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日本選手権2019
決勝:熊谷 陸(宮城) vs. 小林 遼平(千葉) ~ケシス同型戦。見よ、これが最新のスタンダードだ~
スタンダードのメタゲーム
「4色ケシス・コンボ」というデッキは、『基本セット2020』発売以降、しばらく経過してからMTGアリーナでの大会で突如として登場した。マジック黎明期ならいざ知らず、情報化社会と呼ばれて久しい現代においてその急な登場はあまりに異質であり異色であった。さらに、デッキの軸が勝ちを決めるチェイン・コンボであること、その戦法や採用カード自体が強靭で強力であることもその異端さに拍車をかけていた。
「4色ケシス・コンボ」の勢いは一気にスタンダードに波及した。「チェイン継続のために支払うリソースに関しての選択肢」の多さから「回すのは難しい」という声も聞こえたが、それと同じかそれ以上に「デッキを完璧に理解していなくても勝ててしまうぐらいに強く、完成している」という意見も挙がっていた。
かくしてスタンダードでは「4色ケシス・コンボ」を頂点・中心としたメタゲームが発生し、「ケシスを使うか、ケシスを倒すか」の2つの陣営に分かれるという様相となった。……というのが、日本選手権2019開催までのスタンダード・プレイヤーにある程度共通するメタゲーム認識だろう。
ケシスを倒す側の陣営として急先鋒となったのは「エスパー(青白黒)デッキ(エスパー・ヒーロー、エスパー・コントロール)」だ。《暴君の嘲笑》といった《隠された手、ケシス》に対応できる除去を採用し、盤面にある程度多くの枚数のパーマネントを必要とするケシス・コンボを完成させないことを筆頭にしたコントロールデッキだ。
「ボロス・フェザー」も同様のポジションだろう。ダメージレースのスピードで優位に立てるゲームプランを有し、《贖いし者、フェザー》と《無謀な怒り》の組み合わせで中堅以下のクリーチャーを戦場に残さない「焼き尽くし」のパターンだ。
「4色ケシス・コンボ」側の構成的に妨害が遅い手順になりやすいことから、《ラノワールのエルフ》といったマナ・クリーチャーによる緑系のビートダウンもここにきて再評価を受けている。ただ全く妨害を挟めないとコンボが揃ってしまうことから、火力を採用できる「赤緑」型と直接の除去を採用できる「黒緑」型に人気が集まっていた。特に「ゴルガリ(黒緑)土地破壊」は《廃墟の地》を活用し、3色・4色デッキの多色土地を「咎める」構成だ。
「4色ケシス・コンボ」がメタゲームの中心であるのは間違いないが、つけ入る隙のない無敵のデッキではない。ありとあらゆる角度から攻略方法が考えられ、試されて行っていた。
プレイヤー紹介
そうした中で開催された今大会、日本選手権2019。1000人に近い競技プレイヤーたちが参加し、「最新のスタンダード環境」を形成していた。決勝トーナメントに進出するためには、スタンダードとリミテッド(『基本セット2020』ブースタードラフト)の両面で良い成績を残さないとならない。そして残った8人で行う決勝トーナメントのフォーマットは、スタンダード・フォーマットだ。
今回決勝ラウンドに残った8人のデッキタイプは「ボロス・フェザー」が2人、「エスパー・ヒーロー」「グリクシス(青黒赤)コントロール」「緑単タッチ赤」「ゴルガリ・土地破壊」、そして「4色ケシス・コンボ」が2人。6人の「ケシスを倒す側」のデッキ、そして2人の「ケシスを使う側」のデッキとなった。
このうち「4色ケシス・コンボ」を使う2人のうち1人は熊谷 陸だ。当時のスタンダードで開催されたグランプリ・東京2016で見事優勝したグランプリ・チャンピオンだ。他にも継続的に非常に高いアベレージの戦績を残してきており、レベル・プロの1人として最前線で活躍している。
トップ8プロフィールによると、Magic OnlineとMTGアリーナで平行して日々数時間に渡って練習し続けてきたという。なんとなく使っても強いケシスだが「しっかりと使えるケシスはより強い」という、当たり前にして最も必要な前提を受け入れ、回してきている。
もう1人のケシス・プレイヤー、小林 遼平も全く同じアプローチで練習を積み重ねてきている。練習時間の表現を「毎日、仕事が終わってから寝るまで」とし、プライベートのほとんどを練習に充ててきた実績は、昨日と今日の11勝2敗という、凄まじく高い勝率の戦績が示している。実は小林もまた、グランプリで上位入賞経験を持つ。昨年のグランプリ・千葉2018ではトップ4に入賞しており、さらにRMCQ(ミシックチャンピオンシップ地域予選)ロンドンも突破して出場権利をもぎとっている気鋭の実力者だ。
この2人が絶対的な練習量を背景に「4色ケシス・コンボ」を使い、準々決勝と準決勝に勝利を収めていた。トップ8中、2人しかいなかった「ケシスを使う側」がそのまま2人とも決勝に駒を進めたのだ。
熊谷「ゴルガリ土地破壊、良く勝てましたね」
小林に準々決勝と準決勝の当たりを聞いた熊谷は驚きの表情でもって、その試合の勝利を称えていた。「ゴルガリ・土地破壊」は「ケシスを倒す側」の中でも「ケシスよりさらに後に登場した」ともいえる、他のデッキよりも色濃くケシス・キラーという側面を持つデッキタイプのようだ。熊谷も小林もここのマッチアップの相性差は絶望的という共通意識を持っている様子だ。
小林「デッキが元気でしたね。順当なゲーム展開だったら厳しかったと思います。昨日入れた《沼》が、良かった」
小林と熊谷。ケシスミラーのマッチアップといえど、互いにリストは細部が異なる。
デッキリスト
1 《沼》 4 《神聖なる泉》 1 《氷河の城砦》 4 《静寂の神殿》 3 《寺院の庭》 3 《湿った墓》 1 《水没した地下墓地》 1 《繁殖池》 4 《内陸の湾港》 3 《草むした墓》 -土地(25)- 4 《精励する発掘者》 4 《迷い子、フブルスプ》 4 《万面相、ラザーヴ》 4 《隠された手、ケシス》 1 《祖神の使徒、テシャール》 -クリーチャー(17)- |
4 《モックス・アンバー》 3 《ケイヤの誓い》 1 《ヨーグモスの不義提案》 4 《時を解す者、テフェリー》 2 《夢を引き裂く者、アショク》 3 《伝承の収集者、タミヨウ》 1 《神秘を操る者、ジェイス》 -呪文(18)- |
2 《クルーグの災い魔、トラクソス》 2 《黎明をもたらす者ライラ》 2 《害悪な掌握》 2 《漂流自我》 2 《ウルザの殲滅破》 1 《ヨーグモスの不義提案》 1 《戦慄衆の指揮》 1 《夢を引き裂く者、アショク》 2 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 -サイドボード(15)- |
4 《神聖なる泉》 4 《孤立した礼拝堂》 2 《静寂の神殿》 2 《寺院の庭》 4 《湿った墓》 3 《草むした墓》 1 《繁殖池》 4 《内陸の湾港》 1 《神秘の神殿》 -土地(25)- 4 《精励する発掘者》 4 《迷い子、フブルスプ》 4 《万面相、ラザーヴ》 4 《隠された手、ケシス》 -クリーチャー(16)- |
4 《モックス・アンバー》 2 《暴君の嘲笑》 1 《ケイヤの誓い》 1 《ヨーグモスの不義提案》 4 《時を解す者、テフェリー》 2 《夢を引き裂く者、アショク》 4 《伝承の収集者、タミヨウ》 1 《神秘を操る者、ジェイス》 -呪文(19)- |
2 《見栄え損ない》 1 《夏の帳》 2 《リリアナの勝利》 2 《古呪》 1 《暗殺者の戦利品》 1 《害悪な掌握》 1 《ヨーグモスの不義提案》 2 《夢を引き裂く者、アショク》 1 《覆いを割く者、ナーセット》 2 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 -サイドボード(15)- |
小林は《祖神の使徒、テシャール》を採用しコンボに特化したメインデッキの形を取りつつ、サイドボードから《クルーグの災い魔、トラクソス》という別の勝ち筋を用意することで多様性を保っている。基本土地である《沼》の採用も比較的珍しい。小林は環境に《廃墟の地》が増えることを見越していた。
熊谷のデッキリストも勝ち筋である《ケイヤの誓い》は最小限に抑えられ、《暴君の嘲笑》をメインデッキに採用することで、ミラーマッチを含め本来得意どころでない相手への耐性もつけている。準々決勝では「ボロス・フェザー」相手に《ヨーグモスの不義提案》もしっかりと決めて勝利しており、調整と結果が見事に合致している。
ゲーム1
決勝が始まるにあたり、互いがデッキリストを交換して「細部の差」に注目しあう。A4用紙に印刷されたリストを読み込む姿は2人とも真剣だ。時折、熊谷は眉をひそめ、ペンを手にクルクルと回しながら、思考を整理する。小林もまたリストを1つずつ指さして確認。一通り見たところで、ペットボトルに手を伸ばし、少し水を口に含んで息を整えてから、あらためて用紙を見直していた。決勝トーナメントでは初となる「ケシスのミラーマッチ」。どのような展開に至るのか。どのような結末を迎えるのか、会場の観客と、そして動画を通じて試合を見守るすべてのマジック・プレイヤーたちが想像に期待し、緊張に固唾を呑んだとき、ゲーム開始の合図がかかった。
熊谷「キープします」
スイスラウンド上位の熊谷が先手を選び、7枚に少し頷いてキープを宣言した。対して小林もキープを宣言するが、自信がある様子ではない。息を吐くように小さく、「キープで」とつぶやいていた。
熊谷が《精励する発掘者》をプレイした返し、小林も《万面相、ラザーヴ》展開を示し返す。どちらも単体では影響力の薄い、他のカードとのシナジーが期待されているカードだ。
先にそのシナジー・カードを続けられたのは、熊谷。《夢を引き裂く者、アショク》をプレイして《精励する発掘者》の誘発型能力とともに[-1]能力の対象を自らにして、墓地を肥やしはじめる。
ケシス・コンボはその都合上、墓地に一定量のカードがないとスタートを切りにくい。《夢を引き裂く者、アショク》は相手の墓地を追放しつつ自らの墓地を蓄えられる、一挙両得のキーカードだ。ここに繋げられた熊谷が一歩リードしたかに思われたが、小林も返しのターンには《夢を引き裂く者、アショク》をプレイして、お互いがお互いの墓地を牽制・追放しあう形に落ち着いた。追放されているカードが何であるか判断がつくように、熊谷は追放領域のカードをさらに丁寧に分類し、自分にも相手にもカードカウントがしやすいように努めていた。
《夢を引き裂く者、アショク》の睨み合いを先に突破したのは、熊谷だ。《ケイヤの誓い》で《万面相、ラザーヴ》を破壊しつつ、《夢を引き裂く者、アショク》の[-1]能力で小林のライブラリー4枚と合わせて追放領域に送り込む。
自らのターンで動く前に「ううん」と一言漏らしていた小林も《ケイヤの誓い》で熊谷の(忠誠値3の)《夢を引き裂く者、アショク》を破壊して窮地をしのぐ。大きく前進できているわけでもないことの溜め息と逡巡だったろうか。
熊谷は《隠された手、ケシス》から《迷い子、フブルスプ》と続けた後、《精励する発掘者》で小林の《夢を引き裂く者、アショク》の忠誠値を減らしていく。
これに対して小林はプレイした《時を解す者、テフェリー》の[-3]能力で自らの《ケイヤの誓い》を回収し、《モックス・アンバー》セットから《ケイヤの誓い》を出し直す。熊谷の《精励する発掘者》を破壊して、盤面は若干小林に優位となったか。
しかしその優位性は再び一瞬にして覆る。熊谷は《ヨーグモスの不義提案》で小林の《夢を引き裂く者、アショク》を破壊しつつ、ライブラリーから墓地に送られていた追加の《夢を引き裂く者、アショク》をリアニメイトさせて、盤面と墓地の主導権を譲らない意志を強く見せる。
いったん、数回の《夢を引き裂く者、アショク》の[-1]起動によって消耗した小林のライブラリーの枚数を、小林と熊谷がともに確認する。残り28枚。熊谷が「ライブラリーアウト勝ち」を狙う場合の目線で見て、この枚数が近いか遠いかの判断は難しいところだろう。熊谷は《暴君の嘲笑》で小林の《精励する発掘者》を破壊しつつ、《夢を引き裂く者、アショク》の[-1]起動をして、その道のりを少しずつ着実に縮めてゆく。
小林は新たな《時を解す者、テフェリー》で再び《ケイヤの誓い》を回収し、《精励する発掘者》をプレイしてから《モックス・アンバー》も新しく出し直して、マナ加速をしつつ、《ケイヤの誓い》によって《夢を引き裂く者、アショク》を落としつつ、《精励する発掘者》の誘発型能力によって自らの墓地も育てる。盤面の主導権は若干熊谷にあるが、小林にはすでに育てていた「墓地のリソースが幾分ある」という状況だ。
互いにゲームはライフでは決まらないと読んでいた。ここで小林のライブラリー枚数を確認すると、12枚。熊谷は《暴君の嘲笑》で《精励する発掘者》を破壊、そのまま[+1]起動を続けていた《時を解す者、テフェリー》も《隠された手、ケシス》の攻撃で落として、小林の逆転の芽を潰しにかかる。
小林は《迷い子、フブルスプ》からの《伝承の収集者、タミヨウ》の[+1]能力で、薄いライブラリーをさらに薄くしていく。それには明確に理由があった。
[+1]能力の宣言カード名は《神秘を操る者、ジェイス》。小林にとって、残りわずかなライブラリー枚数。逆にそれを勝ち目へと変化させるカードだ。ここの宣言では外しこそするが、墓地にも追放領域にもなく、手札も空の状態で、《神秘を操る者、ジェイス》は確実にまだライブラリーに残されている。小林のデッキのたった1枚の《神秘を操る者、ジェイス》がライブラリーの「どこ」にあるのか。それがゲームの行方を握ることになりそうだ。
熊谷も可能な限り小林のライブラリー干渉材料を減らしておきたいが、手持ちのカードとパーマネントでは《伝承の収集者、タミヨウ》が落とせなかったことで勝負は一気に正念場となった。
「これでジェイスが実はやっぱり追放されてました、だったらめっちゃ恥ずかしいな」と、自らが目指す勝ち筋が成立しているかを再び確認する小林。追放領域を見直しも、墓地を見直しても、やはり《神秘を操る者、ジェイス》の姿はない。
小林は生き残った《伝承の収集者、タミヨウ》の[+1]能力でまず《隠された手、ケシス》を宣言し2枚ヒットさせ、次に《隠された手、ケシス》をプレイして能力を起動し、墓地の《夢を引き裂く者、アショク》を復活させる。この《夢を引き裂く者、アショク》の[-1]能力と《精励する発掘者》の誘発型能力の結果、《神秘を操る者、ジェイス》を含めたライブラリーはすべてが墓地へと送り込まれ、再び《隠された手、ケシス》を起動して今落としたばかりの《神秘を操る者、ジェイス》をプレイする。
あなたのライブラリーにカードがないときにあなたがカードを引くなら、代わりにあなたはこのゲームに勝利する。
本来、マジックの敗北条件である「自身のライブラリーアウト」を勝利条件に変更させる、特別な能力だ。
この《神秘を操る者、ジェイス》の[+1]能力自身がカードを引くというイベントを起こすため、すでにライブラリーにカードがない小林が[+1]起動を宣言すれば……
「熊谷 0-1 小林」
となる。
ゲーム2
後手、1マリガンの小林が《精励する発掘者》をプレイしたのが初めての呪文となった。熊谷は3ターン目《隠された手、ケシス》を初動とし、小林も同じく《隠された手、ケシス》を着地させる。
「3/4」というタフネス偏重がもたらそうとしていた睨み合いは発生せず、熊谷が《ゴルガリの女王、ヴラスカ》で小林の《隠された手、ケシス》を破壊する。小林は「ヴラスカ強いな」と小さく呟いた。
《迷い子、フブルスプ》を2枚続けてプレイして、《精励する発掘者》によって墓地を蓄えつつ、合計2枚ドローして手札を整理していく。次いで《クルーグの災い魔、トラクソス》を着地させて、墓地やライブラリーを経由しない勝ち筋にもつないでいく。熊谷の《ゴルガリの女王、ヴラスカ》と合わせ、サイドカードの応酬だ。
しかしこの《クルーグの災い魔、トラクソス》がアンタップを迎えることはしばらくなかった。《時を解す者、テフェリー》の[-3]能力で手札に舞い戻りつつ、《ゴルガリの女王、ヴラスカ》が[+1]能力で今使ったばかりの《時を解す者、テフェリー》を生け贄に捧げさせて、さらなるドローに変換させていく。ここからは熊谷がゲームをコントロールし続けた。
小林の《伝承の収集者、タミヨウ》を自らの《夢を引き裂く者、アショク》と合わせて《古呪》の対象にして破壊し、その結果4つの忠誠カウンターを《ゴルガリの女王、ヴラスカ》に追加すると、[-9]能力の使用が解放される。
「あなたは『あなたがコントロールしているクリーチャー1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはこのゲームに敗北する。』を持つ紋章を得る。」
ライフにはまだ余裕のあった小林だが、これによってすべてのクリーチャーの攻撃を1点も通せなくなってしまった。「暗殺者」の能力を得ている熊谷の《隠された手、ケシス》の攻撃を、それでも1度はブロック・クリーチャーでしのいだが、攻め手も受け手も足りなかった。
熊谷 1-1 小林
サイドボーディングの最中、もうお互いにリストの確認はない。少し余裕ができたのか、あるいは今一度お互いに気持ちを切り替えるためか、小林と熊谷は互いの練習環境とこれまでの戦績にふれて話をしながらサイドボーディングを行った。
熊谷「練習不足だな、ミラーマッチの戦い方全然わかんねえや」
小林「毎回、勝ち方違いますね」
互いにミラーマッチの経験と練習は少なかったと話す熊谷と小林。今大会でも小林は一度しか同型と当たっていないと話している。もちろん、この「練習不足」という表現は圧倒的に重厚かつ多大な練習を積み重ねてきた彼らだからこそ口にできる表現だ。よりマジックに対して真摯に向かい合い、よりしっかりと練習を積んでいこうという気持ちがあふれ出ている。
マジックに対してそんな強い想いを抱く2人がともに始めたゲーム3では、実に「マジックらしい」決着が待っていた。
ゲーム3
熊谷は3ターン目にして3枚目の土地にも、そして2マナ以下の呪文にもたどり着けなかった。「土地事故」だ。対して小林は《迷い子、フブルスプ》、《精励する発掘者》、そして《伝承の収集者、タミヨウ》の[+1]能力での《モックス・アンバー》指定にも成功して、一瞬にして盤面を構築しきった。
熊谷も決して諦観しているわけではない。小林のターンにも自らの手札に視線を下ろし、逆転の一手がないかと考え続けているのは仕草と表情から明らかだ。ピンと張り巡らされた緊張感があった。
熊谷は続くターンにも土地に恵まれず、ついに8枚でターンを終えてしまうが、ここで捨てるカードも考え抜いていた。《夢を引き裂く者、アショク》を捨て、来たる展開と逆転の瞬間を待ち続ける。
しかし熊谷がそう願うのと同じほど、小林も目の前の勝利を確実にすることを祈っている。そのために、しっかりと自らの手を進めていく。《隠された手、ケシス》をプレイし、《夢を引き裂く者、アショク》と続け、墓地を一気に20枚ほどにまで積み重ねていく。墓地の《モックス・アンバー》2枚を唱えたあとに《夢を引き裂く者、アショク》を復活させてライブラリーをめくると、《迷い子、フブルスプ》が3枚登場する。
「4色ケシス・コンボ」の最も王道たるパターンのコンボが、完成した。
《隠された手、ケシス》と《精励する発掘者》がある状態で2枚の《モックス・アンバー》と2枚の(1マナでプレイできるようになっている)《迷い子、フブルスプ》を交互にプレイし、カードを引きつつ墓地を肥やしつづける。次第に大量のカードと大量のマナが調達できるようになるため、ゲーム1のように《神秘を操る者、ジェイス》をプレイしてから自らをライブラリーアウトさせて勝利したり、《ケイヤの誓い》を使いまわして致死ダメージを1ターン中に与えてダメージ勝利するといった形だ。
今決勝初めてとなるコンボ完成形は、小林のもとにカードが揃った瞬間に熊谷が敗北を認めて握手を求めために盤面上で再現されることはなかったが、「ケシス・コンボが完成してゲームが終わった」という形であるのは間違いない。
熊谷 1-2 小林
ゲーム後
「4色ケシス・コンボ」の登場によって大変遷を遂げたスタンダード環境は、「ケシスを使う側」と「ケシスを倒す側」の陣営に分かれてメタゲームが進んできていた。日本選手権2019が開催された2日間の結果としては、陣営戦の勝利は明確に「ケシスを使う側」だっただろう。
決勝トーナメントに2人残った「4色ケシス・コンボ」が決勝をミラーマッチとして戦い合い、そして決着がついた。
熊谷 陸。グランプリ・東京2016王者として、またスタンダードに対する深い考察と確かな技術を持ち合わせるトップ・プレイヤーの1人として、「4色ケシス・コンボ」の可能性と強さを観客に示してくれた。決勝でも大接戦を繰り広げた熊谷の準優勝という結果に対して、「お疲れ様」とともに「おめでとう」という言葉をかけたい。
そして、小林 遼平。スタンダードのグランプリ・チャンピオンという熊谷 陸を相手に気持ちの上でも技術の上でも一歩も引くことなく戦い続け、今回最強の「4色ケシス・コンボ」使いとして、最終戦の勝利をその手に収めた。昨年のグランプリ・千葉2018では取り逃した、優勝という称号を今、その手にしていた。
小林 遼平、優勝おめでとう。君が新たな日本王者だ!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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