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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2018
世界選手権への道:ブライアン・ブラウン=デュイン編
2018年9月22日
「一発屋の世界王者にはなりたくなかったんだ」
これが世界王者としての使命感を言葉にしたように聞こえたなら、その真意を理解できていないと言えるだろう。これは希望的観測ではなく、漠然とした目標でもなく、実績あるプレイヤーがよく口にするようなリップサービスでもない。
世界選手権2016王者のブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinにとって、この短い言葉には多くの意味がある。それは真言であり、道を示す指針であり、到達しなければならない終着点だった。王者としてもう一度世界選手権の舞台に立ち、実力を疑う声――「グランプリ・マスターは世界選手権にふさわしくない」とか「優勝はまぐれだ」といった意見――が間違っていることを証明し、疑念を一掃する。「BBD」が最強プレイヤーの一角であることを世界に知らしめる。そして何よりも、自分自身にそのことを納得させる。
だが翌年、彼は失敗した。
ブラウン=デュインが失敗するのはこれが初めてのことではない。そして最後でもないだろう。
他に方法はないのだから。
ブラウン=デュインのキャリアは、失敗によって形作られてきた。(この世界選手権2018の出場選手を含め)世界有数のマジック・プレイヤーたちを見ると、誰もが才能を持っていることが感じられる。もちろん華々しい戦績は日頃の練習の賜物でもあるのだが、優れたプレイヤーの話になると、「彼らは当たり前のように呪文を巧みに使う」といった逸話に事欠かない。フライデー・ナイト・マジックに参加している平均的なプレイヤーたちは、自分のことをマジック界のレジェンドたちと同じだとは考えない。平均的な高校生のバスケットボール選手が自分のことをレブロン・ジェームズ/LeBron Jamesと同じだと考えないように、自分がジョン・フィンケル/Jon Finkelやオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldと同じレベルでマジックのことを真に理解しているとは、到底想像もできないだろう。
だがブラウン=デュインはその殻を破った。そんな彼だからこそ、苦労しながら一歩ずつ登っていくその姿に世界中のファンが魅了された。ブラウン=デュインは、超常的な才能を持ったフィンケルではない。どんな状況でも分析できる人間計算機たるフランク・カーステン/Frank Karstenでもない。大舞台に上がること自体2度目にも関わらずプロツアー優勝を成し遂げたワイアット・ダービー/Wyatt Darbyでもない。
彼は旅のすべてを私たちに報告してくれている。自分自身の弱点や意欲を赤裸々に語るその姿は、彼がどこか別の、魔法の世界の住人でないことをファンに保証している。彼もまた「FNMに参加する平均的なプレイヤー」であり、階段を一段ずつしがみつきながら登っているのだ。
そして彼は着実に登っていった。ブラウン=デュインがたどってきたのは茨の道で、一気に歩みを進めることはなかった。StarCityGames.com Openで何度か勝ち、そしてOpen Seriesの頂点へ。それから熱心にグランプリへ挑戦し続け、プロツアーの参加権利を獲得。プロツアーに定期的に出られるようになると世界中を旅し、グランプリでの獲得プロ・ポイント最多プレイヤーに与えられる「グランプリ・マスター」の枠で世界選手権2016に出場。世界選手権のドラフト卓を生き延び、トップ4へ入賞。そして決勝ラウンドをすべて勝利し、世界王者に輝いた。
世界選手権優勝は、偉大なプレイヤーの多くが成し遂げていない最高の栄誉だ。だがブラウン=デュインの人生とこれまでのキャリアを照らし合わせると、すべてを帳消しにするような成功ではないだろう。やはり、彼のキャリアは失敗によって作られてきたのだ。グランプリ・ルイビル2013では自身初のトップ8入賞からそのまま優勝を果たしたが、決勝ドラフトの席についたとき彼はこの結果を何度も出せるか不安だったという。そしてせっかくプロツアー出場の夢が叶っても、練習不足で苦しい結果に終わった。それから1年にわたる旅を経て世界選手権の参加権利を得たが、「彼はふさわしくない」という声に悩まされ、成功だと思えなかった。
それからさらに高みへ登っても失敗は彼のキャリアにつきまとい、世界王者となりマジック界の頂点に立っても根底にある不安を拭い去ることはできなかった。心の不安は彼に、「再び世界選手権の舞台に立たなければ、皮肉まじりの意見が正しいと証明してしまうことになる」と囁いていた。
世界選手権で勝ったおかげで、2016-2017年シーズンは14点のプロ・ポイントを得た状態で始まった。再び世界選手権の舞台に立つことは、十分達成可能な目標に見えた。シーズン開幕から多くのポイントを得たブラウン=デュインは、改めて世界選手権へ行く決意を胸に刻んだ――今度はグランプリ・マスターという「特別枠」に頼らず行くと。
その目標は果たされなかった。散々な結果だった。
「他のプレイヤーを牽引する巨人として始まったシーズンだが、その後はあと一歩というのが続いた。当時の俺はそれを失敗だと見ていた」と、ブラウン=デュインは回想する。「マジックのプレイ中はほとんどいつも不満を抱えていた。それはSCGの大会に参加するようになって少しずつ上へ登っていく中で、プレイヤーたちが他のプレイヤーの悪評を言っているのを見たときからずっと抱えていたものだった。彼らは間違っていると証明しなきゃいけないと感じていたんだ」
その憤りこそが、ブラウン=デュインの燃料だった。それは大会へ向かう14時間のドライブ中も彼を包み、Magic Onlineで1日中練習する行為にも駆り立てた。それを力に変えて彼は前へ進み続けたが、それでも彼の背中に常にまとわりついていた。
そんなブラウン=デュインを変えたのは、魔法の力でも彼を撃つ稲妻でもなかった。物語なら直感やひらめきが起こる場面だが、現実ではそうはならない。ターニング・ポイントとなったのは、彼のキャリアの中で何度も起きた出来事――苦戦の上の勝利だった。
「シーズン内の4つのプロツアーで苦戦して世界選手権への参加権利を逃したことで、分岐点に立たされた。俺は置かれた状況について長い時間をかけて考えた」と、ブラウン=デュインは当時を思い出す。「自分に問いかけなければならなかった。『もう二度ととプロツアーで活躍できないとして、それでも俺はこのゲームを楽しめるのか?』と」
「そしてその答えは『イエス』だった。それでもこのゲームを楽しめるし、記事を書くのも楽しめる。そのとき気づいたんだ。俺が何かを証明しようとしていた相手は、別に俺の友達じゃないことに。彼らは俺のことを知らないし、俺の人生に関わる人じゃない。関わったことがないから、あくまでも彼らが見たものを彼らの見方で発信しているだけなんだって。俺が向き合うべき人は他にいる。他人の考えに不安を覚える必要なんてないんだ」
そんなに大したことには見えないかもしれない。だがそれはブラウン=デュインの中で劇的な変化を起こした。精神状態は一変し、それにともない結果も付いてきた。プロツアー『イクサランの相克』で初日を6勝2敗の好成績で終えた彼だが、その後6勝6敗まで後退した。以前の彼ならば、完全に心折れる場面だっただろう。しかし彼はそこから持ち直し、残る4回戦を全勝で終えたのだ。
勢いそのままにポイント・ランキングで最上位につくと、世界選手権2018の参加権利を獲得するに至った――今回は「特別枠」に頼らずに。これまでのキャリアは、少なくとも彼の中では失敗によって作られてきた。そしてこうしてマジック最大の舞台に戻り、再びの戴冠を目指すチャンスを得てもなお、ブラウン=デュインのキャリアは成功で上書きされないという。それでも今回は、自分のために戦うそうだ。
「世界選手権への参加権利を再び得たときは、もちろん嬉しかったけど椅子から飛び上がるほどではなかった」と、ブラウン=デュインは言う。「でも熱心に練習を続け、うまくプレイし、自分を正しい方向へ導いているうちは、イベント1つ1つに神経質になることはなくなったよ。今回は具体的な目標はない。全勝しても全敗しても、素直に受け入れられるよ」
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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