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マジックフェスト・京都2019
準決勝:加藤 健介(東京) vs. 渡辺 雄也(東京) ~勝ってくれ!~
第10回戦のカバレージで紹介した「単色キラー」の古代兵器は、気づけば準決勝まで勝ち上がっていた。
メタゲームブレイクダウンによれば、2日目に進出した「ジェスカイ・コントロール」使いはたったの2人。だがそのうちの1人であるBIGs・加藤 健介は、この環境のスタンダードの頂点に立つ資格を持つ残り4人の中にまで勝ち残った。ならば「ジェスカイ・コントロール」という加藤の選択は、確かにこの日のメタゲームに合致していたのだろう。
だが、そんな加藤にも試練が訪れる。
MPLプレイヤーにして殿堂プレイヤー、渡辺 雄也。ほかのMPLプレイヤーたちが初日で敗退していた時点で「会場内最強の男」と呼んで差し支えないであろう、そんな渡辺が駆るデッキはしかも、加藤が得意とする単色ではないのだ。
「スゥルタイ・ミッドレンジ」。多様なアーキタイプがいる環境ではあるとはいえ、それでもこのデッキがトップであるという点については異論をまたないだろう。「探検」によるデッキの安定性と、クリーチャー除去・手札破壊・カウンター呪文といったバラエティ豊かな妨害手段を無理なく採用できる色の組み合わせの強さとを兼ね備えた、この環境のミッドレンジの終着点。
最強×最強。
加藤の前に座っているのはだから、つまり一言で言ってそういう存在だった。
加藤「ワタナベユウヤ、『練習してねー』とか言っててこんなところまで来るからなー!」
渡辺「いや、練習はしてないよ? バカヅキおじさんだっただけでね(笑)」
加藤「じゃあ来週(ミシックインビテーショナル)のために負けておいた方がいいんじゃないの?」
渡辺「ホントだよ! これ絶対来週全敗するフラグじゃん!」
そんな2人の会話はしかし読んでの通り、準決勝らしい緊張感とは一見無縁の状態で始まった。友人同士で準決勝という舞台にともに立てたことは、気持ちの上ではやりにくいかもしれないが、それでもあえてどちらかといえば、やはり「誇らしい」と言えることだからだ。
だから彼らが互いのデッキリストを確認する際も、カードの採用で気になる部分については変に情報を隠そうとしたりするようなことはせず、むしろ相手の理解が効率的になるよう、阿吽の呼吸で返事をしあっていた。
渡辺「《呪文貫き》2枚入ってるんだね。メインだよね?」
加藤「メインだね。知られてない《呪文貫き》はマジでぶっささるんだよなー。そっちは普通の (スゥルタイ)?」
渡辺「ホント普通だよ、ジャージ。やってないんだからジャージだよ。ジャージは基本強いんだよなー。それにしてもすごいな、この4枚の《パルン、ニヴ=ミゼット》からはデッキの意思を感じるね。鼓動を感じる」
スイスラウンドの最終戦、ビデオマッチで当たったときには渡辺が勝っている。しかもその上で、このトップ8以降の試合では互いのリストは対戦前に公開される。インスタントでの受け札は、ほとんど加藤の側にしかない。すなわち何が何枚入っているのかを互いに知ることができるリスト公開は、渡辺の側に大きく利をもたらすものと言えた。
だとしても、加藤の側に気負いはまるで感じられない。自然体だ。
渡辺「サイドボードは難しいな。読み合いだね」
加藤「まあ相性的には五分くらいな気がするね」
渡辺「五分だろうね。いやー、でも俺もう原根くんとの準々決勝のスゥルタイ同型戦が熱戦すぎてヘロヘロだからさー(笑)」
加藤「自分は同型戦嫌いだから、同型戦が起こるようなデッキ使わないんだよね」
渡辺「いつもは同型戦でも大体何とかなるように調整するんだけど、今回『市川』って書いてあるジャージだからそんな時間もなくて……」
加藤「隣のクラスの『市川』さんね」
渡辺「そうそう。そのジャージ『原根』も着てたよ? 流行ってるの? みたいな感じね。あ、そういえば今回の権利ってロンドン? バルセロナ?」
加藤「バルセロナ!」
渡辺「おー、おめでとう。じゃあかなり良かったんだね」
加藤「そう、もうここまで来れただけで御の字だよね」
対戦前の会話は尽きることがない。渡辺も加藤も、互いをプレイヤーとしてリスペクトしている。そしてそれだからこそ今のうちに、どちらが勝っても悔いが残らないようにしておきたいと言わんばかりだった。
今のうちに。勝敗が付いてしまう前に。すなわち、どちらかが勝者となってしまう前に。
なぜなら対戦後に勝者が敗者に投げかける言葉は、どうやっても慰めのニュアンスを含んでしまい、できあがってしまった上下の関係を際立たせるからだ。
だからこれまでの会話は儀礼であり、そして同時に相手を重んじる礼儀でもあった。「これからお前を全力で叩き潰すけど文句はないな」という。
そう思えること。そして、相手もそう思っていると信じられること。
きっとそれこそが、競技としてゲームを楽しむプレイヤーとしての矜持だからだ。
グランプリ・京都2019、準決勝。
加藤と渡辺との対戦が、そうしていま。
始まった。
加藤 健介 vs. 渡辺 雄也 |
ゲーム1
先攻は加藤。1ターン目はお互いそれぞれ《蒸気孔》と《草むした墓》のタップインでパスすると、まずは加藤がセット《硫黄の滝》から《宝物の地図》を送り出す。
これを放置すれば、最速5ターン目に《パルン、ニヴ=ミゼット》が降臨してしまう。渡辺の側に突き付けられた命題は明確だった。《宝物の地図》を対処するか、《パルン、ニヴ=ミゼット》を対処するか。
渡辺が選んだのは前者だった。返すターンに《培養ドルイド》を送り出すと、加藤が3ターン目のアップキープに《宝物の地図》を起動しつつセット《硫黄の滝》から2枚目の《宝物の地図》を設置したのに対し、《人質取り》で目印カウンターがすでに置かれた方の《宝物の地図》を追放する!
加藤「……かー!」
渡辺「《轟音のクラリオン》はやめろー!」
これでたとえ《人質取り》が除去されたとしても目印カウンターはゼロにリセットされるため、ひとまず最速《パルン、ニヴ=ミゼット》のパターンは潰したことになる。そしてそれだけでなく、《人質取り》が生き残ってターンが返ってくるパターンにも確かに勝算があった。なぜなら加藤の土地は《蒸気孔》《硫黄の滝》《硫黄の滝》で白マナがなかったからだ。
だがアップキープに残った方の《宝物の地図》で占術した加藤は、見たカードをそのままトップに乗せて引き込むと、《聖なる鋳造所》アンタップインから注文通りの《轟音のクラリオン》!
《培養ドルイド》までついでに流された渡辺は、しかし痛手を表情に出すことなく《マーフォークの枝渡り》を2連打し、早々に5点クロックを作り上げて盤面をリカバリーする。
対する加藤はアップキープに再び《宝物の地図》で占術、変身をリーチとしつつ《溶岩コイル》でサイズが大きい方の《マーフォークの枝渡り》を除去、そのままセットランドなしでエンド。
渡辺 雄也 |
だが渡辺は《湿った墓》アンタップインから再び《人質取り》!あくまで変身はさせない構えを見せつつ、さらに《ラノワールのエルフ》をも追加する。
加藤はやむなく残った方の《宝物の地図》をエンド前とアップキープに起動し、5枚目の土地である《聖なる鋳造所》を置いてターンを返すしかない。
渡辺「ハンドは?」
加藤「3枚」
そして返す渡辺は《マーフォークの枝渡り》と《人質取り》で4点アタックして加藤のライフを残り12点まで落とし込むと、《殺戮の暴君》を降臨させる!
通常のジェスカイと違い、《残骸の漂着》も《浄化の輝き》も採用されていない加藤のデッキでは、メインデッキでこれに対処する手段はあまりに限られすぎている。
返しのターン、アップキープに《宝物の地図》をようやく変身させつつ、宝物・トークンを一個使って《ドミナリアの英雄、テフェリー》を送り出したはいいものの、これは返しの《殺戮の暴君》のアタックで一瞬で墓地に行く。
もはや加藤に残されたできることは、たった一つしかなかった。
加藤「……負けましたー」
加藤 0-1 渡辺
加藤「……おいおい1枚だろその《殺戮の暴君》!」
渡辺「いやー、吸いついてくるんですねー!」
加藤「《ビビアン・リード》で見つけるとかならいいけどさー!……いやー、参った参った!」
加藤「……もう無茶苦茶なサイドボードしてやろ。暴れてやる」
そう言いつつも、なんだかんだ加藤がそんなに無茶苦茶はしないであろうということを、我々はよく知っている。
そしてそれはもちろん、渡辺ならなおさらだ。
ゲーム2
マリガンした加藤が《神聖なる泉》をアンタップインしてターンを返す立ち上がり。
渡辺「……《選択》ってこと?」
加藤「《呪文貫き》かもしれん」
渡辺「《呪文貫き》だったらすごいわ(笑)」
渡辺の予想通り、加藤はエンド前《選択》から《氷河の城砦》セットでゴー。そして渡辺が《クロールの銛撃ち》を送り出すと、エンド前に《選択》をさらに2連打!……だが、3ターン目もセット《硫黄の滝》のみでターンエンド。
一方、渡辺は3点アタック後に2体目の《クロールの銛撃ち》を展開。
加藤「うーん……いいでしょう」
そして少し打たされた感のある《轟音のクラリオン》でいったん盤面をリセットしつつ、《聖なる鋳造所》タップインでターンを返す。
渡辺「……かー、引けねー!」
返す渡辺は4枚目の土地を引けず、《クロールの銛撃ち》を出すのみ。もし加藤が《ドミナリアの英雄、テフェリー》を持っているなら、絶好のタイミングだ。
しかし加藤のアクションは《断崖の避難所》セットのみ。である以上、少なくとも《ドミナリアの英雄、テフェリー》はまだ引けていない。《クロールの銛撃ち》はすぐさま《シヴの火》で捌かれるが、渡辺は第2メインに《マーフォークの枝渡り》を送り出す。
一方、加藤はエンド前に《薬術師の眼識》を唱えて手札を整えるのだが、続くターンはまたしても《氷河の城砦》セットのみでゴー。渡辺の土地が詰まっている絶好の攻め時でありながらも攻められないということは、かなりの受けハンドと見てよさそうだ。
加藤 健介 |
3/2の《マーフォークの枝渡り》の攻撃を受けて加藤のライフは12点まで落ち込むが、戦闘後の《強迫》を《吸収》、さらに墓地の《クロールの銛撃ち》2体を拾うための《採取》も《吸収》で打ち消し、ライフは安全水準まで持ち直す。
加藤「手が?」
渡辺「4枚」
とはいえ、フラッド気味の加藤とスクリューの渡辺とがこのまま戦えばユニバーサルマジックセオリー的には「復帰したスクリュー」が勝つと相場が決まっている。そうならないためにも、加藤は速やかにフィニッシャーを引き込まなければならない。メインで《薬術師の眼識》を「再活」しつつ、《聖なる鋳造所》タップインでターンを返す加藤。
だが、ここで渡辺がようやく4枚目の土地である《水没した地下墓地》を引き込む。まずは「X=2」の《ハイドロイド混成体》で次なる土地にアクセスしにいき、暗に加藤にタイムリミットを突きつける。
しかし、加藤はまだ肝心のフィニッシャーが引き込めていない。《拘留代理人》で《ハイドロイド混成体》は追放してクロックを抑えるが、そんなことをしていてもジリ貧なのは明白な状況だ。
しかも、ここで渡辺が唱えたのは《ビビアン・リード》!《吸収》を使いきった加藤はこれを通すしかない。
さらに、あまつさえ[+1]能力がもたらしたのは《殺戮の暴君》。
加藤「頼む。頼むニヴ!」
渡辺の視点からも手札内容が看破できるほど追い詰められている加藤は、もはや体裁すらも繕わない。必要なのはフィニッシャーなのだ。《ビビアン・リード》がいるとしても、手札にはそれに対する解答があった。だから足りないのは《パルン、ニヴ=ミゼット》だ。
ドロー。
渡辺「……叩きつけてこないということは、ニヴではないな?」
加藤「ニヴ……ではないが……」
《パルン、ニヴ=ミゼット》ではないが、一応フィニッシャーには違いない。加藤が送り出したのは《ドミナリアの英雄、テフェリー》。とはいえ、すでにクロックがある上に《ビビアン・リード》が着地しており、次のターンの《殺戮の暴君》もほぼ確定しているこの状況では、時間稼ぎくらいしか役割がない。[+1]能力で、引き続き《パルン、ニヴ=ミゼット》を探しにいく。
ターンが返ってきた渡辺は《ビビアン・リード》の[+1]能力で《ハイドロイド混成体》をまずは回収。《マーフォークの枝渡り》の攻撃は《裁きの一撃》で防がれるも、予定調和の《殺戮の暴君》を降臨させる。
加藤「頼む。頼む!」
まだ間に合う。通常ドロー。違う。あとは《ドミナリアの英雄、テフェリー》の能力までもドローに回すかどうか。
加藤「ダメだ、引く以外勝てない」
[+1]能力。……これも違う。
《拘留代理人》で《ビビアン・リード》を追放し、ターンエンド。加藤の残る手札は1枚。対して渡辺は、《人質取り》ですぐさまその《拘留代理人》を奪い取りにかかる。
そして加藤は。
加藤は、ずっと抱えていた《潜水》で、《ビビアン・リード》の能力から《パルン、ニヴ=ミゼット》を守って絶大なテンポを取るはずだった虎の子の《潜水》で、《拘留代理人》をどうにか守る。
だが代わりに、《殺戮の暴君》が《ドミナリアの英雄、テフェリー》を一撃で葬り去る。
続く加藤のドローは《溶岩コイル》。ここまで加藤のライフを毎ターン健気に削り続けてきた《マーフォークの枝渡り》を、今さら除去することくらいしかできない。
そして渡辺は手札の尽きた加藤を尻目に、巨大な《ハイドロイド混成体》を降臨させる。
加藤はもはや記念のような最後のドローを確認して……
それでもやはり《パルン、ニヴ=ミゼット》ではなかった《吸収》をひらりと盤面へと落としながら、敗者として勝者を称える賛辞を述べながら、右手を差し出したのだった。
加藤「勝ってくれ!」
渡辺「頑張るよ!」
加藤 0-2 渡辺
勝者が敗者にかける言葉が慰めにしかならないとしたら、敗者の側が勝者にかける言葉は何と呼ぶのだろうか。
勝ちたかった。悔しかった。心の中で歯を食いしばるそんな痛みを押し殺して、笑顔で勝者を称えられる。その高潔なあり方を、勇気と呼ばずして何と呼ぼうか。
決勝に向かう渡辺が、せめて少しでも気持ちよく戦えるよう送り出せる。少なくとも、それだけの強さが間違いなく加藤にはあったのだ。
そうして渡辺は再び挑戦の舞台に立つ。
前人未踏のグランプリ単独8勝目。渡辺が初めてグランプリ王者の座に戴冠した思い出の地・京都で、またひとつの伝説を打ち立てることができるのか。
決勝戦。対戦相手は、韓国のべ・デギョンだ。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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