、ドゥプラは状況に応じて受動的にも能動的にもプレイすることができ、小坂が持ち込んだミッドレンジの構築のデッキを掻い潜ることができる。しかし、小坂のデッキは除去呪文が満載であり、《下水王、駆け抜け侯》の横展開できる能力は《忠義の徳目》と完璧にマッチしている。
ゲーム展開
第1ゲームを彩ったのは、両デッキのキーカード2枚の対峙だった。ドゥプラは《離反ダニ、スクレルヴ》を両方展開し、状況を混乱させたのに対し、小坂は《下水王、駆け抜け侯》から《策謀の予見者、ラフィーン》をキャストした。
ほぼ各プレイヤーが求めていた通りのスタートだった。ドゥプラは小坂のライフ総量に軽くプレッシャーをかけ始めたが、日本のプレイヤーはネズミを盤面に広く展開し、すぐに《忠義の徳目》で軍勢を強化し始めた。
手札に残るのは受動的なカードであり、戦場のクリーチャーたちは《忠義の徳目》に急速に後れを取り始めたが、ドゥプラははどんな状況にもにも対応できる最高のカードをひいた。《黙示録、シェオルドレッド》だ。間に合うことを祈りながら、フランスのプロは小坂にターンを返し、回答を待った。
だが、回答策は無かった。彼にあったのはそれでも+1/+1カウンターを増やしていくネズミ・トークンの軍勢だった。《黙示録、シェオルドレッド》によるライフの余裕があるとはいえ、小坂にとってはいいプランだった。
しかし、《策謀の予見者、ラフィーン》は印刷されて以来スタンダードにおいて頼りになる存在だった。単に回避能力を持つクリーチャーだからだというだけではない。《策謀の予見者、ラフィーン》の手札を整える能力は、その成功に欠かせないものであり、ドゥプラは群れを回避する方法を見つけることができた。ネズミたちはブロックできず、ドゥプラは攻撃に注意を向けたのだった。
1ゲームを制し、今度はドゥプラが脅威をもってリードする番だった。最初に現れた《スレイベンの守護者、サリア》はミッドレンジのエスパーデッキにとって強力な脅威となりうる。すぐその後に続いた《策謀の予見者、ラフィーン》は「エスパー・レジェンズ」デッキを最も打倒しにくいマナカーブのひとつだ。
だが、小坂には決定的な回答があった。2枚の《切り崩し》が両クリーチャーへの綺麗な答えとなった。これで小阪は余裕を取り戻し、その隙に自身の《策謀の予見者、ラフィーン》を展開した。唯一のクリーチャーをプレイしたことで、安定化要因を手にし自分の盤面を構築する準備ができたかのように見えた。
しかし、ドゥプラの攻勢は止まらない。つづけて《フェアリーの黒幕》《黙示録、シェオルドレッド》というほぼ完璧なマナカーブを描いた。小坂は《策謀の予見者、ラフィーン》を守備に回らせ、明確な攻撃のプランを取ることができなかった。最終的にドゥプラは決め時を逃したようだった。6枚目の土地を置いてターンを返したのだ。手札が空であれば小坂が試合を五分に戻すチャンスだった。
だが、彼の手札は空ではなかった。
《復活したアーテイ》が小坂の次なるカード、《婚礼の発表》を封じ、流れが変わった。ドゥプラは盤面でプレッシャーをかけることができたが、小坂はそうではなかった。優位に立ったドゥプラはアクセルを抜くことはなかった。
小坂はトップ8において1ゲームしか落としていなかったが。今に至り2ゲーム対0ゲームで不利な状況に陥った。そして第3ゲームで5枚までマリガンすることになり、挑戦のレベルはさらに数段上がった。
しかし、小坂は簡単には土俵を割らなかった。《スレイベンの守護者、サリア》と《下水王、駆け抜け侯》というマリガンにもかかわらず強力な軌跡を描き、ネズミで盤面を埋め尽くし始めた。ドゥプラの側も回っており、《離反ダニ、スクレルヴ》をアンタップ状態で立たせ置いておき《敬虔な新米、デニック》と《策謀の予見者、ラフィーン》を守っていた。小坂はネズミで広く横展開できるかもしれないが、ドゥプラは望めるすべてのオプションとカード選択を握っていた。
それが小坂を攻撃に向かわせた。彼はネズミ・トークンでドゥプラのライフ総量を突いたが、《敬虔な新米、デニック》でのライフを回復と、《策謀の予見者、ラフィーン》のカウンターでの強化という、元世界選手権準優勝であるドゥプラが攻勢を吸収するのに必要なものをすべて備えていた。
状況はドゥプラが有利であったため、小坂は自らの軍団がチャンプアタックすることで状況を打破しようとした。だが、ドゥプラは《皇国の地、永岩城》を嗅ぎつけ、鍵となるクリーチャーたちをベンチにおいて危険を回避した。リソースで先行しており、《策謀の予見者、ラフィーン》を燃料とする軍勢が《下水王、駆け抜け侯》のネズミたちを追い越しており、ドゥプラが第29回マジック世界選手権の最終ターンとなるであろう時を迎えた時、ステージの周囲の緊張が高まり始めた。
数年前のハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezのように、かつての世界選手権準優勝者がこのゲームの最高の舞台へと帰還し、マジック界に自身が世界王者たることを示したのだ。
おめでとう、ジャン=エマニュエル・ドゥプラ、第29回マジック世界選手権チャンピオン!
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