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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2019

戦略記事

世界選手権2019ドラフトA卓 ハイライト

Corbin Hosler

2020年2月14日

 

 ブースター・ドラフトの最大の魅力のひとつは、毎回異なる体験を得られることだ――そしてそれは実際の試合が始まる前から始まっている。1つのピックやパックから出た爆弾レアが卓全体のドラフトの成り行きを全く別のものにしてしまうことがあるのだ。

ドラフト

 それはまさに世界選手権2019のドラフトA卓で起こった。トラルフ・セヴラン/Thoralf Severinの1つのピックがそのドラフトを一転させたのだ。そしてその衝撃は、賞金総額100万ドルの大会の開幕を飾る試合まで波及した。

 協調した滑り出しだった。セヴランは黒と赤のカードでドラフトを始め、黒は数人のプレイヤーと競合していたものの、ドラフトとしては手堅いスタートを切った。他方、オータム・バーチェット/Autumn Burchettはセヴランの右側からカードを渡す席に座っており、1パック目終了時点で白と青の立場を確立していた。

 しかし、そんな折に爆弾レアが現れる。《夢さらい》だ。

 ドラフトの歴史において常に投げかけられてきた問題がある。「色が異なる超強力なカードをパックから出したとき、1パック目を放棄すべきか?」今回の《夢さらい》の場合は特にこの問題への解答が難しい。色拘束が厳しく、青と白へ大きく身を委ねなければならないからだ。

 《夢さらい》は1パック目を放棄するだけの価値があるだろうか? セヴランの答えは「その価値がある」だった。

 この判断は大胆なようにも思える――世界選手権のドラフトの舞台で大惨事にあいたい人間などいるだろうか? しかしセヴランにはセヴランなりの考えがあった。それはドラフト卓の構成と色の配分を見ていただければお分かりになるだろう。

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「《夢さらい》はあまりにも強いカードだから当然使いたかったよ。色を変える判断ができたことを誇りに思う」セヴランは続ける。「それに合理的だったとも思う。確かにオータムと青と白で競合してしまうけど、黒と赤に居座っていたとしてもオンドレイ(・ストラスキー)/Ondrej Straskyと赤が被ってしまう。だからそんなに大差はないよ」

 しかし、セヴランの決断が起こした波はドラフト卓の行く末に大きな影響を与えた。最終的に白青を選択したプレイヤーが3人になった一方で、黒を主体としてドラフトを進めた3人のプレイヤーにとっては都合の良い展開となったのだ。

 完成した全プレイヤーのデッキリストはこちらからご覧いただける。

 では、各プレイヤーのデッキの強弱関係はどうなっているだろうか。リミテッドのエキスパートであるマーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffeとポール・チェオン/Paul Cheonは以下のように格付けしている。

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試合

 実際の試合はどうなったのだろうか? ブースター・ドラフト3回戦は半数のプレイヤーを勝者グループへ、もう半数のプレイヤーを敗者グループへと送り込む。そして敗者グループは初日の後半戦であるスタンダード部門で大会の生き残りを懸けた戦いをしなければならない。ドラフト部門の結果は大会の行く末を占うと言えるだろう。

 全プレイヤーのデッキ詳細について興味のある方は、世界選手権のドラフトA卓とB卓の全デッキリストをチェックしていただきたい。

 上記の格付けにおいて低評価となっているのはバーチェットとセヴランだ――バーチェットがセヴランの色変えの影響を最も直接的に受けているため当然の結果かもしれない。その反面、マルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoはセヴランの色変えに恩恵を受けたプレイヤーで、強力な黒緑デッキに向けて一直線だった。彼が世界でも有数のリミテッドプレイヤーとして広く認知されていることを考えれば、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifとオンドレイ・ストラスキーに勝利してすぐさま2-0で駆け抜けたことは驚きに値しないだろう。

2-0でステージ1は突破。ここまでは簡単な部分だったけど、このまま熱く走り抜けたい #MTGWorlds #FindYourChampion

 

 その一方で、セス・マンフィールド/Seth Manfieldはセヴランの色変えの波を当然のごとく乗り越えていた。彼は平均点を上回るオーラ重視の緑白デッキへと着実に歩を進めていたが、2パック目になると白への参入者が出てきたため、マンフィールドはゴールテープを切る前に少々の苦戦をすることになった。芳しくないデッキを作り上げてしまったと思った彼だったが、試合が始まるとあることに気がついた。ドラフトの流れが異様だったということは、誰しもが似たような境遇にあったのだ。

 彼は初戦でセヴランをはねのけると、世界で最もホットな選手と対峙することになった。ピオトル・グロゴウスキ/Piotr Glogowskiだ。赤黒をドラフトし、セヴランの色変えで競合する者が減ったことで特に大きな恩恵を受けたプレイヤーである。彼は12月の「2019ミシックチャンピオンシップⅦ」の王者の称号を持ち、勝利街道まっしぐらの状態でこのマッチに臨む。

 接戦の3ゲームを繰り広げた結果、勝者グループに駒を進める2人目の選手となったのはマンフィールドであった。

2-0。思いがけないプレイでKanisterを倒し、次のステージへ。 #MTGWorlds #FindYourChampion

 

 そのころ、バーチェットとセヴランは熱戦でにらみ合っていた。2パック目に勃発した争いにケリをつける戦いだ。最後に立っていたのはバーチェットであり、セヴランを敗者グループへと送り込み、ドラフトの中途において色を変える危険性を説くメッセージを残した。

夢さらい》を有する相手に勝ったのは初めて。世界選手権のドラフト部門は1-1になった。次のラウンドが正念場。 #MTGWorlds

 

 これで残る試合は2つだけとなった。バーチェット対ストラスキー、ガブリエル・ナシフ対グロゴウスキだ。ストラスキーは傑作と呼べる赤単を携えており、バーチェットは対処が困難な《灰のフェニックス》2体を迎え撃たねばならなかった。そこでバーチェットは思いもよらぬサイドボードのカードに手を伸ばし、そのマッチを制した。《死者の眠り》である。

オンドレイに《灰のフェニックス》を2体引かれたけど見事に勝利! これでドラフトA卓で2-1になった! 勝者グループ進出も確定!

画像がドラフトしたデッキね。サイドボードはドラフトで何度も活躍してくれた。相手のクリーチャーを眠りに誘ってくれた《死者の眠り》、ありがとう! #MTGWorlds

 

 こうして勝者グループに進出する4名のうちの3名が確定した。そしてナシフが極度にマナフラッドしたグロゴウスキに勝利して、最後の枠に滑り込んだ。これから世界選手権のスタンダード部門が始まる。

 

(Tr.Nobukazu Kato)

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