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マジックフェスト・横浜2019
「英雄譚」:高橋 優太~強者を求める熱き情熱~
プロツアー・サンディエゴ2007。高橋 優太が山本 賢太郎とともに準優勝という成績を収め、プロシーンに鮮烈な印象を残してから12年が経とうとしている。
当時21歳だった彼は今もなお世界のトッププレイヤー群に名を連ね、プロシーンのみならず、マジックのイベントに精力的に参加を続けている。
晴れる屋が主催するWPNプレミアムトーナメント、神決定戦。各フォーマットにおいて、それぞれたった一人だけ持つことができる「神」という称号。高橋はスタンダードとモダンというふたつの「神」の座を手にした初のプレイヤーとなった。
もちろん、構築フォーマットによるグランプリで3度もの優勝を果たしている高橋のことだ。実力から鑑みれば、その実績自体は納得の行く結果だ。驚きなのはモダンによるトーナメントを勝ち抜いたデッキの詳細な解説記事を、数日後に公開したことだ。同じくモダンで行われるグランプリ・横浜2019が目の前に迫っていたというのに。
ゴールドレベル・プロ。
英雄とも言える存在になった今でも高橋は、驚くべきマジックへの情熱を滾らせている――。
Ⅰ 初めてのプロツアーで流した涙の理由
高橋がマジックを始めたのは『エクソダス』の頃。当時雑誌の影響により流行していたマジックを手にとった中学生の彼は瞬く間にこのゲームの虜となった。
「まさに部活みたいな日々でしたね」
学校が終われば店舗に集まり、ひたすらスタンダードを遊ぶのが高橋の日常だった。その当時からプロツアーを意識していた訳ではなかったというが、カイ・ブッディやジョン・フィンケルという今なお伝説として語られているヒーローたちの全盛期だったこともあり、彼らにほのかな憧れを抱いていた。
そんな高橋は上京するとすぐに頭角を現す。プレミアイベント初参加となったグランプリ・新潟2005でなんと10位に入賞したのだ。幸運なことに、当時はプロツアー権利の繰り下げが存在し、ヒーローたちと同じ舞台を踏む資格を手に入れた。そして、今でも「師匠」と尊敬する鍛冶 友浩ら先輩プレイヤーたちと出会い、ともに調整し臨んだプロツアー・ロサンゼルス2005。
10勝6敗34位という、ルーキーとしては十分な成績を収めた高橋は、しかしながら悔し涙を流した。
その涙の理由は、単に最終戦で敗れ、続くプロツアーの権利を獲得できなかったというだけではなかった。
「相手が強いから、楽しかったんですよ。自分が未熟で間違えて負けるのが本当に悔しくて。だから、もっと練習しようと」
高橋にとってプロツアーの原風景はここにあるのだろう。強者との戦う魅力にとりつかれたという高橋は懐かしみながら苦笑いする。
「だからこうやって10年以上も続いちゃってるんでしょうね」
Ⅱ 国内グランプリ連覇、「不屈のストイシズム」という二つ名
プレイヤーとして着実にステップアップしていった高橋は転機を迎える。
グランプリ・静岡2008、グランプリ・神戸2008の国内グランプリ連覇。
「あれで人生変わっちゃいましたね。それまでは普通の人生を送ろうと思っていたんですが(笑)」
人生の岐路に立った高橋は、マジックにオールインするようになる。真剣に、いや真剣すぎるほどに。妥協を許さないその姿勢に、いつしか「不屈のストイシズム」という二つ名がついた。あくまでも私見だが、当時の高橋はまるで抜き身の日本刀のように厳しい雰囲気を醸し出していたように見えた。
誰よりも自分に対して厳しさを課した高橋だからこそ、その後に訪れた不調期――2年もの長きに渡りプロツアーの2日目にすら進出できなかったようなスランプは、高橋を苦しめた。そして成績の下降に伴い一線を退き、国内グランプリでは、プレイヤーではなくショップブースに立つこともあった。
その高橋を変えたきっかけになったのは、かつて背中を追いかけた先輩プレイヤーたちの姿だった。
「彼らが教えてくれたものを自分も下の世代に伝えていったほうがいいんだろうな……と。マジックは本当に奥深くて、隠し技のようなノウハウがいっぱいあるんです。そういうものを教えていけたらな、と。そうすることで、自分の立ち居振る舞いも変わっていって、そうありたいと思う姿に近づける……かつては、自分の理想を押し付けてしまう、そんな未熟さがあったと思います」
きっと、根が真面目なのだろう。高橋は何気なくかけた質問にもひとつひとつ真摯に吟味しながら言葉を紡いでいく。その真面目な、真面目すぎるようにも見える姿勢は「不屈のストイシズム」と呼ばれていた頃から変わっていないように見える。だが、インタビューに答える高橋の表情はとても穏やかだった。
Ⅲ さらなる強者を求めて
「一度お店側の立場に立ったこともあって、ファンになってくれる人を増やすのが楽しくなって、その気持ちが今にも繋がっていると思います。僕にはアンチの人も多いんですけど(笑)、でもファンでいてくれる人も多いんです。それに、今は昔に比べるとすごく情報化が進んで、むしろ情報公開して反応をもらったほうがより良いものができる可能性が高いんですよね」
プロツアー『異界月』で自身初となる個人戦プロツアートップ8を果たし、現在ゴールドレベルのプロプレイヤーとして活動している高橋は、自身の調整過程やデッキを事細かに解説した記事を積極的に公開するようになった。高橋は情報化による世界の変化を楽しみながら、様々な試みを行っている。自らを成長させ、さらなる高みに上るために。
「MPLプレイヤー。プロマジックをやっている以上、目指すならそこですよね。MPLプレイヤーはマジックの強さも、プロとしても立ち居振る舞いも求められると思います」
インタビューが終盤に差しかかり、「今後、どんなプレイヤーになりたいか」という質問を投げかけると、高橋は前を見据えてはっきりと断言した。自らの理想とするプロプレイヤー像。MPLプレイヤーとなることで、その姿に近づけると信じて――そして、何より高橋が楽しみにしているのは、強者との出会いだ。
「強いプレイヤーと対戦するのが何より楽しいですよ。負けても、自分が強くなれるから。強者は自分を強くしてくれる糧ですし。今はMTGアリーナがあるから、(グランプリ・京都2019で)渡辺 雄也を倒したベ・デギョン選手のように『MTGアリーナ世代』と言えるようなプレイヤーがもっと出てくるかもしれない。そういった強者がたくさん出てくれば面白いですよね」
初めて参加したプロツアー・ロサンゼルス2005。あの時に流した涙は、強者を求める熱き情熱となって今も高橋の中に息づいている。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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